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2話

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「ま、いいさ。これ以上言ってもお前みたいな馬鹿には分からないだろうからな。関係はここまでだ。婚約は破棄、じゃあな」

 最後まで、彼は私に発言する権利を与えようとはしなかった――いや、厳密には、それを受け入れ認めなかった。

 一応仲良しでいるつもりだった。
 同意のもとに婚約したから。
 でもどうやらそれは私の思い込みであって、実際にはそうではなかったようだ。

 私の心と彼の心は同じではなかったみたい。

 結局彼は私を言いなりにしておきたかっただけ。自分の意見を述べる私なんていうものは不要なもので。ただ一応婚約者を持っていただけ、雌を最低限一体確保しておきたかっただけ、ということなのだろう。

 そこに人と人の愛みたいなものは存在しなかった。


 ◆


 あれから数年が経過、私は先日父親の仕事場の社長の子息と結婚した。

「これから新しい暮らしが始まるんだね、わくわくするよ」
「ええ、私も」

 私の方が一つ年上。
 けれども彼はいつもほどよく甘やかしてくれる。

 年下男子とは思えぬ包容力を持った人だ、彼は。

 余裕のある環境で育ってきたからだろうか、彼はいつも落ち着いている。若いのに、まるで大人の男性みたい。年齢のわりに心が広く、攻撃的なところもあまりない。

 私は彼のそういうところが好き。

「家事は任せてちょうだい! 上手くやってみせるわ!」

 アズリーとは上手くいかなかったけれど、今度こそ上手くやってみせる。

「ありがとう。でも僕もたまにはやるよ。結婚生活って二人で協力することが大事だからね」

 ただ、結婚生活を順調に、というのは私一人の問題ではない。それゆえ相手の意識も大きく関係してくるものなのだ。でも、協力して生きていこうという発想がある彼となら、きっと順調にやっていけるだろう。
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