常世の彼方

ひろせこ

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青の章

07.遺恨

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 トウコは見張りのために、リョウと2人で神殿の出入り口から一番近い柱にもたれ掛かっていた。ヨシザキから魔物は入ってこないと聞いていたこともあり、リョウはぼんやりと煙草をふかし、トウコは出入口付近に彫られたレリーフも見るともなく見ていた。
レリーフは、男女2人がどこかを歩いているような図柄で、女と思われる髪の長い優しい顔をした方は足首まであるワンピースのようなものを着ている。髪の短い精悍な顔をした男と思われる方は、立派な鎧を着て腰に剣を差していた。2人して少し顔を上げており、空を見上げているような構図だ。
「あの2人、恋人同士なのかな。」
トウコがレリーフを指さしながら言うと、リョウもまた顔をレリーフの方へ向ける。
「ああ。だろうな。」
「幸せそうだな。」
「そうか?」
「リョウには幸せそうに見えないか?」
「俺には浮気した男を女が罵倒してるとこに見えるな。」
リョウがニヤニヤしながら言うと、トウコもまた笑いながら「そうかもな。」と応じた。

そこへ護衛の2人を引き連れてヨシザキがやってくる。
護衛の2人がトウコたちに向かって少し頭を下げ、トウコとリョウも片手を上げてそれに応じる。
「調査は順調かい?」
トウコがヨシザキに問うと、ヨシザキは嬉しくて堪らないとばかりの満面の笑顔で大きく頷く。
「まだざっくりと見回っているだけですけど、この神殿は大変興味深いです!」
「へえ。私は全く分からないから普通の神殿に思えるけどね。」
「そんなことないですよ!そうですね…例えばあの祭壇」
ヨシザキが入り口とは反対側の祭壇を指さす。
「祭壇に女神像が見えますでしょう?実はあの女神像の隣にはもう一体女神像があるのですよ。」
「そうなのか?ここからじゃよく分からないな。」
「それもそのはずで、近づかないと分からないのですよ。と言いますのも、その女神像は倒されて壊れちゃってるんです。」
「壊れている?」
「経年劣化で壊れたのか、何者か―魔物に壊されたのか、はたまた最初からそういう状態で作られたのかはこれからの調査次第ですが、神殿の他の箇所に経年劣化が見られませんし、見ていただけたら一目瞭然なのですが、僕は最初から壊れた状態で置かれたのではと考えています。その女神像は四肢がバラバラなのです。そして、横に立っている女神像が少し悲し気な表情でその壊れた女神像を見ているような構図なのです。面白いでしょう?」
「へえ。四肢がばらばらって闇の女神みたいだな。」
トウコがそう言うと、ヨシザキはその答えを待っていましたと言わんばかりに体を前のめりにして言葉を続ける。

「そうなのです!トウコさんもそう思われますよね!?そうすると隣の女神像は光の女神だと思うのですが、それだと悲し気に見ている理由が分かりませんし・・・。」
「悲し気に見えるだけで、腹ん中では大笑いしているかもしんねーぞ?」
リョウが茶化すように言うも、「なるほど。そういう解釈もありますね。面白い。」とヨシザキが受け入れてしまい、リョウが少し肩透かしを食らったような顔をする。
トウコはそんなリョウを見て少し笑うと、またヨシザキに話しかけた。
「なあ、ヨシザキさん。あのレリーフだけど。」
先ほどリョウと見ていた恋人同士と思われる男女のレリーフを指さすと、それを見たヨシザキが「ああ。」と頷く。
「あれは様々な神殿で比較的よく見られる構図ですよ。光の女神と光の騎士だと言われています。」
「ああ、あれが。」
そこでトウコが何かを思いついたかのように言葉を続けた。

「結局あの2人は結婚したんだろうか。」
ヨシザキがトウコの問いに「え?」という顔をする。
「だって光の女神と光の騎士が結婚すると闇の女神に言ったから争いが起こったんだろう?だから争っている間は結婚していないはずだ。最終的に闇の女神は倒されたから、そのあと2人は結婚して末永く幸せに暮らしましたとさ、になったのかなと思ったんだ。」
ヨシザキはポカンと口を開け、呆けたようにトウコの顔を見ていたが、「そんなこと思ってもみませんでした!確かにその通りですね!どうなんでしょう?ああ…また研究したい内容が増えてしまった!」と頭を抱えながら、調査を続けるためにその場を立ち去った。
そんなヨシザキを呆れた様子で見送ったトウコとリョウだったが、リョウが揶揄うようにトウコに言葉を掛ける。

