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第六章 木枯らしの夜と、選ばれた未来
第52話 都会の喧騒と、星がない街
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11月中旬の土曜日。
北関東から都心へ向かう在来線のグリーン車には、奇妙な取り合わせの4人が座っていた。
皮膚科医の雪村、霜田。
現在は関連病院へ出向中の小林。
そして、形成外科ローテート中の研修医・晴瑠だ。
「いやー、快適ねぇ!新宿行くならやっぱり湘南新宿ラインが一番よね!」
ボックス席で、霜田が上機嫌に話している。
今日は、新宿で開催される「皮膚科学会東京支部総会」に参加するため、みんなで移動中だ。
「お誘いありがとうございます!学会参加してみたかったので嬉しいです」
晴瑠が礼儀正しく頭を下げる。
彼女は今、形成外科を回っているが、来年度からの皮膚科入局が決まっているため、今回の学会ツアーに同行することになったのだ。
「立花先生は未来の仲間だしね。教授たちも是非って言ってたわよ」
霜田が笑った。
「ほんとは新巻くんも誘ったんだけど、『休日出勤ですか。給料出ないのに参加義務あります?ちなみに代休は?』って真顔で聞かれて……置いてきたわ」
「あはは……。言いそうですね」
晴瑠が苦笑いする。
「和泉先生や天野先生も来れたらよかったのにね。久しぶりに会いたかったな」
「仕方ありませんよ。二人は来週の地方会で発表がありますから。その準備で手一杯です」
小林が残念そうに言うと、雪村が短く答えた。
「そういえば、立花先生って都内出身よね?なんでまた北関東に?」
「祖母の家があったので、そこから通ってました」
晴瑠は都内の私立医大にも複数合格していたが、学費のことや生活環境を考え、祖母の家から通えるこの大学を選んでいた。
「なるほどね。実家から通えるのは楽でいいわよね」
「霜田先生は?」
「私と小林先生は北関東が地元だから。実家も近いわよ」
「そうだね。まあ僕はお隣の県だけど」
小林が穏やかに微笑む。
晴瑠は視線を巡らせ、タブレットを見ていた雪村に問いかけた。
「雪村先生は?」
雪村は視線を上げずに、淡々と答えた。
「センター試験の点数と二次試験の傾向から、合格率が高い中で一番偏差値が高い大学を選んだ。それだけだ」
「……あはは、雪村先生っぽいですね」
「医学部受験あるあるだね」
小林も苦笑交じりに頷いた。
電車はさいたま新都心を過ぎ、徐々に窓から見える景色にビルが増えてくる。
(……懐かしいな)
晴瑠は外を眺めてぼんやりとしていた。
*
新宿駅。
土曜日朝のターミナル駅は、人で溢れ返っていた。
改札を出て、会場のホテルへと向かう地下通路も、人波でごった返している。
「うわ、すごい人ね」
霜田が声を上げる。
「さすが世界一乗降客数が多い駅だ」
雪村がメガネをクイッと上げた。
その時、向こうから歩いてきたサラリーマンの集団に押され、晴瑠がよろめいた。
「あっ……」
転びそうになった彼女の腕を、雪村はとっさに掴んで支えた。
「……っと。危ないぞ」
「あ、ありがとうございます……」
細い腕の感触。
その瞬間、雪村の脳裏に、あの日の記憶がフラッシュバックした。
6月の横浜。中華街の雑踏。
あの時、同じように皐月の腕を引いた時のこと。
あの時は胸がざわついた。
守らなければ、という使命感と、淡い高揚感があった。
けれど、今は。
(……脈拍、変化なし。平常心だ)
雪村は冷静に自分のバイタルを確認した。
晴瑠の腕を離しても、胸の奥は静かなままだ。
そこにあったはずの皐月への「熱」は、もうきれいに消えてなくなっている。
