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#035 Elegy
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東京都・年齢不詳男性「ちょっと聞いて欲しいんだけど!作者本人が贋作っぽく贋作を作ってばら撒くのは狡いわよね?それって本人が作ったなら本物って言うんじゃない?偽物掴まされたなんて上司に知れたらどう責任を
…………………………………………………………………………………
ダラス・シンプソン前アメリカ大統領の葬儀は、共和党保守派を支持する音楽反対派層国民の感情に配慮し、近親者のみで執り行われるという異例の事態となった。
ホワイトハウス前に申し訳程度に設けられた献花台周辺には厳重な警備体制が敷かれ、訪れた人々は物々しい雰囲気の中で彼の死を悼んだ。
冷たい雨が降り頻る中、百合の花を手向けたチロリアンハットの男がいた。その傍らでは、白いローブを纏った金髪碧眼の子供がつまらなそうに地面の小石を蹴っている。
「ラファエル、アメリカの大統領は楽団と仲良しだったんでしょ?どうして花なんか手向けるのさ」
長靴で水たまりを蹴散らしながら、唇を尖らせてスーツの男の顔を見上げたペネム。彼の問いに対して、ラファエルは他の弔問客達には見えないように顔を伏せながら口元に笑みを浮かべた。
「此処に来てる奴らが全員、心からダラス・シンプソンの死を悼んでいると思うかい?」
見てみなさい、とラファエルが視線を向けた先には、一度は雑誌や新聞で紙面を賑わせたことのある有名人が顔を揃えていた。
「わあ、サイン貰ってこようかな」
口ではそう言い放つが、全く興味が無さそうな様子のペネムを引き連れて列の最前位から外れる。
長い列を形成する弔問客達とすれ違いながら、彼らの表情を観察し始めた。
「伝統や仕来たりなんてモンは、言い換えればファッションみたいなもんだ。大統領の死を悼む自分ってのを演じる事で、他者からの見方を変えられる」
「ふぅん…じゃあ、本当は来たくなかったって事?」
妙に早足で歩くラファエルの隣を小走りでついていくペネムは、少し息を切らしながら返した。
献花台広場を後にして数歩進んだ先で、ラファエルはペネムの方を見下ろしながら尋ねる。
「そう。そろそろわかったかい?私が此処に来た理由」
大きな爆発音と共に供えられた花が高々と宙を舞う。そして、次に聞こえてきたのは人々の阿鼻叫喚の声。悲鳴と共に大急ぎで逃げ惑う弔問客の姿を見たペネムは、ポンと鼓手を打った。
「なーんだ。ラファエルも本当は来たくなかったんだね」
弔問客に紛れて爆弾を仕込んだ花束を献花台に置いたラファエルは、ニヤリと満足げに笑っていた。
「でも、爆弾なんて古風なものよく手に入れられたね。火薬ってすごく高価なんじゃないの?」
「第二次大戦の遺物ってやつさ。まぁ、確かに値は張ったな。そいつを加工できるミリタリーオタクのじぃさんにかなりぼったくられた」
エネルギー革命以降、主要産業の動力源は目まぐるしい勢いでハンネス機関へと置き換わっていった。採掘業もその例外ではなく、パワーのあるハンネス機関付きの重機を導入することによって、それまでダイナマイトを利用して行っていた危険な作業が不要となった。
その危険性や環境汚染への影響から、使用を制限する動きを見せていた火薬に関しては、著しく生産量が減少し、今では金粉と同じレートで取引される程であるという。
「まぁ、出資額に見合った活躍はしてくれたさ。明日の誌面はこのタイトルで決まりだ。『大統領の献花に訪れた国民が複数死傷!保守派支持層による攻撃か!?』ってね」
アメリカ国内で激化の一途を辿っている音楽賛成派と反対派の対立。それを煽るように各地で活動していたのは、やはり異端の手の者であったようだ。
「あ!」
突然立ち止まり、大きな声をあげたペネムに、何事かと踵を返したラファエルが問い掛ける。
「あの有名人にサインもらっておけば良かった!もし死んじゃってたら、プレミアついてたかもしれないのに」
ペネムは残念そうに唸りながら両腕を頭の後ろで組んだ。
「勿体無い事したなぁ。次は先に教えてやるよ。色紙とサインペンも用意しないとな」
燃え盛る広場を背に、悠々とした足取りで現場を離れて行く二人は、指示のあった場所に移動すべく最寄りのバス停へと急いでいた。
…………………………………………………………………………………
ウィーンの上空も、この日は厚い雲に覆われていた。正午の鐘の音と共にポツポツと降り出した雨が街路樹の葉を揺らす様子を、退屈そうな表情でじっと見つめているツインテールの後ろ姿。
ここ二日間程、楽団内が異様に騒がしい。先日発生したという爆発事件の為か、ミーアもなかなか彼女の元に顔を出してくれなくなっていた。
「あーあ…こんな暇になるなら、まだあの女狐と一緒にいた方がマシだったかも」
窓のサッシの所に突っ伏したシェリー。万が一誰かに聞かれているかもしれない、とあえて日本語でそう呟いた。
「女狐って私の事?」
唐突に返ってきた返事に、シェリーは慌てて顔を持ち上げる。慌て過ぎて腰掛けていた木製の椅子から転げ落ちそうになった。
シェリーが待機するように命じられていた小部屋に入ってきたのは、楽団の社員に連れられた椿であった。
「ななっ…何でアンタが此処にいるんだよ!?」
「京哉に言われたから。三日間は相手してやれないから、せめて言葉の通じる奴の所で待ってろって」
椿の言葉に首を傾げるシェリー。先週彼と行動を別にしてから、二人の動向については全く把握していない。てっきり、まるまる2週間ほどかけてフルートを作り直している最中なのかと思っていたが、どうやら違うようだと察した。
「……あれから何してたの?フルートは?」
「あれから……色々あった。フルートはこれから作るって」
色々、という意味深な言葉のせいで、シェリーの妄想が次々に悪い想像を掻き立てていく。
「色々って…なに!?何もしてないよね?へ……変な事……してないよね!?」
妙に慌てた様子で迫ってくる彼女に、椿は黒のボブヘアーを手櫛でときながら口元に笑みを浮かべた。伏目がちに視線を動かす様が妙な艶かしさを演出している。
