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#060 Scemando Ⅲ
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東京都・31歳男性「因習村ですか…古より掲示板を賑わせてきたと聞きますな。しかも女人村ですと…村長は唯一の男…!?それはいわゆる……なんちゃらゲーではありませんか?そんな村が本当に存在するなんて…」
…………………………………………………………………………………
品川の医院前に停車されたグレーのジープ。
この日は定期的に受けている検査の日であった。京哉が依頼に向かって不在の為、祐介が代わりに運転手を勤めてきたようである。
「……血…採る?」
「毎度の事だろ。早く出せ、腕」
採血を怖がるシェリーは、あまりの物言いに「本当に医者かよ」と文句を言いながら渋々セーターの裾を捲っていた。
駆血帯を巻かれる様子を見てからギュッと目を瞑ったシェリーは、ふと思い出したように尋ねる。
「ねぇ、レイジ……設計図ってやつ。異端のアジトから盗み出してきたんでしょ?読んでないの?中身…」
オルバス・シェスカの設計図について、ニュー千代田区画の異端本拠地から拝借してきたのは1週間ほど前の事であった。
原本は楽団本社に戻る託斗と巳継に任せ、そのコピーをこっそりと手元に残していた麗慈。
「読んでない。忙しい。俺じゃなくて京哉が」
手際良く採血を終えた麗慈の返事を聞いて、シェリーは京哉の動向を振り返る。
設計図の奪取を成功させたその日のうちに、ミーアに誘拐され、何事もなく戻ってきたかと思えばクリスマスイブの大規模抗争で仲間を失い、その葬儀を終えてまた仕事に向かっていた。確かに息つく暇もないほど忙しい。
麗慈曰く、彼からは先に読まないで欲しい頼まれているらしい。
ふと顔を上げたシェリーは、彼女が今一番気に食わないあの野生児について問う。
「マオってガキ、一時的にキョウヤと組んでるだけだよね?中国語しか話せないとか旋律師として終わってるし」
「…終わってるかどうかは知らねェけど、託斗の推薦だとは聞いたぞ。相性良ければそのまま組むんじゃないか?」
相性!?と叫びながら急に立ち上がったシェリーは貧血を起こしてふらっとバランスを崩し、再び診察台に腰掛けた。
「アイツ……今あのガキと二人で仕事行ってて、今日で2日目。絶対にそんなこと無いと思うけど、ガキとは言え女だし…ま…間違いがあったりとかは…」
あわあわと手を戦慄かせるシェリーの様子を呆れ顔で見ていた麗慈は、周りくどい聞き方をする彼女に対して逆に質問する。
「京哉の女のタイプでも知りてーの?」
「ち、ちが…うけど!別に気になってる訳じゃないし!……でも、アイツ変な事言ってたからもしかしてって思ったら…」
段々と声が小さくなるシェリーがムスッと頬を膨らませている様子に、麗慈はお節介かと思いながらも彼女に問い掛ける。
「お前はアイツとどうなりてーんだよ」
「………それは…」
顔を真っ赤にしたシェリーはそっぽを向いて俯いてしまう。
「アタシ…普通じゃないし……」
アイツも大概普通じゃないだろ、と返され言葉を詰まらせる。
「喧嘩ばっかりだし……」
それはお互い様だろ、と言われて「確かに」と納得してしまう。
何やら診察室の中が騒がしいと、覗き込んできた祐介も途中から参加し、シェリーの恋バナ(?)を成人男性二人が聞くという異様な集会が始まった。
…………………………………………………………………………………
「シェリーちゃんの素直な気持ち伝えたら、いくらあの京ちゃんでも揶揄ったりしないと思うけどなぁ…ねぇ、若乃宮さん」
「いくらアイツでも、そこまでアホじゃねぇだろ。………多分」
どれ程二人からの京哉の性格に対する評価が低いのか伺える会話の中で、一人悶々としているシェリー。煮え切らないのには訳があった。
「アタシ自身が…どう考えてるのかわかんないんだよ……」
シェリーにとって京哉は命を救った恩人であり、今の生活があるのは彼のお陰であることは間違いなかった。一方で、京哉にとってはどうだろうか。
当時のシェリーにつけられていた『オルバス・シェスカの最高傑作にして最後の一作』としての価値。そして、依頼人の決済不履行という予想外の事態。回収できなかった分の損失を補う為として最初は京哉の預かりとなっていたものの、彼女の身体に隠された秘密が楽団の探し求めているものに繋がる可能性が見出され、監視対象となっていた。
監視対象でなくなったらどうする、その問いに対して京哉は明確な答えを出している。楽団の命令が無くとも、共にいてくれると。
