常世の彼方

ひろせこ

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黒の章

25.蛇

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「いたな。」
「いたなぁ・・・。」
「いたわね・・・。」
「いましたね・・・。」

一行が休憩地点を出発して歩くこと15分。洞窟の先にぽっかりと開けた空間が現れた。トウコらは、その場所から少し離れた地点で足を止めて中を窺っていた。
洞窟から続くその場所は、洞窟と同じごつごつとした岩肌をした広場のような場所になっており、上からは光が差し込んでいて明るい。戦うには十分な場所だった。
その中心部と思われる場所に、1人の女がこちらを見たまま寝そべっている。艶やかで燃えるような真っ赤な髪は、緩やかに波打って腰まで垂れている。ぼってりとした真っ赤な唇に、少し垂れ目がちで濡れたように金色に光る瞳。女の顔はぞくっとするほど艶めかしい。真っ赤な髪以外、肌を隠すものは身に着けておらず、白く豊かな美しい一対の乳房をおしげもなくさらしたその姿は淫らで官能的だ。しかし、その下半身は蛇―女はラミアだった。

「お前好みの女じゃないか。リョウ。」
「あの体が嫌いな男はいないだろ、なあヨシ。」
「ちょ、ちょっと僕には荷が重いです・・・。」
「アナタ好みなんだったら、ちょっと行ってきなさいよ。」
「お断りだ。体は最高だが顔が好きじゃねえ。俺は強気で勝気な顔した女を組み伏せるのが好きなんだ。おまけに下半身が最悪だ。」
しばらくそうして現実逃避を兼ねて様子を窺っていた4人だったが、息を1つ吐いたトウコが腰に付けたポーチからフィンガーレスのグローブを取り出して装着し始めた。それを見たヨシが声をかける。
「トウコさん、どうしたんですか?」
「それ指の関節と手の甲の部分に金属が入ってんだよ。」
「トウコがそれで殴ると、普通の魔物だとそれはそれは酷い状態になるのよねぇ。だから普段は使わないのよ。」
トウコの代わりにリョウとマリーが応え、
「あまり好きじゃないんだけどね。体調が万全じゃないから、少しでも補おうかと思ってな。」とトウコが続けた。そして、グローブの装着具合を確かめるように両手を動かすと、未だに寝そべったままこちらを見ているラミアを真っ直ぐに見て言った。
「ここで現実逃避をしていても仕方ない。そろそろ行くぞ。」
「トウコ、お前は万全じゃないんだ。無理すんなよ。」
「それこそ無理ってもんだろう。全力でいくさ。」
「ヨシ君、あなたはこの通路にいなさい。私たちはもうあなたを守ってあげられないわ。荷物ももう守らなくていいわよ。その辺に捨てて身軽になっておきなさい。」
「大丈夫です!僕のことは忘れてもらって構いません!ご、ご武運を!」
ヨシに見送られた3人は、そのまま静かに女のいる広場へと足を踏み入れた。ヨシは、自分も一緒に戦えない悔しさを抱えながら、祈るような気持ちで3人の背中を見つめた。

トウコらがそのまま真っ直ぐ歩みを進め、ラミアの位置から10メートルほど離れた場所で足を止めると、ゆっくりとラミアが体を起こした。
「やっと来たのね。待ちくたびれちゃったわ。」
艶のある少し鼻にかかった甘えたような声が響く。
「もう1人、男がいたはずでしょう?彼はどうしたのかしら。彼いい男なのよ。あなたは知っているわよね?」
少し首を傾げトウコを見ながらラミアが言うが、トウコは黙ったままだ。
爬虫類のように縦に走った瞳孔の目で、今度はリョウを熱っぽく見つめたラミアが言う。
「まあいいわ。彼には負けちゃうけど、あなたもいい男ね。私、ソフィアって言うの。あなたのお名前を知りたいわ。」
「一夜の相手には名前を言わない主義なんだ。悪いな。」
「それは残念ね。もう少しおしゃべりをしたい気分なのだけれど、あなたたちはそうでもなさそうね。うふふ。それじゃあ遊びましょう。」
そう言い終わると同時に、ラミア―ソフィアの姿が掻き消える。トウコとリョウが地を蹴り、それぞれ左右に飛び退いた瞬間、2人がいた位置にラミアが現れ蛇の下半身を振るう。避け損ねたマリーの体が吹っ飛び、そのまま入ってきた通路のすぐ近くの壁に激突する。
トウコとリョウはマリーには一瞥もくれず、リョウが魔力を込めた魔力石をソフィアに向かってばら撒く。途端、爆発とともに爆煙が上がり、煙に紛れて左側面に回り込んだトウコが右の拳をソフィアの顔に叩き付ける。しかし、トウコの腕に2匹の蛇へと姿を変えたソフィアの髪が巻き付き、ソフィアの顔寸前で動きを止められた。トウコが自由な左手で右腕に絡みついた蛇を強引に引き千切り、ソフィアの腹を蹴りながら後ろへ飛んだ時、反対側から飛び込んできたリョウが右手の短剣をソフィアの首に振るった。
リョウの短剣は淡く輝く青い防壁に阻まれたが、即座に左の短剣を再度振るうとソフィアの左腕が空を舞い血が噴き出す。瞬間、赤い髪がもう1匹の蛇へと姿を変え、リョウに向けて炎を吐く。それをリョウは後ろに飛んで避けた。
ソフィアは切り落とされた左腕には構わず、トウコに顔を向けると可愛らしく小首をかしげ問うた。
「女の顔を殴ろうとするなんて同じ女としてどうなの?」

