常世の彼方

ひろせこ

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黒の章

21.迷宮の主

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 何かに急かされるように走るリョウと、その背中を追うマリーとヨシの3人はこの遺跡に入って初めての分かれ道に遭遇した。苛立たし気に舌打ちをして足を止めたリョウに、マリーたちが追いつく。左側の道はこれまで来た道と同様、緩やかな下り坂で少し先でカーブしているため、それより先は見えない。右は平坦な道がまっすぐに続いている。
「困ったわね。ここへきて道が分かれるなんて。」
「トウコさんが落ちた穴がどこに繋がっているか分かりませんが、最奥だと考えるなら下っている左の道でしょうか・・・。」
マリーとヨシが相談していると、リョウが左の道を睨み付けながら小声でそれを制した。
「待て。誰かくるぞ。」
3人が少し後退し武器を構えたまま警戒していると、左側のカーブした道の先から濃紺の外套を頭からすっぽりと被った人物がゆっくりと歩いて現れた。その人物が抱えているものを見止めたリョウが目を見開いて叫ぶ。
「トウコ!」
その声に足を止めた外套の人物が口を開いた。
「君たちは彼女の仲間かい?」
抑揚の少ない、感情が籠っていないような声だった。それには答えず、怒気を帯びた口調でリョウが「てめえ、トウコに何しやがった。」と聞くと、「・・・酷いな。死にかけていた彼女を助けたというのに。」と、また感情が籠っていない口調で男が言う。
「とりあえずそちらに行ってもいいかい?僕に敵意はないよ。その物騒なものを下ろしてくれると嬉しいのだけれど。」と続けた男に、リョウはそれでも警戒を解かない。
そこで初めて男が少し困ったような口調で言った。
「彼女は本当に酷い怪我をしていて、あのまま死んでいてもおかしくなかった。治癒魔法をかけたけれど、僕は治癒魔法がそんなに得意じゃないんだ。だから君たちの中に治癒魔法が得意な者がいるなら、彼女を再度治癒してくれると嬉しい。」
最初はリョウに、後半は明らかにマリーに向けて放たれた言葉にマリーは少したじろいだが、構えていたバトルハンマーを下ろし「リョウ」と小さく呟いた。
リョウは小さく舌打ちした後、短剣を下ろして少し後ろに下がり、それを見たヨシもまた剣を下ろした。
男は小さく頷くと静かに歩みを進め、リョウたちから5メートルほどの所まで来ると、「そっちの道の先に少し開けた場所がある。水場もあって休憩するのに丁度いいからそこまで行こう。」
そう言った男はトウコを抱かかえたまま右の道へと入って行く。リョウはその後ろ姿を苦々し気に睨み付け、「くそっ」と口の中で小さく叫ぶと男の後を追った。

男とリョウたち3人は一定の距離を取り、しかしいつでも攻撃できる距離を保ちながら進んでいく。男は自分が少しでも不審な行動をすればリョウから攻撃されることが分かっているだろうに、そんなことは微塵も気にしていない落ち着いた様子で歩いている。誰も声を発さない張りつめた空気の中、5分ほど歩いたところで男が前を向いたまま唐突に口を開いた。
「君は彼女の恋人なのかい?」
誰に向けた問いでもなかったが、明らかにリョウに向けたそれに「そうだ。」とリョウが間髪入れずに答える。
「そうか。」と頷いた男の口調はやはり、何の感情も籠っていないかのように平坦だった。

