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青の章
08.過去
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翌朝、調査2日目となるこの日、天幕から出てきたエレナは少し気まずそうにしていたが、ヨシザキが「あ!エレナさん!今日は調査に行かれますか?行きますよね?さあ、行きましょう!あと2日しかないんです!とりあえず昨日僕が一通り見て回った感想を言いますとですね…!」
と一人で喋りながら、有無を言わさずエレナを調査に連れ出していた。
「やっぱアイツ大物だな。空気読めないハゲかと思ってたけど、ありゃ確信犯のハゲだな。」
「ハゲハゲ言ってるとお前もハゲるぞ。」
のんびりと会話しながら見張りをしつつ、ヨシザキとエレナの2人を見ていたトウコだったが、問題なく2人は調査を進めているようだった。
2日目の調査が終わり、3日目の調査も何事もなく終わった。明日からは帰還するだけとなったその日の夜、新たな騒ぎの火種が再びトウコたちの元へ歩いてやってきた。
拠点でリョウの肩にもたれ掛かって微睡んでいたトウコは、リョウが少し身じろぎする気配で目を覚ました。
頭の上から「放っておいてやってんのに何でわざわざ自分から来るんだよ…」とウンザリしたリョウの声が聞こえ、その声に目を開けるとエレナがこちらに向かってくるのが見えた。
「今度はエレナか。やっぱり私に用かな。」
「面倒くせーな。おい、ヨシ。デニス呼んで来い。」
身体を起こそうとしたトウコを、リョウが左腕をトウコの肩に回すことでそれを制した。
ヨシがデニスの元へ走っていくのと同時に、エレナの護衛の2人も慌ててこちらへ走ってきてエレナを止めようとするも、エレナは聞く耳を持たずにどんどん近づいてくる。
リョウにもたれ掛かっているトウコには見向きもせずに、エレナは2人の前で足を止めた。
「お前がコイツを気に入らないって言うから、こっちは気を使って距離を取ってやってんだ。もう諍いは起こすな。とっとと戻れ。」
リョウが呆れたようにエレナに言葉を投げると、エレナはそんなリョウの態度には気にした風でもなく口を開いた。
「その忌み子に用があって来たわけじゃないわ。私はあなたに用があるの。」
「お前にあっても俺に用はない。そして俺はお前の用を聞く気もない。分かったな?とっとと散れ。」
明らかに苛立ちを含んだ声にエレナは少し怯んで顔を強張らせたが、それでも1つ息を吸う言葉を発した。
「あなたのことをずっとどこかで見たことがあると思っていたの。やっと思い出したわ。あなた、キサラギ家の人間でしょう?こんなところで忌み子といていい立場じゃないはずよ。ねえ、婚約者がいる男を寝取るってどういう気持ち?私には理解できないわ。さすが忌み子ね。」
一息に言いきったエレナは、後半は未だに少し強張らせていた顔をトウコに向けて嘲笑う口調で言った。
瞬間、リョウが激高した。
こちらに向かって走ってきていたデニスとヨシがリョウの殺気に思わず足を止め、その場にいた全員が体を硬直させた。エレナは顔を真っ青にして体を小刻みに震わせており、何事かと天幕から顔をのぞかせていたヨシザキですら硬直している。マリーが少し足を止めたが、すぐに焦った顔で走り出した。
リョウが激高した瞬間、トウコだけが動くことができた。
トウコは即座にリョウが短剣を抜こうとした右手を左手で押さえこみ、そのままリョウの足を跨ぐと、リョウと向き合う形で座った。
リョウの顔に右手を添え口付けると、リョウは一瞬虚をつかれたように口を開いた。トウコがそのまま己の舌を無理やりリョウの口の中にねじ込むと、リョウは少し顔を顰めたが、体の力を少しだけ抜くと左手でトウコの頭を掴み、トウコの口付けに応じた。しかし、リョウは未だに殺気の籠った目でエレナを睨み付けたままだった。