その時、切り落とされ地面に落ちていたソフィアの腕が蠢き、数十匹の小さな蛇へと姿を変え、ソフィアの下半身に潜り込んでいく。ソフィアの左肩から再度小さな蛇が蠢きながら現れると、体を絡ませ合いそのまま左手へと姿を変えた。
「きっもちわりぃ・・・」
それを見たリョウが盛大に顔を顰めて呟く。
「失礼な男は嫌いなの。死になさい。」
言い終わる前に、下半身をバネのようにしならせてリョウの目前へと移動したソフィアが、右腕をリョウへと振るう。
咄嗟に両腕を交差させ障壁を張ったリョウだったが、障壁が砕け後ろに吹き飛ばされるも、宙で一回転して着地すると再度、ソフィアへ向けて地を蹴った。
ソフィアがリョウを吹き飛ばした隙に、トウコがソフィアの後方に走り寄り右足で蹴りを叩きこむが、障壁に阻まれる。それに構うことなく続けて回し蹴りを放つと、今度は障壁が砕けソフィアの右わき腹が抉れた
即座にソフィアの髪が蛇へと姿を変え、その口から炎を吐き出す。トウコが体を捻って炎を躱した瞬間、ソフィアが蛇の下半身を振るい、今度は避けきれずにトウコもまた吹き飛ばされた。
吹き飛ばされて倒れたトウコに向かって追撃のためにソフィアが移動し、蛇の下半身をトウコに叩き付けようとした時、トウコとソフィアの間に飛び込んできたリョウが両手の短剣を走らせる。
ソフィアの右腕が胴体から離れ、真っ白な乳房に真横に線が入る。ソフィアは右腕と胸から血を噴き出しながら後ろへと飛び、2人と距離を取った。

「トウコ以外の女に殴り飛ばされたのは初めてだ・・・トウコ並みの怪力かよあの女・・・。大丈夫かトウコ。また防壁張ってなかっただろう阿呆が。」
腹を押さえ、口に溜まった血を吐き出しながらトウコもまた立ち上あがる。
「悪い。助かった。血が足りないし、おまけに魔力も万全じゃないんだ。体の強化しか間に合わなかった。」
2人がソフィアを警戒しながら話している間にも、トウコが抉った右わき腹、リョウが切り落とした右腕、更に切り裂いた胸から蛇が生え、ソフィアの体がみるみるうちに元に戻っていく。

「あれどーすんだよ・・・・。」
うんざりした様子で呟くリョウに、2人に走り寄ってきたマリーが応じる。
「おそらく魔力が尽きるか、体のどこかにある核を壊さない限り再生し続けるわよ。」
「うふふ。その通りよ。私の魔力が尽きるか、核を壊さないと私のことは殺せないわよ。さあ、どうするのかしら?」
「なあ、核の場所を教えてくれよ。」
「そうねぇ、あなたが私と寝てくれたら教えてあげるわ。」
蠱惑的な真っ赤な唇に人差し指を当ててソフィアが言う。
「心が動く魅力的な申し出だがそりゃ無理だな。」
「味わったことのない最高の快楽を感じながら私に食べられたのに。残念ね。」
「そりゃあ心底残念だ・・・。」
マリーがトウコに治癒をかけ、それを微笑みながら見届けたソフィアがリョウとトウコを交互に見ながら口を開く。
「ねえ、あなたたちは恋人同士なの?」
「だったらどうしたっていうんだ。」
「仲が良さそうで素敵だわ。私いいこと思いついたの。」
再びマリーの眼前に現れたソフィアが楽し気に続ける。
「だからあなたはいらないわ。ちょっと離れていてね。」
マリーの体が蛇の下半身に巻き取られ、そのまま壁に向かって投げつけられる。胸の前で両手を組んだソフィアが、花が綻ぶような笑顔を浮かべ歌うように言った。
「第2ラウンドを始めましょう。」
ソフィアの体から白い靄が染み出したかと思った瞬間、爆発的に靄が広がり一面を覆う。

トウコとリョウの姿も靄の中に飲み込まれた。
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