32 / 100
青の章
05.禍根
しおりを挟む
ひと悶着の後、ようやく死の森へと入った一行は遺跡へ向けて進んでいた。
エレナの護衛である前衛の2人が先頭を行き、その後ろをエレナ、荷物持ち、ドライバーが一塊になって進み、残りの護衛2人がその後ろについている。
さらにその後ろをヨシザキとヨシとリカが行き、3人の左にマリーが、右にトウコが付き、最後尾をリョウが進んでいる。
本来ならば1度来たことがあるトウコら3人が先頭を行く方が安全だが、もはやマリーは何も言わず、エレナらが先頭を進むことを止めなかった。一応トウコが「いいのか?」とマリーに聞いたが、「もう知らないわ。勝手にしたらいいのよ。あの女に何かあっても報酬と信用が下がるだけ。そもそも破壊屋だのイカれ屋だの言われてるんだもの。信用なんてくそくらえよ。」と返ってきた。マリーが珍しく切れているので近寄らないでおこう、とリョウとそっと目配せし合い、今に至っている。
何事もなく2時間程が経ち一行が緩やかな傾斜地を進んでいると、前方に大きな岩が見えてきた。
「あれかしら?」とエレナがマリーに聞き、「そうよ。」とマリーがそっけなく答える。目的地が見えたことでエレナや護衛たちの間に少し安堵した空気が流れる中、そのまま数メートルほど進んだ頃、リョウが右手で短剣を抜き左手をタクティカルベストのポケットに添えた。マリーもまたいつでもバトルハンマーを握れるよう構え、トウコは少し瞳を険しくすると、「何が起こっても動くんじゃないよ。今のまま一塊になっているんだ。」とヨシザキ、ヨシ、リカに囁いた。
ヨシザキとリカが顔を青くし、ヨシがしっかりと頷くとリカの肩を守るように抱いた。
「あの馬鹿ども気づいてないな。」
リョウが舌打ちして囁き、マリーもまた舌打ちすると「気を付けなさい。何かいるわよ。」と前方に向かって静かに警告を発した。
その警告に弾かれたように先頭を歩いていた護衛の1人が振り向き、「馬鹿が!よそ見するな!」とリョウが叫んだ瞬間、前回トウコらも襲撃を受けたクリムゾンエイプが2頭飛び出してきた。
クリムゾンエイプはそのまま先頭の護衛2人に襲い掛かり、1人はマリーの警告に正しく行動できていたため、大剣でクリムゾンエイプの攻撃を受け止めた。
しかし、振り向いた護衛は反応できずにクリムゾンエイプの振るった腕をまともに食らい、腹から下が千切れ、血とともに内臓をぶちまけながら吹き飛ばされた。
「きゃああああああああ!」
エレナが護衛の血がついた顔を恐怖に歪めて悲鳴を上げる。
「ひっ」と、リカとヨシザキもまた顔を真っ青にして呻いたが、ヨシがすかさず「落ち着いて。トウコさんの言った通りじっとしているんだ。」と声を掛ける。
大剣持ちがクリムゾンエイプの胴を大剣で横薙ぎにし、残った1頭に魔導士が魔法を放つが、どちらもクリムゾンエイプの障壁に阻まれる。
「障壁持ちだと!?」
エレナの護衛たちが動揺したように声を上げる。
護衛たちはそのまま攻撃を続けるが、障壁を壊すことができずにいる。
1頭が魔導士に向かうのを見たトウコが、「後ろから3。左から2。リョウ、マリー持ちこたえろ。」と言い捨てて、強化を掛けた足で一気に踏み込み前へと飛び出した。
「余裕に決まってるでしょ!」とマリーが茂みから飛び出して来た2頭のクリムゾンエイプにバトルハンマーを構えながら応じ、リョウもまた「誰に向かって言ってんだボケ!犯すぞ!」と言いながら、タクティカルベストから取り出した魔力石を前の茂みに向かってばら撒くと同時に駆け出した。
トウコが魔導士の襟首を掴んで後ろへと引き倒し、左足を魔導士に襲い掛かっていたクリムゾンエイプの脇腹に叩き込むと、障壁が砕かれるとともにクリムゾンエイプの身体が真っ二つになる。
トウコは右に飛び退って返り血を回避したが、引き倒されて尻餅をついた魔導士とエレナ、そしてエレナの側についていた中衛の男にクリムゾンエイプから噴き出した血と臓物が降りかかる。エレナが絶叫しながらその場にへたり込んだ。
マリーが襲い掛かってきた1体のクリムゾンエイプの頭を叩き潰しながら、「わざとね。あれ。いつもより多めに魔力使って強化してるわ。」と呟いたのがヨシ、リカ、ヨシザキの耳に届く。