皆が硬い表情で見守る中、2人はそのまま深い口付けを続け、やっと口を離したトウコがリョウに跨ったまま半身をエレナの方に向けると口を開いた。
「リョウは私の男だ。お前が言ったそのなんとかって男とは会ったこともない。でも、忌み子なんかに婚約者を取られたという間抜けな女の顔は見てみたい気もするな。…ああ、お前が私を嫌うのはお前も忌み子なんぞに男を寝取られたことがあるのか?」
珍しくトウコが侮蔑するような口調で言い、エレナは真っ青な顔をして震えている。
そこへデニスが冷や汗をかきながら割って入った。
「いい加減にしろ!お前は今間違いなくその男に殺されてたぞ!今もトウコが抑え込んでくれてるんだ!」
その言葉に皆がトウコたちを見ると、リョウは未だに短剣を離してはおらず、その手をトウコが掴んでいた。また、トウコは右腕をリョウの肩に回して自分の体におしつけるようにもしていた。
悄然と項垂れたエレナの腕をデニスが取り、天幕の方へと引きずるように連れて行く。
「おい。」
そんな2人にリョウがぞっとするほど低い声で声を掛けた。
「デニス、その女の首に縄でもつけておけ。ここを出るその時まで俺たちの前に姿を出させ
るな。」
「…ああ。本当に悪かった。」
青い顔をしたデニスは頷き、エレナと天幕へ入っていった。
残された全員が未だ緊張に体を強張らせたまま、リョウとトウコを窺う。
トウコはリョウに跨ったまま、「実を言うと今も内心冷や汗かいている。」とリョウを見つめたまま言い、そんなトウコをリョウは冷たく見ると、「余計なことしやがって。」と忌々し気に吐き捨てた。
そこへ息を切らせてやってきたマリーが、「トウコ、助かったわ。絶対にだめだと思ったわよ…。」と言うと、「私もだ。」と苦笑しながらトウコが応じる。
「トウコ、いい加減に手を離せ。折れる。」
トウコがリョウの左腕から手を離して立ち上がると、リョウもまた立ち上がってトウコの腕をつかむと、未だ苛立ちの残る声でマリーに向かって言い放つ。
「今日の見張りの交代はなしだ。デニスに一晩中見張らせとけ。天幕には近づくな。わかったな。」
有無を言わせない口調で言うと、リョウはそのままトウコを引きずるようにしてヨシとリカの天幕へと歩いていく。何かを堪えるように歯を食いしばったリョウの横顔を見上げ、諦めたようにため息を吐くと、トウコは後ろを振り返り皆に向けて手を上げると、「悪い。これ以上リョウを抑えるのは無理だ。」と言い、リョウと一緒に天幕へと入っていった。
2人が天幕へと入っていくと、その場にいた全員が脱力しため息を吐く。
エレナの護衛の1人が、リカとヨシを見て「俺たちの天幕で良ければ来るか?」と声を掛け、「はい…お願いします…。」とヨシが頭を下げる。
それを見たヨシザキが「あのぅ…僕もそちらの天幕に移りたいです…」と呟くと、「…エレナの天幕しか空いてないな。」と言われ絶望に顔を歪める。
「ヨシザキさん、もういっそのこと私とデニスと見張りでもする?ここにいてもいいことは何一つないわよ。」
マリーがそう声を掛けると、「はい…そうします。」と項垂れた。
天幕へ入ったリョウは苛立たし気にタクティカルベストを脱いで床に投げつけると、トウコをきつく抱きしめた。
「悪い。」
「何に対する謝罪だ、それは。」
トウコがリョウの背中を撫でながら聞くと、「…それは言わねえ。けど、すまなかった。」と再びトウコの耳に謝罪が落ちて来た。
「お前が私の過去に興味がないように、私もお前の過去に興味はないよ。今のお前が私にとってのリョウだ。お前が謝ることは何もないさ。」
そこで言葉を切ったトウコだったが、少し笑いを含んだ声で言葉を続けた。
「ああ…エレナを殺そうとしたことは謝れ。護衛対象を護衛が殺すなんて責任問題以前の話だぞ。」
「…それは絶対に謝らねぇ。」
「だろうな。じゃあ、やっぱりお前が謝ることは何もないさ。」
護衛4日目の朝。
神殿での調査が終わり、一行が帰還する日を迎えた。
午前中は撤収作業を行い、昼には神殿を出発して行きと同じように死の森を抜けた先で夜を明かし、5日目となる明日早朝から第16都市へと帰還する予定になっている。
トウコが天幕を出ると、ヨシとリカが朝食の準備をしており、ヨシザキが疲れた顔で座り込んでいた。
「ヨシザキさん、リカ、ヨシ、昨日は悪かったね。」
リカとヨシは微笑みながら「いいえ」と返し、ヨシザキも疲れた顔ながら微笑んで言葉を返す。
「いえ…大丈夫です。トウコさんもお疲れさまでした。」
ともすればセクハラとも取れる発言にトウコは小さく笑うと、「まだリョウのご機嫌は最悪だ。近づかない方がいいぞ、毟られる。」と、未だリョウが寝ている天幕を指さした。
ヨシザキは両手で頭を隠すように覆うと、真剣な顔をして頷いた。
そこへ、マリーとデニスが近づいて来たため、トウコは2人へも謝り、未だにリョウの機嫌が直っていないのでエレナのことはギリギリまで天幕の外に出すなとデニスに注意する。
「あの女はうちの魔術師が眠りの魔法で眠らせてある。移動は毛布で包んで俺が運ぶ。」
デニスの言葉に、「名案だ。」とトウコは声を上げて笑った。
その後、帰還についての打ち合わせをしていると、リョウが天幕から出てきた。
トウコとマリー以外に少し緊張が走り、トウコが苦笑しながら「機嫌は未だに最悪だがキレてるのはエレナに対してだけだから、皆に噛みつきやしないよ。」と言うも、空気は硬いままだった。
そこへヨシザキが「あのぅ…僕、最後にあの祭壇に行きたいのですが…。」と言い出し、デニス、ヨシ、リカがこの空気の中でよくそんなことが言えるなという視線をヨシザキに向ける中、マリーが頷きそれを許可した。
「いいわよ。トウコとリョウがヨシザキさんに付いていきなさい。ここにリョウがいたらみんなが緊張して仕方がないわ。時間はあまりないから少しだけよ。」
マリーの言葉にヨシザキは嬉しそうに笑うと、「さぁさぁ行きましょう!」とトウコとリョウの背中を押した。
ヨシザキに苦笑しながら、トウコはリョウの腕取ると歩き出し、リョウもまた憮然とした表情で歩き出した。
これまでの騒ぎの火種は、火種自身がトウコとの元へと歩いてきた。
しかし、今回最大の騒ぎの火種の元へは、トウコ自らが己の足で近づいてしまった。
と一人で喋りながら、有無を言わさずエレナを調査に連れ出していた。
「やっぱアイツ大物だな。空気読めないハゲかと思ってたけど、ありゃ確信犯のハゲだな。」
「ハゲハゲ言ってるとお前もハゲるぞ。」
のんびりと会話しながら見張りをしつつ、ヨシザキとエレナの2人を見ていたトウコだったが、問題なく2人は調査を進めているようだった。
2日目の調査が終わり、3日目の調査も何事もなく終わった。明日からは帰還するだけとなったその日の夜、新たな騒ぎの火種が再びトウコたちの元へ歩いてやってきた。
拠点でリョウの肩にもたれ掛かって微睡んでいたトウコは、リョウが少し身じろぎする気配で目を覚ました。
頭の上から「放っておいてやってんのに何でわざわざ自分から来るんだよ…」とウンザリしたリョウの声が聞こえ、その声に目を開けるとエレナがこちらに向かってくるのが見えた。
「今度はエレナか。やっぱり私に用かな。」
「面倒くせーな。おい、ヨシ。デニス呼んで来い。」
身体を起こそうとしたトウコを、リョウが左腕をトウコの肩に回すことでそれを制した。
ヨシがデニスの元へ走っていくのと同時に、エレナの護衛の2人も慌ててこちらへ走ってきてエレナを止めようとするも、エレナは聞く耳を持たずにどんどん近づいてくる。
リョウにもたれ掛かっているトウコには見向きもせずに、エレナは2人の前で足を止めた。
「お前がコイツを気に入らないって言うから、こっちは気を使って距離を取ってやってんだ。もう諍いは起こすな。とっとと戻れ。」
リョウが呆れたようにエレナに言葉を投げると、エレナはそんなリョウの態度には気にした風でもなく口を開いた。
