35 / 100
青の章
08.過去
しおりを挟む
翌朝、調査2日目となるこの日、天幕から出てきたエレナは少し気まずそうにしていたが、ヨシザキが「あ!エレナさん!今日は調査に行かれますか?行きますよね?さあ、行きましょう!あと2日しかないんです!とりあえず昨日僕が一通り見て回った感想を言いますとですね…!」
と一人で喋りながら、有無を言わさずエレナを調査に連れ出していた。
「やっぱアイツ大物だな。空気読めないハゲかと思ってたけど、ありゃ確信犯のハゲだな。」
「ハゲハゲ言ってるとお前もハゲるぞ。」
のんびりと会話しながら見張りをしつつ、ヨシザキとエレナの2人を見ていたトウコだったが、問題なく2人は調査を進めているようだった。
2日目の調査が終わり、3日目の調査も何事もなく終わった。明日からは帰還するだけとなったその日の夜、新たな騒ぎの火種が再びトウコたちの元へ歩いてやってきた。
拠点でリョウの肩にもたれ掛かって微睡んでいたトウコは、リョウが少し身じろぎする気配で目を覚ました。
頭の上から「放っておいてやってんのに何でわざわざ自分から来るんだよ…」とウンザリしたリョウの声が聞こえ、その声に目を開けるとエレナがこちらに向かってくるのが見えた。
「今度はエレナか。やっぱり私に用かな。」
「面倒くせーな。おい、ヨシ。デニス呼んで来い。」
身体を起こそうとしたトウコを、リョウが左腕をトウコの肩に回すことでそれを制した。
ヨシがデニスの元へ走っていくのと同時に、エレナの護衛の2人も慌ててこちらへ走ってきてエレナを止めようとするも、エレナは聞く耳を持たずにどんどん近づいてくる。
リョウにもたれ掛かっているトウコには見向きもせずに、エレナは2人の前で足を止めた。
「お前がコイツを気に入らないって言うから、こっちは気を使って距離を取ってやってんだ。もう諍いは起こすな。とっとと戻れ。」
リョウが呆れたようにエレナに言葉を投げると、エレナはそんなリョウの態度には気にした風でもなく口を開いた。
「その忌み子に用があって来たわけじゃないわ。私はあなたに用があるの。」
「お前にあっても俺に用はない。そして俺はお前の用を聞く気もない。分かったな?とっとと散れ。」
明らかに苛立ちを含んだ声にエレナは少し怯んで顔を強張らせたが、それでも1つ息を吸う言葉を発した。
「あなたのことをずっとどこかで見たことがあると思っていたの。やっと思い出したわ。あなた、キサラギ家の人間でしょう?こんなところで忌み子といていい立場じゃないはずよ。ねえ、婚約者がいる男を寝取るってどういう気持ち?私には理解できないわ。さすが忌み子ね。」
一息に言いきったエレナは、後半は未だに少し強張らせていた顔をトウコに向けて嘲笑う口調で言った。
瞬間、リョウが激高した。
こちらに向かって走ってきていたデニスとヨシがリョウの殺気に思わず足を止め、その場にいた全員が体を硬直させた。エレナは顔を真っ青にして体を小刻みに震わせており、何事かと天幕から顔をのぞかせていたヨシザキですら硬直している。マリーが少し足を止めたが、すぐに焦った顔で走り出した。
リョウが激高した瞬間、トウコだけが動くことができた。
トウコは即座にリョウが短剣を抜こうとした右手を左手で押さえこみ、そのままリョウの足を跨ぐと、リョウと向き合う形で座った。
リョウの顔に右手を添え口付けると、リョウは一瞬虚をつかれたように口を開いた。トウコがそのまま己の舌を無理やりリョウの口の中にねじ込むと、リョウは少し顔を顰めたが、体の力を少しだけ抜くと左手でトウコの頭を掴み、トウコの口付けに応じた。しかし、リョウは未だに殺気の籠った目でエレナを睨み付けたままだった。
皆が硬い表情で見守る中、2人はそのまま深い口付けを続け、やっと口を離したトウコがリョウに跨ったまま半身をエレナの方に向けると口を開いた。
