常世の彼方

ひろせこ

文字の大きさ
22 / 100
黒の章

22.2人の男

しおりを挟む
 遺跡のあるじ、あるいは迷宮のあるじと呼ばれる存在がいる。
それは迷宮化した遺跡の最奥にいる存在で、通常は強力な魔物であることが多い。主は遺跡を守る存在だと言われており、事実、主がいる遺跡においてそれを倒すと、遺跡はこれまでの姿と一変し、全く違った姿を現す。
通常、主が存在する遺跡は巨大で深く、主はその深奥に在るため到達するのも困難であることから、主が討伐されることは稀だ。
現在、組合員に解放されている迷宮化した遺跡の中には、おそらく主が存在すると思われている遺跡もあるが、もちろん討伐には至っていない。
しかし、これまで主が討伐された遺跡は数は少ないがもちろん存在する。それらの遺跡はすべて宝物庫へと姿を変えたという。そのため、主を倒せば一攫千金も夢ではなく、本来の意味合いでの遺作探索を行っている数少ないチームは、この主を倒すことを目指していると言ってもよい。
もちろんトウコたち3人は、主を倒して一攫千金を目指したことなど一度も考えたことがなかった。

「普通、主がいる遺跡はもっと巨大で複雑でしょう?こんな簡単な構造で、しかも表層に主がいるなんてにわかには信じられないわ。」
マリーがそう言うと、「信じなくても構わないよ」と外套の男は返す。
「それにどうしてあなたはここに主がいるって知っているの?」という問いには、沈黙が返ってきた。
何も答えない男にマリーが諦めたようにため息を吐いた時、男が口を開いた。
「それで、さっきの僕の問いにも答えて欲しいな。ここに主がいた場合、君たちはそれを倒すかい?」
その問いに、マリーは「無理よ」と即答した。
「仮に本当に主がいたとして、今の私たちには倒せないわ。トウコがこの状態だもの。トウコが目覚めたら、私たちは即座に撤退するわ。」
「うん。そうだろうね。」
男は頷き、「彼女の代わりに僕が戦うと言ったらどうだろう?僕は魔導士だ。魔力も高いから十分戦力になるよ。」と続けた。
 その言葉にマリーが少し眉を顰め、ヨシが驚きに目を見開き、それまで黙っていたリョウが「駄目だ。」と静かに、しかし鋭い声でそれを拒絶する。

男は断られたことを気にした風でもなく、「理由を聞いても?」と問うたが、リョウは黙ったままだ。代わりにマリーが首を振りながら、
「申し訳ないけれど無理よ。あなたと一緒に行くことはできないわ。あなたを信用することができないもの。トウコを助けてもらった恩はあるけれど、それとこれとは別だわ。」
と断言し、さらに「あなたは自分の姿を見せることもしない人物を信用できるの?」と続けた。

逆に問われた男は「できないね。」とあっさり答え、更に言葉を続ける。
「姿を見せられない事情があってね。それに関してはこれでも申し訳ないと思っているよ。」
全く申し訳なく思っていない口調で言う男に対し、マリーは男を見据えてきっぱりと言った。
「こちらもあなたの姿を見たいと思っているわけじゃないから別にいいわ。トウコを助けてくれたことにはとても感謝している。けれど、あなたと一緒に行くことはできない。それだけよ。」

マリーの拒絶の言葉を聞いた男は、少し俯き何かを考えている風だったが、おもむろに立ち上がると来た道を、主がいるという道とは反対の方へと歩き出した。
それを見たマリーが慌てて、「ちょっと!どこへ行くの!?」と男の背中へと声をかけると、男は立ち止まり背を向けたまま言った。
「彼女はもう大丈夫だ。君たちが主を倒さないというならここにいる意味はない。」
そしてそのまま歩みを進めると、これまでとは異なる少し感情の乗った声で言った。
「彼女をよろしく頼む。」

即座にリョウが「お前に頼まれる謂れはない。」とぞっとするほど低い声で言い返す。
男の言葉に少し目を瞠ったマリーが、リョウのことを窺いながら戸惑い気味に「・・・あなたトウコのことを知っているの?」と聞いた。
男はその問いには答えず、再び足を止めると、
「もしも・・・。もしも彼女に君が殺されそうになったら。君はどうする?」とまた抑揚のない声で問うた。
リョウが低い声で断言する。
「トウコを殺して俺も死ぬ。」
「もしも君が彼女を殺さなければならくなったら?」
「同じだ。トウコを殺して俺も死ぬ。トウコを1人では死なせない。」
リョウの言葉を聞いた男は振り返りトウコを一瞥すると「頼んだよ。」と言い、リョウの「死ね」という殺意の籠った声を背に受けながら、道の奥へと消えた。

その様子を、固唾を飲んで見守っていたヨシが盛大に息を吐き出し脱力する。
「ちびりそうでした・・・いえ今でもちびりそうです。もしかしたらちびったかもしれません。」
マリーが仰向けに倒れながら頷く。
「・・・私もよ。ちょっとリョウ。いい加減その殺気どうにかしなさいよ。」
無言のままのリョウを一瞥したマリーがズボンのポケットから懐中時計を取り出して言う。
「はぁ。もう朝よ朝。もうすぐここに入って丸一日が経つわ。ヨシ君、休みなさい。どうせリョウはあのまま寝ないだろうし、あの殺気じゃ魔物も近づかないわよ。私も寝るわ。リョウ、見張りよろしくね。トウコが目覚めたら起こしてちょうだい。」

マリーはそのまま毛布に包まるとすぐに寝息を立て始めた。
その様子を見たヨシも、躊躇いがちにリョウを窺い、ペコリと頭を下げるとマリーと同じように毛布に包まって横になった。


リョウは2つの昏い穴のような目で、じっと男が消えた道の奥を睨みつけていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

〖完結〗終着駅のパッセージ 

苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。 その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。 婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。 孤独な結婚生活を送る中。 ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。 始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。 他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。 そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。 だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。 それから一年ほどたった冬の夜。 カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。 そこには彼の想いが書かれてあった。 月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。 カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。 ※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。 ※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。 稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。

チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。 ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。 今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。 産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。 4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。 そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。 婚約も解消となってしまいます。 元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。 5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。 さて・・・どうなる? ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

処理中です...