「シェリーちゃんだって、これからも京ちゃんと一緒にいたいんでしょ?」
「それは…そう……。でも、ユウスケも一緒がいい。これって…仲間としてってことだと思う……」
両手の指を互い違いに組んだり離したりを繰り返して遊ばせるシェリーの返しに、カウンセラー二人は顔を見合わせた。
「でもさ、俺に対する感情とは違うよね?シェリーちゃんは京ちゃんのこと好「アーーーーーーッ!ちがう!ちがうもん絶対!!あんなののことが好きとか、おかしいじゃん!」
強情の域を通り越して、もはや失礼である。
「確かにドブみてぇな性格してるけど、お前の事見捨てたりしねぇだろ?じゃあ、ギリ大丈夫だろ」
麗慈のフォローになっていないフォローに、祐介が「何が大丈夫なんだろ…」とボソボソ呟く。そして、ふと閃いたように麗慈に尋ねた。
「京ちゃんって、今までそういう……女性とお付き合いしたりとか…」
「も、元カノ!?いるの!?」
ガタッと立ち上がって答えを催促するシェリーを再び診察台に座らせながら、麗慈は記憶を辿った。
「あったような…なかったような……」
「思い出して、レイジ!」
「そうだ、クリスマスとか誕生日とか!特別な日って誰かに会いに行ったりしてなかった?」
興味津々に詰め寄ってくる二人に取り囲まれながら、深く考え込む。記憶力は人よりかなり良い方である。忘れる筈がない。
「クリスマス…誕生日……」
その二つの単語を呟いた時、麗慈はある事に気が付いた。
「…アイツ、誕生日12月25日だったなそう言えば」
思いもよらぬ新情報に、今度はシェリーと祐介が顔を見合わせた。
…………………………………………………………………………………
鳴り続ける単調な電子音。1分が経過した頃、端末を顔から遠ざけた京哉は通信終了ボタンをタップして深い溜め息をついた。
極たまに用事で掛けると、必ずワンコールで出る程暇していた父親が、今日ばかりは待てど暮らせど電話に出ない。
耳で聴き取った神楽の曲を譜面に起こし終わって、いよいよ呪いの真相に辿り着けるというところまできたというのに…。
『誰に電話?オンナ?』
つまらなそうに畳の上をゴロゴロとのたうち回るマオに尋ねられ、京哉は呆れ顔で答えた。
「親父だよ、親父。呪い云々は専門だから意見を聞いてみたかったのに、全然電話出ない…」
PHSを纏っていたジャンパーの内ポケットにしまい、窓際に立って外の様子を確認する。
山間の村、降雪も珍しくないとは聞いていたがまさかのドカ雪で荒屋から出ることも難しくなってしまっていた。
生贄の儀式についても雪が止まない事には準備ができないと松川に教えられ、次に京哉が着手すべき謎解きの課題は“彼ら”に関する事に自ずと決まってきた。
どうして存在しないはずの『男』が村に複数人存在し、生贄の儀式の舞にも参加しているのか。峰は何故この事実を隠しているのか。そして、村長自身も…。
「ぼ、ぼくについて…ですか?それは…お答えできなくて……すみません…」
給仕のために部屋にやってきた松川をつかまえて問うものの、自身に関する事の口外を固く禁止されているようであった。ならば、他の者に聞くしかない。
「神楽で舞ってた巫女服の兄チャン達は?話聞けない?」
「む、無理です絶対……ッ!お兄様方はぼくでもあまり話し掛けたことがなくて……それに、この屋敷の中では大奥様の目がございますし…」
その単語が松川の口から放たれるのを待っていた。
「その大奥様は君が男だって知ってんの?お兄様方のことは?」
賢い彼の事だ。このまま自分が回答を濁せば、峰や彼らに質問の矛先を向けるだろうと考えたのであろう。
「そ、それは……えぇと……はい。大奥様は……ぼく達の実母にあたる方ですので……で、でも、今は…というか何と言うか……」
渋りながらも白状した松川は、可哀想なぐらい額に冷や汗を浮かべて気分悪そうに俯いてしまっている。
「じゃあ、君も…兄達も、何で跡取りにならずに性別を偽って隠れるように暮らしてるんだ?」
この村の因習と世継ぎの問題。松川はその渦中にいる人物であり、彼が隠している事こそが峰の依頼を解決する糸口ではないかと京哉は睨んでいた。
完全に黙ってしまった松川に再度詰問を始めようとした時、目の前の襖が静かに開いた。
「お客様、続きはこちらでお話致します。その子はもう…」
マオが立ち上がって襖を更に開けると、そこには松川の兄であるという使用人の格好をした青年達が立っていた。
やはり微笑を浮かべている彼らの手招きで廊下に出た京哉は、彼らが自分を屋敷の外に連れ出そうとしている事に気が付き急に顔色を悪くする。
(り…リンチされる!下手したら村の掟破りで川に突き落とされて…)
「母屋へ…。貴方様に会わせたい人間がおります」
突拍子もない妄想に震え上がっていた京哉であったが、耳元でそう囁かれてほっと胸を撫で下ろした。
…………………………………………………………………………………
雪の降り頻る中、傘を差して並んで竹林の中を歩く使用人の列。
「…何で僕まで…何で僕まで…」
ぶつぶつと俯きながら最後尾を歩く人間に、その前にいた使用人が後ろを振り返って笑い掛けた。
「とてもお似合いです。お綺麗過ぎて逆に目立ってしまわないかと心配です」
「じゃあ何で女装なんかさせるんだよ……」
慣れない着物と下駄に悪戦苦闘していたのは、鮮やな着物を纏い丁寧な化粧を施され、まとめ髪エクステを簪で地毛に取り付けた京哉であった。
元が良いのと着物という体格がわかりにくい服装の為か、女装と言われるまでほとんどの人間は気が付かないだろう。
「申し訳ございません。母屋に入れるのは、主人以外は女だけと決められておりまして…。あちらの従者達が混乱しない為にもどうかご協力ください」
そう言われてしまえば我慢するしかない。ぐぬぬ…と恥ずかしさを押し殺して彼らについて歩く京哉。
峰の暮らす荒屋とは比較にならないほど立派な佇まいをした母屋に、使用人専用の裏口から進入する。
多くの使用人達とすれ違いながら床暖房の効いた廊下を進み、彼らが立ち止まった部屋の前に立った。
「そっと…覗いてみてくださいませ」
そっと3センチ程襖を開けた兄の一人が、京哉に場所を明け渡した。
薄暗い畳の大広間。白い絹の着物を纏った女達と戯れる一人の酷く窶れた男。先日、縁側で同じように女を追いかける姿を見たのと同一人物であった。
顔を襖から離した京哉は、襖の奥を指差して兄達の方に尋ねた。
「あのスケベジジィが村長…だろ?見たよ、昨日も…。あの歳で子供こさえるとか少子化対策に貢献しすぎだろ」
見たまま正直な感想を述べる京哉に苦笑いで返した一人が、小さく咳払いをしながら襖を閉めた。
「……右神様がこちらの村にいらっしゃった時、松川が使用人から『男児が産まれた』と報告を受けている所に遭遇されたのですよね」
「ま、まぁ……だから祀をーって流れに…」
京哉の回答に、彼はフルフルと首を横に振った。
「『子が産まれた』というのは隠語です」
外界との接触を拒む因習村。政府の干渉をも許さない犬神村では昔から完全自給自足で村民の生活を賄ってきた。
当然、村の中だけでは賄えない物や技術もあった。日本では主流である火葬を行う施設など到底存在せず、伝統としていた水葬にて死者を葬っていた。
しかし、約25年前にその水葬が理由の水質汚染によって疫病が蔓延し、多くの死者を出していた。
このまま水葬を続ければ更に甚大な被害が出ると、死体を村の外に建つ火葬場に運び出す事を提案したのが現村長の天津河諭であった。
村の若者達はこの提案に大いに賛成した。しかし、村の年寄り達はこれを拒んだ。村で生まれ、村で葬る。犬神村の古くから続く伝統を簡単に変えることはできないと言い、水葬を続けるようにと抗議し続けたのだという。
では、せめて村の中で遺体を焼いてから川に流すのはどうかという折衷案に対しても、老人達は首を縦に振らなかった。
たとえ死んだ後だとしても体を焼かれるという痛みを被りたくない、と。
…………………………………………………………………………………
「村で人死にが出た際は『世継ぎとなる男児が産まれた』と村の老人達に伝え、儀式を行います。そして、男児を模した木の人形に油を染み込ませた物を用意し、死者を隠した木製の台の上に置く……」
そして、老人達から見えない位置で擦ったマッチ棒を木製の台の上に投げるのだ。
「神楽の呪いで発火した世継ぎが燃え、櫓から落ちて川に流れる…。誰も死体を焼く為の細工だとは気が付きませんでした。それ以上の“悲劇”が起こっていたからです」
一歩前に出て京哉と向き合ったのは、1番年上の兄。
「私は最初の偽火葬の儀式で“死んだ事にされた”子供です」
目を見開いた京哉は、その“悲劇”の真相に気が付いた。
恐らく、彼の出生を祝う為の儀式。それが、死体を葬る為の偽装工作として利用されたのだ。
そして、彼は死亡した事にされてしまった。
生贄となったのは村の老人などではなく、世継ぎとして望まれて産まれたはずの嫡男であった。
現代の日本で戸籍を持たない人間は、政府や警察機関によってその身分を疑われてしまう。音楽家ではないのか、と。
しかし、この狭い村の中では違う。死んだ人間が実は存命だったと知れれば、すぐ村民全員に伝わるであろう。何より、彼は村民の命を守る為、怒り狂う老人達を鎮める為の『犠牲』となった身。絶対に彼が生きているなどと知られてはいけないのだ。
