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婚約者とその両親、四人での暮らしはかなり悲惨なものでしたが……やがて解放される時がやって来ました!
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毎朝四時半に起きて、夜は夜中の二時くらいまで働かされ続ける生活は虚しい。
けれども婚約者ロドリゲはそれが当たり前だとでも言いたげにそういうことを強要してくる。
婚約を機に彼とその両親と四人で済むこととなってしまった私は、味方がいない場所で「それは嫌」なんて言えるはずもなくて、長時間起きているべきという彼の主張を嫌々でも受け入れる外なかった。
「マーナ、お前、ほんと無能だな」
口を開けばロドリゲはそんなことばかり。
「あらあらぁ、マーナさんってばぁおっちょこちょいねぇ。大丈夫ぅ? そんなでうちの有能な息子を護っていけるのかしらぁ? 心配ねぇ」
加えてロドリゲの母親からは柔らかく嫌みを言われる日々。
それでもただ耐えるしかなかった。
だってここには私の気持ちを聞いてくれる人なんていないから。
私は牢屋に閉じ込められているようなものだ。
何を言われても、どんなに理不尽なことを押し付けられても、それでもただ我慢して生きていくしかないのである。
――こんなの、死んだ方がましだわ。
ずっとそう思っていた。
だってこの人生には楽しさなんて欠片もないし嬉しいことだって一個もない。
こんな思いをして生きてゆくくらいなら死んだ方がまし。
それは間違いなく確かなこと。
死んでしまえばいい、そうすれば自由になれて幸せも掴める。
その時の私にはもはや逃げ道は死しかなかった。
追い込まれた私はやがて「明日死のう」と心を決める――が、その日を朝起きると状況は大きく変化する地点を迎えることとなって。
「マーナ、お前との婚約は破棄することにしたから」
「え」
「何だその顔情けなさまる出しだな。だが馬鹿のためにもう一回言ってやろう。婚約は破棄、そう言っているんだ」
「婚約、破棄……」
意味もなく言葉を繰り返す。
けれども徐々に脳が追いついてきて、それと同時に、解放の喜びが胸の奥から湧き上がってくる。
……気をつけよう、嬉しそうな顔はしないようにしないと。
「そうだ、ようやく聞こえたか?」
「はい」
「ま、そういうことだ。お前は無能すぎた、だから不合格だ。俺と共に生きてゆくに相応しい女ではない」
労働力を散々搾取しておいて今さら何を言うのか、なんて思ったけれど、それは口からは出さないでおいた。
もうすぐ解放される。
もうじき自由になれる。
そう思えば、不快感くらいどうということはない。
――こうして私は自由を取り戻したのだった。
◆
「花を、見ていらっしゃるのですか?」
「あ、はい。そうです。ここの庭園のお花、とっても綺麗なので、前から好きだったんです」
ロドリゲとの婚約が破棄になったことで実家暮らしに戻った私は自由と好きに生きることを取り戻した。
それで、最近は、前々から好きだった家からそう離れていないところにある庭園に定期的に通っている――そこで出会ったのが、そして声をかけてくれたのが、青年アルフリッドであった。
「――ええと、それで、アルフリッドさんもここがお好きなのですか?」
「ええ、花が好きで」
「同じですね……!」
「はい。ですが僕の場合は花以外の草も好きですね」
「草?」
「ええ、植物全般に興味があります。学生時代は植物の研究をしていましたし」
共通の趣味のある私たちが心を通わせるのにはそれほど時間はかからなかった。
「研究……! それはすごいです」
「いやいや、べつに、すごいってほどじゃあないんだけどね」
「そうなのですか?」
「でも、子どもの頃から植物が好きだったから。だからそれについて研究できたことは良い思い出だよ」
運命の人。もしそれが本当に存在するものなのだとすれば、それはきっと、こんな感じの相手なのだろう。
喋っていて楽しい。
変に警戒してしまわない。
そんな相手、それこそが運命の人なのだろう。
これまでずっとそんなことを考えて生きてきたわけではないけれど……アルフリッドと出会った今はそんなことを思ったりする。
出会いは時に人の思考までも変えるのだから、とても面白い。
◆
出会いから一年半、私とアルフリッドは結婚した。
「これからは一緒に庭園へ行けるね」
「はい!」
「何度も花を見よう」
「もちろん! 喜んで! 私もたくさん行きたいです」
私たちの心は確かに通じ合っている。これを壊せる者はどこにもいない。荒波も、大地震も、きっと二人の心の繋がりだけは破壊できないだろう。どんな災難だって彼となら越えてゆける気がする。
それほどに、私たちは想い合っているのだ。
ちなみにロドリゲはというと既に破滅し社会的に終わったようである。
あの後別の女性と結婚したそうだが、妻となった女性に対してもあの時のように長時間起きておくことや無賃労働を強制していたようで、やがてそれを理由に離婚を申し出られてしまったそう。
で、離婚を申し出てきた女性に腹を立てたロドリゲは、女性に対して暴行を加えた。
その結果さらに離婚する口実を与えてしまって。
引き留めも虚しく彼は女性に捨てられることとなってしまったそうだ。
そうしてロドリゲに残ったのは、暴行を加えた罪だけであった。
その後牢屋送りとなったロドリゲはありとあらゆるすべての自由を失い、今や人権すらない状態。罵声を浴びせられながら強制労働させられる、というような日々が、この先ずっと続いていくといった予定のようである。