トウコはそのまま大剣持ちが攻めあぐねていた1体の後ろに回り込むと、飛び上がって頭に蹴りを放つ。
トウコの蹴りをまともに食らったクリムゾンエイプの頭が弾け、トウコは動きが止まったクリムゾンエイプの背中を蹴って後ろに跳躍すると、大剣持ちには一瞥もせずに着地と同時にリョウたちの方へと走り出した。
背中を蹴られたクリムゾンエイプが首から血を吹き出しながら前へと倒れる。それを避けることができなかった大剣持ちはそのままクリムゾンエイプの死体の下敷きとなった。
「いい気味だわ。」
マリーがもう1頭を叩き潰しながら呟き、ヨシたち3人が体を寄せ合いながら顔をひきつらせる。
トウコが元いた場所へ戻った時には、マリーもリョウも全て片付けた後だった。
「何が持ちこたえろだ。ボケ。」
リョウがトウコに悪態をつき、「悪い、失言だった。」とトウコが苦笑しながら謝ると、リョウは前方の惨状を見ながら「血の雨降らせやがって。すっきりしたか?」と少し愉快そうに聞いた。
更にトウコが苦笑を深くして、「実は少しやり過ぎたと反省している。」と言うと、「もっとやってもいいくらいよ!」とマリーが即座にトウコの言葉を否定した。
「あんまりやり過ぎると禍根を残すぞ。ほどほどにしとけ。」
リョウがトウコに顔に散ったクリムゾンエイプの血を乱暴に拭ってやりながら言うと、それを聞いたヨシが目を丸くする。
「えっっ!!」
「んだよ、その反応。失礼な奴だな。俺は禍根を残すくらいなら殺すんだよ。あいつらだって、あの店でやっときゃ今頃こんなことにならなかっただろうよ。」
「あ、ハイ。いつものリョウさんで安心しました。」
「ああそうかい。そりゃよかった。―今回はトウコが助けなければ間違いなくあの魔導士もやられていた。もっと言えば俺たちがいなけりゃ全滅してただろうよ。こっちが貸しを作れる立場だったんだから、大人しく貸しを押し付けときゃよかったんだよ。マリーもいい加減頭冷やせよ。」
「リョウに頭冷やせって言われるなんて・・・!でもそうね、その通りだわ。」
「ヨシとリカも怪我はないな?・・・おいヨシザキ。お前いつまでへたり込んでるんだよ。怪我はないだろ?とっとと立て、移動するぞ。」
リョウが呆れたように、青い顔でへたり込んだままのヨシザキに声をかけると、ヨシザキはリョウを見上げ蚊の鳴くような声で答えた。
「こ、腰が抜けました・・・」
リョウが舌打ちし、そのままヨシザキを無視してエレナたちの方へ向かい、トウコが苦笑しながら「マリー頼む。」と言うと、マリーが「はいはい。ヨシザキさん、私がおぶってあげるわ。」と言いながらヨシザキに背を向けてしゃがみ込み、ヨシザキをおぶった。
その間に、トウコは血塗れになりながらクリムゾンエイプの死体の下からどうにか上半身を抜け出すことができた大剣使いの男の元へ行き、手を差し伸べながら声をかけた。
「大丈夫か。」
大剣使いはトウコを睨み付けながら、「お前、わざとやっただろう。」と低い声で言った。
「悪かった。今、仲間にも叱られたところだ。」
トウコが大剣使いの手を取り、クリムゾンエイプの死体から男を引きずり出すと、男は立ち上がり自分の体の惨状を見て顔を顰め、「あーひでえなこりゃ。くせえし、最悪だよ。」とぼやいた。
次いでトウコを見ると、「こっちも悪かった。助かった。」と続けた。
「いいさ。・・仲間は残念だったな。」
トウコが少し離れた場所に体が千切れて倒れている男を見ながら言う。
「・・・。油断したあいつが悪い。お前の仲間がせっかく教えてくれたのにな。俺も油断してた。」
トウコは男を一瞥すると何も言わずに、未だに青い顔をして震えて座り込んでいるエレナたちの方へ足を向けた。それを見た大剣使いもトウコと一緒に歩き出す。
リョウはトウコに引き倒された魔導士とドライバーの様子を見ており、トウコは自分がエレナに近付くのは得策ではないだろうと思い、大剣使いの男に目配せするとエレナ同様に青い顔で座り込んでいる荷物持ちの男に近付いた。
「怪我はないか?」
トウコが荷物持ちの男に手を差し伸べながら言うと男は顔を上げたが、声をかけてきたのがトウコだと分かると途端に顔を歪め、トウコの手を乱暴に払い除けた。
