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そちらが婚約破棄を口にするその時を待っていました。

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「そんなだから駄目なんだよ! お前は! いい加減にしろ!」

 私の婚約者は少しでも不機嫌になると急にキレる。
 それは出会った頃から変わらない。
 できるならそんな人と結ばれるなんてことは避けたかった。が、避けることはできなかった。なぜなら、親が決めた婚約だったから。気づいた時には私の運命は決まっていた。

「相変わらずとろいな! ほんといい加減にしてくれよ。腹立つだろ!」

 私は婚約破棄したかったけれど、そんなことをこちらから提案した日にはどんな目に遭わされるか分からない。間違いなく怒鳴られるだろうし。

 だから私は黙って耐えてきた。

 いつか彼が婚約破棄を突きつけてくれることを期待しながら。

「お前なんかとはもうやっていけない! 婚約破棄だ!」
「分かりました。ではこちらの書類にサインお願いします」
「え……」

 準備していたものが役立つ時がやって来た。

「な、なんだよ、それは」
「婚約破棄のための書類です」
「何でそんなものっ……!?」
「婚約破棄をお望みなのですよね、サインお願いします」

 彼は一瞬戸惑っているようだったけれど。

「あ、あぁ! 分かった! 書いてやるよ!」

 サインしてもらうことに成功した。

 後日、彼には慰謝料の支払いが指示された。
 彼は「聞いていない」と怒っていたようだったが、婚約破棄のためにサインしてもらったあの書類にそのことが記載されていたため、彼もその内容を認めたということになっていて。彼がその書類にサインしてしまっている以上、何だろうが逃れようはないのだ。

 彼は慰謝料の支払いのため大量のお金を借りたそうなのだが、その金貸し屋が偶然悪質な業者であり、彼はそのまま破滅していったそうだ。


◆終わり◆
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