「母には当時、本当に私が死んだと伝えられたそうです。父は村の年寄りへ真実が漏洩する事を恐れ、自身の妻にすら偽火葬の事は明かせませんでした。それ程までに伝統を重んじる村民達からの攻撃は苛烈であったと…当時を知る者から教えられました」
失意の底にいた峰に対し、天津河一族の女達は非情な要求をした。
“早く世継ぎを産め”……と。
その後、5人の男児に恵まれるものの、彼らも運悪く皆偽火葬の為の尊い犠牲とならざるを得なかった。
峰は心を病み、子供の産めない体となってしまったのだ。天津河一族の女達は、峰を役立たずだと罵った。
このままではこの村の伝統が、天津河家の家系が途絶えてしまう。一族の女達は、村の若い女をかき集め側室とさせた。
しかし、峰が荒屋に籠って以降、諭との間に産まれた多くの子供の中に男児は一人もいなかった。
女児しか産まれないのは峰の呪いだと騒いだ一族の女達や村民達は彼女を怖れた。
全ての悲劇の発端は、自身の考えた偽火葬のせいだと、諭も心を病んだ。会話すらままならず、世継ぎ問題どころではなくなったのだ。
「天津河の家系を諦めていないのは、一族の古い人間達だけです。父とほぼ無理矢理関係を持たされた女達も、使用人達も皆…犬神村はもう廃村になるのだとわかっています。もちろん、私達も…」
そうなれば、外界に晒された戸籍を持たない彼らの運命は決まっていた。
淡々と語り終えた彼が静かに俯いた様子に、京哉も目を細める。呪いなど無かった。あったのは人の欲と憎悪だけだった。この依頼はもうこれで終わりだろう。
「一つだけ、聞いて良いか?アンタらはいつから大奥様の近くに?」
「神楽で舞を奉納できるのは、天津河の人間だけです。しかし正確に振り付けを伝承した人間は母だけでしたので…儀式に参加できる10歳の時に初めて母と対面しました」
女の格好をさせられて、舞を習う為に荒屋に通った。峰には彼が自身の息子であるとは伝えられていなかった。
「……10年も会っていなかったのに、母にはすぐ見抜かれました。とても喜んでいました。弟達も生きているのだと伝えたら、更に……。そして母は更に狂ってしまいました」
最愛の息子を利用し、自身に向けられた村民からの攻撃を鎮めようとした諭を憎んだ。
死んだ息子の代わりを早く産めと急かし、子を産めない身体にした一族の女達を憎んだ。
そして、全ての原因を作った聞き分けのない古臭い伝統に固執した村の老人達を憎んだ。
…………………………………………………………………………………
「……なら、何故楽団に依頼を?大奥様には偽火葬の事がバレた訳だろ?」
彼らと再会した時点で、あの儀式が火葬を隠すためのものであると知れた筈。では何故、楽団に神楽の調査など依頼したのだろうか。
「母は……この村を壊すつもりです。しかし、私達兄弟だけは村の外で生きて欲しいと…戸籍が無くとも生きる術を持つ音楽家であるあなた方に託そうとしたのでしょう」
先日『男児が産まれた』と村中に知らせるように使用人に託けさせたのは峰だという。儀式の最中に事を起こして、混乱に乗じる形で息子達を村の外へ逃がそうと画策していた。
峰の真の目的を聞いた京哉は、呆れ顔を見せる。旋律師は正義のヒーローではない。彼らを下界でも生きれるように保護してやる義理など無いのだ。ましてや、嘘の依頼内容で旋律師を呼び寄せる事は重大契約違反であり、即刻依頼放棄の対象であった。
「無理無理。野郎6人連れて下山して食い扶持与えろだって?楽団は職業安定所じゃねーし。雪が止んだら帰るよ、僕らは」
すすっと踵を返してその場を離れようと歩き出した京哉は、彼らの気配が動かない事を察知して思わず振り返る。
「………ぼ、僕帰るからね!本当に!」
再び廊下を進むが、やはり彼らの事が気になるのか再度振り返った。
「ーーーーっ!僕が嫌なヤツみたいじゃん!何?どうしたい訳!?」
ギャーギャーと喚く京哉の口を塞いだ次男に引き摺られて入った小部屋に兄弟全員が雪崩れ込んで来る。数秒後に廊下を駆ける使用人達が「男の声がした」と騒いでいた。
「右神様……母はどうすれば救われますか?数年前から癌を患い、余命いくばくもない母を……我々は…」
峰は間も無く燃え尽きようという自身の命をかけて、最愛の息子達を因習に執われたこの村から救い出そうとしていた。
「お涙頂戴なんて僕には効かないからな…」
ぐぬぐぬと唸りながら返した京哉であったが、何故か首を横に振った彼らの様子に小首を傾げた。
「……助けて欲しいだなんて、烏滸がましい事は言えません。我々も儀式に参加し、村の年寄りを騙し続けた罪人です。……ですが………」
屋敷の外が騒がしい。
窓を開け外の様子を確認した彼らが目にしたのは、雪の中屋敷の庭に雪崩れ込んできた村民達であった。手には細い丈の先端を鋭利に削った槍や燃え盛る松明。
大声をあげながら庭を走り抜け、母屋の玄関に雪崩れ込む彼女達の額には血の拇印が捺されたハチマキが巻かれていた。
[60] Scemando Ⅲ 完
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品川の医院前に停車されたグレーのジープ。
この日は定期的に受けている検査の日であった。京哉が依頼に向かって不在の為、祐介が代わりに運転手を勤めてきたようである。
「……血…採る?」
「毎度の事だろ。早く出せ、腕」
採血を怖がるシェリーは、あまりの物言いに「本当に医者かよ」と文句を言いながら渋々セーターの裾を捲っていた。
駆血帯を巻かれる様子を見てからギュッと目を瞑ったシェリーは、ふと思い出したように尋ねる。
「ねぇ、レイジ……設計図ってやつ。異端のアジトから盗み出してきたんでしょ?読んでないの?中身…」
オルバス・シェスカの設計図について、ニュー千代田区画の異端本拠地から拝借してきたのは1週間ほど前の事であった。
原本は楽団本社に戻る託斗と巳継に任せ、そのコピーをこっそりと手元に残していた麗慈。
「読んでない。忙しい。俺じゃなくて京哉が」
手際良く採血を終えた麗慈の返事を聞いて、シェリーは京哉の動向を振り返る。
設計図の奪取を成功させたその日のうちに、ミーアに誘拐され、何事もなく戻ってきたかと思えばクリスマスイブの大規模抗争で仲間を失い、その葬儀を終えてまた仕事に向かっていた。確かに息つく暇もないほど忙しい。
麗慈曰く、彼からは先に読まないで欲しい頼まれているらしい。
ふと顔を上げたシェリーは、彼女が今一番気に食わないあの野生児について問う。
「マオってガキ、一時的にキョウヤと組んでるだけだよね?中国語しか話せないとか旋律師として終わってるし」
「…終わってるかどうかは知らねェけど、託斗の推薦だとは聞いたぞ。相性良ければそのまま組むんじゃないか?」
相性!?と叫びながら急に立ち上がったシェリーは貧血を起こしてふらっとバランスを崩し、再び診察台に腰掛けた。
「アイツ……今あのガキと二人で仕事行ってて、今日で2日目。絶対にそんなこと無いと思うけど、ガキとは言え女だし…ま…間違いがあったりとかは…」
あわあわと手を戦慄かせるシェリーの様子を呆れ顔で見ていた麗慈は、周りくどい聞き方をする彼女に対して逆に質問する。
「京哉の女のタイプでも知りてーの?」
「ち、ちが…うけど!別に気になってる訳じゃないし!……でも、アイツ変な事言ってたからもしかしてって思ったら…」
段々と声が小さくなるシェリーがムスッと頬を膨らませている様子に、麗慈はお節介かと思いながらも彼女に問い掛ける。
「お前はアイツとどうなりてーんだよ」
「………それは…」
顔を真っ赤にしたシェリーはそっぽを向いて俯いてしまう。
「アタシ…普通じゃないし……」
アイツも大概普通じゃないだろ、と返され言葉を詰まらせる。
「喧嘩ばっかりだし……」
それはお互い様だろ、と言われて「確かに」と納得してしまう。
何やら診察室の中が騒がしいと、覗き込んできた祐介も途中から参加し、シェリーの恋バナ(?)を成人男性二人が聞くという異様な集会が始まった。
…………………………………………………………………………………
「シェリーちゃんの素直な気持ち伝えたら、いくらあの京ちゃんでも揶揄ったりしないと思うけどなぁ…ねぇ、若乃宮さん」
「いくらアイツでも、そこまでアホじゃねぇだろ。………多分」
どれ程二人からの京哉の性格に対する評価が低いのか伺える会話の中で、一人悶々としているシェリー。煮え切らないのには訳があった。
「アタシ自身が…どう考えてるのかわかんないんだよ……」
シェリーにとって京哉は命を救った恩人であり、今の生活があるのは彼のお陰であることは間違いなかった。一方で、京哉にとってはどうだろうか。
当時のシェリーにつけられていた『オルバス・シェスカの最高傑作にして最後の一作』としての価値。そして、依頼人の決済不履行という予想外の事態。回収できなかった分の損失を補う為として最初は京哉の預かりとなっていたものの、彼女の身体に隠された秘密が楽団の探し求めているものに繋がる可能性が見出され、監視対象となっていた。
監視対象でなくなったらどうする、その問いに対して京哉は明確な答えを出している。楽団の命令が無くとも、共にいてくれると。
「シェリーちゃんだって、これからも京ちゃんと一緒にいたいんでしょ?」
「それは…そう……。でも、ユウスケも一緒がいい。これって…仲間としてってことだと思う……」
両手の指を互い違いに組んだり離したりを繰り返して遊ばせるシェリーの返しに、カウンセラー二人は顔を見合わせた。
