MELODIST!!

すなねこ

文字の大きさ
86 / 88

#086 Erhaben

しおりを挟む
東京都・38歳女性「奥多摩の方に従業員や家の者達を連れて避難していたんだ。いつの間にか寝てしまっていた様で、目覚めた頃には何もかもが様変わりしていた。これから東京はどうなってしまうのだろうか…」


…………………………………………………………………………………






 在日米軍によって救助された旋律師メロディスト達は横田基地でチャーター機に乗り換え、その足でオーストリアに帰国していた。
 ロジャーを失った楽団ギルドはそのまま自然消滅するかのように思われたが、彼の意思を継ぐという託斗が代わりに代表取締役社長となり、規模をかなり縮小しての再スタートを切った。

 所属していた旋律師メロディスト自身に進退を決めさせた結果、約半数が新体制の楽団ギルドに残り依頼請負ビジネスを継続している。
 京哉、麗慈、巳継の日本人3人組も組織に残った人間であり、いずれ日本に立ち上げる出張所のスターティングメンバーとして準備を進めていた。

 仮の住居兼オフィスとして託斗に指定されていたウィーン駅近くの2DK安アパートに生活の拠点を移してから、早くも1ヶ月が経とうとしている。


 時刻は午前9時。インスタントコーヒーの入ったマグカップを片手に今朝の新聞を読んでいた麗慈は、この日もまだ京哉が起きて来ない事に苛立ちを感じていた。
 職業柄夜型人間で特に朝起きるのが苦手だった彼であるが、零式自鳴琴の一件後から明らかに様子がおかしかったのだ。

 何か話し掛けても上の空。不注意による怪我も多くなった。そして、依頼が来なければ一日中寝室に引き篭もっている事もザラである。
 明らかにシェリーの事を引き摺っていたのだ。あれだけ壮絶な別れ方をしたのである。無理もない。
 しかし、京哉には立ち直ってもらわねば困る。何より自分自身でこの道に残る事を選択したのだ。麗慈としては無駄死にだけはさせたくない。


 何度かドアをノックしたものの、毎度の如く返事は無い為勝手に開けて中の様子を伺う。2段ベッドの2階、毛布に包まった団子が見えた。
 簡易梯子を2、3段昇って腕を伸ばし、毛布団子を何度か揺さぶりながら話し掛ける。
「朝だけど。いつまでいじけてんだよ。お前今日もゴミ出し当番サボっただろ。アイツが代わりにやってたぞ」
それでも返事がないのはいつもの事なので、諦めて梯子から降りた。

 どうしたものかとアレコレ試行錯誤したものの、結局シェリーを失った事による心の穴はシェリーにしか埋められない。
 麗慈と巳継は話し合い、何をしても無駄という結論に至り最近では敢えて放置してしまっている訳である。しかし、長年彼の面倒を見てきた身としては世話を焼かずにはいられなかった。
 元気を出せとまでは言わないが、せめて普通のコミニュケーションぐらいはとって欲しい。





…………………………………………………………………………………


『ハッピーサプライズ!可愛い我が息子にとっておきのお仕事が来てるよ!喜んで!パパありがとうって言って!』
「……早く内容だけ伝えて失せろ。アンタのそのノリに付き合う気力ねーんだよコッチは…」

 黒電話JACを流用した楽団ギルド内専用回線の着信を受けたのは麗慈であった。
 電話をかけてきたのは託斗である。AIを飼い慣らす規模の組織ではないと言って、受諾した依頼を旋律師メロディストに伝える役割は社長自らが担う事になったという。
 正直、麗慈にとってはコレが苦痛でならない。あまりにも鬱陶しいのだ。

『酷いや!麗慈!親子の時間を邪魔するな!それでも人間か!』
こめかみに太い血管をビキビキと浮き上がらせて苛立ちを募らせる彼は、どうにか冷静さを保って対応する。
「切っても良い?」
ようやく怒りが伝わったのであろうか、それまでの態度を改める託斗。
『すっ…すんましぇん……お仕事の内容はですね……』




