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初めての食事だー。ー疲労の後に労り。ー
しおりを挟むぶくぶく……ぶくぶくっ………!
ぷはっ………!
急いで水中から顔を出した。
そして必死に陸に上がろうとするも、崖が高くて陸まで手が届かない!
「あー……大変だった。しんどいよー……。なのにこの仕打ちはあんまりだよ………!!!」
思わず愚痴を言いながら足をバタバタと動かしている私の耳に届くのは……。
ばしゃばしゃ、ばしゃばしゃ……ビタンビタン!
自らのヒレを頭上まで持ち上げ、何度も打ち付ける音だ。
んんー、登れないー!!!
最も試行錯誤しながら登ろうとしている彼女は、必死で気づかないのだが。
ずりずりと這い上がろうとして腕と尾びれを動かし、やっと上に行ける様子だ。
クタクタになった彼女は、これで動けなくなるかもしれない。
「お、やあやあ。待ちくたびれたよ、何をしていたの?」
すると声がかかった。
他でもない彼女に。
ふわふわと髪が舞う、頬を撫でられているような気さえする。
ひゅるる、さらぁ……。
「……………え?」
よく見てみれば、周りに見慣れない木々が多く生えている。
彼女が崖だと、思っていたものは岬だ。
目を見張る彼女の、目線の先に。
ひゅるるぅ……。
「おはよう、よく眠れたかな?」
『おはよう、いい朝だな。『______』』
風を起こし、風の音を少しだけ聞き、それから懐かしい声がこの空間に響く。
彼の心情はさぞや歓喜しているだろうが、それと同時に静穏な気持ちに溢れている。
………ひゅるるぅ。
「ええ、よく眠れましたわ。」
『おはよう、いい日の記念に今日は何をしようか?『____』!』
髪を浚う心地いい風に、頬を撫でられているような感覚に、懐かしい声がこの空間に響く。
彼女の心情はさぞや吃驚しているだろうが、それと同時に穏やかな気持ちに溢れている。
………似たもの同士なのだろう。
目線の先にいるのは『フード』と『黒面』を、着けた『少年』だ。
目の部分に穴も開けられていないので、眼すらも伺いしれない。
恐らく、面を制作したモノは高い技術を持っているのだろう。
その証拠に彫った跡がないという訳だが、これは関係ないのでそれはさて置いて。
『少年』は岬に足を投げ出していて、如何にも待っていた様子だ。
それ以外に落ち着いていて、武器を整備しながら。
気心の知れた友人に、軽口でも叩くかのように。
それでいて、穏やかな口調で喋りかけてくる。
「それは良かった。
聞いてくれるかい?
森の方に凶暴な魔物が出たらしくてね。
今日はこの後討伐する予定なんだけど、見たい?」
『それなら、今日は聖堂に行かないか?
そこ以外にも行きたい所があってな。
『______』、一人だと寂しいから一緒に行きたいんだがいいか?』
「いくらでも。
そうですか!
是非。」
『いいわね、どこに行きたいの?
もちろん!』
「ああ、その前に。
お腹は空いてないかな?
目覚めたばかりだろうし。」
『と、忘れるところだった。
軽く腹ごしらえでもしよう。』
「空いております。」
『わーい、『____』のご飯美味しいんだよね!
……これが、ふふ。』
「『ドルソトーラット』の肝に、『クェーハッシェビア』の魔石は綺麗だよ。
それから、『ヴィアペゾレン』の針だよ。
あとは『黧蕾』から採れた『輝草』もあるからね。
召し上がれ。」
『この料理の他にデザートもあるからな。
出来たてだ、召し上がれ』
「ふふ、ありがとうございます。」
『いただきます!
……おいしい』
『ドルソトーラット』は、鼠型の魔物でかなり素早い魔物だ。
赤い目をしており、通常の鼠型の魔物は機能していない肝が機能している魔物であり、その。
……これは、……なんと言っていいか。
………一説には『変異型魔物』だったりまた別の一説では『擬態型魔物』だったりするから、学者達や研究者達が挙って研究しているそうだ。
また、研究者達や権威達は我先にと研究結果を示した論文を発表しているとの噂が流れている。
……これは仲間を呼ぶ上にねずみ算式に増えていくから、だいぶ厄介な部類に入る魔物だとも耳に入るだろう。
とは言えど、彼女達にそれが関係するかと言えば。
直接は関係なく、食事を終えた今は。
おしゃべりを、楽しむ間柄でいる。
その他の魔物については未だに、生息場所が不明な曲者も存在する。
「おーい、どこにいるんだ?」
しばらくおしゃべりを楽しんでいたが、そこに小さく別の声が割って入る。
誰かを探しているようで、少しだけ張り上げているが。
あまり、向こうに届かない声だ。
がさがさ、ざっざっ……。
ガサガサ、ザッザッ……。
それを聞き取ったのか少年がそちらを向かないまま、即座に池を作りあげた。
それから少年は彼女に向けて手招きをし、そっと自分の口元に指をやると合図を送る。
彼女は焦りからか少々もたついてしまうが、少年の手助けにより池の中に入れた。
…………こぽっ……こぽ……ぶくぶく……こぽ……。
深く、深く…………もっと、深くに逃げなきゃ。
早く、早く。
そうしなきゃ、あの時と同じような…………。
なんて、彼女はそう思っているのだろう。
魔の手から逃れられるといいが。
それを聞いた瞬間、彼女含め少年は胸騒ぎがしていた。
強い恐怖と同時に。
なので彼女が池に入った瞬間に、「隠遁」でもかけたのか池ごと姿がなくなった。
そして少年は木の上に飛び乗り、手を頭の後ろにやって足を組んで寝転がる。
いかにも寝ていました、と言うような格好をする。
その間にも地面を踏みしめる音や、草をかき分ける音が遠くから聞こえてくる。
草を切りながら進んでいるようにも、聞こえてしまうかもしれない。
「ふぅ……あと少しだ……!」
その暑苦しい声と声量さえなければいいのにな。
とりあえずは……。
「うわ、こっち来るの……。」
少年は彼女にしか聞こえない程度にそう、呟いた。
ガサガサ、ザッザッ……。
ザッ…………!!
そこに現れたのはローブと黒手袋を着け杖を持っている男性だ。
『まるで紛い物のようだ、その瞳も顔も』
「…………やっと見つけたぞ、こんな所にいたんだな。」
幹部に出会った時、開口一番に言われたのを覚えていないだろうにそう言うのは、恨みが根深い証座だ。
…………こぽっ……こぽ……ぶくぶく……こぽ……。
一方彼女は深く潜り、それから耳を塞ぎ目を強くつぶっており、恐怖に耐えている。
「……すー、すー。」
彼は本当に眠っているようだ。
そっと囁くように呟いた。
「…………ふ、眠っているのか?」
周りを見渡しているようだ。
「うーん、何処にも見当たらないな。」
怖気が凄まじい。
「………………」
魔法を発動するようで詠唱を始めた。
囁くように、風に乗せるように。
魔法陣が構築されていく、それは巨大で。
幾つもの魔法陣が空中に描かれていく。
何色もの光が迸る。
『浅ましい【人間】』
『覚悟しろ、魔王!』
『仕向けたか、哀れな【人間】が』
『誰の事だ!』
『浅ましい【人間】の。
おまえがよく知っているだろう』
『…………?』
フードで隠れているためによく見えないが、呪文を詠唱し続ける男性の顔が、笑っているように見えた。
歪な笑顔であり、それが美貌に似合わない。
これ以上はさておき、男性は何をしているのだろうか。
【《……よく見てみるといい。》】
よく観察してみると、魔法陣から迸る光が幾つもある。
そのどれもが禍々しい。
………周りには魔物を斬殺した形跡もある。
持っている杖は無事のようだ。
はまっている宝石は未だ輝きを失っていない様子。
初見だと煌めく宝石のように、美しく見えるだろう。
何も知らない方がまだ夢に浸れて、更にはその美貌に思いを馳せる事が出来るので幸せだろうとも。
が、一部のモノが実態を暴くと。
何処かが壊れているかのように、その両目は暗く澱んでいるだけなのだから素晴らしい。
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