「リョウは私の男だ。お前が言ったそのなんとかって男とは会ったこともない。でも、忌み子なんかに婚約者を取られたという間抜けな女の顔は見てみたい気もするな。…ああ、お前が私を嫌うのはお前も忌み子なんぞに男を寝取られたことがあるのか?」
珍しくトウコが侮蔑するような口調で言い、エレナは真っ青な顔をして震えている。
そこへデニスが冷や汗をかきながら割って入った。
「いい加減にしろ!お前は今間違いなくその男に殺されてたぞ!今もトウコが抑え込んでくれてるんだ!」
その言葉に皆がトウコたちを見ると、リョウは未だに短剣を離してはおらず、その手をトウコが掴んでいた。また、トウコは右腕をリョウの肩に回して自分の体におしつけるようにもしていた。
悄然と項垂れたエレナの腕をデニスが取り、天幕の方へと引きずるように連れて行く。
「おい。」
そんな2人にリョウがぞっとするほど低い声で声を掛けた。
「デニス、その女の首に縄でもつけておけ。ここを出るその時まで俺たちの前に姿を出させ
るな。」
「…ああ。本当に悪かった。」
青い顔をしたデニスは頷き、エレナと天幕へ入っていった。
残された全員が未だ緊張に体を強張らせたまま、リョウとトウコを窺う。
トウコはリョウに跨ったまま、「実を言うと今も内心冷や汗かいている。」とリョウを見つめたまま言い、そんなトウコをリョウは冷たく見ると、「余計なことしやがって。」と忌々し気に吐き捨てた。
そこへ息を切らせてやってきたマリーが、「トウコ、助かったわ。絶対にだめだと思ったわよ…。」と言うと、「私もだ。」と苦笑しながらトウコが応じる。
「トウコ、いい加減に手を離せ。折れる。」
トウコがリョウの左腕から手を離して立ち上がると、リョウもまた立ち上がってトウコの腕をつかむと、未だ苛立ちの残る声でマリーに向かって言い放つ。
「今日の見張りの交代はなしだ。デニスに一晩中見張らせとけ。天幕には近づくな。わかったな。」
有無を言わせない口調で言うと、リョウはそのままトウコを引きずるようにしてヨシとリカの天幕へと歩いていく。何かを堪えるように歯を食いしばったリョウの横顔を見上げ、諦めたようにため息を吐くと、トウコは後ろを振り返り皆に向けて手を上げると、「悪い。これ以上リョウを抑えるのは無理だ。」と言い、リョウと一緒に天幕へと入っていった。
2人が天幕へと入っていくと、その場にいた全員が脱力しため息を吐く。
エレナの護衛の1人が、リカとヨシを見て「俺たちの天幕で良ければ来るか?」と声を掛け、「はい…お願いします…。」とヨシが頭を下げる。
それを見たヨシザキが「あのぅ…僕もそちらの天幕に移りたいです…」と呟くと、「…エレナの天幕しか空いてないな。」と言われ絶望に顔を歪める。
「ヨシザキさん、もういっそのこと私とデニスと見張りでもする?ここにいてもいいことは何一つないわよ。」
マリーがそう声を掛けると、「はい…そうします。」と項垂れた。
天幕へ入ったリョウは苛立たし気にタクティカルベストを脱いで床に投げつけると、トウコをきつく抱きしめた。
「悪い。」
「何に対する謝罪だ、それは。」
トウコがリョウの背中を撫でながら聞くと、「…それは言わねえ。けど、すまなかった。」と再びトウコの耳に謝罪が落ちて来た。
「お前が私の過去に興味がないように、私もお前の過去に興味はないよ。今のお前が私にとってのリョウだ。お前が謝ることは何もないさ。」
そこで言葉を切ったトウコだったが、少し笑いを含んだ声で言葉を続けた。
「ああ…エレナを殺そうとしたことは謝れ。護衛対象を護衛が殺すなんて責任問題以前の話だぞ。」
「…それは絶対に謝らねぇ。」
「だろうな。じゃあ、やっぱりお前が謝ることは何もないさ。」
護衛4日目の朝。
神殿での調査が終わり、一行が帰還する日を迎えた。
午前中は撤収作業を行い、昼には神殿を出発して行きと同じように死の森を抜けた先で夜を明かし、5日目となる明日早朝から第16都市へと帰還する予定になっている。
トウコが天幕を出ると、ヨシとリカが朝食の準備をしており、ヨシザキが疲れた顔で座り込んでいた。
「ヨシザキさん、リカ、ヨシ、昨日は悪かったね。」
リカとヨシは微笑みながら「いいえ」と返し、ヨシザキも疲れた顔ながら微笑んで言葉を返す。
「いえ…大丈夫です。トウコさんもお疲れさまでした。」
ともすればセクハラとも取れる発言にトウコは小さく笑うと、「まだリョウのご機嫌は最悪だ。近づかない方がいいぞ、毟られる。」と、未だリョウが寝ている天幕を指さした。
ヨシザキは両手で頭を隠すように覆うと、真剣な顔をして頷いた。
そこへ、マリーとデニスが近づいて来たため、トウコは2人へも謝り、未だにリョウの機嫌が直っていないのでエレナのことはギリギリまで天幕の外に出すなとデニスに注意する。
「あの女はうちの魔術師が眠りの魔法で眠らせてある。移動は毛布で包んで俺が運ぶ。」
デニスの言葉に、「名案だ。」とトウコは声を上げて笑った。
その後、帰還についての打ち合わせをしていると、リョウが天幕から出てきた。
トウコとマリー以外に少し緊張が走り、トウコが苦笑しながら「機嫌は未だに最悪だがキレてるのはエレナに対してだけだから、皆に噛みつきやしないよ。」と言うも、空気は硬いままだった。
そこへヨシザキが「あのぅ…僕、最後にあの祭壇に行きたいのですが…。」と言い出し、デニス、ヨシ、リカがこの空気の中でよくそんなことが言えるなという視線をヨシザキに向ける中、マリーが頷きそれを許可した。
「いいわよ。トウコとリョウがヨシザキさんに付いていきなさい。ここにリョウがいたらみんなが緊張して仕方がないわ。時間はあまりないから少しだけよ。」
マリーの言葉にヨシザキは嬉しそうに笑うと、「さぁさぁ行きましょう!」とトウコとリョウの背中を押した。
ヨシザキに苦笑しながら、トウコはリョウの腕取ると歩き出し、リョウもまた憮然とした表情で歩き出した。
これまでの騒ぎの火種は、火種自身がトウコとの元へと歩いてきた。
しかし、今回最大の騒ぎの火種の元へは、トウコ自らが己の足で近づいてしまった。
と一人で喋りながら、有無を言わさずエレナを調査に連れ出していた。
「やっぱアイツ大物だな。空気読めないハゲかと思ってたけど、ありゃ確信犯のハゲだな。」
「ハゲハゲ言ってるとお前もハゲるぞ。」
のんびりと会話しながら見張りをしつつ、ヨシザキとエレナの2人を見ていたトウコだったが、問題なく2人は調査を進めているようだった。
2日目の調査が終わり、3日目の調査も何事もなく終わった。明日からは帰還するだけとなったその日の夜、新たな騒ぎの火種が再びトウコたちの元へ歩いてやってきた。
拠点でリョウの肩にもたれ掛かって微睡んでいたトウコは、リョウが少し身じろぎする気配で目を覚ました。
頭の上から「放っておいてやってんのに何でわざわざ自分から来るんだよ…」とウンザリしたリョウの声が聞こえ、その声に目を開けるとエレナがこちらに向かってくるのが見えた。
「今度はエレナか。やっぱり私に用かな。」
「面倒くせーな。おい、ヨシ。デニス呼んで来い。」
身体を起こそうとしたトウコを、リョウが左腕をトウコの肩に回すことでそれを制した。
ヨシがデニスの元へ走っていくのと同時に、エレナの護衛の2人も慌ててこちらへ走ってきてエレナを止めようとするも、エレナは聞く耳を持たずにどんどん近づいてくる。
リョウにもたれ掛かっているトウコには見向きもせずに、エレナは2人の前で足を止めた。
「お前がコイツを気に入らないって言うから、こっちは気を使って距離を取ってやってんだ。もう諍いは起こすな。とっとと戻れ。」
リョウが呆れたようにエレナに言葉を投げると、エレナはそんなリョウの態度には気にした風でもなく口を開いた。
「その忌み子に用があって来たわけじゃないわ。私はあなたに用があるの。」
「お前にあっても俺に用はない。そして俺はお前の用を聞く気もない。分かったな?とっとと散れ。」
明らかに苛立ちを含んだ声にエレナは少し怯んで顔を強張らせたが、それでも1つ息を吸う言葉を発した。
「あなたのことをずっとどこかで見たことがあると思っていたの。やっと思い出したわ。あなた、キサラギ家の人間でしょう?こんなところで忌み子といていい立場じゃないはずよ。ねえ、婚約者がいる男を寝取るってどういう気持ち?私には理解できないわ。さすが忌み子ね。」
一息に言いきったエレナは、後半は未だに少し強張らせていた顔をトウコに向けて嘲笑う口調で言った。
瞬間、リョウが激高した。
こちらに向かって走ってきていたデニスとヨシがリョウの殺気に思わず足を止め、その場にいた全員が体を硬直させた。エレナは顔を真っ青にして体を小刻みに震わせており、何事かと天幕から顔をのぞかせていたヨシザキですら硬直している。マリーが少し足を止めたが、すぐに焦った顔で走り出した。
リョウが激高した瞬間、トウコだけが動くことができた。
トウコは即座にリョウが短剣を抜こうとした右手を左手で押さえこみ、そのままリョウの足を跨ぐと、リョウと向き合う形で座った。
リョウの顔に右手を添え口付けると、リョウは一瞬虚をつかれたように口を開いた。トウコがそのまま己の舌を無理やりリョウの口の中にねじ込むと、リョウは少し顔を顰めたが、体の力を少しだけ抜くと左手でトウコの頭を掴み、トウコの口付けに応じた。しかし、リョウは未だに殺気の籠った目でエレナを睨み付けたままだった。
皆が硬い表情で見守る中、2人はそのまま深い口付けを続け、やっと口を離したトウコがリョウに跨ったまま半身をエレナの方に向けると口を開いた。
「リョウは私の男だ。お前が言ったそのなんとかって男とは会ったこともない。でも、忌み子なんかに婚約者を取られたという間抜けな女の顔は見てみたい気もするな。…ああ、お前が私を嫌うのはお前も忌み子なんぞに男を寝取られたことがあるのか?」
珍しくトウコが侮蔑するような口調で言い、エレナは真っ青な顔をして震えている。
そこへデニスが冷や汗をかきながら割って入った。
「いい加減にしろ!お前は今間違いなくその男に殺されてたぞ!今もトウコが抑え込んでくれてるんだ!」
その言葉に皆がトウコたちを見ると、リョウは未だに短剣を離してはおらず、その手をトウコが掴んでいた。また、トウコは右腕をリョウの肩に回して自分の体におしつけるようにもしていた。
悄然と項垂れたエレナの腕をデニスが取り、天幕の方へと引きずるように連れて行く。
「おい。」
そんな2人にリョウがぞっとするほど低い声で声を掛けた。
「デニス、その女の首に縄でもつけておけ。ここを出るその時まで俺たちの前に姿を出させ
るな。」
「…ああ。本当に悪かった。」
青い顔をしたデニスは頷き、エレナと天幕へ入っていった。
残された全員が未だ緊張に体を強張らせたまま、リョウとトウコを窺う。
トウコはリョウに跨ったまま、「実を言うと今も内心冷や汗かいている。」とリョウを見つめたまま言い、そんなトウコをリョウは冷たく見ると、「余計なことしやがって。」と忌々し気に吐き捨てた。
そこへ息を切らせてやってきたマリーが、「トウコ、助かったわ。絶対にだめだと思ったわよ…。」と言うと、「私もだ。」と苦笑しながらトウコが応じる。
「トウコ、いい加減に手を離せ。折れる。」
トウコがリョウの左腕から手を離して立ち上がると、リョウもまた立ち上がってトウコの腕をつかむと、未だ苛立ちの残る声でマリーに向かって言い放つ。
「今日の見張りの交代はなしだ。デニスに一晩中見張らせとけ。天幕には近づくな。わかったな。」
有無を言わせない口調で言うと、リョウはそのままトウコを引きずるようにしてヨシとリカの天幕へと歩いていく。何かを堪えるように歯を食いしばったリョウの横顔を見上げ、諦めたようにため息を吐くと、トウコは後ろを振り返り皆に向けて手を上げると、「悪い。これ以上リョウを抑えるのは無理だ。」と言い、リョウと一緒に天幕へと入っていった。
2人が天幕へと入っていくと、その場にいた全員が脱力しため息を吐く。
エレナの護衛の1人が、リカとヨシを見て「俺たちの天幕で良ければ来るか?」と声を掛け、「はい…お願いします…。」とヨシが頭を下げる。
それを見たヨシザキが「あのぅ…僕もそちらの天幕に移りたいです…」と呟くと、「…エレナの天幕しか空いてないな。」と言われ絶望に顔を歪める。
「ヨシザキさん、もういっそのこと私とデニスと見張りでもする?ここにいてもいいことは何一つないわよ。」
マリーがそう声を掛けると、「はい…そうします。」と項垂れた。
天幕へ入ったリョウは苛立たし気にタクティカルベストを脱いで床に投げつけると、トウコをきつく抱きしめた。
「悪い。」
「何に対する謝罪だ、それは。」
トウコがリョウの背中を撫でながら聞くと、「…それは言わねえ。けど、すまなかった。」と再びトウコの耳に謝罪が落ちて来た。
「お前が私の過去に興味がないように、私もお前の過去に興味はないよ。今のお前が私にとってのリョウだ。お前が謝ることは何もないさ。」
そこで言葉を切ったトウコだったが、少し笑いを含んだ声で言葉を続けた。
「ああ…エレナを殺そうとしたことは謝れ。護衛対象を護衛が殺すなんて責任問題以前の話だぞ。」
「…それは絶対に謝らねぇ。」
「だろうな。じゃあ、やっぱりお前が謝ることは何もないさ。」
護衛4日目の朝。
神殿での調査が終わり、一行が帰還する日を迎えた。
午前中は撤収作業を行い、昼には神殿を出発して行きと同じように死の森を抜けた先で夜を明かし、5日目となる明日早朝から第16都市へと帰還する予定になっている。
トウコが天幕を出ると、ヨシとリカが朝食の準備をしており、ヨシザキが疲れた顔で座り込んでいた。
「ヨシザキさん、リカ、ヨシ、昨日は悪かったね。」
リカとヨシは微笑みながら「いいえ」と返し、ヨシザキも疲れた顔ながら微笑んで言葉を返す。
「いえ…大丈夫です。トウコさんもお疲れさまでした。」
ともすればセクハラとも取れる発言にトウコは小さく笑うと、「まだリョウのご機嫌は最悪だ。近づかない方がいいぞ、毟られる。」と、未だリョウが寝ている天幕を指さした。
ヨシザキは両手で頭を隠すように覆うと、真剣な顔をして頷いた。
そこへ、マリーとデニスが近づいて来たため、トウコは2人へも謝り、未だにリョウの機嫌が直っていないのでエレナのことはギリギリまで天幕の外に出すなとデニスに注意する。
「あの女はうちの魔術師が眠りの魔法で眠らせてある。移動は毛布で包んで俺が運ぶ。」
デニスの言葉に、「名案だ。」とトウコは声を上げて笑った。
その後、帰還についての打ち合わせをしていると、リョウが天幕から出てきた。
トウコとマリー以外に少し緊張が走り、トウコが苦笑しながら「機嫌は未だに最悪だがキレてるのはエレナに対してだけだから、皆に噛みつきやしないよ。」と言うも、空気は硬いままだった。
そこへヨシザキが「あのぅ…僕、最後にあの祭壇に行きたいのですが…。」と言い出し、デニス、ヨシ、リカがこの空気の中でよくそんなことが言えるなという視線をヨシザキに向ける中、マリーが頷きそれを許可した。
「いいわよ。トウコとリョウがヨシザキさんに付いていきなさい。ここにリョウがいたらみんなが緊張して仕方がないわ。時間はあまりないから少しだけよ。」
マリーの言葉にヨシザキは嬉しそうに笑うと、「さぁさぁ行きましょう!」とトウコとリョウの背中を押した。
ヨシザキに苦笑しながら、トウコはリョウの腕取ると歩き出し、リョウもまた憮然とした表情で歩き出した。
これまでの騒ぎの火種は、火種自身がトウコとの元へと歩いてきた。
しかし、今回最大の騒ぎの火種の元へは、トウコ自らが己の足で近づいてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~
水無月礼人
恋愛
私は冒険者ギルド職員ロックウィーナ。25歳の女で担当は回収役。冒険者の落し物、遺品、時には冒険者自体をも背負います!
素敵な恋愛に憧れているのに培われるのは筋肉だけ。
しかし無駄に顔が良い先輩と出動した先で、行き倒れた美形剣士を背負ってから私の人生は一変。初のモテ期が到来です!!
……とか思ってウハウハしていたら何やら不穏な空気。ええ!?
私の選択次第で世界がループして崩壊の危機!? そんな結末は認めない!!!!
※【エブリスタ】でも公開しています。
【エブリスタ小説大賞2023 講談社 女性コミック9誌合同マンガ原作賞】で優秀作品に選ばれました。
簒奪女王と隔絶の果て
紺乃 安
恋愛
穏やかな美青年王子が、即位した途端に冷酷な王に変貌した。そしてそれが、不羈の令嬢ベアトリスの政略結婚相手。
ポストファンタジー宮廷ロマンス小説。
※拙作「山賊王女と楽園の涯」の完結編という位置づけでもありますが、知らなくとも問題ないよう書いてあります。興味があればそちらもお読みください(ただしずいぶんジャンルが違い、とても長いです)。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
異世界の花嫁?お断りします。
momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。
そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、
知らない人と結婚なんてお断りです。
貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって?
甘ったるい愛を囁いてもダメです。
異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!!
恋愛よりも衣食住。これが大事です!
お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑)
・・・えっ?全部ある?
働かなくてもいい?
ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です!
*****
目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃)
未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
猫になった悪女 ~元夫が溺愛してくるなんて想定外~
黒猫子猫
恋愛
ディアナは欲深く、夫にも結婚を強いた悪女として知られた女王だ。当然のように人々から嫌われ、夫婦仲は悪く、病に倒れた時も誰も哀しまなかった。ディアナは、それで良かった。余命宣告を受け、自分の幸せを追い求める事などとうに止めた。祖国のためにできる事は全てやった。思うままに生きたから、人生をやり直せると言われても、人間などまっぴらごめんだ。
そして、《猫》になった。日向でのんびりと寝ている姿が羨ましかったからだ。いざ、自堕落な生活をしようと思ったら、元夫に拾われてしまった。しかも、自分が死んで、解放されたはずの彼の様子が妙だ。
あなた、隙あらば撫でようとするの、止めてくれる? 私達は白い結婚だったでしょう。
あなた、再婚する気がないの? 「お前を愛したりしない」って嬉しい事を言ってくれたのは誰よ!
猫になった孤高の女王×妻を失って初めて色々気づいてしまった王配の恋のお話。
※全30話です。
貴方だけが私に優しくしてくれた
バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。
そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。
いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。
しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる