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泡沫へ湛む。ー鵜。ー
しおりを挟む『……………いい仔でおやすみ。』
………んん………う、……うぅ~ん。
みにゅ。
…………。
『……ふ、『みにゅ』……ってか。』
………笑っている割に、やけにやさしい声で呟く誰かがいた。
……柔らかい眠りを妨げる事のないように、細心の注意をしつつ。
…天蓋のあるベッドのそばにいる、フードを被り「黒面」を着けた横顔がこちらを振り向くことなく。
すると足音がしないまま、近づいてきた『誰か』がやってきて。
そうやって黒手袋に覆われた、男性らしさのあるあたたかな手で頬をほんの少し撫でられて、そうだった。
対等だったね、君とわたしは。
『……………いい仔でおやすみ。』
対等な目線で、同じ間隔で、同じ声音で、囁かれた気さえする………。
ああ、陽射しが優しく射すのが。
「懐かしくて堪らなかった」のだっけ…………。
………守っていたかったなあ、守られていたかったなあ………この香りも、君の手の温もりも、素敵な声も………。
………………けど、君に申し訳ないな………。
こんな弱いわたしで、『あのヒト』に……『呪われて」、ごめん。
『………ッ……。………………………ごめん。』
そんな、怒ったような、表情をさせるためじゃ、なくて、………………ねぇ、泣き、そうな顔……して、何………を言って……る、の。
ねえ、泣き止んで、ちょうだい……可愛い人…………。
『…………』
一つの足音が、やけに遠くから響き渡る。
『彼女』の服の所々が引き裂かれており、傷がいくつかある。
だが魔力が枯渇したという訳では無さそうだ。
回復魔法や支援魔法などは使えなくしたようで、『彼女』達にこの状況はかなり不利だろう。
その上呪われているモノが二人ほど。
耐性があり呪われずに済んだのか、無事なモノが四人ほど。
…………『あなた』は、………本当に……それで満足……する、のか……しら、……………うふ、ふ………さあ、「わたし」を…………。
それでも負けじと、『彼女』は口八丁で相手を挑発する。
無事な三人と呪われたモノを転移させ、残ったのは『二人』。
転移したのは、『フード』と『黒面』、『黒手袋』を着けた『男』の咄嗟の機転だ。
君は、置いて逃げて………………。
『……………』
それは自分を見捨てて、と言うようなもので。
それを言った後に、『彼女』は何かを言いたげにするもここまで。
抱き起こし、肩に手を置いてきた。
最後まで付き合うつもりのようだから。
文字通りに。
「慈悲」は充分だろう。
『………命、………価を、貰う。『次」…………』
……決して穏やかではない言葉が途切れ途切れに、聞こえた。
『命』、『価』……etc……。
この場に響くとは言っても、何らかの魔法がかけられているのも事実だが、それにしては「妙」だと『二人』は思っただろう。
何れにせよ、それは明確な殺意を孕んでおり此処にいるモノ達へと発された。
傷ついた『彼女』を庇うかのように、前に進み出た『男』は黒手袋を着けたままナイフを構える。
『彼女』は『男』のそばに並列し、杖を構える。
どうやらとうに決意は固まっているようだ。
これから相対する敵は容赦なしであるから、だからと言って情けをかけて生き残れると、思ってくれるな。
やることは一つのみ、避けては通れないのだから。
それ以上口を開かないであろう、未だ姿の見えない『殺意を向けられても尚救おうとする相手』は、魔法以上の何かを放ってきた。
……………そうして、君が爆発の影響で吹き飛ばされて……………意識を失ったかもね………。
きっと気絶したまま動けずにいたからか………思わず、叫んだ…………。
ここは悲しいかな『命を奪い合う処』なのにね、ふふ………。
あー……………誰かが言っていたなあ。
『常在戦場』って、ね……………。
………………それから血が傷口から噴き出し、拷問に等しい痛みが………身体中を襲ったのだっけ。
思わず呻き声をあげた気がする………たぶん……。
『男』の身体にも拷問に等しい痛みが襲ったのだが、気絶したままだ。
よっぽどマシで、楽に違いない。
しばらく経って………『泡沫』へ湛んだよ…………。
『キャハッ♬』
『二人』が広々とした『城の中』、『大広間』で死亡した。
先程の声とは違う、『女性』のようで嬉しそうな声がひとつ。
こうして、『勇者一行』の後続隊の生き残りの四人含め送り出したであろう人々は、原因不明の襲撃がきっかけで全員死亡した。
聡明な王族以外は。
………………………ぽ、こぽ………………ボコ、ボコ……こぽ…………ぽわあ…………。
水の音がする、『彼女』は眠っている。
そんなこともあって、何者かの施しにより『彼女』は眠りに落ち転生した。
あるいは、新世界へ探訪するきっかけでもあるのだろうか。
そろそろ、お目覚めのようだ。
………………………ぽ、こぽ……………………こぽ…………こぽ…………。
あぶくが現れ始める。
幾つも幾つも。
やがて大量に浮かび上がっていく。
その光景たるや圧巻だろう。
「………んん………う、……うぅ~ん。
……おはよう、世界。」
……どうやら寝ぼけているようだ。
やさしい声で、朝の訪れを誰かの耳元で囁くように告げている。
………凄まじい解像度だな。
彼女の身体は青く、淡く輝くヒレもあるようだ。
それと、特徴的なのは長髪ももちろんだが。
鎖骨の辺りに、呪印、または刻印と言うんだったか?
それらしきものがあるくらいだろう。
………生まれたばかりだ、泳ぐのも覚束ないだろう。
「あれ、ここは…………ん、んんー?」
あれー、ここ何処?
あっ、えっ……。
何で水中ー!!!??
うぅえ、早く上に行かなきゃ……!溺れる!!!?
そうだ、彼女の種族はそのうち分かるだろうさ。
……気づくのは何時になることやら、やれやれ。
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