「お前、俺の度重なる求婚を断り続けている分際で、いたのかどうかもわかんねえ女神の結婚は気になるのかよ。」
「はは。確かにそうだな。なんとなくあのレリーフの2人が幸せそうだからおとぎ話の続きが気になったんだよ。」
「そうか。よしトウコ、結婚しよう。」
「しないぞ。」
リョウはトウコの即答に声を上げて楽しそうに笑うと、トウコの唇に軽く口付けた。

その日の夜、リョウとトウコは見張りをマリーとデニスの2人と交代し、ヨシとリカがいる拠点へと戻ってきていた。
神殿内部は地下にあるということもあり窓はないのだが、何故か昼間は明るく夕方になるにつれて薄暗くなり、夜は明かりがないと困るほど暗くなってしまった。
この現象にトウコたちは首を傾げたが、ヨシザキは「旧跡では不思議でも何でもない現象ですよ。考えるだけ無駄です。」と研究者らしからぬ発言をして、トウコたちの苦笑を誘っていた。
拠点には簡易天幕が2幕張られており、1幕はヨシとリカ、1幕はヨシザキが使用する。本来ならば、ヨシザキとヨシが1幕を使い、残りをトウコたち3人が使用する予定だったが、リカが付いてきたため、トウコたち3人は天幕の外で毛布に包まって雑魚寝になった。
ヨシザキは、「今日調査した内容をまとめたいので。」と言って、早々に自分の天幕に引き籠っている。

トウコたち4人が小さく火を起こした焚火を囲んで取りとめもなく話していると、薄暗い神殿の中、エレナたちの方から1人の男が近づいてくる気配がした。
見ると、エレナたちの荷物持ちである、トウコにずっと敵意を見せていた男がこちらに向かってくるのが分かった。
トウコが少し訝しげに、リョウが口だけで笑った酷薄な顔で男を見る。ヨシとリカは少し緊張した面持ちでトウコを見ていたが、ヨシが立ち上がりマリーの方へ声を掛けようとするのを、トウコが手で制した。
柱にもたれ掛かり座っていたトウコの目の前まできた荷物持ちの男は、相変わらず暗い目でトウコを見下ろすと足を止めた。
トウコが「私には関わりたくなかったんじゃないのか?」と無機質な口調で問うと、男は少し挑戦的な口調で口を開いた。

「久しぶりだな。トウコ。」
その言葉にトウコが少し眉を顰め、リョウは微動だにせず相変わらず酷薄な顔で男を見続ける。
「悪いがどこで会った?」
「はっ!お前にとってはその程度なんだろうな!あんなに良くしてやったっていうのによ!恩人であるあの人を殺したこともお前にとっちゃどうでもいいことなんだろうよ!」
「私がお前の恩人を殺したってことか?」
「俺だけじゃねえ!お前にとっても恩人のはずだ!10年前のことだよ!」
男の怒りに震えた怒鳴り声にトウコは考え込むように少し俯いたが、すぐにはっとしたように顔を起こした。

「お前、あの時の護衛団にいたのか。」
「そうだよ。やっと思い出したか。魔物に襲われてたお前が拾われた時から、ずっとよくしてやってただろう!?」
トウコはまじまじと怒りに満ちた目で己を睨みつけてくる男の顔を見た。
酷い癖っけの髪はほぼこげ茶に近く、光の加減によっては黒にも見える濃い青の瞳は怒りに満ちて吊り上がっているが、少し卑屈な印象を与える。
トウコは昔拾われた護衛団に、瞳が黒に見えることで色無しと他の団員に揶揄われ、瞳を見せることを厭い、いつも卑屈に俯いていた少年の存在を思い出した。

「ああ…お前まさか、ミツルか?」
「そうだよ!やっと思い出したかよ!」
「ミツル…。懐かしいな。」
トウコが少し目を細めて本当に懐かしそうに微笑むと、ミツルは信じられないという顔をして叫んだ。
「よくそんな顔ができるな!俺は…俺はお前のことを信じてたんだ…。なのに、あの人を殺しやがって…あの人は俺の、俺の恩人だったんだ…!父親だと思ってたんだ…。」
最後は声を震わせながら言葉を吐き出したミツルに、トウコは「私も恩人だと思っていたさ。あの時までは。」と静かに言った。
更に言い返そうとしたミツルが、凛とした瞳で見つめてくるトウコを見てはっとしたように口を噤んだ。
騒ぎに気付いたデニスがこちらに駆け寄ってくるのが見えたが、それをリョウが睨んで制すると、足を止めたデニスはその場で困ったように立ち尽くした。

