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浸っていていい。ー甘い言葉。ー
しおりを挟む『舞っていたよ。』
『それはそれは、綺麗な桜が』
『鬼神共が君を誘うために』
『さあ。』
死の下へいらっしゃい。
『可愛らしい淑女さん?』
ソレに思い至った様子で、思わず身震いをする。
あるいは、さてね。
姿のない男の言葉に、絆されることのないように
嘲笑するようにあなたの方へ近づいてくる声。
その顔は、見えなかったけれど
そのまま耳を傾けないで、そう、見つからないで。
どこか、値踏みするように視線を。
いや、あなたの身体になんて興味を示さず。
あなたの命を。美味な魂を。
手前の、愛しむ命達を。
そして、心を絡め取ろうと。
手前の、愛した魂達を。
自慢の器を。
手前の、愛する花達を。
美味で濃厚な、命たちを奪うために
甘美で高潔な香りを放つ、魂たちを喰らうために。
ああ、それでもいい。
阻まれようと、拒まれようと。
入れなかろうと。
その神聖な場所に、吐き気を催すとしても。
器たちに守られた、神像の場所を探し当てて。
花達を穢すその日を、手前達が震えて待つ時が訪れんことを。
その時まで、我らは。
花達を穢すその時が訪れるまで、我らは。
穢し、喰らうその時が訪れるまで、我らは。
奪い、蹂躙するその時が訪れるまで、我らは。
その時まで、我らは消そう。
灯を。
拒まれようと構わないから。
お前達を壊し穢すその時まで。
魂たちに守られた神像の場所を探し当てて。
それでもいい、器たちを貶めるその時まで。
その甘美で高潔な匂いを放つ、魂たちを喰らうために。
さあ、桜の方に来て。
逃げて尚、こちらに近づいてくる
さあ、死の下へおいで。
そんなに濃厚な香りを漂わせて。
『どうしようと言うの?』
甘美な匂いを、嗅ぎ分けるのも朝飯前だよ。
『どうして、男は鼻がいいと思う?』
例え話だろうが、この状況で談話を愉しもうなどと。
『どうして、勘のいいモノ達が居ると思う?』
例え話だろうが、だからこそ心底質が悪い。
そんな相手だからこそ、心底嫌悪感が募る。
追い立てて、追い込んで。
それは、さも楽しげに。
吟味するように、やおら歩みを進めて
獲物はたっぷり、手をかけてあげないとね。
追い詰めてくる。
あなたは、後退りしようとするだろう
再び逃げようとするも、それは。
叶わなくなった。
走ったその先にあったであろうパンドラの匣を見つけて
地下室の扉に一瞬だけ手をかけるも、鍵が閉まっている。
魔王様に可愛がられるために逃げたい、あなた。
そして、火の粉を払い除けた。
“すると驚嘆されつつ、抵抗をゆるされて、からかわれて。”
“やがて抵抗をし終わり、暫く経ってからかい倒すのに飽きられて。”
不意にあなたの前で止まった何者かの足。
がしゃん………
そうだったな、ひとつ。
硬質な、金属音を立てたのだろうか。
篭手に包まれた手が、あなたの細い首に。
ほんの少しだけ触れ、首を絞める。
痣になったが、これでお前も満ち足りただろう?
“そう言いながら、何も喋らないまま鎧を着込んでいる男に構わず、浮遊していたが。”
首を絞められたあなたの字を人差し指で、撫でた。
そうして、浮遊しているままに、随所を同じように撫でて。
“痣に似た刻印を、呪印を見えなくしたであろうそのシルエットが喉を鳴らす。”
まるで、愉快な「玩具」を見つけたように。
そして、低音でありながら。
嫌になるような、ねっとりとした猫撫で声であなたの耳へ囁いて。
そうしてゆっくり追い打ちを、かけるシルエットであった。
囁き終わり満足したように、ひとつ指を動かしてみせて。
すると前方にいて此方に向かってくる、シルエットを見つけたようで。
そのシルエットに向けてひらり、と手を振ってみせた。
『___』
『黒百合の苦汁、白蛇の林檎枯らし』
シルエットは無視した。
すると、黙って立ち上がられて。
『…………アイツの……大切な……か。』
『………………ははっ、なら……奪ってみせようではありませんか……。』
『……はじめまして、ですね。』
『………………ははっ、そうですか。』
『えぇ、『ご安心』を。』
すると、一つ声がした。
やがてそれは、シルエットに向けられていった。
次いで、女神にかけた声は穏やかな声音だった。
『………………ははっ、懐かしいですね。
ええ、そんな名もあったのでしょう。
きっとね。』
『またやってきたのか?』
対照的に不機嫌な声が降ってきたようで、どうやら。
ご機嫌が良くないようだ。
このまま頼む、嘘憑き共。
騎士団長殿?