「その忌み子に用があって来たわけじゃないわ。私はあなたに用があるの。」
「お前にあっても俺に用はない。そして俺はお前の用を聞く気もない。分かったな?とっとと散れ。」
明らかに苛立ちを含んだ声にエレナは少し怯んで顔を強張らせたが、それでも1つ息を吸う言葉を発した。
「あなたのことをずっとどこかで見たことがあると思っていたの。やっと思い出したわ。あなた、キサラギ家の人間でしょう?こんなところで忌み子といていい立場じゃないはずよ。ねえ、婚約者がいる男を寝取るってどういう気持ち?私には理解できないわ。さすが忌み子ね。」
一息に言いきったエレナは、後半は未だに少し強張らせていた顔をトウコに向けて嘲笑う口調で言った。
瞬間、リョウが激高した。
こちらに向かって走ってきていたデニスとヨシがリョウの殺気に思わず足を止め、その場にいた全員が体を硬直させた。エレナは顔を真っ青にして体を小刻みに震わせており、何事かと天幕から顔をのぞかせていたヨシザキですら硬直している。マリーが少し足を止めたが、すぐに焦った顔で走り出した。
リョウが激高した瞬間、トウコだけが動くことができた。
トウコは即座にリョウが短剣を抜こうとした右手を左手で押さえこみ、そのままリョウの足を跨ぐと、リョウと向き合う形で座った。
リョウの顔に右手を添え口付けると、リョウは一瞬虚をつかれたように口を開いた。トウコがそのまま己の舌を無理やりリョウの口の中にねじ込むと、リョウは少し顔を顰めたが、体の力を少しだけ抜くと左手でトウコの頭を掴み、トウコの口付けに応じた。しかし、リョウは未だに殺気の籠った目でエレナを睨み付けたままだった。
皆が硬い表情で見守る中、2人はそのまま深い口付けを続け、やっと口を離したトウコがリョウに跨ったまま半身をエレナの方に向けると口を開いた。
「リョウは私の男だ。お前が言ったそのなんとかって男とは会ったこともない。でも、忌み子なんかに婚約者を取られたという間抜けな女の顔は見てみたい気もするな。…ああ、お前が私を嫌うのはお前も忌み子なんぞに男を寝取られたことがあるのか?」
珍しくトウコが侮蔑するような口調で言い、エレナは真っ青な顔をして震えている。
そこへデニスが冷や汗をかきながら割って入った。
「いい加減にしろ!お前は今間違いなくその男に殺されてたぞ!今もトウコが抑え込んでくれてるんだ!」
その言葉に皆がトウコたちを見ると、リョウは未だに短剣を離してはおらず、その手をトウコが掴んでいた。また、トウコは右腕をリョウの肩に回して自分の体におしつけるようにもしていた。
悄然と項垂れたエレナの腕をデニスが取り、天幕の方へと引きずるように連れて行く。
「おい。」
そんな2人にリョウがぞっとするほど低い声で声を掛けた。
「デニス、その女の首に縄でもつけておけ。ここを出るその時まで俺たちの前に姿を出させ
るな。」
「…ああ。本当に悪かった。」
青い顔をしたデニスは頷き、エレナと天幕へ入っていった。
残された全員が未だ緊張に体を強張らせたまま、リョウとトウコを窺う。
トウコはリョウに跨ったまま、「実を言うと今も内心冷や汗かいている。」とリョウを見つめたまま言い、そんなトウコをリョウは冷たく見ると、「余計なことしやがって。」と忌々し気に吐き捨てた。
そこへ息を切らせてやってきたマリーが、「トウコ、助かったわ。絶対にだめだと思ったわよ…。」と言うと、「私もだ。」と苦笑しながらトウコが応じる。
「トウコ、いい加減に手を離せ。折れる。」
トウコがリョウの左腕から手を離して立ち上がると、リョウもまた立ち上がってトウコの腕をつかむと、未だ苛立ちの残る声でマリーに向かって言い放つ。
「今日の見張りの交代はなしだ。デニスに一晩中見張らせとけ。天幕には近づくな。わかったな。」
有無を言わせない口調で言うと、リョウはそのままトウコを引きずるようにしてヨシとリカの天幕へと歩いていく。何かを堪えるように歯を食いしばったリョウの横顔を見上げ、諦めたようにため息を吐くと、トウコは後ろを振り返り皆に向けて手を上げると、「悪い。これ以上リョウを抑えるのは無理だ。」と言い、リョウと一緒に天幕へと入っていった。