「誰がお前の手なんか借りるか!この忌み子が!」
言われたトウコが少し肩を竦めて「そりゃ悪かった。もう近づかないよ。」と言った時、「ひっ」と小さく悲鳴が聞こえた。トウコが視線をそちらに向けると、大剣使いの男に介抱されていたエレナが恐怖に顔を歪めてトウコを見ているのが視界に入った。
トウコはエレナから視線を外すとリョウの元へ静かに歩き出した。
リョウの側でそれを見ていた魔導士の男がトウコとすれ違いざまに「すまないな。」と呟き、トウコが足を止めて魔導士の背中を追っていると、男はそのまま荷物持ちの男の腕を取って起こしていた。
リョウがトウコの隣へと来てトウコの肩を抱く。
「これがお前の言う禍根ってやつか?」
「あの女はそうかもしんねーな。でも荷物持ちの男は・・・」
続きを促すようにトウコがリョウの顔を見上げると、リョウは冷たい目で荷物持ちの男を見たまま、言葉を続けた。
「お前あの男に昔何かしてねーか?」
トウコは不思議そうに少し首を傾げてリョウの顔を見続けていたが、小さく笑うと言った。
「・・困ったな。」
「ん?」
「心当たりがありすぎて見当もつかない。」
「はは。そりゃそーだ。愚問だったわ。」
エレナの護衛である前衛の2人が先頭を行き、その後ろをエレナ、荷物持ち、ドライバーが一塊になって進み、残りの護衛2人がその後ろについている。
さらにその後ろをヨシザキとヨシとリカが行き、3人の左にマリーが、右にトウコが付き、最後尾をリョウが進んでいる。
本来ならば1度来たことがあるトウコら3人が先頭を行く方が安全だが、もはやマリーは何も言わず、エレナらが先頭を進むことを止めなかった。一応トウコが「いいのか?」とマリーに聞いたが、「もう知らないわ。勝手にしたらいいのよ。あの女に何かあっても報酬と信用が下がるだけ。そもそも破壊屋だのイカれ屋だの言われてるんだもの。信用なんてくそくらえよ。」と返ってきた。マリーが珍しく切れているので近寄らないでおこう、とリョウとそっと目配せし合い、今に至っている。
何事もなく2時間程が経ち一行が緩やかな傾斜地を進んでいると、前方に大きな岩が見えてきた。
「あれかしら?」とエレナがマリーに聞き、「そうよ。」とマリーがそっけなく答える。目的地が見えたことでエレナや護衛たちの間に少し安堵した空気が流れる中、そのまま数メートルほど進んだ頃、リョウが右手で短剣を抜き左手をタクティカルベストのポケットに添えた。マリーもまたいつでもバトルハンマーを握れるよう構え、トウコは少し瞳を険しくすると、「何が起こっても動くんじゃないよ。今のまま一塊になっているんだ。」とヨシザキ、ヨシ、リカに囁いた。
ヨシザキとリカが顔を青くし、ヨシがしっかりと頷くとリカの肩を守るように抱いた。
「あの馬鹿ども気づいてないな。」
リョウが舌打ちして囁き、マリーもまた舌打ちすると「気を付けなさい。何かいるわよ。」と前方に向かって静かに警告を発した。
その警告に弾かれたように先頭を歩いていた護衛の1人が振り向き、「馬鹿が!よそ見するな!」とリョウが叫んだ瞬間、前回トウコらも襲撃を受けたクリムゾンエイプが2頭飛び出してきた。
クリムゾンエイプはそのまま先頭の護衛2人に襲い掛かり、1人はマリーの警告に正しく行動できていたため、大剣でクリムゾンエイプの攻撃を受け止めた。
しかし、振り向いた護衛は反応できずにクリムゾンエイプの振るった腕をまともに食らい、腹から下が千切れ、血とともに内臓をぶちまけながら吹き飛ばされた。
「きゃああああああああ!」
エレナが護衛の血がついた顔を恐怖に歪めて悲鳴を上げる。
「ひっ」と、リカとヨシザキもまた顔を真っ青にして呻いたが、ヨシがすかさず「落ち着いて。トウコさんの言った通りじっとしているんだ。」と声を掛ける。
大剣持ちがクリムゾンエイプの胴を大剣で横薙ぎにし、残った1頭に魔導士が魔法を放つが、どちらもクリムゾンエイプの障壁に阻まれる。
「障壁持ちだと!?」
エレナの護衛たちが動揺したように声を上げる。
護衛たちはそのまま攻撃を続けるが、障壁を壊すことができずにいる。
1頭が魔導士に向かうのを見たトウコが、「後ろから3。左から2。リョウ、マリー持ちこたえろ。」と言い捨てて、強化を掛けた足で一気に踏み込み前へと飛び出した。
「余裕に決まってるでしょ!」とマリーが茂みから飛び出して来た2頭のクリムゾンエイプにバトルハンマーを構えながら応じ、リョウもまた「誰に向かって言ってんだボケ!犯すぞ!」と言いながら、タクティカルベストから取り出した魔力石を前の茂みに向かってばら撒くと同時に駆け出した。
トウコが魔導士の襟首を掴んで後ろへと引き倒し、左足を魔導士に襲い掛かっていたクリムゾンエイプの脇腹に叩き込むと、障壁が砕かれるとともにクリムゾンエイプの身体が真っ二つになる。
トウコは右に飛び退って返り血を回避したが、引き倒されて尻餅をついた魔導士とエレナ、そしてエレナの側についていた中衛の男にクリムゾンエイプから噴き出した血と臓物が降りかかる。エレナが絶叫しながらその場にへたり込んだ。
マリーが襲い掛かってきた1体のクリムゾンエイプの頭を叩き潰しながら、「わざとね。あれ。いつもより多めに魔力使って強化してるわ。」と呟いたのがヨシ、リカ、ヨシザキの耳に届く。
トウコはそのまま大剣持ちが攻めあぐねていた1体の後ろに回り込むと、飛び上がって頭に蹴りを放つ。
トウコの蹴りをまともに食らったクリムゾンエイプの頭が弾け、トウコは動きが止まったクリムゾンエイプの背中を蹴って後ろに跳躍すると、大剣持ちには一瞥もせずに着地と同時にリョウたちの方へと走り出した。
背中を蹴られたクリムゾンエイプが首から血を吹き出しながら前へと倒れる。それを避けることができなかった大剣持ちはそのままクリムゾンエイプの死体の下敷きとなった。
「いい気味だわ。」
マリーがもう1頭を叩き潰しながら呟き、ヨシたち3人が体を寄せ合いながら顔をひきつらせる。
トウコが元いた場所へ戻った時には、マリーもリョウも全て片付けた後だった。
「何が持ちこたえろだ。ボケ。」
リョウがトウコに悪態をつき、「悪い、失言だった。」とトウコが苦笑しながら謝ると、リョウは前方の惨状を見ながら「血の雨降らせやがって。すっきりしたか?」と少し愉快そうに聞いた。
更にトウコが苦笑を深くして、「実は少しやり過ぎたと反省している。」と言うと、「もっとやってもいいくらいよ!」とマリーが即座にトウコの言葉を否定した。
「あんまりやり過ぎると禍根を残すぞ。ほどほどにしとけ。」
リョウがトウコに顔に散ったクリムゾンエイプの血を乱暴に拭ってやりながら言うと、それを聞いたヨシが目を丸くする。
「えっっ!!」
「んだよ、その反応。失礼な奴だな。俺は禍根を残すくらいなら殺すんだよ。あいつらだって、あの店でやっときゃ今頃こんなことにならなかっただろうよ。」
「あ、ハイ。いつものリョウさんで安心しました。」
「ああそうかい。そりゃよかった。―今回はトウコが助けなければ間違いなくあの魔導士もやられていた。もっと言えば俺たちがいなけりゃ全滅してただろうよ。こっちが貸しを作れる立場だったんだから、大人しく貸しを押し付けときゃよかったんだよ。マリーもいい加減頭冷やせよ。」
「リョウに頭冷やせって言われるなんて・・・!でもそうね、その通りだわ。」
「ヨシとリカも怪我はないな?・・・おいヨシザキ。お前いつまでへたり込んでるんだよ。怪我はないだろ?とっとと立て、移動するぞ。」
リョウが呆れたように、青い顔でへたり込んだままのヨシザキに声をかけると、ヨシザキはリョウを見上げ蚊の鳴くような声で答えた。
「こ、腰が抜けました・・・」
リョウが舌打ちし、そのままヨシザキを無視してエレナたちの方へ向かい、トウコが苦笑しながら「マリー頼む。」と言うと、マリーが「はいはい。ヨシザキさん、私がおぶってあげるわ。」と言いながらヨシザキに背を向けてしゃがみ込み、ヨシザキをおぶった。
その間に、トウコは血塗れになりながらクリムゾンエイプの死体の下からどうにか上半身を抜け出すことができた大剣使いの男の元へ行き、手を差し伸べながら声をかけた。
「大丈夫か。」
大剣使いはトウコを睨み付けながら、「お前、わざとやっただろう。」と低い声で言った。
「悪かった。今、仲間にも叱られたところだ。」
トウコが大剣使いの手を取り、クリムゾンエイプの死体から男を引きずり出すと、男は立ち上がり自分の体の惨状を見て顔を顰め、「あーひでえなこりゃ。くせえし、最悪だよ。」とぼやいた。
次いでトウコを見ると、「こっちも悪かった。助かった。」と続けた。
「いいさ。・・仲間は残念だったな。」
トウコが少し離れた場所に体が千切れて倒れている男を見ながら言う。
「・・・。油断したあいつが悪い。お前の仲間がせっかく教えてくれたのにな。俺も油断してた。」
トウコは男を一瞥すると何も言わずに、未だに青い顔をして震えて座り込んでいるエレナたちの方へ足を向けた。それを見た大剣使いもトウコと一緒に歩き出す。
リョウはトウコに引き倒された魔導士とドライバーの様子を見ており、トウコは自分がエレナに近付くのは得策ではないだろうと思い、大剣使いの男に目配せするとエレナ同様に青い顔で座り込んでいる荷物持ちの男に近付いた。
「怪我はないか?」
トウコが荷物持ちの男に手を差し伸べながら言うと男は顔を上げたが、声をかけてきたのがトウコだと分かると途端に顔を歪め、トウコの手を乱暴に払い除けた。
「誰がお前の手なんか借りるか!この忌み子が!」
言われたトウコが少し肩を竦めて「そりゃ悪かった。もう近づかないよ。」と言った時、「ひっ」と小さく悲鳴が聞こえた。トウコが視線をそちらに向けると、大剣使いの男に介抱されていたエレナが恐怖に顔を歪めてトウコを見ているのが視界に入った。
トウコはエレナから視線を外すとリョウの元へ静かに歩き出した。
リョウの側でそれを見ていた魔導士の男がトウコとすれ違いざまに「すまないな。」と呟き、トウコが足を止めて魔導士の背中を追っていると、男はそのまま荷物持ちの男の腕を取って起こしていた。
リョウがトウコの隣へと来てトウコの肩を抱く。
「これがお前の言う禍根ってやつか?」
「あの女はそうかもしんねーな。でも荷物持ちの男は・・・」
続きを促すようにトウコがリョウの顔を見上げると、リョウは冷たい目で荷物持ちの男を見たまま、言葉を続けた。
「お前あの男に昔何かしてねーか?」
トウコは不思議そうに少し首を傾げてリョウの顔を見続けていたが、小さく笑うと言った。
「・・困ったな。」
「ん?」
「心当たりがありすぎて見当もつかない。」
「はは。そりゃそーだ。愚問だったわ。」
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。
その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。
婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。
孤独な結婚生活を送る中。
ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。
始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。
他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。
そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。
だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。
それから一年ほどたった冬の夜。
カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。
そこには彼の想いが書かれてあった。
月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。
カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。
※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。
※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。
稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる