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青の章
21.エピローグ
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第16都市に向けて砦を出発してから2日目の夜。
軍が張った天幕の中でトウコたち3人は過ごしていたが、往路とは異なり穏やかな時間が流れている。
そしてまた、トウコとマリーは寝転がって本を読み、リョウは目を閉じている。
しかし、これもまた往路とは違いリョウは静かに寝息を立てていた。
「まだ体が完全には回復していないんでしょうね。私たちもそろそろ寝ましょうか。」
囁くように言ったマリーの言葉に、しばし何かを考え込んでいたトウコだったが、おもむろに立ち上がった。
「まだ眠くないしちょっと散歩してくる。」
「そう?あんまり遠くに行くんじゃないわよ。」
「分かってるよ。マリーは先に休んでてくれ。おやすみ。」
そう言ってトウコは天幕を出て行った。
不寝番をしている兵士たちとは反対方向へしばらく歩き、トウコは腰を下ろすと煙草に火をつけた。
煙を細く吐き出しながら、あの日のカインとの出来事を思い出していた。
「一緒に行こうトウコ。僕は絶対君を1人にしない。ずっと一緒にいるって約束する。」
そう囁いたカインの唇がトウコの唇に触れる寸前、トウコは右手でカインの肩を押してそれを押しとどめた。
「カイン。お前は、私を通して私じゃない別の誰かを見ている。」
トウコのその言葉にカインは悲しそうに目を伏せた。
「そうだね。僕はトウコじゃない別の人を見ている。でもトウコのことも見ている。僕にとってそれは…同じなんだよ。」
「私はお前とは一緒には行けない。」
「…そうか。うん。きっとトウコはそう言うと思っていた。」
「仮にお前が私だけを見ていたとしても、それは変わらない。」
「うん、そうだね。トウコ。貴女は…貴女は僕と違って孤独ではないからね。」
「そうだ。」
「僕は、貴女が孤独でなくなって本当に嬉しい。貴女が独りでなくなって本当に嬉しいよ。…僕は貴女には幸せになってほしいんだ。」
孤独に染まった微笑みを見て、トウコはカインに問うた。
「私たちと一緒に来るか?」
その問いにカインは少し目を瞠り、そして少し泣きそうな顔になった。
「…ありがとう。本当に嬉しい。だけど一緒にはいけない。僕はもう少し1人で頑張ってみるよ。」
「そうか。」
「トウコ、今日はもう休むといいよ。魔物は来ないだろうけど、一応僕が見張りをしているから。」
そういうとカインはトウコの髪を優しくなでた。
途端、トウコの頭が揺れる。
「お前…。」
「眠りの魔法を掛けただけだよ。…夢も見ずにゆっくりお休み、トウコ。」
トウコが目を覚ました時、カインの姿はなかった。
濃紺の外套がトウコの体に掛けられていた以外、カインの存在を示すものは何もなかった。
トウコは外套を綺麗に畳んで木の根元に置くと、大森林の出口に向かって駆け出した。
**********
トウコが2本目の煙草に火をつけた時、後ろから誰かがやってくる気配を感じた。そのままゆっくり煙を吐き出していると、トウコの手から煙草が奪われた。
「トウコ。ここにいたのか。」
そう言いながらトウコを後ろから抱き締めるような形でリョウが座った。
トウコが再び煙草に火をつけ、煙を吐き出す。
「ここにいたらリョウが来るかなと思って。」
「来なかったらどーすんだよ。」
「来たじゃないか。」
闇の中、2人の煙草の先がぼんやりと赤く輝く。
「俺、お前に過去を清算しろって言われたけどできなかったな。」
「何言ってんのさ。ちゃんと出来たじゃないか。」