2人が天幕へと入っていくと、その場にいた全員が脱力しため息を吐く。
エレナの護衛の1人が、リカとヨシを見て「俺たちの天幕で良ければ来るか?」と声を掛け、「はい…お願いします…。」とヨシが頭を下げる。
それを見たヨシザキが「あのぅ…僕もそちらの天幕に移りたいです…」と呟くと、「…エレナの天幕しか空いてないな。」と言われ絶望に顔を歪める。
「ヨシザキさん、もういっそのこと私とデニスと見張りでもする?ここにいてもいいことは何一つないわよ。」
マリーがそう声を掛けると、「はい…そうします。」と項垂れた。
天幕へ入ったリョウは苛立たし気にタクティカルベストを脱いで床に投げつけると、トウコをきつく抱きしめた。
「悪い。」
「何に対する謝罪だ、それは。」
トウコがリョウの背中を撫でながら聞くと、「…それは言わねえ。けど、すまなかった。」と再びトウコの耳に謝罪が落ちて来た。
「お前が私の過去に興味がないように、私もお前の過去に興味はないよ。今のお前が私にとってのリョウだ。お前が謝ることは何もないさ。」
そこで言葉を切ったトウコだったが、少し笑いを含んだ声で言葉を続けた。
「ああ…エレナを殺そうとしたことは謝れ。護衛対象を護衛が殺すなんて責任問題以前の話だぞ。」
「…それは絶対に謝らねぇ。」
「だろうな。じゃあ、やっぱりお前が謝ることは何もないさ。」
護衛4日目の朝。
神殿での調査が終わり、一行が帰還する日を迎えた。
午前中は撤収作業を行い、昼には神殿を出発して行きと同じように死の森を抜けた先で夜を明かし、5日目となる明日早朝から第16都市へと帰還する予定になっている。
トウコが天幕を出ると、ヨシとリカが朝食の準備をしており、ヨシザキが疲れた顔で座り込んでいた。
「ヨシザキさん、リカ、ヨシ、昨日は悪かったね。」
リカとヨシは微笑みながら「いいえ」と返し、ヨシザキも疲れた顔ながら微笑んで言葉を返す。
「いえ…大丈夫です。トウコさんもお疲れさまでした。」
ともすればセクハラとも取れる発言にトウコは小さく笑うと、「まだリョウのご機嫌は最悪だ。近づかない方がいいぞ、毟られる。」と、未だリョウが寝ている天幕を指さした。
ヨシザキは両手で頭を隠すように覆うと、真剣な顔をして頷いた。
そこへ、マリーとデニスが近づいて来たため、トウコは2人へも謝り、未だにリョウの機嫌が直っていないのでエレナのことはギリギリまで天幕の外に出すなとデニスに注意する。
「あの女はうちの魔術師が眠りの魔法で眠らせてある。移動は毛布で包んで俺が運ぶ。」
デニスの言葉に、「名案だ。」とトウコは声を上げて笑った。
その後、帰還についての打ち合わせをしていると、リョウが天幕から出てきた。
トウコとマリー以外に少し緊張が走り、トウコが苦笑しながら「機嫌は未だに最悪だがキレてるのはエレナに対してだけだから、皆に噛みつきやしないよ。」と言うも、空気は硬いままだった。
そこへヨシザキが「あのぅ…僕、最後にあの祭壇に行きたいのですが…。」と言い出し、デニス、ヨシ、リカがこの空気の中でよくそんなことが言えるなという視線をヨシザキに向ける中、マリーが頷きそれを許可した。
「いいわよ。トウコとリョウがヨシザキさんに付いていきなさい。ここにリョウがいたらみんなが緊張して仕方がないわ。時間はあまりないから少しだけよ。」
マリーの言葉にヨシザキは嬉しそうに笑うと、「さぁさぁ行きましょう!」とトウコとリョウの背中を押した。
ヨシザキに苦笑しながら、トウコはリョウの腕取ると歩き出し、リョウもまた憮然とした表情で歩き出した。
これまでの騒ぎの火種は、火種自身がトウコとの元へと歩いてきた。
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