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2話

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「知人? 知人って誰なんだい?」
「以前晩餐会に一緒に参加していた彼よ」
「ぶっふぉ!!」
「……大丈夫?」
「あ……あ、あぁ。うん。大丈夫」

 反応が謎。しかし重要なのはそこではない。外出が本当に研修だったのか、ということの方が、ずっと重要なことである。彼が発した謎の声など、今はどうでもいいことだ。

「次の研修、明後日よね。私も同行して構わないかしら。研修の邪魔はしないから」
「なっ……無理だよ! そんなの!」

 スカイは目をぱちぱちさせながら焦ったように大きな声を返してくる。

「どうして?」
「研修に婚約者を連れていくなんて! 変だと思われるよ!」

 確かに珍しいことだろう。だが、研修に入っていって余計なことをするわけではない。同行するだけなら邪魔にはならないはずだ。研修の間は離れていれば良いのだから。それに、もし何か言われたとしたら、事情を説明すればいい。

「なら私が直接説明するわ」
「ま、まままま、待って! か、勝手にはな、話を、進めないでよっ!」
「……何を慌てているの?」

 ただ同行するだけ。たったそれだけのことなのに、こんなに慌てて断るなんて、不自然としか言い様がない。それに、慌てているということがやましいことがあるということを証明してしまっているのではないか。やましいことがないのなら、断るにしてもさらりと断れば良いのだから。

「安心して、悪くは言わせないわ。事情の説明が必要なら私が説明するから大丈夫」
「う、うぅ……酷い……」
「それとも貴方が証明する? やましいことは何もない、本当に研修だって」
「研修だよ! 勘違いしないでよ、研修だよ!」

 必死なわりに内容が伴っていないから怪しいのだ。
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