「……想像に任せる。貴女にはまだ早いかもしれない」
また意味深な言葉を重ねる椿に、顔を真っ赤にして掴み掛かったシェリーが彼女の肩をガクガクと揺らす。
「まだ早いって何!?同い年だよね!?まさか……本当の本当に変な事したんじゃ……」
シェリーの慌て様が面白くてつい大笑いしてしまった椿であったが、呼吸を整えながら首を横に振った。そして、じっとシェリーの目を見詰めながら尋ねる。
「…貴女、彼の事好きなんだ」
椿の口から飛び出した予想外の言葉に、シェリーは目を見開いて口をパクパクさせる。そして、やっとの思いで途切れ途切れに文句を返し始めた。
「す……好き……!?そんな訳ないでしょ……!アイツはそんなんじゃ……」
「安心していい。私は彼に恩を感じているだけ。何かお礼をしたいと言ったけど、断られた」
椅子にしがみついて息を荒げているシェリーの正面に立つと、椿は中腰の姿勢になって纏っていたパーカーのジッパーを腹の辺りまで開く。
両方の二の腕を寄せて豊満な胸元を強調させるようにしながら、椿は耳元で囁いた。
「大丈夫。彼、大きいのあんま好きじゃないみたいだったから」
「へ……」
目の前の光景と椿の言葉で頭の中がグルグルと回り始めたシェリーは、彼女のものと比較するように自分の胸元に手をあててその絶壁加減を再確認する。そして、オーバーヒートした車のように顔面から蒸気を吹き出してその場にヘタっと力無く座り込んでしまっていた。
…………………………………………………………………………………
降り続く雨が強まり始めた頃、大きな雨粒が窓ガラスを叩く音に混じってドアをノックする音が室内に響いた。ゆっくりと引き開かれた木製の扉の向こう側には、羽織ったコートの肩を雨に濡らした状態のミーアが立っていた。先程まで外に出ていた様であった。
「済まなかったね。放置してしまって…」
「いえ……もう大丈夫なんですか?私の所に来ても」
濡れたコートを脱いで椅子の背もたれに掛けるミーアを見上げながらシェリーが尋ねる。
「ああ。むしろ、外に出るなと怒られてしまったよ。ウィーンの治安はそこまで悪くなかった筈なんだけれど…」
悪くなかった。まるで、先日から彼女が駆け回らなければならないような何かの為に、街の治安が悪くなったような言い振りであった。
「おや、彼女だけ先に戻ったんだね」
ミーアの視界に、部屋の隅に座ってぼんやりと天井を見上げている椿が目に入る。椿の方も彼女の方を向いて、ペコッと小さく頭を下げていた。
「先に…っていうと……まだキョウヤは戻れないんですか?」
「ああ。やっとフルートを作り直せる方法がわかったようでね。心配せずとも数日のうちに戻るさ」
ミーアの回答を聞いたシェリーは安堵の表情を見せる。あと数日で、この実験体のような生活も終わるのだ。嬉しそうな彼女の様子を見て、その心の内を察したミーアは苦笑を浮かべながら言う。
「……正直、結果が出なくて良かったと、私は思っているよ」
予想外なその発言を聞いて、シェリーの頭上には大きなクエスチョンマークが浮かんでいる。
「君の歌声が何か大きな力を齎すと証明されれば…きっと、楽団は君とキョウヤを引き離してでもオーストリアで利用したいと考えていたはずだ」
戦力の喪失が甚だしい社内の状況を鑑みて、楽団上層部は『シェスカの遺作』を本社預かりにするよう、京哉に命令していたはずだとミーアは考えていた。
もし有用なデータが取れてしまっていたら、彼らと日本に帰れなかったかもしれないと言われたシェリーはその顔を青褪める。
「社長には悪いが、君に関しては今日までのデータを参考にして、引き続き監視対象として日本に戻すという事で報告しておこう。これ以上続けて、何か起こってしまったら大変だ」
冗談まじりにそう言いながら笑ったミーアの優しい表情に、シェリーもホッとした様子で薄らと笑みを浮かべていた。
…………………………………………………………………………………
コートを小脇に抱えて練習室を出たミーアは、スラックスのポケットに仕舞い込んでいたPHSがずっと振動し続けている事に気が付く。端末の画面を見ると、着信はロジャーの秘書であるウッド・モーガンからであった。急いで通話ボタンを押し、スピーカーを耳にあてた。
『やっと繋がりましたね…!至急、会議室にお願いします。他の上層部の方々は既にいらっしゃってますので』
緊急会議は珍しくもないが、先日の事件の事もあり非常に嫌な予感がする。
足早に最上階に向かった彼女が既に上層部の集う薄暗い会議室内で最初に目にしたのは、スクリーンに煌々と映し出された映像であった。
「こちらはザンクト・ペルテンの河川整備局より情報提供のあった、ドナウ川沿いに建てられていた不審なプレハブ小屋の内部映像です」
生い茂る木々の間を縫って歩く撮影者の視線の先に、ポツンと佇んでいる錆びたプレハブ小屋。閉ざされたドアのノブに手を掛け、恐る恐る手前に引き寄せる撮影者の荒々しい息の音から緊張感が伝わってくる。
外見の錆びつき具合とは裏腹に、音もなくすんなりと開く扉。つい最近まで何者かが使用した形跡がある。
昼間だというのに真っ暗な小屋の中。撮影者の所持していた懐中電灯の明かりが灯ると、画角の中央には乱雑に折り畳まれたブルーシートと50センチ四方の木箱が鎮座している。
『何だこの臭いは……酷いな…』
異臭の原因と思わしきブルーシートをゆっくりと広げた撮影者は、内側にベッタリと付着していた赤黒い痕を目の当たりにして大きく後方に仰け反って倒れた。明らかに血痕である。
呼吸を整えて、立ち上がった彼が次に手を伸ばしたのは木箱の方であった。簡素な作りで蓋の部分は固定されておらず、一枚の板が乗せられているだけのようだ。
カタッ…と小さな音を立てて蓋を退かす。ゆっくりとカメラを箱の中に向けると、そこには『略式』と呼ばれる超小型のハンネス機関と手のひらサイズのガスボンベが数本。
『何だこりゃ……?気味が悪ぃな…』
木箱に蓋をした撮影者は、息を切らしながら足早に小屋を出て再び森の中を歩き始めた。ここで映像は終了している。
「ミーア、君はどう思う?」
会議室の静寂を破ったのは、ロジャーであった。出入り口に立ったままの彼女に、席に着くように促すとそのままの流れで先程の映像について問う。
「………略式にガスボンベ…明らかに爆発物を作った形跡でしょう…」
採掘用ダイナマイトの製造が終わりを迎えてから、火薬の需要は著しく低くなった。市場に出回る絶対量が大幅に減少した事によりその価格は年々上昇し、今では金と同等の値段で取引される程である。
それまで武器弾薬の類に使用されてきた火薬もその役目を終え、エネルギー革命以降はハンネス機関がその代わりを担うようになっていった。
超小型の略式ハンネス機関に少量の電気を蓄積させたものと、液化した水素などの可燃性ガスを少量封入したボンベを接続すれば、それだけで高威力の爆弾が完成する。
遠隔操作で略式を起動させると、駆動時に発生した熱で液状の可燃ガスは瞬時に気化。駆動部の摩擦によって生まれた静電気を除去する、保護ダイオード素子を敢えて取り外した構造になっている略式ハンネス機関から飛び散った火花がガスに引火し、爆発を引き起こす。
火薬を使用した爆弾が旧式と呼ばれるのに対して、この仕組みで作られる爆発物の事を新式と称する様になったのも、エネルギー革命以降のことである。
…………………………………………………………………………………
「……ここからは、私の想像です」
そう続けたミーアが視線を伏せながら語り始めた。
「先日、ドナウ川の水死体……デニスの遺体を水揚げした刑事からは、確かに水死体と説明を受けました」
彼女が現場に到着して間も無く、担当の刑事から聴取を受ける中で何度も彼の死因については聞かされていた。状態から見て、十中八九溺死体である、と。
「彼と最後に連絡を取ったのは爆発事件の前日…。腐敗によって体内に溜まったガスが何らかの要因によって爆発したと考えるには、あまりにも死後経過した日数が浅すぎますし、何より規模が大き過ぎる…浜に打ち上げられた鯨の屍骸じゃあるまいし…」
では、何故デニスの死体は突如爆発するに至ったのか。その疑問と、先程の映像に記録されていた不自然な遺物の数々が、そこで繋がりを持つ事になる。
「デニスは…犯人が彼の死因を溺死だと装う為に、生きたまま体内に略式爆弾を埋め込まれ、ドナウ川に投げ込まれた。そして、ザンクト・ペルテンからウィーンに流れ着き、水死体として揚がったデニスの元に我々が赴いたタイミングで起爆させた……」
長々と推理を述べたミーアがその口を閉ざすと、会議室内は気味が悪いほどシンと静まり返っていた。
一見、妥当に思える彼女の仮説。しかし、端々に矛盾や疑問が生じる箇所が存在する。
「ザンクト・ペルテンから流す必要があったのか?ウィーンに流れ着く前に他の人間に見つかっていた可能性もある」
上層部の一人が疑問を投げ掛ける。
「デニスの任務先がザンクト・ペルテンでした。旋律師を生け捕りの状態で移動させるのは危険だと判断した…又は、その場で細工をし、溺死させるように指示した者がいるのかもしれません」
実行役の他に、犯行を指示した者が存在する可能性があると考えたミーアに、質問者もなるほど、と首を縦に振った。
「起爆のタイミングがあまりに良すぎる。犯人が我々の動きを間近で見ていたと言うのか?」
「その可能性は高いです。略式とは言え、ハンネス機関が付随する事で時限式と遠隔起爆式の選択肢が存在します。後者を選んだのは、確実に我々が死体に近づいたタイミングを伺える位置に潜んでいたから、だと」
次なる質問にもすんなりと答えて見せた彼女に対して、彼女の隣に腰掛けていた男が手を挙げた。
「そもそも……何故水死体を装ってまで、爆弾を使った攻撃をした。犯人の狙いが楽団の人間だったとして、結果的に無関係な警察官まで大勢死んでいる」
真っ先にその問いに答えたのは、ミーアではなく議長席の横に座るロジャーであった。
「ハンネス機関を使って人死にを出す事。そして、楽団本部のお膝元で無関係な人間を巻き込んで被害を出す事。それらが狙いだからだよ」
楽団と無関係な人間が死んだ事件が発生すれば、当然彼らへの風向きは変わってくる。
表向きには交響楽団を持つ一般企業として社屋を構えているが、警察や政府機関の捜査が入り、本来の姿を嗅ぎ付けられる可能性もあるだろう。
そうなれば、楽団の正体を知っている顧客、スポンサー達は、過去の依頼内容が世の知る所となって自身の社会的立場を失う事を恐れ、距離を置こうとする。
「我々の資金源を断つ事が狙い…だという事ですか?」
「相手が楽団に戦争でも仕掛けているつもりなら…当然あらゆる方面から攻め入ろうとするだろうな。兵糧攻めは古代中国の時代から戦の常套手段じゃないか」
やれやれ、と深いため息をついて天井を仰いだ目元に腕を乗せたロジャー。
楽譜の盗作による旋律師殺害事件から、アメリカ支部陥落の危機、各地で勃発する異端の旋律師狩りに続いて、今回の事件だ。連日連夜の対応に追われている彼は相当疲労を溜め込んでいるのだろう。
…………………………………………………………………………………
会議がお開きとなり、上層部の人間達が部屋の外に出て行く様子を眺めていたミーア。いつも全員が退出するのを見届けてから部屋の鍵を閉めるのはロジャーの仕事である。彼の元に歩み寄ると、ミーアは神妙な面持ちで口を開いた。
「……社長、宜しいでしょうか?」
「ああ、ミーアか。忙しい所済まなかったね。どうかしたか?」
ふと顔を上げたロジャーと目が合うと、ミーアは少し口篭ってからその提案をする。
「このまま異端の良いようにされてしまっては、本部とてアメリカ支部の二の舞を踏みかねません。どうか…ご指示ください」
強い口調でそう言い放ったミーアに、プロジェクターの片付けをしていたモーガンは肩を震わせて彼女の方を振り返る。
「……流石の君でも、してやられてばかりでは癪かい?」
「顧客からの依頼先に向かっている旋律師を全員呼び戻し、体制を磐石にする必要が…」
楽団としての業務を一度全て停止してでも異端に対抗すべきだと提案するミーアに、ロジャーは困り顔を見せていた。
「19人……あぁ、ジョセフが亡くなって18人か…」
唐突に話題をすり替えてきたロジャーに、真剣な表情で訴えかけていたミーアは一瞬ポカンと呆けてしまう。
「楽団にあって、異端は持ち得なかった筈の物だ。どこまで奴等が模倣する事に成功しているかは知らないが、我々には超絶技巧という切り札が存在する」
専属作曲家である右神託斗が書き下ろした、異能を得ることができる呪詛が込められた楽曲。世界が音エネルギーの武力化を真に恐れるならば、この超絶技巧は間違いなく人類が得てはならない神の御業とも言える代物であろう。
「異端が超絶技巧を真似、所有者から楽譜狙い続ける理由は……脅威だからだ。敵わないとわかった上で、我々に挑戦してきている。心配するな…我々は負けはしない」
すくっと立ち上がったロジャーは、強い雨が叩きつける窓ガラス越しに夕暮れ時のウィーンの街並みを眺めながら続けた。
「まぁ…かく言う私も腹が立たない訳ではないんだよ。小馬鹿にされっぱなしは癪だ」
少し悪戯っぽく笑って見せたロジャーは、すれ違い様にミーアの肩を叩きながら何かを耳打ちする。途中まで黙って彼の話を聞いていたミーアであったが、ふと目を見開くと眉を顰めて彼の方へと体の正面を向けた。
「……それは確かな情報ですか?」
「ああ。ずっと彼等を監視し続けていた調査班の人間からだ。フライト時間は約8時間半……あと4時間後には到着予定だ」
ロジャーの返事を耳にして、左手首の腕時計に視線を落とすミーア。
「平静を装っていても、君が一番頭に来ているのは目に見えてわかるぞ、ミーア。ヨーロッパ支部長として、奴らに落とし前を付けさせたいだろう?」
ロジャーと秘書が会議室から消え、シンと静まり返った薄暗い室内に取り残されたミーアは額に置いた右の掌で前髪を掻き上げる。
ぐっと細められた彼女の瞳には静かな闘志の炎が揺らめいていた。
[newpage]
ニュー千代田区角の中枢に聳える煌びやかな高層ビル。両脇を仲間達に支えられながらその最上階に到着したミゲルの右脚は、膝関節より下を失っていた。
「誰か!早くドクタースギウラを呼んで!!」
彼の後ろで血相を変えて叫んでいたのは、雑居ビルの屋上でチェロを奏でていた少年。彼の必死な様子を見て、痛みに汗を滲ませていたミゲルの表情が少し和らいだ。
「アミティエル、そんなに心配しなくても大丈夫だよ…」
「で、でも……ミゲル、大怪我してるし…」
目深に被ったフードの奥からミゲルの表情を伺ったアミティエルは、やはり居ても立っても居られないという様子で廊下を駆け出す。
「ドクタースギウラを呼んでくる!待ってて!」
ドタドタと忙しなく扉の奥へと消えていったアミティエルを見送ると、ミゲルは両脇を抱えていた男達に告げる。
「済まないが、ガブリエルの元へ連れて行ってもらえるか?いつもの部屋ではなく、彼の私室にいるだろうから」
ガブリエルの私室として与えられていたのは、8畳程の広さの窓のない空間。壁一面には目を模したマークの描かれた紙が貼られており、入室した瞬間に緊張感が走る程の視線を感じる。
ミゲルは彼を支えていた男達に戻るよう言い渡し、何も無い部屋の中央に敷かれたゴザの上に胡座を描いて座るガブリエルの正面まで片足で床を蹴って移動した。
不自然な足音を聞いて顔を上げたガブリエルは、サングラスをそっと外す。
「あらー…男が上がったじゃないの、ミゲル」
「すまないが、少し肩を貸してくれないか?一人じゃ上手く座れなくてね」
ガブリエルの助けを借りながらゴサに腰を下ろしたミゲル。失われた脚の先端は何重にも布が巻かれて止血処理されているが、赤黒いシミが見えている。
「まさか、アナタの悪趣味で生捕りにしてるって言ってた子にやられた訳じゃないわよね?」
「雑居ビルの話かい?彼は何日か前に亡くなったよ。あぁ…あそこに住み着いていた人間達が殺したんだった」
ミゲルの返答を耳にして、ガブリエルは肩を竦める。
「下請けの下請けなんて、餌にしても美味しくなかったんじゃない?」
「今回は撒き餌の方が仕事をしてくれたさ。君がタクトの所在を把握してくれていたから、今回接触はできた訳だし」
その結果がコレだけど、と自嘲するミゲルは額の汗を拭いながら続けた。
「そういえば、君にお願いしていた第21楽章の件は結局どうなっているんだい?まだ報告を聞いていないけど」
楽団最大の目標物である超絶技巧第21楽章「別天津神」の楽譜。異端はガブリエルの持つ異能によってその所在を掴んでいた筈であった。
…………………………………………………………………………………
「アナタが今回の件で出掛けたすぐ後に、調査に行ったサラフィエルが激昂してたわよ。ほら、自分の目で確かめてみなさいよ」
ガブリエルがミゲルの前に差し出したのは、サラフィエルから預かったという真っ白なハードカバーの冊子。
かつて彼らが、楽団アメリカ支部長ジョセフ・アーロンを殺害し、奪い取った楽譜と見た目は酷似している。
冊子を手に取り表紙を一枚捲ったところで、ミゲルの視線はそこに英語で殴り書きされていた文字に目を丸くした。
『捜索お疲れ様でしたー!頑張った君に僕のサインをあげるね!タクトより!』
静かに表紙を元に戻し、顔を上げてガブリエルの方を見やる。
「君ともあろうヒトが、偽物つかまされたって事かい?」
「アナタから依頼のあった見た目通りのその楽譜…擬き。確かに私の感知野でも特殊な周波数で受信できていたわよ。でも聞いてちょうだい……丸一日掛けて再度詮索してみたらソレと同じモノが東京中に約500冊存在していたんだけど」
彼の口から出た500という数字に、ミゲルは更に度肝を抜かれた様子である。
その冊子は明らかに、相手に「見つけさせる」意図で設置されていたのだ。
ガブリエルの超高感度ソナーが今までに本物以外を認識した事はミゲルの記憶には無い。そして、今回も彼は本物の場所を探り当てていたのだ。
都内にばら撒かれた500冊以上の偽のスコア。それら全てに、託斗が呪詛を込めていたのである。表紙、そして直筆のメッセージとサインの書かれた遊び紙を捲った次のページには、同じく直筆で書かれた8小節程度のメロディライン。作曲者本人が作った偽物までは、ガブリエルの『目』では見抜けなかったようだ。
「……このメロディが別天津神に関連するなんてことは…?」
ミゲルが一縷の望みにかけてそのような質問をしてみるものの、ガブリエルは静かに首を横に振った。
「うんと昔、日本のスーパーマーケットで流れていた陽気な音楽なんですって。呼び込みがどうのって…」