「色んなもん抱えて、全然捨てられてねぇ。」
その言葉にトウコが苦笑する。
「私は捨てろなんて言ってないぞ。清算しろって言ったんだ。…私もお前の過去のことを全く知らなくて勝手なことを言ってしまって悪かったけどな。私は捨てたい過去だらけだ。でもお前は違った。シュウも、あの砦の司令官だってお前のことを大切に思ってくれてたじゃないか。あの人たちを過去として捨てちゃダメだ。だからお前が彼らを過去として切り捨てなくてよかったと私は思ってる。過去と向き合って、お互い囚われていた過去から一歩踏み出せたんじゃないか。少なくともシュウはそうだろうさ。」
「そうか…。」
「マイさんのことも切り捨てていい過去じゃない。」
リョウがトウコの腰を抱く腕に少し力を入れた。その腕にトウコはそっと撫でた。
「マイさんは私を嫉妬させることができる、貴重な人だからな。」
その言葉にリョウが少し笑う。
「バーカ。マイの方が数百倍お前より可愛いからな!嫉妬するなんて百年はえーんだよ。」
「じゃあ百年後に嫉妬する。」
「…おう。そうしろ。」
リョウがトウコの首筋に顔を埋めて小さく吸うと、少し掠れた声で囁いた。
「ヨシザキの野郎は、人を憎むな、世界を憎めなんて偉そうなこと言ってやがったけど、俺には出来そうもない。」
「うん。」
「この世界が憎い、人も色無しもこの髪も瞳も憎い。」
「贅沢な奴だな。綺麗な髪と瞳の色してるくせに。」
「お前だって綺麗な黒と紫してるじゃねーか。」
「…私も世界が憎いし、人も憎い。まだまだお子様だ。」
2人の間に静かな時間が流れる。
リョウが2本目の煙草に火をつけ、トウコがそれを奪い一口吸うとまたリョウの口に戻した。
「リョウ。」
「ん?」
「ごめんなさい。」
リョウが小さく笑い、トウコの頭に顎を乗せる。
「あの日、神殿で…外套の男に置いて行かれるのが無性に怖くなったんだ。」
「そうか。」
「あいつ、瞳の色が紫だった。」
「そうか。」
「…驚かないのか?」
「なんとなくそんな気がしてた。どうせ髪の色も黒だろ?」
「うん…。」
「トウコ、お前大森林であの男と何があった。吐け。怒らないから吐け。怒らないのは今のうちだぞ。内容によっちゃ怒るけどな!」
そう言いながらリョウがトウコの首筋に優しく噛み付きながら舌を這わせた。トウコはその感触に体を捩りながら、声を上げて笑う。
「やめろ、バカ。くすぐったい。」
「気持ちいいって言えよ、何があったか吐くならやめる。」
「言うから止めろ!」
リョウが口を離し、今度はトウコの肩に顎を乗せる。
「よし言え。」
トウコは少し笑うと、腕を上げてリョウの頬を撫でると口を開いた。
「一緒に行こうって言われたんだ。私があの時、行かないでって言いかけたから。」
「そうか。」
「うん。断った。」
リョウがトウコの頭をゆっくりと撫でると、トウコは気持ちよさそうに目を細めた。
「私はどうせまた独りになるだろうとずっと思ってたんだ。マリーもお前もいつか離れていくと思ってた。独りになっても平気だって思ってた。だから…だから最後のところでは線を引いてたんだと思う。悪かった。」
「ど阿呆。」
「うん。本当にそうだ。…全然平気じゃないくせに。」
トウコは腰に回されているリョウの手に自分の手を重ねた。
「私は独りじゃない。マリーもヨシもリカもいる。ヨシザキさんも。アレックスもマスターもシュウもそうだ。」
トウコは自分の肩に乗せられている男の、夏の空のような綺麗な瞳を見つめる。
「何より私にはちょっと頭はイカれてるが、最高の男が隣にいてくれるからな。置いていかれるなんて不安になったのは、人生最大の汚点だ。」
「そうか。」
「うん。」
「俺も悪かった。」
