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3話「視察の日に」
しおりを挟むエスト王子が視察に来る日がやって来た。
その日はよく晴れた日射しの強い日だった。
朝から暑く肌にうっすらと汗の粒が浮かび上がるほどである。
「こんにちは、エストです」
やって来た王子は手入れの行き届いた金髪を風に揺らしながら爽やかな笑みで挨拶をする。
「皆さん、国境の警備をありがとうございます。皆さんの働きにより、我が国の安全は守られていると言っても過言ではないでしょう。どうかこれからも、我が国のためそして民のために、国境の警備をよろしくお願いします」
挨拶の後、彼は私たちの仕事ぶりを見ていくことになっていたのだが――その最中に事件は起きた。
物品の搬入をしていた隊員ではない男がただの通行人のふりをしてエストに近づき、至近距離から襲いかかったのだ。
「危ないッ」
たまたま近くにいたということもあり、咄嗟に声が出た。
「死ねぃ!!」
助けを呼ぶ余裕はない。
このままでは王子は刃物で刺されて死ぬ。
無意識のうちに身体が動いていた。
私は考えるより早くその刃物男に投げ技をかけていたのだ。
「ぐぎゃ!」
男は弱かった。
背中から地面に叩きつけられて呻く。
「何事か!」
「一体何の騒ぎですか!」
そのうちに隊員数名が集まってきた。
「この男がエスト王子に襲いかかったのです」
私はそう説明した。
すると騒ぎに発展する。
「な、何ということ!」
「無礼者め!」
「拘束するぞ! 縄を持って来い! 早く!」
こうして、エスト暗殺未遂事件は終わりを迎えたのだった。
その日の夕暮れ。
ようやく王子が帰っていくという頃に私は一人呼び出された。
「貴女がアイナさんですね」
「はい」
「今日の事件の際、護ってくださってありがとうございました」
指定の場所へ行くとエストがいた。
近くで見るとやはり髪がさらさらしていて美しい。
彼は王子だ、労働する必要もない。それゆえ髪の毛の手入れにまで気が回るのだろう。そんなことを想像して、王子ゆえの余裕を改めて強く感じた。
「いえ。当然のことをしただけです」
王子だろうが平民だろうが、危機的状況に陥っていれば助けるだろう。よほど自業自得でない限り、あるいは、怨みがある相手でない限りは。それは人として当然のことだ。
「素晴らしい身のこなしでした」
「あの程度、普通です」
「貴女は第一国境警備隊唯一の女性隊員だそうですね。正直お飾りか何かかと思っていましたがどうやらそうではなかったようで。……勘違いしていたこと、謝罪させてください」
お飾り、て!
「いえ、そう思われるのが普通だと思います。実際私も移動になった時は何が何だかよく分かりませんでしたし」
「そうですか」
「はい。だってただの女ですよ」
するとエストはふふっとどこか愉快そうにに笑みをこぼした。
「ただの女はあそこまで咄嗟に制圧できませんよ」
そういうものだろうか……。
「アイナさんは独身でいらっしゃるのですよね?」
「はいそうですけど」
「よければ僕のもとへ来ませんか?」
「えっ」
何だこの展開。
「ああ、いえ、変な意味ではないですよ。実は一つ提案がありまして」
「提案?」
「そうです。王城警備隊へ移動しませんか? ここよりも給金が良いですし、仕事の内容も重要ではありますが危険は少ないですよ」
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