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前編
しおりを挟むあれはもう何年も前のことだ。
その日私は馬に乗っていた。
で、その状態で初めて当時の婚約者であったアロウスに出会ったのだが。
「女が馬に乗ってるとかないわ、引くわ」
渋柿でも食べたかのような顔をしてそんなことを言われたうえ。
「もうお前を女として見られなくなった。無理だわ。言葉そのままの意味、本当に無理だわ。てことで、婚約は破棄な」
そこまで言われてしまった。
私はただ馬に乗っていただけ。彼に嫌がらせをしたわけではないし迷惑をかけたわけでもない。にもかかわらず一方的に否定され婚約までも失わされてしまったのだ。
けれども私はアロウスを追うことはしなかった。
なぜ? ……簡単なことだ。離れようとしている男を追いかける意味なんてない、そう思った、ただそれだけの理由である。離れたいと言っている人に執着して追い掛けるなんて無駄な行動だろう。そんなことをして何の意味がある? どうしても彼が愛しいなら、どうしても彼が欲しいのなら、また話は少し変わってくるのかもしれないけれど。でもそうでないなら。追い掛け続ける? 腕を伸ばして必死に縋り続ける? そんなことには意味などない。
――だがその後私には良き出会いが待っていた。
ある春の日、馬に乗って散歩していた私は山道で溝にはまってしまって動けなくなっていた青年を発見、彼を救助した。幸い彼は負傷はしていなかった、が、街へ送り届けようと思って。それで、乗ってきた馬に彼も乗せ、街の方向へと歩いていくことにしたのだった。
――それが現在の夫ポトルレーフとの邂逅である。
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