それからすぐ、男の言った通りに小部屋のような少し開けた場所に出た。男は中央まで歩みを進め、リョウたちの方へと向き直るとトウコの体を地面にそっと降ろす。そのままリョウたちを見たまま、3メートルほど後方へと移動した。
リョウとマリーがトウコへと駆け寄り、トウコの側へ膝をついたリョウがトウコの血にまみれた顔を両手で包み込み、己の額をトウコの額へ付ける。
「トウコ・・!」
震える声でトウコの名を呼ぶリョウにマリーが冷静な声で、「リョウ、とりあえず今はトウコの傷を見せなさい。」と言いながら、リョウを押し退ける。
マリーがトウコを包んでいた毛布を剥ぐと、血まみれの体が露わになり、その姿を見たリョウとマリーが息を飲む。後方で控えているヨシも「ひっ」と小さく叫んだ。
そんな様子を見ていた男が「とりあえず傷は塞いで出血も止まっているから安心していい。腕と足、恐らく肋骨も折れていたようだからそれも治癒した。分かる範囲で治癒したつもりだけれど、さっきも言ったように僕は治癒魔法が得意ではないんだ。だから再度、治癒をお願いするよ。それと、彼女の魔力はほぼ枯渇しかけていたんだ。体と魔力の回復どちらも必要だから、眠りの魔法をかけておいた。しばらく目を覚まさないと思うけど心配はしなくていい。」と静かに言った。
その言葉を受け、マリーが言う。
「そう、本当に酷い状態だったみたいね。あなたがいなければトウコは死んでいたわ。心からの感謝をあなたに。」

マリーが治癒を終えると再び毛布でトウコを包み、トウコから体を離す。その様子をマリーの傍らでじっと見ていたリョウが、誰にも渡さないとばかりに即座にトウコの体を抱かかえる。
それを見ながらマリーが大きく息を吐き、「さすがに疲れたわ。トウコが目覚めるまでまだ時間がかかるでしょうし、今日はとりあえずここで野営にしましょう。ヨシ君、あなたも疲れているところ悪いんだけれど、準備を手伝ってくれるかしら?リョウはもうあのまま動かないでしょうから。」と言うと、
「僕も一緒にいいかな」と質問の体は取っているが、その実動く気は全くない口調で外套の男が言う。マリーはちらりとリョウを横目で伺い、「・・ええ、もちろんよ。」と頷いた。

パチパチと小さく火がはぜる焚火の側にマリーとヨシが、そこから少し離れた場所にトウコを抱かかえたリョウが壁を背にして座り、その向かいの壁際に外套の男が座っている。マリーが外套の男をまっすぐ見つめながら聞く。
「それで、あなたがトウコを助けるまでの経緯を伺ってもいいかしら?」
その問いに、「この場所に用があった。そしてたまたま助けた、じゃだめかな。」と、マリーの質問に全く答えていない答えを返す。
「良くはないけどそれ以上答える気はないんでしょう?ただ1つだけ教えて欲しいんだけど、あなた組合員なの?ここへは私たち以外は入っていないと思っていたのだけれど。」
探るような視線でマリーが再度問うと、あっさり男は答えた。
「僕は組合員じゃない。だけど本当にこの場所には個人的に用があったんだ。君たちこそなぜここに?」
これ以上の問いを拒絶するかのように、男がマリーに質問を返す。マリーはそんな男に諦めたように息を吐くと答える。
「私たちは組合員でここには調査で入ったのよ。ここは新しく見つかった遺跡なの。その調査よ。」
「そうか・・・。ここは特にめぼしい物もない遺跡だよ。」
「そのようね。トウコが落ちてからはずっと急いで走ってきたからよくは見ていないけど、道はほとんど一本道で構造は簡単だし、遺物も鉱物もなさそうだったわ。」
「うん、その通りだ。ただ、この遺跡にはあるじがいる。」
その言葉にぎょっと目を剥いてマリーが叫ぶ。
「主がいるの!?」
「この先の道をずっといくと主のいる部屋にたどり着くよ。」
ヨシが驚いたように道の先を凝視し、リョウは無言だったが少し身じろぎした。
そんな3人の様子をしばらく伺っていた男がおもむろに口を開いた。
「それで・・君たちは主を倒すかい?」

少し試すような口調で外套の男は言った。
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