でもそれは自業自得としか言い様がない。
やったことが返ってきた、ただそれだけのことである。
◆終わり◆
けれども婚約者ロドリゲはそれが当たり前だとでも言いたげにそういうことを強要してくる。
婚約を機に彼とその両親と四人で済むこととなってしまった私は、味方がいない場所で「それは嫌」なんて言えるはずもなくて、長時間起きているべきという彼の主張を嫌々でも受け入れる外なかった。
「マーナ、お前、ほんと無能だな」
口を開けばロドリゲはそんなことばかり。
「あらあらぁ、マーナさんってばぁおっちょこちょいねぇ。大丈夫ぅ? そんなでうちの有能な息子を護っていけるのかしらぁ? 心配ねぇ」
加えてロドリゲの母親からは柔らかく嫌みを言われる日々。
それでもただ耐えるしかなかった。
だってここには私の気持ちを聞いてくれる人なんていないから。
私は牢屋に閉じ込められているようなものだ。
何を言われても、どんなに理不尽なことを押し付けられても、それでもただ我慢して生きていくしかないのである。
――こんなの、死んだ方がましだわ。
ずっとそう思っていた。
だってこの人生には楽しさなんて欠片もないし嬉しいことだって一個もない。
こんな思いをして生きてゆくくらいなら死んだ方がまし。
それは間違いなく確かなこと。
死んでしまえばいい、そうすれば自由になれて幸せも掴める。
その時の私にはもはや逃げ道は死しかなかった。
追い込まれた私はやがて「明日死のう」と心を決める――が、その日を朝起きると状況は大きく変化する地点を迎えることとなって。
「マーナ、お前との婚約は破棄することにしたから」
「え」
「何だその顔情けなさまる出しだな。だが馬鹿のためにもう一回言ってやろう。婚約は破棄、そう言っているんだ」
「婚約、破棄……」
意味もなく言葉を繰り返す。
けれども徐々に脳が追いついてきて、それと同時に、解放の喜びが胸の奥から湧き上がってくる。
……気をつけよう、嬉しそうな顔はしないようにしないと。
「そうだ、ようやく聞こえたか?」
「はい」
「ま、そういうことだ。お前は無能すぎた、だから不合格だ。俺と共に生きてゆくに相応しい女ではない」
労働力を散々搾取しておいて今さら何を言うのか、なんて思ったけれど、それは口からは出さないでおいた。
もうすぐ解放される。
もうじき自由になれる。
そう思えば、不快感くらいどうということはない。
――こうして私は自由を取り戻したのだった。
◆
「花を、見ていらっしゃるのですか?」
「あ、はい。そうです。ここの庭園のお花、とっても綺麗なので、前から好きだったんです」
ロドリゲとの婚約が破棄になったことで実家暮らしに戻った私は自由と好きに生きることを取り戻した。
それで、最近は、前々から好きだった家からそう離れていないところにある庭園に定期的に通っている――そこで出会ったのが、そして声をかけてくれたのが、青年アルフリッドであった。
「――ええと、それで、アルフリッドさんもここがお好きなのですか?」
「ええ、花が好きで」
「同じですね……!」
「はい。ですが僕の場合は花以外の草も好きですね」
「草?」
「ええ、植物全般に興味があります。学生時代は植物の研究をしていましたし」
共通の趣味のある私たちが心を通わせるのにはそれほど時間はかからなかった。
「研究……! それはすごいです」
「いやいや、べつに、すごいってほどじゃあないんだけどね」
「そうなのですか?」
「でも、子どもの頃から植物が好きだったから。だからそれについて研究できたことは良い思い出だよ」
運命の人。もしそれが本当に存在するものなのだとすれば、それはきっと、こんな感じの相手なのだろう。
喋っていて楽しい。
変に警戒してしまわない。
そんな相手、それこそが運命の人なのだろう。
これまでずっとそんなことを考えて生きてきたわけではないけれど……アルフリッドと出会った今はそんなことを思ったりする。
出会いは時に人の思考までも変えるのだから、とても面白い。
◆
出会いから一年半、私とアルフリッドは結婚した。
「これからは一緒に庭園へ行けるね」
「はい!」
「何度も花を見よう」
「もちろん! 喜んで! 私もたくさん行きたいです」
私たちの心は確かに通じ合っている。これを壊せる者はどこにもいない。荒波も、大地震も、きっと二人の心の繋がりだけは破壊できないだろう。どんな災難だって彼となら越えてゆける気がする。
それほどに、私たちは想い合っているのだ。
ちなみにロドリゲはというと既に破滅し社会的に終わったようである。
あの後別の女性と結婚したそうだが、妻となった女性に対してもあの時のように長時間起きておくことや無賃労働を強制していたようで、やがてそれを理由に離婚を申し出られてしまったそう。
で、離婚を申し出てきた女性に腹を立てたロドリゲは、女性に対して暴行を加えた。
その結果さらに離婚する口実を与えてしまって。
引き留めも虚しく彼は女性に捨てられることとなってしまったそうだ。
そうしてロドリゲに残ったのは、暴行を加えた罪だけであった。
その後牢屋送りとなったロドリゲはありとあらゆるすべての自由を失い、今や人権すらない状態。罵声を浴びせられながら強制労働させられる、というような日々が、この先ずっと続いていくといった予定のようである。
でもそれは自業自得としか言い様がない。
やったことが返ってきた、ただそれだけのことである。
◆終わり◆
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