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青の章
01.視察団
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女が隣に座る男を見上げながら掠れた声で呟く。
「どういうこと…?私と結婚できないって、他に婚約者がいるって何それ…。」
問われた男は心底バカにしたような目で女を見ると、突き放すように言った。
「色無しのお前と俺が結婚するわけないだろう?」
そう言った男はベッドから立ち上がると、散らばっていた服を拾い上げるとそれを着ながら言葉を続ける。
「お前は色無しだけあって顔も体もいいからな。楽しませてくれてありがとよ。俺は来週結婚するから、もう姿を見せるなよ。ほら、お前もとっとと服着て出て行けよ。」
男はそう言うと、女の下着を拾って投げつけた。
茫然と男を見上げる女の紫の瞳から涙が零れる。
「信じてたのに…。」
女の絶望に染まった声を聞いても男は見向きもしない。
女の視界が怒りで赤く染まる。
「信じてたのに…!」
女はヒステリックな金切り声を上げると、ベッドの側に置いてあった男の短剣を手にすると、男の背中を切り裂く。
悲鳴を上げた男が慌てて振り向き女を取り押さえようとしたが、女はそのまま男の喉を短剣で突いた。男は驚愕に目を見開きながら、ごぼごぼと血を吐き倒れこむと動かなくなった。
その様子を憎悪に満ちた紫の目で見届けた女は、短剣を己の喉に突き刺した。
「…最悪だ。」
目を覚ますなりトウコは忌々し気に言葉を零した。目の前にリョウの心配そうな顔がある。
「うなされてたぞ。また変な夢か?」
「男に騙されて絶望して殺して死んだ。」
「そりゃまた…。」
不愉快そうに眉を顰めて一息に言ったトウコに、リョウもまた顔を少し顰めたが、すぐにニヤニヤすると「トウコに似合わねー夢だな」と言った。
その言葉に、トウコは片頬を上げるとわざとらしい口調で言い返す。
「どうかな?私も絶望してリョウを殺すかもしれない。」
リョウは少し目を細めると、「お前にそこまで想われてたって最期に実感しながら死ぬのもいいかもな。」と真面目な声で囁いた。
その言葉にトウコは何も返さず起き上がろうとするも、その体をリョウが押さえ付け覆いかぶさると噛みつくように深く口付けた。
トウコも噛みつくようにそれに応じると、リョウの髪に右手を絡ませた。
しばらく後、
「アンタたちいつまでヤってんのよ!もう昼よ!いい加減起きてきなさいよ!」
とマリーが叫ぶ声が階下から聞こえてきたが、2人はそれを無視した。
主を倒したあの日から10日が経っていた。なんとかリカと合流し、それから何事もなく第16都市へと帰還した一行だったが、トウコはその後2日間寝込んだ。トウコの体調が戻るのを待ち、組合長に報告した後、3人はのんびりと過ごしている。
宝物庫に比べれば雀の涙だが、ただでさえ高額の遺跡調査の報酬に加え、主討伐の報酬も上乗せされたため、しばらく仕事をしなくても暮らせる十分な金を手にしたからだ。
今日は夕方からヨシとリカも含めた5人で、遺跡調査の慰労会だった。
「油断して落ちた罰としてトウコ持ち」というマリーとリョウに、「主を倒したんだからそれと相殺だろう」と抵抗したが、「主の核を壊したのは俺だぞ。」というリョウの言葉にトウコは抵抗を諦めた。抵抗はしたものの、トウコ自身も皆に迷惑を掛けたことは十分に理解していたことなので、本気で抵抗していたわけではなかった。
「新しいお洋服を買いたいから先に出るからね!店の前で合流よ!」というマリーの声を聞いてしばらく後に、2人はようやく起き出した。
「あー腰いてえ。マリー治癒してくんねえかな。」
「やめとけ。マリーが激怒するのが目に浮かぶ。」
2人がのんびりと会話しながら、自宅のある4区から慰労会を行う店がある3区へと向かう。3区へと入り大通りへ向かっていると徐々に人が増え、大通りに差し掛かった頃には前に進むのも困難なほど人で溢れていた。
「なんで今日はこんなに人が多いんだよ。なんかあんのか?」
「・・・そういえばマリーが言ってたな。第6都市だか第4都市だか忘れたが、首都に近い街からお偉いさんが視察に来てるんだったかな。」
「げぇ。遠くからご苦労なこって…。でもなんで3区だよ。お偉いさんなら2区より以東に行くだろ。」
「死の森に近い辺境の街の市民の暮らしがどうとかだったかな。」
「んなもん見ても何の役にも立たねーだろ。最悪だ。人が多すぎて戻ることもできねえ。」
「お偉いさんを見ようと人がどんどん集まってきてるな。」
2人はうんざりしながら、人波をかき分けるようにして前へと進もうとするが、視察に来た人間を見ようとする人に押されて、徐々に道路の方へと押しやられる。
最初は大通りの中央から遠い端を歩いていたはずが、気づけば中央が見える位置まで2人は移動してしまっていた。大通りの中央は人が入れないようにロープで仕切られており、治安部隊と思われる軍人が等間隔に、中央を背にして立っていた。黒髪が目立つ色無しのトウコを警戒しているのが分かり、2人はなんとか中央から遠ざかろうとするもうまくいかない。そのまま2人がのろのろと進んで行くと、周りの群衆から歓声が上がった。
見ると、封鎖された大通りの向こうから、3区ではあまり見かけない魔導車を先頭にした一団が向かってくるのが見えた。
先頭を進む魔導車は車高が高い軍用トラックで、恰幅のいい身体を立派な軍服に包み、尊大な雰囲気を醸し出した壮年の男が手を振りながら乗っているのが見える。
それをみたリョウがうんざりした様子で呟く。
「お偉いさんって軍人かよ。視察に来たのは軍関係者か。おっさんを見て何が嬉しいんだ…。」
歩くほどの速度で魔導車は進み、2人とすれ違う。魔導車の後ろにもまた車列が続いており、こちらも立派な軍服を着た人間が乗り込んでいる。
そのうちの一人が、トウコを指さしながら隣の男に何か囁くのがトウコの視界に入った。横目でそれを窺っていると、囁かれた方の男がこちらを見て不審そうに目を細める。次いでトウコの隣のリョウに目をやり、驚愕に目を見開いたのが分かった。
男はこちらに向かって何かを叫んだが、群衆の歓声にかき消されて聞こえない。
トウコが気づいたことをリョウが気づいていないはずもなく、トウコはリョウをさりげなく見やったが、リョウは何も気づいていないかのように、先ほどと変わらず人波をかき分けて歩みを進める。
トウコもまた男のこともリョウの様子にも気づいていない振りをして歩みを進めた。
「どういうこと…?私と結婚できないって、他に婚約者がいるって何それ…。」
問われた男は心底バカにしたような目で女を見ると、突き放すように言った。
「色無しのお前と俺が結婚するわけないだろう?」
そう言った男はベッドから立ち上がると、散らばっていた服を拾い上げるとそれを着ながら言葉を続ける。
「お前は色無しだけあって顔も体もいいからな。楽しませてくれてありがとよ。俺は来週結婚するから、もう姿を見せるなよ。ほら、お前もとっとと服着て出て行けよ。」
男はそう言うと、女の下着を拾って投げつけた。
茫然と男を見上げる女の紫の瞳から涙が零れる。
「信じてたのに…。」
女の絶望に染まった声を聞いても男は見向きもしない。
女の視界が怒りで赤く染まる。
「信じてたのに…!」
女はヒステリックな金切り声を上げると、ベッドの側に置いてあった男の短剣を手にすると、男の背中を切り裂く。
悲鳴を上げた男が慌てて振り向き女を取り押さえようとしたが、女はそのまま男の喉を短剣で突いた。男は驚愕に目を見開きながら、ごぼごぼと血を吐き倒れこむと動かなくなった。
その様子を憎悪に満ちた紫の目で見届けた女は、短剣を己の喉に突き刺した。
「…最悪だ。」
目を覚ますなりトウコは忌々し気に言葉を零した。目の前にリョウの心配そうな顔がある。
「うなされてたぞ。また変な夢か?」
「男に騙されて絶望して殺して死んだ。」
「そりゃまた…。」
不愉快そうに眉を顰めて一息に言ったトウコに、リョウもまた顔を少し顰めたが、すぐにニヤニヤすると「トウコに似合わねー夢だな」と言った。
その言葉に、トウコは片頬を上げるとわざとらしい口調で言い返す。
「どうかな?私も絶望してリョウを殺すかもしれない。」
リョウは少し目を細めると、「お前にそこまで想われてたって最期に実感しながら死ぬのもいいかもな。」と真面目な声で囁いた。
その言葉にトウコは何も返さず起き上がろうとするも、その体をリョウが押さえ付け覆いかぶさると噛みつくように深く口付けた。
トウコも噛みつくようにそれに応じると、リョウの髪に右手を絡ませた。
しばらく後、
「アンタたちいつまでヤってんのよ!もう昼よ!いい加減起きてきなさいよ!」
