上 下
1 / 2

前編

しおりを挟む

 私には兄がいる。
 彼は五つ年上。
 妹思いの良い兄ではあるのだけれど、少々おせっかいだったり過保護だったりするところがある。

 幼き日、私が転んで膝を擦り向いた時には急に体調を崩したほど――そのくらい、彼は、もうずっと妹大好き兄さんなのだ。

 そんな兄さんは。

「何だって! 婚約破棄された!? しかも、他の女のところに行きたいからという理由で!?」

 私が婚約者アーダンから婚約破棄されたという事実を耳にした時、かなりのショックを受けていた。

「そうみたい、私はもう要らないんですって」
「どういうことなんだ! 信じられない! なぜそんなさらっと!」
「要らない、って、そのまま言われたわ」
「な、な、何だと!? 許せん!! 可愛い可愛い我が妹に『要らない』なんて言われて黙っていられるか!!」

 兄はアーダンに対して凄まじい怒りの炎を燃やす。

「絶対復讐してやる!」
「待って兄さん、暴力は駄目よ」
「ああ、もちろん。だから暴力以外の方法でやる。復讐と言っても殴る蹴る殺すだけではないからな」
「そ、そう……」
「案ずることはない、妹よ! じきにやつは痛い目に遭うだろう!」

 彼は張り切っていた。

 こんなにも張り切っている彼を見たのはいつ以来だろう……、なんて思ってしまうくらいだった。

 ――その後、兄は独自にアーダンの行動について調査していたようで。

 ある日、突然、アーダンの身勝手な行動が新聞に大きく載った。
しおりを挟む

処理中です...