「……ボーッとしてるな。はぐれるぞ」
「すみません、東京の人混み久しぶりで」
雪村は小さく息を吐き、前を向いた。
過去は終わった。
今はただの、同僚としての気遣いがあるだけだ。
*
学会場。
ポスター発表のセッションが行われ、雪村、霜田、小林が質疑応答に追われていた。
先に現地入りしていた雨宮、佐伯医局長、柊教授などの上層部の医師たちも見守りに来ている。
「……以上の結果より、本症例における治療奏功の機序が示唆されました」
雪村は完璧なプレゼンを行い、鋭い質問にも淀みなく答えた。
隣のブースでは、小林も穏やかながら的確な回答をしている。
「お疲れ様です!雪村先生、かっこよかったですよ!」
発表を終えて戻ると、晴瑠が目を輝かせて迎えてくれた。
「あの意地悪な質問への返し、痺れました!私だったら泣いてます」
「……準備していた想定問答通りだ。驚くことじゃない」
雪村は素っ気なく答えたが、悪い気はしなかった。
その後、一行は企業展示ブースを回り、最新の医療機器や薬剤の情報を収集した。
晴瑠は熱心にメモを取り、サンプルを集めている。
その姿は、真摯な研修医そのものだった。
「あ、もうすぐ予約の時間だ。移動しないと」
小林が腕時計を見て、驚いたように言った。
居酒屋を予約していたのに、4人は時間を忘れて楽しんでしまっていた。
「え!?あ、今準備します!コートもクロークで受け取らなきゃ」
晴瑠は慌ててカバンにサンプルをしまう。
「先に行って飲んでるわ!小林先生、行きましょ!」
「ごめん、お店に悪いから僕たちは急ぐね。二人はゆっくり来て」
霜田と小林は早足で会場を出て行ってしまった。
残されたのは、荷物をまとめていた晴瑠と、それを待っていた雪村だけ。
「すみません、お待たせしました!」
「……行くぞ」
二人は並んで、夜の新宿の街へと出た。
*
飲み会の店までは、徒歩10分ほど。
ネオンが輝く繁華街を、二人は少し距離を空けてゆっくり歩いていた。
「……東京、久しぶりです」
晴瑠が懐かしそうに呟く。
「雪村先生も、高校まではこっちにいたんですよね?」
「ああ。……お前もだろ」
「はい。この喧騒が、私の日常でした」
とはいえ、晴瑠が都内に住んでいたのは高校生までだ。
勉強ばかりしていた学生時代。
門限もあり、こうやって夜の新宿を歩くというのは、彼女にとっては新鮮なイベントだった。
「お姉さん」
ふいに横から呼びかけられ、晴瑠は足を止めた。
「近くにいいお店あるよ?イケメンいっぱいいる店。どう、来ない?」
繁華街にたまにいる、違法客引きだ。
「あの……急いでるんで」
「初回だし、少し割引するから大丈夫だよ」
もう一人が前から現れて進路を塞ぐ。
(うわぁ……。これ夜の店への勧誘だ)
晴瑠が逃げようとした瞬間、雪村が割って入った。
「……どいてくれませんか」
雪村の氷点下の視線が、男たちを射抜く。
「僕の連れです。急いでいるので」
「あ?なんだよ男いるなら最初からそう言えよ……」
「時間の無駄だったわー」
「……行きますよ」
雪村は男たちの文句など聞く耳を持たず、晴瑠の手首をガシッと掴み、強引に歩き出した。
「え、あ、雪村先生……?」
「離れて歩くと面倒なことになる。……はぐれるなよ」
雪村は振り返らずに言った。 握った手首は細く、少し震えている気がした。
特別な感情はない。ただのトラブル回避だ。
そう自分に言い聞かせるが、掌から伝わる彼女の体温は、横浜の時とは違う、別の「リアリティ」を持って雪村の手に残った。
晴瑠は、引かれるままに雪村の背中を見つめた。 いつも不愛想で、理屈っぽくて、可愛げのない先輩。
でも、その手は大きくて、迷いがなくてーー。
