何かと不運でしたが、幸せを掴みました

四季

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後編

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 ◆


 私はほんの少しの自分の所有物だけを持って、実家から一人飛び出した。

 穏やかな風が抜ける、心地よい夜のことだ。

 星空は綺麗だった。暗幕を張ったような空には、無数の輝きが宿っていて。まるで、旅立つ私をそっと見守ってくれているかのよう。寂しい私はその輝きに励まされた。おかげで、振り返ることなく、ただ前へ進むことができた。

 その後、私は一人の青年と知り合う。

 彼は花屋を営んでいた。その店の前を通った時、店先の花に目を奪われて、少し花に関する話をした。それから彼と親しくなった。一日二日に一回言葉を交わすようになり、そこから徐々に親しくなっていって。私はやがて、彼の家に住むようになった。

 彼は私の過去を知っていても責めない。むしろ、温かく受け入れてくれる。そんな彼に心を奪われて。いつからか、傍にいたいと思うようになった。


 ◆


 花屋を営む青年と結婚して数年が経ったある日のこと、私は、偶然会った遠い親戚から家族などの現状を聞いた。

 私の婚約者だった女好きの彼が「あんな勝手な女を紹介して! ふざけるな!」と怒鳴り込んだらしい。ただ、幸い、彼は私との婚約を継続する気はなかったようだ。けれども、それだけで怒りが収まるはずもなく。あの女はいいから代わりに妹を差し出せ、と迫ったらしい。

 そして、今度は妹が彼と婚約することとなったそうだ。

 妹は婚約後一週間ほど可愛がられたそうだ。その点は私よりましだったかもしれない。だが妹もすぐに飽きられて。結局私と似たような道をたどることとなったようだ。妹もまた、婚約者から大事にされなくなってしまった。

 私と違ったのは、妹は婚約者から逃げようとしなかった点。

 だが、婚約者から逃げようとしなかったがために、妹は私より不幸な道を歩むこととなってしまう。というのも、近く妻になる身でありながらまったく必要とされず、心を病んでしまったのだ。また、そこから身体も悪くして、数年経たないうちに感染症により亡くなったそうだ。

 さらに、愛していた次女の死を受けて、母親も体調を崩す。

 父親は妻まで失う悲劇を恐れ、怪しい医師からすべての病を治す薬を購入。しかし、その薬は、まったく効果がないもので。飲ませても回復することはなく、資産がなくなっていくだけ。

 母親はそのまま落命した。

 詐欺まがいの薬購入によって資産の多くを失い、大切な妻と娘も失った父親は、着の身着のままふらりとどこかへ行ってしまう。そして、誰にも知られぬまま、森の中で命を絶ったそうだ。

 私は愛する夫と共に花屋を営んで暮らした。
 踏んだり蹴ったりな期間も長かったが、最終的には幸せになれたと思う。


◆終わり◆
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