常世の彼方

ひろせこ

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青の章

05.禍根

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ひと悶着の後、ようやく死の森へと入った一行は遺跡へ向けて進んでいた。
エレナの護衛である前衛の2人が先頭を行き、その後ろをエレナ、荷物持ち、ドライバーが一塊になって進み、残りの護衛2人がその後ろについている。
さらにその後ろをヨシザキとヨシとリカが行き、3人の左にマリーが、右にトウコが付き、最後尾をリョウが進んでいる。
本来ならば1度来たことがあるトウコら3人が先頭を行く方が安全だが、もはやマリーは何も言わず、エレナらが先頭を進むことを止めなかった。一応トウコが「いいのか?」とマリーに聞いたが、「もう知らないわ。勝手にしたらいいのよ。あの女に何かあっても報酬と信用が下がるだけ。そもそも破壊屋だのイカれ屋だの言われてるんだもの。信用なんてくそくらえよ。」と返ってきた。マリーが珍しく切れているので近寄らないでおこう、とリョウとそっと目配せし合い、今に至っている。

何事もなく2時間程が経ち一行が緩やかな傾斜地を進んでいると、前方に大きな岩が見えてきた。
「あれかしら?」とエレナがマリーに聞き、「そうよ。」とマリーがそっけなく答える。目的地が見えたことでエレナや護衛たちの間に少し安堵した空気が流れる中、そのまま数メートルほど進んだ頃、リョウが右手で短剣を抜き左手をタクティカルベストのポケットに添えた。マリーもまたいつでもバトルハンマーを握れるよう構え、トウコは少し瞳を険しくすると、「何が起こっても動くんじゃないよ。今のまま一塊になっているんだ。」とヨシザキ、ヨシ、リカに囁いた。
ヨシザキとリカが顔を青くし、ヨシがしっかりと頷くとリカの肩を守るように抱いた。
「あの馬鹿ども気づいてないな。」
リョウが舌打ちして囁き、マリーもまた舌打ちすると「気を付けなさい。何かいるわよ。」と前方に向かって静かに警告を発した。
その警告に弾かれたように先頭を歩いていた護衛の1人が振り向き、「馬鹿が!よそ見するな!」とリョウが叫んだ瞬間、前回トウコらも襲撃を受けたクリムゾンエイプが2頭飛び出してきた。
クリムゾンエイプはそのまま先頭の護衛2人に襲い掛かり、1人はマリーの警告に正しく行動できていたため、大剣でクリムゾンエイプの攻撃を受け止めた。
しかし、振り向いた護衛は反応できずにクリムゾンエイプの振るった腕をまともに食らい、腹から下が千切れ、血とともに内臓をぶちまけながら吹き飛ばされた。
「きゃああああああああ!」
エレナが護衛の血がついた顔を恐怖に歪めて悲鳴を上げる。
「ひっ」と、リカとヨシザキもまた顔を真っ青にして呻いたが、ヨシがすかさず「落ち着いて。トウコさんの言った通りじっとしているんだ。」と声を掛ける。
大剣持ちがクリムゾンエイプの胴を大剣で横薙ぎにし、残った1頭に魔導士が魔法を放つが、どちらもクリムゾンエイプの障壁に阻まれる。
「障壁持ちだと!?」
エレナの護衛たちが動揺したように声を上げる。
護衛たちはそのまま攻撃を続けるが、障壁を壊すことができずにいる。
1頭が魔導士に向かうのを見たトウコが、「後ろから3。左から2。リョウ、マリー持ちこたえろ。」と言い捨てて、強化を掛けた足で一気に踏み込み前へと飛び出した。
「余裕に決まってるでしょ!」とマリーが茂みから飛び出して来た2頭のクリムゾンエイプにバトルハンマーを構えながら応じ、リョウもまた「誰に向かって言ってんだボケ!犯すぞ!」と言いながら、タクティカルベストから取り出した魔力石を前の茂みに向かってばら撒くと同時に駆け出した。
トウコが魔導士の襟首を掴んで後ろへと引き倒し、左足を魔導士に襲い掛かっていたクリムゾンエイプの脇腹に叩き込むと、障壁が砕かれるとともにクリムゾンエイプの身体が真っ二つになる。
トウコは右に飛び退って返り血を回避したが、引き倒されて尻餅をついた魔導士とエレナ、そしてエレナの側についていた中衛の男にクリムゾンエイプから噴き出した血と臓物が降りかかる。エレナが絶叫しながらその場にへたり込んだ。
マリーが襲い掛かってきた1体のクリムゾンエイプの頭を叩き潰しながら、「わざとね。あれ。いつもより多めに魔力使って強化してるわ。」と呟いたのがヨシ、リカ、ヨシザキの耳に届く。
トウコはそのまま大剣持ちが攻めあぐねていた1体の後ろに回り込むと、飛び上がって頭に蹴りを放つ。
トウコの蹴りをまともに食らったクリムゾンエイプの頭が弾け、トウコは動きが止まったクリムゾンエイプの背中を蹴って後ろに跳躍すると、大剣持ちには一瞥もせずに着地と同時にリョウたちの方へと走り出した。
背中を蹴られたクリムゾンエイプが首から血を吹き出しながら前へと倒れる。それを避けることができなかった大剣持ちはそのままクリムゾンエイプの死体の下敷きとなった。