(……頼もしい、かも)
晴瑠はハッとし、慌てて首を振った。
(ないない。あの雪村先生だよ?この手だって、特別な気持ちとかじゃなく、本気で効率のためでしかないって)
*
「おーい!遅いよ二人ともー!」
居酒屋に着くと、すでに出来上がっている霜田が大声で手招きしていた。
小林が申し訳なさそうに「ごめんね、止められなくて」と苦笑している。
「はいはい、飲みますよ」
雪村は冷ややかな顔で席につき、ウーロン茶を注文した。
晴瑠もカシスオレンジを注文し、店内の喧騒を眺める。
「二次会行くぞー!雪村くん、朝まで付き合いなさい!」
「勘弁してください……明日は朝から聞きたい講演があるんです」
「えー!つまんない男!」
霜田が雪村の肩に腕を回して絡み、雪村が心底嫌そうな顔で剥がそうとしている。
「霜田先生、雪村くんをあまり虐めないであげてね」
小林は苦笑いしている。
その光景を見て、晴瑠はふふっと笑った。
(……戻りたかったな、東京)
華やかで、最先端で、友達もたくさんいるあの場所へ。
戻れなくて、泣いた夜もあった。
でも。
「立花先生も!ほら、飲んで飲んで!」
「あはは、霜田先生飲みすぎですよー」
この、泥臭くて、騒がしくて、温かいこの場所も、案外悪くないかもしれない。
「……何を笑ってる」
雪村が、霜田を振り払いながら仏頂面で聞いてくる。
晴瑠はニッコリと笑って答えた。
「いえ。……ここに入局してよかったなって、思っただけです」
その笑顔には、嘘も計算もなかった。
雪村は一瞬だけ目を丸くし、それからそっぽを向いた。
「……そうか」
出会った当初は嫌いあってた二人だった。
いろんな出来事を経て、今は名前のつかない信頼関係で結ばれている。
これは恋ではない。
友情でもない。
けれど、二人の物語が動き出す予感を含んだまま、新宿の夜は更けていく。
(……新宿は、あまり星が見えないな)
晴瑠は、ふと窓の外を見た。
空の星はほとんど見えず、変わりに繁華街やビルの光が、世界を埋めつくしていた。
北関東から都心へ向かう在来線のグリーン車には、奇妙な取り合わせの4人が座っていた。
皮膚科医の雪村、霜田。
現在は関連病院へ出向中の小林。
そして、形成外科ローテート中の研修医・晴瑠だ。
「いやー、快適ねぇ!新宿行くならやっぱり湘南新宿ラインが一番よね!」
ボックス席で、霜田が上機嫌に話している。
今日は、新宿で開催される「皮膚科学会東京支部総会」に参加するため、みんなで移動中だ。
「お誘いありがとうございます!学会参加してみたかったので嬉しいです」
晴瑠が礼儀正しく頭を下げる。
彼女は今、形成外科を回っているが、来年度からの皮膚科入局が決まっているため、今回の学会ツアーに同行することになったのだ。
「立花先生は未来の仲間だしね。教授たちも是非って言ってたわよ」
霜田が笑った。
「ほんとは新巻くんも誘ったんだけど、『休日出勤ですか。給料出ないのに参加義務あります?ちなみに代休は?』って真顔で聞かれて……置いてきたわ」
「あはは……。言いそうですね」
晴瑠が苦笑いする。
「和泉先生や天野先生も来れたらよかったのにね。久しぶりに会いたかったな」
「仕方ありませんよ。二人は来週の地方会で発表がありますから。その準備で手一杯です」
小林が残念そうに言うと、雪村が短く答えた。
「そういえば、立花先生って都内出身よね?なんでまた北関東に?」
「祖母の家があったので、そこから通ってました」
晴瑠は都内の私立医大にも複数合格していたが、学費のことや生活環境を考え、祖母の家から通えるこの大学を選んでいた。
「なるほどね。実家から通えるのは楽でいいわよね」
「霜田先生は?」
「私と小林先生は北関東が地元だから。実家も近いわよ」
「そうだね。まあ僕はお隣の県だけど」
小林が穏やかに微笑む。
晴瑠は視線を巡らせ、タブレットを見ていた雪村に問いかけた。
「雪村先生は?」
雪村は視線を上げずに、淡々と答えた。
「センター試験の点数と二次試験の傾向から、合格率が高い中で一番偏差値が高い大学を選んだ。それだけだ」
「……あはは、雪村先生っぽいですね」
「医学部受験あるあるだね」
小林も苦笑交じりに頷いた。
電車はさいたま新都心を過ぎ、徐々に窓から見える景色にビルが増えてくる。
(……懐かしいな)
晴瑠は外を眺めてぼんやりとしていた。
*
新宿駅。
土曜日朝のターミナル駅は、人で溢れ返っていた。
改札を出て、会場のホテルへと向かう地下通路も、人波でごった返している。
「うわ、すごい人ね」
霜田が声を上げる。
「さすが世界一乗降客数が多い駅だ」
雪村がメガネをクイッと上げた。
その時、向こうから歩いてきたサラリーマンの集団に押され、晴瑠がよろめいた。
「あっ……」
転びそうになった彼女の腕を、雪村はとっさに掴んで支えた。
「……っと。危ないぞ」
「あ、ありがとうございます……」
細い腕の感触。
その瞬間、雪村の脳裏に、あの日の記憶がフラッシュバックした。
6月の横浜。中華街の雑踏。
あの時、同じように皐月の腕を引いた時のこと。
あの時は胸がざわついた。
守らなければ、という使命感と、淡い高揚感があった。
けれど、今は。
(……脈拍、変化なし。平常心だ)
雪村は冷静に自分のバイタルを確認した。
晴瑠の腕を離しても、胸の奥は静かなままだ。
そこにあったはずの皐月への「熱」は、もうきれいに消えてなくなっている。
「……ボーッとしてるな。はぐれるぞ」
「すみません、東京の人混み久しぶりで」
雪村は小さく息を吐き、前を向いた。
過去は終わった。
今はただの、同僚としての気遣いがあるだけだ。
*
学会場。
ポスター発表のセッションが行われ、雪村、霜田、小林が質疑応答に追われていた。
先に現地入りしていた雨宮、佐伯医局長、柊教授などの上層部の医師たちも見守りに来ている。
「……以上の結果より、本症例における治療奏功の機序が示唆されました」
雪村は完璧なプレゼンを行い、鋭い質問にも淀みなく答えた。
隣のブースでは、小林も穏やかながら的確な回答をしている。
「お疲れ様です!雪村先生、かっこよかったですよ!」
発表を終えて戻ると、晴瑠が目を輝かせて迎えてくれた。
「あの意地悪な質問への返し、痺れました!私だったら泣いてます」
「……準備していた想定問答通りだ。驚くことじゃない」
雪村は素っ気なく答えたが、悪い気はしなかった。
その後、一行は企業展示ブースを回り、最新の医療機器や薬剤の情報を収集した。
晴瑠は熱心にメモを取り、サンプルを集めている。
その姿は、真摯な研修医そのものだった。
「あ、もうすぐ予約の時間だ。移動しないと」
小林が腕時計を見て、驚いたように言った。
居酒屋を予約していたのに、4人は時間を忘れて楽しんでしまっていた。
「え!?あ、今準備します!コートもクロークで受け取らなきゃ」
晴瑠は慌ててカバンにサンプルをしまう。
「先に行って飲んでるわ!小林先生、行きましょ!」
「ごめん、お店に悪いから僕たちは急ぐね。二人はゆっくり来て」
霜田と小林は早足で会場を出て行ってしまった。
残されたのは、荷物をまとめていた晴瑠と、それを待っていた雪村だけ。
「すみません、お待たせしました!」
「……行くぞ」
二人は並んで、夜の新宿の街へと出た。
*
飲み会の店までは、徒歩10分ほど。
ネオンが輝く繁華街を、二人は少し距離を空けてゆっくり歩いていた。
「……東京、久しぶりです」