「でもさ、俺に対する感情とは違うよね?シェリーちゃんは京ちゃんのこと好「アーーーーーーッ!ちがう!ちがうもん絶対!!あんなののことが好きとか、おかしいじゃん!」
強情の域を通り越して、もはや失礼である。
「確かにドブみてぇな性格してるけど、お前の事見捨てたりしねぇだろ?じゃあ、ギリ大丈夫だろ」
麗慈のフォローになっていないフォローに、祐介が「何が大丈夫なんだろ…」とボソボソ呟く。そして、ふと閃いたように麗慈に尋ねた。
「京ちゃんって、今までそういう……女性とお付き合いしたりとか…」
「も、元カノ!?いるの!?」
ガタッと立ち上がって答えを催促するシェリーを再び診察台に座らせながら、麗慈は記憶を辿った。
「あったような…なかったような……」
「思い出して、レイジ!」
「そうだ、クリスマスとか誕生日とか!特別な日って誰かに会いに行ったりしてなかった?」
興味津々に詰め寄ってくる二人に取り囲まれながら、深く考え込む。記憶力は人よりかなり良い方である。忘れる筈がない。
「クリスマス…誕生日……」
その二つの単語を呟いた時、麗慈はある事に気が付いた。
「…アイツ、誕生日12月25日だったなそう言えば」
思いもよらぬ新情報に、今度はシェリーと祐介が顔を見合わせた。
…………………………………………………………………………………
鳴り続ける単調な電子音。1分が経過した頃、端末を顔から遠ざけた京哉は通信終了ボタンをタップして深い溜め息をついた。
極たまに用事で掛けると、必ずワンコールで出る程暇していた父親が、今日ばかりは待てど暮らせど電話に出ない。
耳で聴き取った神楽の曲を譜面に起こし終わって、いよいよ呪いの真相に辿り着けるというところまできたというのに…。
『誰に電話?オンナ?』
つまらなそうに畳の上をゴロゴロとのたうち回るマオに尋ねられ、京哉は呆れ顔で答えた。
「親父だよ、親父。呪い云々は専門だから意見を聞いてみたかったのに、全然電話出ない…」
PHSを纏っていたジャンパーの内ポケットにしまい、窓際に立って外の様子を確認する。
山間の村、降雪も珍しくないとは聞いていたがまさかのドカ雪で荒屋から出ることも難しくなってしまっていた。
生贄の儀式についても雪が止まない事には準備ができないと松川に教えられ、次に京哉が着手すべき謎解きの課題は“彼ら”に関する事に自ずと決まってきた。
どうして存在しないはずの『男』が村に複数人存在し、生贄の儀式の舞にも参加しているのか。峰は何故この事実を隠しているのか。そして、村長自身も…。
「ぼ、ぼくについて…ですか?それは…お答えできなくて……すみません…」
給仕のために部屋にやってきた松川をつかまえて問うものの、自身に関する事の口外を固く禁止されているようであった。ならば、他の者に聞くしかない。
「神楽で舞ってた巫女服の兄チャン達は?話聞けない?」
「む、無理です絶対……ッ!お兄様方はぼくでもあまり話し掛けたことがなくて……それに、この屋敷の中では大奥様の目がございますし…」
その単語が松川の口から放たれるのを待っていた。
「その大奥様は君が男だって知ってんの?お兄様方のことは?」
賢い彼の事だ。このまま自分が回答を濁せば、峰や彼らに質問の矛先を向けるだろうと考えたのであろう。
「そ、それは……えぇと……はい。大奥様は……ぼく達の実母にあたる方ですので……で、でも、今は…というか何と言うか……」
渋りながらも白状した松川は、可哀想なぐらい額に冷や汗を浮かべて気分悪そうに俯いてしまっている。
「じゃあ、君も…兄達も、何で跡取りにならずに性別を偽って隠れるように暮らしてるんだ?」
この村の因習と世継ぎの問題。松川はその渦中にいる人物であり、彼が隠している事こそが峰の依頼を解決する糸口ではないかと京哉は睨んでいた。
完全に黙ってしまった松川に再度詰問を始めようとした時、目の前の襖が静かに開いた。
「お客様、続きはこちらでお話致します。その子はもう…」
マオが立ち上がって襖を更に開けると、そこには松川の兄であるという使用人の格好をした青年達が立っていた。
やはり微笑を浮かべている彼らの手招きで廊下に出た京哉は、彼らが自分を屋敷の外に連れ出そうとしている事に気が付き急に顔色を悪くする。
(り…リンチされる!下手したら村の掟破りで川に突き落とされて…)
「母屋へ…。貴方様に会わせたい人間がおります」
突拍子もない妄想に震え上がっていた京哉であったが、耳元でそう囁かれてほっと胸を撫で下ろした。
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雪の降り頻る中、傘を差して並んで竹林の中を歩く使用人の列。
「…何で僕まで…何で僕まで…」
ぶつぶつと俯きながら最後尾を歩く人間に、その前にいた使用人が後ろを振り返って笑い掛けた。
「とてもお似合いです。お綺麗過ぎて逆に目立ってしまわないかと心配です」
「じゃあ何で女装なんかさせるんだよ……」
慣れない着物と下駄に悪戦苦闘していたのは、鮮やな着物を纏い丁寧な化粧を施され、まとめ髪エクステを簪で地毛に取り付けた京哉であった。
元が良いのと着物という体格がわかりにくい服装の為か、女装と言われるまでほとんどの人間は気が付かないだろう。
「申し訳ございません。母屋に入れるのは、主人以外は女だけと決められておりまして…。あちらの従者達が混乱しない為にもどうかご協力ください」
そう言われてしまえば我慢するしかない。ぐぬぬ…と恥ずかしさを押し殺して彼らについて歩く京哉。
峰の暮らす荒屋とは比較にならないほど立派な佇まいをした母屋に、使用人専用の裏口から進入する。
多くの使用人達とすれ違いながら床暖房の効いた廊下を進み、彼らが立ち止まった部屋の前に立った。
「そっと…覗いてみてくださいませ」
そっと3センチ程襖を開けた兄の一人が、京哉に場所を明け渡した。
薄暗い畳の大広間。白い絹の着物を纏った女達と戯れる一人の酷く窶れた男。先日、縁側で同じように女を追いかける姿を見たのと同一人物であった。
顔を襖から離した京哉は、襖の奥を指差して兄達の方に尋ねた。
「あのスケベジジィが村長…だろ?見たよ、昨日も…。あの歳で子供こさえるとか少子化対策に貢献しすぎだろ」
見たまま正直な感想を述べる京哉に苦笑いで返した一人が、小さく咳払いをしながら襖を閉めた。
「……右神様がこちらの村にいらっしゃった時、松川が使用人から『男児が産まれた』と報告を受けている所に遭遇されたのですよね」
「ま、まぁ……だから祀をーって流れに…」
京哉の回答に、彼はフルフルと首を横に振った。
「『子が産まれた』というのは隠語です」
外界との接触を拒む因習村。政府の干渉をも許さない犬神村では昔から完全自給自足で村民の生活を賄ってきた。
当然、村の中だけでは賄えない物や技術もあった。日本では主流である火葬を行う施設など到底存在せず、伝統としていた水葬にて死者を葬っていた。
しかし、約25年前にその水葬が理由の水質汚染によって疫病が蔓延し、多くの死者を出していた。
このまま水葬を続ければ更に甚大な被害が出ると、死体を村の外に建つ火葬場に運び出す事を提案したのが現村長の天津河諭であった。
村の若者達はこの提案に大いに賛成した。しかし、村の年寄り達はこれを拒んだ。村で生まれ、村で葬る。犬神村の古くから続く伝統を簡単に変えることはできないと言い、水葬を続けるようにと抗議し続けたのだという。
では、せめて村の中で遺体を焼いてから川に流すのはどうかという折衷案に対しても、老人達は首を縦に振らなかった。
たとえ死んだ後だとしても体を焼かれるという痛みを被りたくない、と。
…………………………………………………………………………………
「村で人死にが出た際は『世継ぎとなる男児が産まれた』と村の老人達に伝え、儀式を行います。そして、男児を模した木の人形に油を染み込ませた物を用意し、死者を隠した木製の台の上に置く……」
そして、老人達から見えない位置で擦ったマッチ棒を木製の台の上に投げるのだ。
「神楽の呪いで発火した世継ぎが燃え、櫓から落ちて川に流れる…。誰も死体を焼く為の細工だとは気が付きませんでした。それ以上の“悲劇”が起こっていたからです」
一歩前に出て京哉と向き合ったのは、1番年上の兄。
「私は最初の偽火葬の儀式で“死んだ事にされた”子供です」
目を見開いた京哉は、その“悲劇”の真相に気が付いた。
恐らく、彼の出生を祝う為の儀式。それが、死体を葬る為の偽装工作として利用されたのだ。
そして、彼は死亡した事にされてしまった。
生贄となったのは村の老人などではなく、世継ぎとして望まれて産まれたはずの嫡男であった。
現代の日本で戸籍を持たない人間は、政府や警察機関によってその身分を疑われてしまう。音楽家ではないのか、と。
しかし、この狭い村の中では違う。死んだ人間が実は存命だったと知れれば、すぐ村民全員に伝わるであろう。何より、彼は村民の命を守る為、怒り狂う老人達を鎮める為の『犠牲』となった身。絶対に彼が生きているなどと知られてはいけないのだ。
「母には当時、本当に私が死んだと伝えられたそうです。父は村の年寄りへ真実が漏洩する事を恐れ、自身の妻にすら偽火葬の事は明かせませんでした。それ程までに伝統を重んじる村民達からの攻撃は苛烈であったと…当時を知る者から教えられました」
失意の底にいた峰に対し、天津河一族の女達は非情な要求をした。
“早く世継ぎを産め”……と。
その後、5人の男児に恵まれるものの、彼らも運悪く皆偽火葬の為の尊い犠牲とならざるを得なかった。
峰は心を病み、子供の産めない体となってしまったのだ。天津河一族の女達は、峰を役立たずだと罵った。
このままではこの村の伝統が、天津河家の家系が途絶えてしまう。一族の女達は、村の若い女をかき集め側室とさせた。
しかし、峰が荒屋に籠って以降、諭との間に産まれた多くの子供の中に男児は一人もいなかった。
女児しか産まれないのは峰の呪いだと騒いだ一族の女達や村民達は彼女を怖れた。
全ての悲劇の発端は、自身の考えた偽火葬のせいだと、諭も心を病んだ。会話すらままならず、世継ぎ問題どころではなくなったのだ。
「天津河の家系を諦めていないのは、一族の古い人間達だけです。父とほぼ無理矢理関係を持たされた女達も、使用人達も皆…犬神村はもう廃村になるのだとわかっています。もちろん、私達も…」
そうなれば、外界に晒された戸籍を持たない彼らの運命は決まっていた。
淡々と語り終えた彼が静かに俯いた様子に、京哉も目を細める。呪いなど無かった。あったのは人の欲と憎悪だけだった。この依頼はもうこれで終わりだろう。
「一つだけ、聞いて良いか?アンタらはいつから大奥様の近くに?」
「神楽で舞を奉納できるのは、天津河の人間だけです。しかし正確に振り付けを伝承した人間は母だけでしたので…儀式に参加できる10歳の時に初めて母と対面しました」
女の格好をさせられて、舞を習う為に荒屋に通った。峰には彼が自身の息子であるとは伝えられていなかった。
「……10年も会っていなかったのに、母にはすぐ見抜かれました。とても喜んでいました。弟達も生きているのだと伝えたら、更に……。そして母は更に狂ってしまいました」
最愛の息子を利用し、自身に向けられた村民からの攻撃を鎮めようとした諭を憎んだ。
死んだ息子の代わりを早く産めと急かし、子を産めない身体にした一族の女達を憎んだ。
そして、全ての原因を作った聞き分けのない古臭い伝統に固執した村の老人達を憎んだ。
…………………………………………………………………………………
「……なら、何故楽団に依頼を?大奥様には偽火葬の事がバレた訳だろ?」
彼らと再会した時点で、あの儀式が火葬を隠すためのものであると知れた筈。では何故、楽団に神楽の調査など依頼したのだろうか。
「母は……この村を壊すつもりです。しかし、私達兄弟だけは村の外で生きて欲しいと…戸籍が無くとも生きる術を持つ音楽家であるあなた方に託そうとしたのでしょう」
先日『男児が産まれた』と村中に知らせるように使用人に託けさせたのは峰だという。儀式の最中に事を起こして、混乱に乗じる形で息子達を村の外へ逃がそうと画策していた。
峰の真の目的を聞いた京哉は、呆れ顔を見せる。旋律師は正義のヒーローではない。彼らを下界でも生きれるように保護してやる義理など無いのだ。ましてや、嘘の依頼内容で旋律師を呼び寄せる事は重大契約違反であり、即刻依頼放棄の対象であった。
「無理無理。野郎6人連れて下山して食い扶持与えろだって?楽団は職業安定所じゃねーし。雪が止んだら帰るよ、僕らは」
すすっと踵を返してその場を離れようと歩き出した京哉は、彼らの気配が動かない事を察知して思わず振り返る。
「………ぼ、僕帰るからね!本当に!」
再び廊下を進むが、やはり彼らの事が気になるのか再度振り返った。
「ーーーーっ!僕が嫌なヤツみたいじゃん!何?どうしたい訳!?」
ギャーギャーと喚く京哉の口を塞いだ次男に引き摺られて入った小部屋に兄弟全員が雪崩れ込んで来る。数秒後に廊下を駆ける使用人達が「男の声がした」と騒いでいた。
「右神様……母はどうすれば救われますか?数年前から癌を患い、余命いくばくもない母を……我々は…」
峰は間も無く燃え尽きようという自身の命をかけて、最愛の息子達を因習に執われたこの村から救い出そうとしていた。
「お涙頂戴なんて僕には効かないからな…」
ぐぬぐぬと唸りながら返した京哉であったが、何故か首を横に振った彼らの様子に小首を傾げた。
「……助けて欲しいだなんて、烏滸がましい事は言えません。我々も儀式に参加し、村の年寄りを騙し続けた罪人です。……ですが………」
屋敷の外が騒がしい。
窓を開け外の様子を確認した彼らが目にしたのは、雪の中屋敷の庭に雪崩れ込んできた村民達であった。手には細い丈の先端を鋭利に削った槍や燃え盛る松明。
大声をあげながら庭を走り抜け、母屋の玄関に雪崩れ込む彼女達の額には血の拇印が捺されたハチマキが巻かれていた。
[60] Scemando Ⅲ 完
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