随分コケにされたものだと思いながらも、ミゲルはガブリエルが口遊むその陽気な音楽とやらを聞いて怒る気力すら削がれてしまった様子であった。
[35] Elegy 完
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ダラス・シンプソン前アメリカ大統領の葬儀は、共和党保守派を支持する音楽反対派層国民の感情に配慮し、近親者のみで執り行われるという異例の事態となった。
ホワイトハウス前に申し訳程度に設けられた献花台周辺には厳重な警備体制が敷かれ、訪れた人々は物々しい雰囲気の中で彼の死を悼んだ。
冷たい雨が降り頻る中、百合の花を手向けたチロリアンハットの男がいた。その傍らでは、白いローブを纏った金髪碧眼の子供がつまらなそうに地面の小石を蹴っている。
「ラファエル、アメリカの大統領は楽団と仲良しだったんでしょ?どうして花なんか手向けるのさ」
長靴で水たまりを蹴散らしながら、唇を尖らせてスーツの男の顔を見上げたペネム。彼の問いに対して、ラファエルは他の弔問客達には見えないように顔を伏せながら口元に笑みを浮かべた。
「此処に来てる奴らが全員、心からダラス・シンプソンの死を悼んでいると思うかい?」
見てみなさい、とラファエルが視線を向けた先には、一度は雑誌や新聞で紙面を賑わせたことのある有名人が顔を揃えていた。
「わあ、サイン貰ってこようかな」
口ではそう言い放つが、全く興味が無さそうな様子のペネムを引き連れて列の最前位から外れる。
長い列を形成する弔問客達とすれ違いながら、彼らの表情を観察し始めた。
「伝統や仕来たりなんてモンは、言い換えればファッションみたいなもんだ。大統領の死を悼む自分ってのを演じる事で、他者からの見方を変えられる」
「ふぅん…じゃあ、本当は来たくなかったって事?」
妙に早足で歩くラファエルの隣を小走りでついていくペネムは、少し息を切らしながら返した。
献花台広場を後にして数歩進んだ先で、ラファエルはペネムの方を見下ろしながら尋ねる。
「そう。そろそろわかったかい?私が此処に来た理由」
大きな爆発音と共に供えられた花が高々と宙を舞う。そして、次に聞こえてきたのは人々の阿鼻叫喚の声。悲鳴と共に大急ぎで逃げ惑う弔問客の姿を見たペネムは、ポンと鼓手を打った。
「なーんだ。ラファエルも本当は来たくなかったんだね」
弔問客に紛れて爆弾を仕込んだ花束を献花台に置いたラファエルは、ニヤリと満足げに笑っていた。
「でも、爆弾なんて古風なものよく手に入れられたね。火薬ってすごく高価なんじゃないの?」
「第二次大戦の遺物ってやつさ。まぁ、確かに値は張ったな。そいつを加工できるミリタリーオタクのじぃさんにかなりぼったくられた」
エネルギー革命以降、主要産業の動力源は目まぐるしい勢いでハンネス機関へと置き換わっていった。採掘業もその例外ではなく、パワーのあるハンネス機関付きの重機を導入することによって、それまでダイナマイトを利用して行っていた危険な作業が不要となった。
その危険性や環境汚染への影響から、使用を制限する動きを見せていた火薬に関しては、著しく生産量が減少し、今では金粉と同じレートで取引される程であるという。
「まぁ、出資額に見合った活躍はしてくれたさ。明日の誌面はこのタイトルで決まりだ。『大統領の献花に訪れた国民が複数死傷!保守派支持層による攻撃か!?』ってね」
アメリカ国内で激化の一途を辿っている音楽賛成派と反対派の対立。それを煽るように各地で活動していたのは、やはり異端の手の者であったようだ。
「あ!」
突然立ち止まり、大きな声をあげたペネムに、何事かと踵を返したラファエルが問い掛ける。
「あの有名人にサインもらっておけば良かった!もし死んじゃってたら、プレミアついてたかもしれないのに」
ペネムは残念そうに唸りながら両腕を頭の後ろで組んだ。
「勿体無い事したなぁ。次は先に教えてやるよ。色紙とサインペンも用意しないとな」
燃え盛る広場を背に、悠々とした足取りで現場を離れて行く二人は、指示のあった場所に移動すべく最寄りのバス停へと急いでいた。
…………………………………………………………………………………
ウィーンの上空も、この日は厚い雲に覆われていた。正午の鐘の音と共にポツポツと降り出した雨が街路樹の葉を揺らす様子を、退屈そうな表情でじっと見つめているツインテールの後ろ姿。
ここ二日間程、楽団内が異様に騒がしい。先日発生したという爆発事件の為か、ミーアもなかなか彼女の元に顔を出してくれなくなっていた。
「あーあ…こんな暇になるなら、まだあの女狐と一緒にいた方がマシだったかも」
窓のサッシの所に突っ伏したシェリー。万が一誰かに聞かれているかもしれない、とあえて日本語でそう呟いた。
「女狐って私の事?」
唐突に返ってきた返事に、シェリーは慌てて顔を持ち上げる。慌て過ぎて腰掛けていた木製の椅子から転げ落ちそうになった。
シェリーが待機するように命じられていた小部屋に入ってきたのは、楽団の社員に連れられた椿であった。
「ななっ…何でアンタが此処にいるんだよ!?」
「京哉に言われたから。三日間は相手してやれないから、せめて言葉の通じる奴の所で待ってろって」
椿の言葉に首を傾げるシェリー。先週彼と行動を別にしてから、二人の動向については全く把握していない。てっきり、まるまる2週間ほどかけてフルートを作り直している最中なのかと思っていたが、どうやら違うようだと察した。
「……あれから何してたの?フルートは?」
「あれから……色々あった。フルートはこれから作るって」
色々、という意味深な言葉のせいで、シェリーの妄想が次々に悪い想像を掻き立てていく。
「色々って…なに!?何もしてないよね?へ……変な事……してないよね!?」
妙に慌てた様子で迫ってくる彼女に、椿は黒のボブヘアーを手櫛でときながら口元に笑みを浮かべた。伏目がちに視線を動かす様が妙な艶かしさを演出している。
「……想像に任せる。貴女にはまだ早いかもしれない」
また意味深な言葉を重ねる椿に、顔を真っ赤にして掴み掛かったシェリーが彼女の肩をガクガクと揺らす。
「まだ早いって何!?同い年だよね!?まさか……本当の本当に変な事したんじゃ……」
シェリーの慌て様が面白くてつい大笑いしてしまった椿であったが、呼吸を整えながら首を横に振った。そして、じっとシェリーの目を見詰めながら尋ねる。
「…貴女、彼の事好きなんだ」
椿の口から飛び出した予想外の言葉に、シェリーは目を見開いて口をパクパクさせる。そして、やっとの思いで途切れ途切れに文句を返し始めた。
「す……好き……!?そんな訳ないでしょ……!アイツはそんなんじゃ……」
「安心していい。私は彼に恩を感じているだけ。何かお礼をしたいと言ったけど、断られた」
椅子にしがみついて息を荒げているシェリーの正面に立つと、椿は中腰の姿勢になって纏っていたパーカーのジッパーを腹の辺りまで開く。
両方の二の腕を寄せて豊満な胸元を強調させるようにしながら、椿は耳元で囁いた。
「大丈夫。彼、大きいのあんま好きじゃないみたいだったから」
「へ……」
目の前の光景と椿の言葉で頭の中がグルグルと回り始めたシェリーは、彼女のものと比較するように自分の胸元に手をあててその絶壁加減を再確認する。そして、オーバーヒートした車のように顔面から蒸気を吹き出してその場にヘタっと力無く座り込んでしまっていた。
…………………………………………………………………………………
降り続く雨が強まり始めた頃、大きな雨粒が窓ガラスを叩く音に混じってドアをノックする音が室内に響いた。ゆっくりと引き開かれた木製の扉の向こう側には、羽織ったコートの肩を雨に濡らした状態のミーアが立っていた。先程まで外に出ていた様であった。
「済まなかったね。放置してしまって…」
「いえ……もう大丈夫なんですか?私の所に来ても」
濡れたコートを脱いで椅子の背もたれに掛けるミーアを見上げながらシェリーが尋ねる。
「ああ。むしろ、外に出るなと怒られてしまったよ。ウィーンの治安はそこまで悪くなかった筈なんだけれど…」
悪くなかった。まるで、先日から彼女が駆け回らなければならないような何かの為に、街の治安が悪くなったような言い振りであった。
「おや、彼女だけ先に戻ったんだね」
ミーアの視界に、部屋の隅に座ってぼんやりと天井を見上げている椿が目に入る。椿の方も彼女の方を向いて、ペコッと小さく頭を下げていた。
「先に…っていうと……まだキョウヤは戻れないんですか?」
「ああ。やっとフルートを作り直せる方法がわかったようでね。心配せずとも数日のうちに戻るさ」
ミーアの回答を聞いたシェリーは安堵の表情を見せる。あと数日で、この実験体のような生活も終わるのだ。嬉しそうな彼女の様子を見て、その心の内を察したミーアは苦笑を浮かべながら言う。
「……正直、結果が出なくて良かったと、私は思っているよ」
予想外なその発言を聞いて、シェリーの頭上には大きなクエスチョンマークが浮かんでいる。
「君の歌声が何か大きな力を齎すと証明されれば…きっと、楽団は君とキョウヤを引き離してでもオーストリアで利用したいと考えていたはずだ」
戦力の喪失が甚だしい社内の状況を鑑みて、楽団上層部は『シェスカの遺作』を本社預かりにするよう、京哉に命令していたはずだとミーアは考えていた。
もし有用なデータが取れてしまっていたら、彼らと日本に帰れなかったかもしれないと言われたシェリーはその顔を青褪める。
「社長には悪いが、君に関しては今日までのデータを参考にして、引き続き監視対象として日本に戻すという事で報告しておこう。これ以上続けて、何か起こってしまったら大変だ」
冗談まじりにそう言いながら笑ったミーアの優しい表情に、シェリーもホッとした様子で薄らと笑みを浮かべていた。
…………………………………………………………………………………
コートを小脇に抱えて練習室を出たミーアは、スラックスのポケットに仕舞い込んでいたPHSがずっと振動し続けている事に気が付く。端末の画面を見ると、着信はロジャーの秘書であるウッド・モーガンからであった。急いで通話ボタンを押し、スピーカーを耳にあてた。
『やっと繋がりましたね…!至急、会議室にお願いします。他の上層部の方々は既にいらっしゃってますので』
緊急会議は珍しくもないが、先日の事件の事もあり非常に嫌な予感がする。
足早に最上階に向かった彼女が既に上層部の集う薄暗い会議室内で最初に目にしたのは、スクリーンに煌々と映し出された映像であった。
「こちらはザンクト・ペルテンの河川整備局より情報提供のあった、ドナウ川沿いに建てられていた不審なプレハブ小屋の内部映像です」
生い茂る木々の間を縫って歩く撮影者の視線の先に、ポツンと佇んでいる錆びたプレハブ小屋。閉ざされたドアのノブに手を掛け、恐る恐る手前に引き寄せる撮影者の荒々しい息の音から緊張感が伝わってくる。
外見の錆びつき具合とは裏腹に、音もなくすんなりと開く扉。つい最近まで何者かが使用した形跡がある。
昼間だというのに真っ暗な小屋の中。撮影者の所持していた懐中電灯の明かりが灯ると、画角の中央には乱雑に折り畳まれたブルーシートと50センチ四方の木箱が鎮座している。
『何だこの臭いは……酷いな…』
異臭の原因と思わしきブルーシートをゆっくりと広げた撮影者は、内側にベッタリと付着していた赤黒い痕を目の当たりにして大きく後方に仰け反って倒れた。明らかに血痕である。
呼吸を整えて、立ち上がった彼が次に手を伸ばしたのは木箱の方であった。簡素な作りで蓋の部分は固定されておらず、一枚の板が乗せられているだけのようだ。
カタッ…と小さな音を立てて蓋を退かす。ゆっくりとカメラを箱の中に向けると、そこには『略式』と呼ばれる超小型のハンネス機関と手のひらサイズのガスボンベが数本。
『何だこりゃ……?気味が悪ぃな…』
木箱に蓋をした撮影者は、息を切らしながら足早に小屋を出て再び森の中を歩き始めた。ここで映像は終了している。
「ミーア、君はどう思う?」
会議室の静寂を破ったのは、ロジャーであった。出入り口に立ったままの彼女に、席に着くように促すとそのままの流れで先程の映像について問う。
「………略式にガスボンベ…明らかに爆発物を作った形跡でしょう…」
採掘用ダイナマイトの製造が終わりを迎えてから、火薬の需要は著しく低くなった。市場に出回る絶対量が大幅に減少した事によりその価格は年々上昇し、今では金と同等の値段で取引される程である。
それまで武器弾薬の類に使用されてきた火薬もその役目を終え、エネルギー革命以降はハンネス機関がその代わりを担うようになっていった。
超小型の略式ハンネス機関に少量の電気を蓄積させたものと、液化した水素などの可燃性ガスを少量封入したボンベを接続すれば、それだけで高威力の爆弾が完成する。
遠隔操作で略式を起動させると、駆動時に発生した熱で液状の可燃ガスは瞬時に気化。駆動部の摩擦によって生まれた静電気を除去する、保護ダイオード素子を敢えて取り外した構造になっている略式ハンネス機関から飛び散った火花がガスに引火し、爆発を引き起こす。
火薬を使用した爆弾が旧式と呼ばれるのに対して、この仕組みで作られる爆発物の事を新式と称する様になったのも、エネルギー革命以降のことである。
…………………………………………………………………………………
「……ここからは、私の想像です」
そう続けたミーアが視線を伏せながら語り始めた。
「先日、ドナウ川の水死体……デニスの遺体を水揚げした刑事からは、確かに水死体と説明を受けました」
彼女が現場に到着して間も無く、担当の刑事から聴取を受ける中で何度も彼の死因については聞かされていた。状態から見て、十中八九溺死体である、と。
「彼と最後に連絡を取ったのは爆発事件の前日…。腐敗によって体内に溜まったガスが何らかの要因によって爆発したと考えるには、あまりにも死後経過した日数が浅すぎますし、何より規模が大き過ぎる…浜に打ち上げられた鯨の屍骸じゃあるまいし…」
では、何故デニスの死体は突如爆発するに至ったのか。その疑問と、先程の映像に記録されていた不自然な遺物の数々が、そこで繋がりを持つ事になる。
「デニスは…犯人が彼の死因を溺死だと装う為に、生きたまま体内に略式爆弾を埋め込まれ、ドナウ川に投げ込まれた。そして、ザンクト・ペルテンからウィーンに流れ着き、水死体として揚がったデニスの元に我々が赴いたタイミングで起爆させた……」
長々と推理を述べたミーアがその口を閉ざすと、会議室内は気味が悪いほどシンと静まり返っていた。
一見、妥当に思える彼女の仮説。しかし、端々に矛盾や疑問が生じる箇所が存在する。
「ザンクト・ペルテンから流す必要があったのか?ウィーンに流れ着く前に他の人間に見つかっていた可能性もある」
上層部の一人が疑問を投げ掛ける。
「デニスの任務先がザンクト・ペルテンでした。旋律師を生け捕りの状態で移動させるのは危険だと判断した…又は、その場で細工をし、溺死させるように指示した者がいるのかもしれません」
実行役の他に、犯行を指示した者が存在する可能性があると考えたミーアに、質問者もなるほど、と首を縦に振った。
「起爆のタイミングがあまりに良すぎる。犯人が我々の動きを間近で見ていたと言うのか?」
「その可能性は高いです。略式とは言え、ハンネス機関が付随する事で時限式と遠隔起爆式の選択肢が存在します。後者を選んだのは、確実に我々が死体に近づいたタイミングを伺える位置に潜んでいたから、だと」
次なる質問にもすんなりと答えて見せた彼女に対して、彼女の隣に腰掛けていた男が手を挙げた。
「そもそも……何故水死体を装ってまで、爆弾を使った攻撃をした。犯人の狙いが楽団の人間だったとして、結果的に無関係な警察官まで大勢死んでいる」
真っ先にその問いに答えたのは、ミーアではなく議長席の横に座るロジャーであった。
「ハンネス機関を使って人死にを出す事。そして、楽団本部のお膝元で無関係な人間を巻き込んで被害を出す事。それらが狙いだからだよ」
楽団と無関係な人間が死んだ事件が発生すれば、当然彼らへの風向きは変わってくる。
表向きには交響楽団を持つ一般企業として社屋を構えているが、警察や政府機関の捜査が入り、本来の姿を嗅ぎ付けられる可能性もあるだろう。
そうなれば、楽団の正体を知っている顧客、スポンサー達は、過去の依頼内容が世の知る所となって自身の社会的立場を失う事を恐れ、距離を置こうとする。
「我々の資金源を断つ事が狙い…だという事ですか?」
「相手が楽団に戦争でも仕掛けているつもりなら…当然あらゆる方面から攻め入ろうとするだろうな。兵糧攻めは古代中国の時代から戦の常套手段じゃないか」
やれやれ、と深いため息をついて天井を仰いだ目元に腕を乗せたロジャー。
楽譜の盗作による旋律師殺害事件から、アメリカ支部陥落の危機、各地で勃発する異端の旋律師狩りに続いて、今回の事件だ。連日連夜の対応に追われている彼は相当疲労を溜め込んでいるのだろう。
…………………………………………………………………………………
会議がお開きとなり、上層部の人間達が部屋の外に出て行く様子を眺めていたミーア。いつも全員が退出するのを見届けてから部屋の鍵を閉めるのはロジャーの仕事である。彼の元に歩み寄ると、ミーアは神妙な面持ちで口を開いた。
「……社長、宜しいでしょうか?」
「ああ、ミーアか。忙しい所済まなかったね。どうかしたか?」
ふと顔を上げたロジャーと目が合うと、ミーアは少し口篭ってからその提案をする。
「このまま異端の良いようにされてしまっては、本部とてアメリカ支部の二の舞を踏みかねません。どうか…ご指示ください」
強い口調でそう言い放ったミーアに、プロジェクターの片付けをしていたモーガンは肩を震わせて彼女の方を振り返る。
「……流石の君でも、してやられてばかりでは癪かい?」
「顧客からの依頼先に向かっている旋律師を全員呼び戻し、体制を磐石にする必要が…」
楽団としての業務を一度全て停止してでも異端に対抗すべきだと提案するミーアに、ロジャーは困り顔を見せていた。
「19人……あぁ、ジョセフが亡くなって18人か…」
唐突に話題をすり替えてきたロジャーに、真剣な表情で訴えかけていたミーアは一瞬ポカンと呆けてしまう。
「楽団にあって、異端は持ち得なかった筈の物だ。どこまで奴等が模倣する事に成功しているかは知らないが、我々には超絶技巧という切り札が存在する」
専属作曲家である右神託斗が書き下ろした、異能を得ることができる呪詛が込められた楽曲。世界が音エネルギーの武力化を真に恐れるならば、この超絶技巧は間違いなく人類が得てはならない神の御業とも言える代物であろう。
「異端が超絶技巧を真似、所有者から楽譜狙い続ける理由は……脅威だからだ。敵わないとわかった上で、我々に挑戦してきている。心配するな…我々は負けはしない」
すくっと立ち上がったロジャーは、強い雨が叩きつける窓ガラス越しに夕暮れ時のウィーンの街並みを眺めながら続けた。
「まぁ…かく言う私も腹が立たない訳ではないんだよ。小馬鹿にされっぱなしは癪だ」
少し悪戯っぽく笑って見せたロジャーは、すれ違い様にミーアの肩を叩きながら何かを耳打ちする。途中まで黙って彼の話を聞いていたミーアであったが、ふと目を見開くと眉を顰めて彼の方へと体の正面を向けた。
「……それは確かな情報ですか?」
「ああ。ずっと彼等を監視し続けていた調査班の人間からだ。フライト時間は約8時間半……あと4時間後には到着予定だ」
ロジャーの返事を耳にして、左手首の腕時計に視線を落とすミーア。
「平静を装っていても、君が一番頭に来ているのは目に見えてわかるぞ、ミーア。ヨーロッパ支部長として、奴らに落とし前を付けさせたいだろう?」
ロジャーと秘書が会議室から消え、シンと静まり返った薄暗い室内に取り残されたミーアは額に置いた右の掌で前髪を掻き上げる。
ぐっと細められた彼女の瞳には静かな闘志の炎が揺らめいていた。
[newpage]
ニュー千代田区角の中枢に聳える煌びやかな高層ビル。両脇を仲間達に支えられながらその最上階に到着したミゲルの右脚は、膝関節より下を失っていた。
「誰か!早くドクタースギウラを呼んで!!」
彼の後ろで血相を変えて叫んでいたのは、雑居ビルの屋上でチェロを奏でていた少年。彼の必死な様子を見て、痛みに汗を滲ませていたミゲルの表情が少し和らいだ。
「アミティエル、そんなに心配しなくても大丈夫だよ…」
「で、でも……ミゲル、大怪我してるし…」
目深に被ったフードの奥からミゲルの表情を伺ったアミティエルは、やはり居ても立っても居られないという様子で廊下を駆け出す。
「ドクタースギウラを呼んでくる!待ってて!」
ドタドタと忙しなく扉の奥へと消えていったアミティエルを見送ると、ミゲルは両脇を抱えていた男達に告げる。
「済まないが、ガブリエルの元へ連れて行ってもらえるか?いつもの部屋ではなく、彼の私室にいるだろうから」
ガブリエルの私室として与えられていたのは、8畳程の広さの窓のない空間。壁一面には目を模したマークの描かれた紙が貼られており、入室した瞬間に緊張感が走る程の視線を感じる。
ミゲルは彼を支えていた男達に戻るよう言い渡し、何も無い部屋の中央に敷かれたゴザの上に胡座を描いて座るガブリエルの正面まで片足で床を蹴って移動した。
不自然な足音を聞いて顔を上げたガブリエルは、サングラスをそっと外す。
「あらー…男が上がったじゃないの、ミゲル」
「すまないが、少し肩を貸してくれないか?一人じゃ上手く座れなくてね」
ガブリエルの助けを借りながらゴサに腰を下ろしたミゲル。失われた脚の先端は何重にも布が巻かれて止血処理されているが、赤黒いシミが見えている。
「まさか、アナタの悪趣味で生捕りにしてるって言ってた子にやられた訳じゃないわよね?」
「雑居ビルの話かい?彼は何日か前に亡くなったよ。あぁ…あそこに住み着いていた人間達が殺したんだった」
ミゲルの返答を耳にして、ガブリエルは肩を竦める。
「下請けの下請けなんて、餌にしても美味しくなかったんじゃない?」
「今回は撒き餌の方が仕事をしてくれたさ。君がタクトの所在を把握してくれていたから、今回接触はできた訳だし」
その結果がコレだけど、と自嘲するミゲルは額の汗を拭いながら続けた。
「そういえば、君にお願いしていた第21楽章の件は結局どうなっているんだい?まだ報告を聞いていないけど」
楽団最大の目標物である超絶技巧第21楽章「別天津神」の楽譜。異端はガブリエルの持つ異能によってその所在を掴んでいた筈であった。
…………………………………………………………………………………
「アナタが今回の件で出掛けたすぐ後に、調査に行ったサラフィエルが激昂してたわよ。ほら、自分の目で確かめてみなさいよ」
ガブリエルがミゲルの前に差し出したのは、サラフィエルから預かったという真っ白なハードカバーの冊子。
かつて彼らが、楽団アメリカ支部長ジョセフ・アーロンを殺害し、奪い取った楽譜と見た目は酷似している。
冊子を手に取り表紙を一枚捲ったところで、ミゲルの視線はそこに英語で殴り書きされていた文字に目を丸くした。
『捜索お疲れ様でしたー!頑張った君に僕のサインをあげるね!タクトより!』
静かに表紙を元に戻し、顔を上げてガブリエルの方を見やる。
「君ともあろうヒトが、偽物つかまされたって事かい?」
「アナタから依頼のあった見た目通りのその楽譜…擬き。確かに私の感知野でも特殊な周波数で受信できていたわよ。でも聞いてちょうだい……丸一日掛けて再度詮索してみたらソレと同じモノが東京中に約500冊存在していたんだけど」
彼の口から出た500という数字に、ミゲルは更に度肝を抜かれた様子である。
その冊子は明らかに、相手に「見つけさせる」意図で設置されていたのだ。
ガブリエルの超高感度ソナーが今までに本物以外を認識した事はミゲルの記憶には無い。そして、今回も彼は本物の場所を探り当てていたのだ。
都内にばら撒かれた500冊以上の偽のスコア。それら全てに、託斗が呪詛を込めていたのである。表紙、そして直筆のメッセージとサインの書かれた遊び紙を捲った次のページには、同じく直筆で書かれた8小節程度のメロディライン。作曲者本人が作った偽物までは、ガブリエルの『目』では見抜けなかったようだ。
「……このメロディが別天津神に関連するなんてことは…?」
ミゲルが一縷の望みにかけてそのような質問をしてみるものの、ガブリエルは静かに首を横に振った。
「うんと昔、日本のスーパーマーケットで流れていた陽気な音楽なんですって。呼び込みがどうのって…」
随分コケにされたものだと思いながらも、ミゲルはガブリエルが口遊むその陽気な音楽とやらを聞いて怒る気力すら削がれてしまった様子であった。
[35] Elegy 完
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