「いい気味だわ。」
マリーがもう1頭を叩き潰しながら呟き、ヨシたち3人が体を寄せ合いながら顔をひきつらせる。
トウコが元いた場所へ戻った時には、マリーもリョウも全て片付けた後だった。
「何が持ちこたえろだ。ボケ。」
リョウがトウコに悪態をつき、「悪い、失言だった。」とトウコが苦笑しながら謝ると、リョウは前方の惨状を見ながら「血の雨降らせやがって。すっきりしたか?」と少し愉快そうに聞いた。
更にトウコが苦笑を深くして、「実は少しやり過ぎたと反省している。」と言うと、「もっとやってもいいくらいよ!」とマリーが即座にトウコの言葉を否定した。
「あんまりやり過ぎると禍根を残すぞ。ほどほどにしとけ。」
リョウがトウコに顔に散ったクリムゾンエイプの血を乱暴に拭ってやりながら言うと、それを聞いたヨシが目を丸くする。
「えっっ!!」
「んだよ、その反応。失礼な奴だな。俺は禍根を残すくらいなら殺すんだよ。あいつらだって、あの店でやっときゃ今頃こんなことにならなかっただろうよ。」
「あ、ハイ。いつものリョウさんで安心しました。」
「ああそうかい。そりゃよかった。―今回はトウコが助けなければ間違いなくあの魔導士もやられていた。もっと言えば俺たちがいなけりゃ全滅してただろうよ。こっちが貸しを作れる立場だったんだから、大人しく貸しを押し付けときゃよかったんだよ。マリーもいい加減頭冷やせよ。」
「リョウに頭冷やせって言われるなんて・・・!でもそうね、その通りだわ。」
「ヨシとリカも怪我はないな?・・・おいヨシザキ。お前いつまでへたり込んでるんだよ。怪我はないだろ?とっとと立て、移動するぞ。」
リョウが呆れたように、青い顔でへたり込んだままのヨシザキに声をかけると、ヨシザキはリョウを見上げ蚊の鳴くような声で答えた。
「こ、腰が抜けました・・・」
リョウが舌打ちし、そのままヨシザキを無視してエレナたちの方へ向かい、トウコが苦笑しながら「マリー頼む。」と言うと、マリーが「はいはい。ヨシザキさん、私がおぶってあげるわ。」と言いながらヨシザキに背を向けてしゃがみ込み、ヨシザキをおぶった。

その間に、トウコは血塗れになりながらクリムゾンエイプの死体の下からどうにか上半身を抜け出すことができた大剣使いの男の元へ行き、手を差し伸べながら声をかけた。
「大丈夫か。」
大剣使いはトウコを睨み付けながら、「お前、わざとやっただろう。」と低い声で言った。
「悪かった。今、仲間にも叱られたところだ。」
トウコが大剣使いの手を取り、クリムゾンエイプの死体から男を引きずり出すと、男は立ち上がり自分の体の惨状を見て顔を顰め、「あーひでえなこりゃ。くせえし、最悪だよ。」とぼやいた。
次いでトウコを見ると、「こっちも悪かった。助かった。」と続けた。
「いいさ。・・仲間は残念だったな。」
トウコが少し離れた場所に体が千切れて倒れている男を見ながら言う。
「・・・。油断したあいつが悪い。お前の仲間がせっかく教えてくれたのにな。俺も油断してた。」
トウコは男を一瞥すると何も言わずに、未だに青い顔をして震えて座り込んでいるエレナたちの方へ足を向けた。それを見た大剣使いもトウコと一緒に歩き出す。
リョウはトウコに引き倒された魔導士とドライバーの様子を見ており、トウコは自分がエレナに近付くのは得策ではないだろうと思い、大剣使いの男に目配せするとエレナ同様に青い顔で座り込んでいる荷物持ちの男に近付いた。
「怪我はないか?」
トウコが荷物持ちの男に手を差し伸べながら言うと男は顔を上げたが、声をかけてきたのがトウコだと分かると途端に顔を歪め、トウコの手を乱暴に払い除けた。
「誰がお前の手なんか借りるか!この忌み子が!」
言われたトウコが少し肩を竦めて「そりゃ悪かった。もう近づかないよ。」と言った時、「ひっ」と小さく悲鳴が聞こえた。トウコが視線をそちらに向けると、大剣使いの男に介抱されていたエレナが恐怖に顔を歪めてトウコを見ているのが視界に入った。
トウコはエレナから視線を外すとリョウの元へ静かに歩き出した。
リョウの側でそれを見ていた魔導士の男がトウコとすれ違いざまに「すまないな。」と呟き、トウコが足を止めて魔導士の背中を追っていると、男はそのまま荷物持ちの男の腕を取って起こしていた。

リョウがトウコの隣へと来てトウコの肩を抱く。
「これがお前の言う禍根ってやつか?」
「あの女はそうかもしんねーな。でも荷物持ちの男は・・・」
続きを促すようにトウコがリョウの顔を見上げると、リョウは冷たい目で荷物持ちの男を見たまま、言葉を続けた。
「お前あの男に昔何かしてねーか?」
トウコは不思議そうに少し首を傾げてリョウの顔を見続けていたが、小さく笑うと言った。
「・・困ったな。」
「ん?」
「心当たりがありすぎて見当もつかない。」
「はは。そりゃそーだ。愚問だったわ。」

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