晴瑠が懐かしそうに呟く。
「雪村先生も、高校まではこっちにいたんですよね?」
「ああ。……お前もだろ」
「はい。この喧騒が、私の日常でした」
とはいえ、晴瑠が都内に住んでいたのは高校生までだ。
勉強ばかりしていた学生時代。
門限もあり、こうやって夜の新宿を歩くというのは、彼女にとっては新鮮なイベントだった。
「お姉さん」
ふいに横から呼びかけられ、晴瑠は足を止めた。
「近くにいいお店あるよ?イケメンいっぱいいる店。どう、来ない?」
繁華街にたまにいる、違法客引きだ。
「あの……急いでるんで」
「初回だし、少し割引するから大丈夫だよ」
もう一人が前から現れて進路を塞ぐ。
(うわぁ……。これ夜の店への勧誘だ)
晴瑠が逃げようとした瞬間、雪村が割って入った。
「……どいてくれませんか」
雪村の氷点下の視線が、男たちを射抜く。
「僕の連れです。急いでいるので」
「あ?なんだよ男いるなら最初からそう言えよ……」
「時間の無駄だったわー」
「……行きますよ」
雪村は男たちの文句など聞く耳を持たず、晴瑠の手首をガシッと掴み、強引に歩き出した。
「え、あ、雪村先生……?」
「離れて歩くと面倒なことになる。……はぐれるなよ」
雪村は振り返らずに言った。 握った手首は細く、少し震えている気がした。
特別な感情はない。ただのトラブル回避だ。
そう自分に言い聞かせるが、掌から伝わる彼女の体温は、横浜の時とは違う、別の「リアリティ」を持って雪村の手に残った。
晴瑠は、引かれるままに雪村の背中を見つめた。 いつも不愛想で、理屈っぽくて、可愛げのない先輩。
でも、その手は大きくて、迷いがなくてーー。
(……頼もしい、かも)
晴瑠はハッとし、慌てて首を振った。
(ないない。あの雪村先生だよ?この手だって、特別な気持ちとかじゃなく、本気で効率のためでしかないって)
*
「おーい!遅いよ二人ともー!」
居酒屋に着くと、すでに出来上がっている霜田が大声で手招きしていた。
小林が申し訳なさそうに「ごめんね、止められなくて」と苦笑している。
「はいはい、飲みますよ」
雪村は冷ややかな顔で席につき、ウーロン茶を注文した。
晴瑠もカシスオレンジを注文し、店内の喧騒を眺める。
「二次会行くぞー!雪村くん、朝まで付き合いなさい!」
「勘弁してください……明日は朝から聞きたい講演があるんです」
「えー!つまんない男!」
霜田が雪村の肩に腕を回して絡み、雪村が心底嫌そうな顔で剥がそうとしている。
「霜田先生、雪村くんをあまり虐めないであげてね」
小林は苦笑いしている。
その光景を見て、晴瑠はふふっと笑った。
(……戻りたかったな、東京)
華やかで、最先端で、友達もたくさんいるあの場所へ。
戻れなくて、泣いた夜もあった。
でも。
「立花先生も!ほら、飲んで飲んで!」
「あはは、霜田先生飲みすぎですよー」
この、泥臭くて、騒がしくて、温かいこの場所も、案外悪くないかもしれない。
「……何を笑ってる」
雪村が、霜田を振り払いながら仏頂面で聞いてくる。
晴瑠はニッコリと笑って答えた。
「いえ。……ここに入局してよかったなって、思っただけです」
その笑顔には、嘘も計算もなかった。
雪村は一瞬だけ目を丸くし、それからそっぽを向いた。
「……そうか」
出会った当初は嫌いあってた二人だった。
いろんな出来事を経て、今は名前のつかない信頼関係で結ばれている。
これは恋ではない。
友情でもない。
けれど、二人の物語が動き出す予感を含んだまま、新宿の夜は更けていく。
(……新宿は、あまり星が見えないな)
晴瑠は、ふと窓の外を見た。
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