『獣神の愛憎闘記。ー恋に溺れた彼の末路でございます。ー』
『彼』の手中に現れた白い面がくるり、と一回転しこちらを向いて弧を描いた。
……まるで笑っているようではないか。
逆さまになり、更に弧が大きく開かれてそのまま回転し始めた。
三回転で棘が生え始め、七回転で茨が面の下方から地面に向かって巻き付き始めたばかりだ。
十回転で螺鈿を彩るように、ひとつ蝙蝠の装飾が動き始めて、それも生きているくらいがちょうどいいペットで。
十四回転で、リップサービスをするかのように白い面が徐々に、徐々に赤面に変容した。
そのまま勢いに乗って武器、それも杖に変貌する。
バラの杖に代わったそれは、俄に一回転した。
だが余韻を残さずに、空気を読まずに。
耳障りな鳴き声が、鼓膜を微かに震わすだろう。
『霾。ー杖の変貌ー』
『にゃー……』
「俺勿体ねえのよ、大変なことにさ……。」
さて、問題児の帰還なようだ。
此処に、どうやら胡乱な招かれざるお客さんがやってきたようだよ。
君は、俺に、意味なんてあるのかい?って問いたくなるだろうけどね。
…………。
そうだね、本当にね。
ああほら、どうやら此処に。
然らば、胡乱だろうか。
それもとびきり厄介者で招かれざる、美しいお客さんがやってきたようだよ?
それはそれは、美しい毛並みの黒猫が、何処からともなく現出し、啼いた。
しかも何かいい事があったのか、酷く機嫌が良く軽やかな足取りだ。
『ニャァン』
『なぜかってーとな、アンタの願いまだ聞いてねえんだぜこっちは。』
『ニャー……ニャァ』
「まあ、これは俺が然るべき[主サマ』に届けておくさ。」
『ニャー…………。』
『水色の君。』
『にゃァーん。』
『ああ彼らの。』
『『____』ニャァーニャ…………。』
『かの____』、忌々しい…………。』
直ぐに愉快そうに、おもしろそうに尻尾が揺れる。
『……ニャー……』
「……だからその時にアンタの願いとやら、聞かせてくんない……?」
さりげなく杖を咥えられて。
『ニャ』
「ま、気長に待ってるよ。』
『ニャー……ニャァン………………。』
とっと身軽に跳ばれてあまつさえ、空間に紛れるように音もなく消失した。
そうして手を取ることなく甘美なひとときに、その魂を掠奪されることと成ったあなた。
そうして最後に見たのは、バラへと変貌する美しい面の浮遊する景色だ。
それが起きたのは、魂を掠奪される直前のことだった模様。
突然のことで、少々混乱したであろうあなたは。
防衛本能ですっかり、しっかりと。
“それ”に心を奪われたも同然。
あなたは私の処へ、来なさい。
そう言った『彼』の悪魔のような、微笑みから逃れられずに。
そして手を取ることなく絶望と共に踊るかたる悪魔が、その心を欲しがり。
更なる掠奪などされること、しらずに喋らずの人形と成ったあなた。
地下室のドアの傍に置いていかれてそして、「おまえ』の肉はそのまま……。
さぞや寂しかろう。
気まぐれに現れる黒猫の他にもいるが、楽しめるようにと思ってのことでな?
……ああ、それはそれで面白いだろう。
だが、そう簡単には語らないさ。
……くく。
悪魔は欲望に忠実だからよ、なあ。
『________』サマ?
『猫の姿をした悪魔。ー主サマも待ってっからさ。ー』
██月、○○日。
探索結果の通達
部隊負傷者0名、死者0名
███████████国、滅亡
任務達成した、帰還する。
任務完了者…█████████、██、
███、██、███████、██████、█████。
『かの舞台の監督』…█████████
『過去の手記。ー何者かの調査ー』
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