「あの男が私を襲うまでは恩人だと思っていたさ。私が力のない色無しだったらあのままあいつの愛人にでもなんでもなって生き延びてもよかったけどね。生憎そんなものにならなくても生き延びられる力を持ってしまっていたからな。閉じ込められる生き方よりも自由に生きたかった。抵抗したら殺されそうになったから殺したんだよ。今なら殺さずに済んだだろうが、あの時は無我夢中だったしまだ弱かったからね、力の加減が分からずに殺してしまった。」
トウコが感情の籠っていない声で淡々と言葉を紡ぐと、ミツルは両手で顔を覆って嗚咽を漏らす。
トウコはそんなミツルを黙って見つめていたが、リョウが突然口を開いた。
「で?お前はトウコをどうしたいんだ?ガキを犯そうとするその恩人のクソヤロウの仇でも討つのか?」
リョウの冷たい口調にミツルは顔を上げると何かを言おうと口を開いたが、震える唇からは何も言葉が出なかった。
そんなミツルをリョウは心底馬鹿にしたような目を向けると一気に言い放った。

「色無しじゃないのに色無しと馬鹿にされ、本当の色無しのトウコを見下すことでどうせお前は溜飲を下げていたんだろう?だが他に行き場のないお前はトウコに仲間意識も持っていた。色無しのトウコはクソみたいな男が仕切る、拾われた護衛団から出ていくことはできないとお前は思っていた。だがそれは、魔力も少なく雑用しかできない色無しと馬鹿にされるお前も同じだった。だがトウコはそこからいなくなった。行き場のないお前を置いてどこかに行ってしまった。色無しの女がどこかに行ったって生きていけるはずがない。どこかで野垂れ死んでいるはずだ。そう思い込むことで溜飲を下げていたお前の目の前にトウコが現れた。お前はそれが許せなかった。八つ当たりにも程がある。反吐が出るな。」

リョウの辛辣な言葉にトウコが少し苦笑しながら「お前言い過ぎだ。」と窘めたが、リョウはトウコの目を真っ直ぐに見てすかさず言い返す。
「トウコ、お前は一度も卑屈には生きてこなかった。それなのに、卑屈に生きてきた人間に同族扱いされるのが俺は心底気に食わない。」
トウコはその言葉に少し目を瞠ると、「そうか。」と小さく呟いた。
ミツルは両手で顔を覆い、「俺は…俺は…」を震える声で言いながらもう顔を上げることはなかった。
リョウがデニスに目配せすると、デニスがミツルに走り寄ってきて、「すまねえ。」と言いながらミツルの肩を抱いて天幕へと戻って行った。

ミツルの背中が天幕へと消えるのを見届けたトウコは1つ息を吐き、心配そうに成り行きを見守っていたヨシとリカに「騒がせて悪かったね。私らはもう寝るから2人も寝な。」と言葉をかけ立ち上がる。
心配そうにこちらを伺っていたマリーに右手を上げると、トウコは焚火から少し離れた場所で横になった。トウコを後ろから抱き締める形でリョウもまた横になると、毛布で2人の身体を包んだ。

「お前、護衛団なんかにいたんだな。」
「ああ、言ってなかったか?」
「お前の過去に興味ねーからなぁ。聞いたかもしれんが忘れた。」
「養親が死んで娼館に売られてな。客を取らされそうになったから、客の男を殺して逃げたんだよ。で、護衛団に拾われた。9歳ぐらいから13ぐらいまではいたんじゃないかな。」
「おい。今度は娼館で殺した客の関係者がいちゃもんつけにくんじゃねーだろうな。」
「可能性がないとは言えないな。」
茶化すように言ったリョウの言葉に、笑いながら応じたトウコはそのまま言葉を続けた。
「リョウは禍根を残さないために殺すって言ってたけど、殺しても遺恨が残ってしまった。どうしたらいいんだろうな?」
「関係者全員皆殺しだな。」
リョウの少しおどけた口調にトウコも少し笑うと、「血なまぐさい人生だな。」と呟いた。
「血塗れだな。俺の手も、お前の手も。」

リョウはそう言うと、トウコの右手を取り愛おしそうに唇を付けた。
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