 次の依頼先として指定されたのはドイツ・ベルリン。フンボルト大学ベルリンの運営するシャリテ大学病院である。
 大学病院内で行われている複数の研究データが漏洩し、このままでは病院や大学の威信に関わるという理由でダークウェブ上でその情報を買い取った人間をして欲しい…との事だ。

 ウィーンからは鉄道で約7時間半の距離。別の依頼でザルツブルクに向かった巳継とは駅で別れて、京哉と麗慈の二人でドイツに向かう。
 途中で車掌に切符とパスポートの提示を求められたが、寝たフリを決め込んだ京哉のせいで不法就労目当ての入国者ではないかとあらぬ疑いを掛けられる事となってしまった。


「お前がそうやってガキみてーに誰とも口きかなけりゃ、死んだシェリーが戻って来んのかよ」

痺れを切らした麗慈が、敢えて京哉が耳にしたくないワードを投げ付ける。そうしてやっと1ヶ月ぶりに視線が合うのだ。ムスッと口を閉じたまま、何か言い返してくる様子はみられないが…。

「…俺や閖塚はどうすりゃ良い?何でお前に気ィ使って過ごす必要があんだよ。そんなに無口でいたけりゃ、託斗ン所に直談判でも何でもして別の場所に送ってもらえば良いだろ?」
「………それは…」

やっとボソリと言葉を返した京哉。一人になりたくない理由はそれなりにあるらしい。

「言いたい事あんなら言え。そういう約束だろ」

 苦しいならお互いの間だけは溜め込まずに吐き出す。それはかつて、楽団ギルドの同じ寮室で共同生活を送っていた子供頃の二人の間の約束であった。

 眉間に皺を刻んで考え込んだ様子の京哉は、チラチラと車窓からの景色に目移りしながら遂に白状する。

「……夢で…」
「夢?」

 京哉は別天津神コトアマツカミの影響で長く眠らされている間に見た夢の内容について麗慈に打ち明けた。
 夢の中では、オルバスの実の娘は心臓の病の為にコールドスリープされていて、それこそが本物のシェリーであった。皆の知っているシェリーの姿は全く別人の身体にシェリーの人格が植え付けられたものである、と。
 擬似脳によってシェリーとして生きていたという部分に関しては京哉の想像の部分ではあったが、弐式自鳴琴の事もあり一応その考えも伝えておく。
 都合の良い夢を見させる21楽章の影響による幻覚であり、そうであってほしいと願った彼の願望でしかない。それ故に誰にも話す事が出来なかった京哉。

「……お前の方はそんな感じだったのか」

話半分に聞かれると思っていた。しかし、手持ちのレシートの裏にメモを取り始めた麗慈を見て、京哉はコイツはそういう奴ではないのだと思い出した。夢の中の彼がそうであったように。

「拡張型心筋症、狭窄症…確かに両方とも実際に存在する病名だけど、お前は元々知ってた訳じゃねーだろ?」
「…うん。その時初めて聞いたし…」
そうだよな…と独りごつ麗慈は、またメモを書き足した。
「……オルバスがシェリーを壱式自鳴琴に造り変えた理由…コレだけが奴の行動の中で唯一曖昧でよくわからねー所だった訳だが…」
「本当に娘を助けたかったって事なら納得できる…」
京哉が続きを述べれば、麗慈はコクリと頷いた。
異端カルトの椙浦とか言う医者も、オルバスを真似て壱式のレプリカみてぇな子供を何人か作り出してただろ。言い方は悪いが、替えが効くならわざわざ娘を使う必要は無いと思わないか?」
ミーアに対してオルバスは、娘を担保にすると伝えていた様だがこの時点で彼女はシェリーの存在を認識していなかった。他の人間を娘だと偽って仕立て上げたって、わかりはしない。夢の内容が仮に事実であれば、白髪のシェリーはオルバスの実の娘ではないのだから。


…………………………………………………………………………………



 
「今日は1月29日…あれから1ヶ月ぐらい経つ訳だが、夢の中でパッと出てきた初見のワードをお前は今でも鮮明に記憶しているし、そもそも夢の細部まで覚えてんのが異常。俺ですら結構細かい所は忘れてるし」
第21楽章による強制催眠の影響かもしれないが、通常の人間の脳ではまずありえない現象であった。
「オルバスの動機や何やも、夢の中の内容の方がパズルのピースとしてはハマりやすい。あぁ…でもまぁ……夢、だからな…。記憶が云々のくだりはお前の妄想だしな…結構胡散クセェ。もう少しシェリーの過去に関して詳しい事がわかればな…」
唸るようにして呟いた麗慈の言葉に、京哉はあの日の託斗の言葉を思い出した。



『生き延びたら本人の口から色々聞いて欲しいんだけど…』




「……わかるよ、ソレ。多分だけど……親父は知ってる。シェリーの事調べ上げて、本人には伝えてあるって言ってて…」
京哉はそこまで言うと黙ってしまった。彼女が生きていれば…そんな想像をする度に心が抉られる。そもそも、彼女が生きていればこんな議論はする必要無かった。
 白髪のシェリーが偽物だろうが本物だろうが、彼等には関係無い。

「…親父に聞いてみる」
そう言い残した京哉は、シートから立ち上がって狭い通路を乗客とすれ違いながら別車両に向かった。

 美しい自然の風景をよく見ることができる展望車両では携帯電話での通話が許可されていた。時刻は午後5時。アメリカに飛んだと聞いているが8時間の時差なら特に問題のない時間帯だろう。
 電話帳から託斗の番号を探し出し、通話ボタンを押す。5コール目が聞こえた所で通話が開始され、ガヤガヤと騒がしい雑踏の音が耳に流れ込んでくる。

『ちょっと失礼します……』

誰かに断りを入れた声が聞こえてきた後、数秒経ってから託斗が話し出す。

『どうした京ちゃん。珍しいじゃん』
「あー…いや、その……」

もし、自分の夢はやはり夢であって、全て妄想なのだとしたら…。また奈落に突き落とされるのが怖くて、京哉はなかなか踏み出せずにいたのだ。


『ごめん、今お客さんと話しててさ……また後で掛け直すよ』
「い、いいよ…もう。やっぱり。僕もこれから仕事だから…」
そう言って電話を切ろうとした京哉を、託斗が引き留めた。
『麗慈に言っといてよ!この人でなし!悪魔!ヤブ医者!って。帰りは賑やかになると思うけど、電車の中では静かにするんだよ。あ、今父親っぽい事言った!言ったよね!僕最近さ』

ブツっと京哉の方から通話を切り、端末を懐に仕舞う。



 戻ってきた京哉の表情を見て、聞き出せなかった事を悟る麗慈。何も聞かないでいると、京哉の方から言葉が飛んできた。
「この人でなし、悪魔、ヤブ医者…だそうです」
「何でいきなり悪口なんだよ」

 やはり託斗からシェリーの話は聞けなかったと告げた京哉は、麗慈が纏めたメモを拾い上げてジッと眺め始める。


 これが現実ならばどれだけ救われるだろうか。
 

 シェリーを見殺しにしてしまった事の罪悪感から前に進めずにいる京哉は、あの日の夢を思い出す度にそんな都合の良い事を考えていたのだ。




…………………………………………………………………………………




 外来患者や面会の為に訪れていた患者の関係者が全員敷地から出た後の静かな病院内。
 裏の職員入口から通された京哉と麗慈は、薄暗い院内を通って何やら開けた空間を進んでいた。一般的な病院のイメージとは事なる内装に、京哉は物珍しそうな様子で周囲をキョロキョロと見回す。

「何だろう…病院っぽくない」
「研究施設も兼ねてるからな。迂闊に変な場所に迷い込んだらネズミのキメラにされるぞ」
無表情でとんでもない冗談を言う麗慈を一瞥し、案内された先の小部屋に入っていく。

 中で待ち構えていたのは、高齢の教授の男と若い助教授の女。深々と頭を下げて挨拶をしてきた彼らの表情は非常に深刻であり、事態を余程重大な事と受け止めている様子であった。
「わざわざお越しいただきありがとうございます……」
再度深々と頭を下げた老爺の教授は、応接机の上に置いていたPC端末の画面を二人に見せた。
「数日前にこの大学病院に在籍する教授全員に送りつけられたウィルスメールを開いてしまって…」
画面全体はチカチカと点滅しており、次々と新たに出現したポップアップが表示されていた。
「それで情報を盗まれた、と…」
京哉が哀れみの表情を見せていた。落ち込む教授をチラッと見てから、麗慈は助教授の方に尋ねる。
「漏洩した情報や購入した人物に心当たりは?」
それなら…と助教授の女はすぐに自身の携帯端末の画面を彼らに見せてきた。

「…私も初めてアクセスしたのですが、これは所謂ダークウェブの闇市サイトらしくて……。匿名で逆探知を行ってくれるプログラマーにその…それなりの謝礼を支払ってウィルスを追跡してもらった所、このページに辿り着きました…」


 どぎつい真っ赤な背景に並ぶ怪しい写真の数々。何かを販売しているサイトの様であったが、そこで売られている物は全て『表の社会』では取引する事を許されない画像データであるという。

「隠語だらけで何を取引しているのかわからなかったのですが、そのプログラマーによると…患者や臓器…あとは病院でお亡くなりになった方のご遺体の写真等が高値で売買されている、と…」
「い、遺体…!?」
驚愕する京哉の隣で、麗慈は静かに腕を組みながら呟いた。
「ネクロフィリアは死体に対して性的興奮や魅力を感じると聞くからな。一定の需要はあるんだろ。そういう写真を保管している病院に向けて、釣れたらラッキーぐらいのつもりでウィルスをばら撒いてる訳か」

気分悪そうに顔を歪めた助教授の女は、端末の画面を切り替えた。
「…恐らく、こちらがこの研究室より盗み出されたデータではないか、と…」

『türkis (15↓)』という標記のみの商品ページには、15000件以上の閲覧履歴がついていた。そして、売り切れ状態である。

「……こちらは何のデータが?」

麗慈が再度尋ねると、教授と助教授は顔を見合わせて答えを渋るような素振りを見せた。しかし、ジッと視線を外さない京哉達に気圧されて遂にその正体を明かす。

「心臓病患者の手術前後の写真です。かなり前のものになりますが…」
「その元データ、見せていただく事は可能ですか?」
再び顔を見合わせた教授達。諦めた様に頷いた教授の指示で、助教授の女は自身のPC端末を応接机の上に置いた。

 画面に映し出されたのは、10代前半と思われる少女のもの。患者衣を纏い眠った状態で、細い金髪は腰の長さまである。

「この少女の写真が合計12枚です。すみません、この他は裸体の画像になりますので、いくら子供とは言え…」
「いえ、十分です。……それで、購入した人物には辿り着けたんですか?」

麗慈の質問に、助教授の女は首を横に振りながら端末を回収する。

「匿名性の高い領域ということで、そこまでは…。ただ、ベルリン市内に住む人間ではないかと…」

全世界に利用者がいるダークウェブにおいて、何故そこまで特定ができているのだろうか。首を傾げた京哉を見て、助教授の女はその根拠を述べた。

「このサイトでは、詐欺行為を行わない様に出品者と購入者のやり取りは全て公開されているんです」

再度携帯端末を二人の目の前に置くと指先で軽くタップし、チャットメッセージのページを表示させる。

「【MR.Z】というのが売り手、【DD】というのが買い手のようです」


…………………………………………………………………………………



【MR.Z】支払いはいつできますか?
【MR.Z】もうじき月末ですし来月頭でも良いですよ。
【DD】いや、今月中に済ませるよ。来月は銀行や何や目を光らせてるだろうからね。
【MR.Z】わかりました。よろしくお願いします。




 一見、何の不自然な点も見つからないやり取りであったが、助教授の女は此処からデータを買い取ったのがベルリン市内の人間だと判断したと言う。


「このやり取りが書き込まれたのは1月26日なのですが、2月は国際映画祭の為に街中の警備が一層厳しくなるんです。例年、映画祭の賑わいに乗じて不届な商売をする輩が絶えませんので警察も銀行も警戒する時期という訳でして…」
「成程…それは不自然な送金に目を付けられる訳にはいきませんね…」
続いて、彼女はもう一度チャット画面を見るようにと人差し指でさし示した。
「あと、英語でのやりとりですが…綴りが1箇所ドイツ語の所があったんです。スペルが似てる単語は多いですから、こんなミスするのは日常的にドイツ語を使っている人間なのかなって…」
「あ、本当だ… month が Monat になってる…」
来月を現す『next month』という箇所の間違いに気が付いた京哉。英語圏の人間ならしなさそうな間違いではある。しかし、ベルリン市内の人間が実際にデータを購入した犯人だったとして、次はそこから先どうやって絞り込むかという問題が浮上する。

「このサイトの管理人にお願いして、教えてもらうってのは?」
京哉のアイデアに、周囲の3人は揃って首を横に振った。
「情報開示求めるならそれなりの機関通して手続き踏む必要がある。そっから動くのは時間の無駄だな」
「はい…時間を掛けている間にもし警察や公的機関に情報漏洩の事がバレたりしたら……この病院は信頼を失ってしまいます…」
老爺教授は自身の失態の責任を取るため、辞任待ったなしであろう。頭を抱えていた。

「わかりました。こちらで何とか探してみますが、先程のサイトのURLと開いていない状態のメールを転送いただけますか?売り手側…データを盗んだ方の対処は本社の人間に依頼します」

そう言ってオーストリアの調査班の連絡先を伝えた麗慈は、京哉と共に研究室を後にした。



 職員たちも夜勤以外の人間が帰って更に暗く静かになった病院内を並んで歩きながら、京哉は麗慈に尋ねる。
「あんな少ない情報で犯人割り出せるのか?」
うーん…と暫く考える様子を見せた麗慈は、眉を潜ませながら「多分な」と答えた。
「犯罪傾向と言うか…あの手のガキが趣味の変態野郎は、同じような事繰り返すんだよ。それに、バイヤーとのやり取り見る限り詰めが甘い……恐らくダークウェブに足を踏み入れたのはつい最近の事だ」


 かつてアメリカ海軍調査研究所が開発した特殊なブラウザ。言論統制された国々に住む人々が匿名性を維持したまま自由にインターネットを利用できるサービスとして発展を遂げていた。この特殊ブラウザを通じてアクセスできるのがダークウェブである。
 ダークウェブの閲覧には個人情報を抜かれない為の対策が幾重にも必須になっており、メッセージの交換をする場合は利用者は相当慎重に動く必要があるという。


「犯人がミスを犯した理由は…やっと欲しかったデータが手入るっていう多幸感、充足感から来る気の緩み……慣れてない奴の典型って感じだな」
「え…じゃあ、色んな場所でデータを買い漁ってたけど何か物足りなくて遂に危ない橋渡っちゃった……ってトコ?」
京哉はデータを買った人間の心理が読めず、難しい表情で考え込んでしまった。


…………………………………………………………………………………

 大学病院を出てすぐの場所にあった公園のベンチに並んで座った二人は、これからの行動方針を決める為に犯人像を割り出す事にした。

「コレは俺の推測で可能性の一つだと思って聞いてくれ」

 そう言った麗慈が手帳に文字をツラツラと書き込んでいく。
 
「俺はペドに死ぬ程恨みがあるから、敢えてゴミ野郎と呼ぶが」
「ひ、酷いな…」
そうか?と返した麗慈は悪びれる様子もなく“ゴミ野郎呼び“で推論を続けた。
「それまでもいかがわしいデータの購入歴があったとして、ゴミ野郎はそいつで何をしてるか…わかるか?」
「え…そりゃ、シk「写真を手に入れる事自体が目的の場合、もしくはこの段階で理性によるストッパーがちゃんと作動している場合は、他者から見えない場所に大事に保管してるだろうな。隠れて愛でてる筈だ。こういうゴミ野郎は比較的多くて、社会に普通に溶け込んで擬態してやがる」

言葉を遮られた京哉は瞬きを繰り返しながら「そっちか」と独りごつ。

「逆に、写真を手に入れる事が“手段”だった場合…つまり、その先の欲求を満たす事が最大の目的のゴミカスクソ野郎の場合は」
「なんか増えてる!」
「精神状態が不安定になり、欲求が満たされるまで不審な行動や不可解な言動を繰り返す恐れがある、と。まぁ、ストーカーの心理だな。部屋ン中に写真貼りまくってあたかも自分の恋人だとニヤけてるようなヤツ」
京哉は以前住んでいた六本木の雑居ビルで道夫と一緒に見た大昔の刑事ドラマの内容を思い出していた。
「あー…怖いねソレ。確かに異常だわ」
「今回のゴミ野郎がどっちのタイプかはわからねぇが、誤字って場所バレするぐらいあの写真を手に入れたのが嬉しかったんだろ。必ずまた例のサイトに買い物に来る筈だ」
犯人は現場に帰る…ではないが、買い手がまたダークウェブにアクセスして似た様な事を繰り返すと踏んだ麗慈は、携帯端末を取り出して何処かに電話を掛けた。

「…はい、はい……あ、それはありがたいです。では、追跡お願い致します」


手短に通話を終えた麗慈は、京哉に再度問い掛ける。

「何故あのジジィ教授のPCから盗まれたのがほんの一部の写真だけだったのか…わかるか?」
「え…?しゅ、趣味だったから…トカ?なんちゃって…」
その通り、と言われて驚いた京哉は両肩を震わせた。
「もし、ウィルスばら撒いて写真抜き取った奴の狙いがあの少女の身体的特徴だったら……それは商品として需要があると見ているからだ。金髪、白人、少女……性的趣向的な意味でのマーケットでの人気はさっきの商品ページの閲覧数がソレを物語ってんだよ。そして文字通り“趣向”な訳だから買い手側も当然検索ワードを絞ってる訳だ」
「じゃ、じゃあ……似たような写真を犯人がもう一度買うように仕向けられれば…特定できるかも…!」

 京哉が名案を思い付くものの、携帯電話をコツコツと人差し指で突いた麗慈のジェスチャーで彼は目を見開いた。

「もしかして、もう手配進んでたりする…?」
「当たり前だろ。今回はかなり特殊で、ネクロフィリアとペドフィリアのハイブリッドだ。アクセス数は相当限られてくる。そして、こちらが出品した商品ページをクリックした瞬間に、調査班自慢の『マーキングウィルス』を仕掛けてやる算段だな」

 楽団ギルド調査班は新体制になった今でもかなり優秀な人材が残っており、索敵に関しては地球上に生きている限りどんな手を尽くしても必ず本人の居場所を特定してしまう程のノウハウを持っていた。
 彼らの力を借りる約束を既に取り付けてしまったという麗慈の頭の回転の速さと行動力に恐れ入ったと、京哉は呆けた表情でパチパチと拍手を送り続ける事しか出来なかった。






[86] Erhaben 完
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

処理中です...