ざまぁにはざまぁでお返し致します ~ラスボス王子はヒロインたちと悪役令嬢にざまぁしたいと思います~

陸奥 霧風

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第112話 死の狭間に

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苦痛に顔を歪ませながらもアイスキーは、

「彼女を…… 彼女を守ってくれ……」

「分かった約束しよう。でもな、それはお前が生きてたらの話だ。今は生きることだけを考えてくれ!」

「……………………」

アイスキーは苦しいのか声に出せないのか、答えは返って来なかった。

「アイス! アイス! 死んじゃダメ! 私を置いて行かないで! あなたが死んだら、私もあとを追うわ!」

ユリアラの言葉にアイスキーは僅かに反応をした。

「ユーリ…… それでは、私が命懸けで闘った決闘が無駄になってしまう…… どうか君だけは生きてくれ…… それが私の最後の願いだ……」

アイスキーは呼吸が荒くなり、声も段々と小さくなっていく。

「いやッ! 絶対いやッ! あなたが居ないと私は生きて行けない!」

「ユーリ……」

アイスキーは泣きじゃくるユリアラを寂しそうな目で見つめていた。

『ゴホッ ゴホッ』

アイスキーは大きく噎せ返し、大量の血反吐を吐いた。

「アレク…… 苦しい…… 早く、早く介錯を頼む……」

「アイスキー……」

「頼む…… 頼めるのはアレク、お前しかいない」

「……………………」

言葉が出てこない。敵だったとはいえ、戦いの中でお互いに心から分かり合えた存在。早く楽にしてやるのが武士道精神というものだが、どうしても友をこの手で止めを刺すことに躊躇してしまう心も存在する。このまま判断を遅らせる訳にはいかない。僕は意を決して、

「――わ、分かった…… 今、楽にしてやるからな」

「アレク…… 最後に迷惑をかけるな……」

「何を言っているんだ。僕達は親友じゃないか…… 待ってろ。すぐに楽にしてやるからな」

僕は涙を流し、言葉に詰まりながら答える。

「ありがとう…… さすが…… 私の親友だ…… ユーリ…… 君を心の底から愛している…… どうか生きて…… 幸せになってくれ…… 頼む……」

「イヤー! やめてー! アイスを殺さないでー!」

ユリアラは必死に僕を止めようとして腕にしがみ付いてきた。

『ゲホッ ゲホッ』

アイスキーはさらに血を吐き出した。そのあまりの苦しむ姿にウィザード副司令は僕からユリアラを静かに引き離した。しかし、ユリアラの抵抗が激しかったのか、周りにいた部下たちもユリアラを引き離すのに協力していた。

僕はギョシン司令官から短刀を受け取り、

「アイスキー、いっどいくぞ

よかどいいぞ

『グサッ』

左脇から心臓に目掛けて短剣を突き刺した……

「ウッ……」

アイスキーは目を大きく見開き、そして……静かに目を閉じた。二度と起きることの無い安らかな眠りについたのだった。


「イヤァァー! アイスー! アイスー!」

僕はアイスキーから手を離し、今は何も答えない彼をユリアラに任せた。彼女はアイスキーの亡骸にしがみついて泣いていた。

僕が立ち上がった瞬間。彼女は僕を睨み、

「あなたさえいなければ、私達は幸せだった! あなたがアイスを殺したのよ! 生き返らせて! アイスを私に返して! あなたさえ…… あなたさえ…… ケーリンネガーにちょっかいを出さなければ、お父様もみんな狂いはしなかった! あなたさえ余計な事をしなかったら! あなたが! あなたが……」

「――それは……」

「あなたが婚約者なんて探さなかったら、私はアイスとすぐに婚約出来たのよ! それをあなたが婚約者を探していると聞いたお父様が、義父上様と一緒にフロンガスターを滅ぼそうと考えて私達の仲を利用したのよ」

「――利用?」

「そうよ! あなたと婚約して、時期が来たら婚約破棄をして、それを口実にフロンガスターと侵略する大義名分を得ようとしたのよ。そんなことアイスと私には関係が無い、どうでもよかった。一緒に居られたらそれだけで幸せだったのよ! あなたのせいで、私達二人がどれ程苦しんだかわかっているの! あなたが死ねば良かったのよ! 私のアイスを返して! お願い…… 私のアイスを生きて返してちょうだい! うわわわわわわわっ」

ユリアラは一気に言うと、大きな声で泣き崩れてしまった……


――僕のヒロイン共に一泡ふかせてやろうとした浅はかな考えが、二人の幸せを壊す結果になってしまった…… 何もなければ友になっていただろうアイスキーを僕は…… この手で殺してしまった…… この手で……


「ウワワワワワァーー  殺したぁー! 殺してしまったー! 親友を殺してしまったーー! アイスキーをこの手で殺してしまったぁーー! 僕はなんてことをーーー! ウワワワワワァーー!!」

自分の浅はかで愚かな行いに懺悔と後悔の念に苛まれ、アイスキーとユリアラの二人に背を向け、床に膝を落として、両手で顔を覆い大声で泣いた。



『ウッ』



後ろから小さく悲痛な声が聞えた。声が聞こえた瞬間。僕は何事かと後ろを振り返った。

そこには…… アイスキーに貸した長剣で自分の喉を切り裂き、アイスキーの胸に倒れているユリアラの姿だった…… 

ユリアラは血に染まった手をアイスキーの頬を擦り、


「ああ…… アイス…… ごめんなさい…… 私は永遠にあなたの傍を望みます…… アイス、私の我が儘を許して…… アレク様…… ごめんなさ…… い……」


ユリアラはそう言い残し、静かに愛するアイスキーの元へと旅立った……


「――なぜだぁぁーー!!!! なぜ死に急ぐ! あれほどアイスキーがキミに生きて欲しいと願っていたのにぃぃーー!! キミの幸せを願っていたのにぃぃーー!! アイスキーの願いを無駄にするんじゃねぇぇぇぇー!」

僕はやりきれない感情に身を任せ、大声でユリアラを罵倒した。





二人の亡骸を呆然と見つめ、消え入りそうな小さな声で、

「ギョシン司令、ウィザード副司令。二人を丁重に弔ってくれ。くれぐれも粗相の無いように頼む。それと僕を一人にしてくれないか……」
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