とマリーが叫ぶ声が階下から聞こえてきたが、2人はそれを無視した。
主を倒したあの日から10日が経っていた。なんとかリカと合流し、それから何事もなく第16都市へと帰還した一行だったが、トウコはその後2日間寝込んだ。トウコの体調が戻るのを待ち、組合長に報告した後、3人はのんびりと過ごしている。
宝物庫に比べれば雀の涙だが、ただでさえ高額の遺跡調査の報酬に加え、主討伐の報酬も上乗せされたため、しばらく仕事をしなくても暮らせる十分な金を手にしたからだ。
今日は夕方からヨシとリカも含めた5人で、遺跡調査の慰労会だった。
「油断して落ちた罰としてトウコ持ち」というマリーとリョウに、「主を倒したんだからそれと相殺だろう」と抵抗したが、「主の核を壊したのは俺だぞ。」というリョウの言葉にトウコは抵抗を諦めた。抵抗はしたものの、トウコ自身も皆に迷惑を掛けたことは十分に理解していたことなので、本気で抵抗していたわけではなかった。
「新しいお洋服を買いたいから先に出るからね!店の前で合流よ!」というマリーの声を聞いてしばらく後に、2人はようやく起き出した。
「あー腰いてえ。マリー治癒してくんねえかな。」
「やめとけ。マリーが激怒するのが目に浮かぶ。」
2人がのんびりと会話しながら、自宅のある4区から慰労会を行う店がある3区へと向かう。3区へと入り大通りへ向かっていると徐々に人が増え、大通りに差し掛かった頃には前に進むのも困難なほど人で溢れていた。
「なんで今日はこんなに人が多いんだよ。なんかあんのか?」
「・・・そういえばマリーが言ってたな。第6都市だか第4都市だか忘れたが、首都に近い街からお偉いさんが視察に来てるんだったかな。」
「げぇ。遠くからご苦労なこって…。でもなんで3区だよ。お偉いさんなら2区より以東に行くだろ。」
「死の森に近い辺境の街の市民の暮らしがどうとかだったかな。」
「んなもん見ても何の役にも立たねーだろ。最悪だ。人が多すぎて戻ることもできねえ。」
「お偉いさんを見ようと人がどんどん集まってきてるな。」
2人はうんざりしながら、人波をかき分けるようにして前へと進もうとするが、視察に来た人間を見ようとする人に押されて、徐々に道路の方へと押しやられる。
最初は大通りの中央から遠い端を歩いていたはずが、気づけば中央が見える位置まで2人は移動してしまっていた。大通りの中央は人が入れないようにロープで仕切られており、治安部隊と思われる軍人が等間隔に、中央を背にして立っていた。黒髪が目立つ色無しのトウコを警戒しているのが分かり、2人はなんとか中央から遠ざかろうとするもうまくいかない。そのまま2人がのろのろと進んで行くと、周りの群衆から歓声が上がった。
見ると、封鎖された大通りの向こうから、3区ではあまり見かけない魔導車を先頭にした一団が向かってくるのが見えた。
先頭を進む魔導車は車高が高い軍用トラックで、恰幅のいい身体を立派な軍服に包み、尊大な雰囲気を醸し出した壮年の男が手を振りながら乗っているのが見える。
それをみたリョウがうんざりした様子で呟く。
「お偉いさんって軍人かよ。視察に来たのは軍関係者か。おっさんを見て何が嬉しいんだ…。」
歩くほどの速度で魔導車は進み、2人とすれ違う。魔導車の後ろにもまた車列が続いており、こちらも立派な軍服を着た人間が乗り込んでいる。
そのうちの一人が、トウコを指さしながら隣の男に何か囁くのがトウコの視界に入った。横目でそれを窺っていると、囁かれた方の男がこちらを見て不審そうに目を細める。次いでトウコの隣のリョウに目をやり、驚愕に目を見開いたのが分かった。
男はこちらに向かって何かを叫んだが、群衆の歓声にかき消されて聞こえない。
トウコが気づいたことをリョウが気づいていないはずもなく、トウコはリョウをさりげなく見やったが、リョウは何も気づいていないかのように、先ほどと変わらず人波をかき分けて歩みを進める。
トウコもまた男のこともリョウの様子にも気づいていない振りをして歩みを進めた。
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2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
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