リョウの言葉にトウコが少し目を瞠ると、リョウはその視線を避けるようにトウコの首筋に顔を埋めた。
「神殿で、お前があいつに叫んだ時。お前は絶対にいつかあいつの元へ行くと思った。俺から離れて行くと思った。俺は…トウコが幸せならそれでもいいかと思ったんだ。お前が孤独を感じていたのは分かってたからな。俺がその孤独を埋めてやれないなら、この髪と瞳の色がお前を孤独にさせるなら、同じ色を持つ者同士で幸せになれるなら、お前が幸せになれるなら…それでいいかと思っちまった。でも手放せなくて。」
そこで言葉を切ったリョウが目線だけ上げてトウコを見上げると、珍しく弱気な声で聞く。
「なぁ…お前、歯形消えたか?」
トウコは小さく声を上げて笑った。
「まだ少し残ってる。あちこち遠慮なく噛み付きやがって。結構痛いんだぞ、あれ。」
「悪かった。」
「いいさ。私が悪かったんだ。…ごめんなさい。」
リョウは何も言わずにまたトウコの首元に顔を埋める。少しリョウの肩が震えている。
「リョウ?」
「…トウコがごめんなさいだって。いつも悪い、すまない、しか言わないトウコがごめんなさい…」
笑い声で言うリョウにトウコが憮然とする。
「もう言わない。」
「言えよ。」
「嫌だ。」
「言えって。可愛くてヤりたくなった。…このままここでヤるか。」
「見張りの兵士がさっきからこっちを窺ってるだろ。」
「見せつけてやりゃいいじゃねーか。」
「明日まで我慢しろこのバカ。」
リョウが笑いながらトウコの頭をまたゆっくりと撫でる。
少しの間、心地の良い沈黙が2人の間を流れる。
「トウコ。」
「うん。」
「夢で見た星空ってこれより綺麗だったか?」
見上げると、数日前に見上げた時は飲み込まれそうなほど深い闇が広がっていた夜空に、満点の星が輝いていた。
「…ここも綺麗だけど、ここには紫の小花が咲いていない。」
「じゃあ、やっぱりいつか2人で探しに行くか。」
「うん。」
「トウコ、結婚しよう。」
「しないぞ。」
「お前、今の流れは受け入れてうれし泣きするとこだろ。」
2人は星空を見上げながら小さく声を上げて笑った。
軍が張った天幕の中でトウコたち3人は過ごしていたが、往路とは異なり穏やかな時間が流れている。
そしてまた、トウコとマリーは寝転がって本を読み、リョウは目を閉じている。
しかし、これもまた往路とは違いリョウは静かに寝息を立てていた。
「まだ体が完全には回復していないんでしょうね。私たちもそろそろ寝ましょうか。」
囁くように言ったマリーの言葉に、しばし何かを考え込んでいたトウコだったが、おもむろに立ち上がった。
「まだ眠くないしちょっと散歩してくる。」
「そう?あんまり遠くに行くんじゃないわよ。」
「分かってるよ。マリーは先に休んでてくれ。おやすみ。」
そう言ってトウコは天幕を出て行った。
不寝番をしている兵士たちとは反対方向へしばらく歩き、トウコは腰を下ろすと煙草に火をつけた。
煙を細く吐き出しながら、あの日のカインとの出来事を思い出していた。
「一緒に行こうトウコ。僕は絶対君を1人にしない。ずっと一緒にいるって約束する。」
そう囁いたカインの唇がトウコの唇に触れる寸前、トウコは右手でカインの肩を押してそれを押しとどめた。
「カイン。お前は、私を通して私じゃない別の誰かを見ている。」
トウコのその言葉にカインは悲しそうに目を伏せた。
「そうだね。僕はトウコじゃない別の人を見ている。でもトウコのことも見ている。僕にとってそれは…同じなんだよ。」
「私はお前とは一緒には行けない。」
「…そうか。うん。きっとトウコはそう言うと思っていた。」
「仮にお前が私だけを見ていたとしても、それは変わらない。」
「うん、そうだね。トウコ。貴女は…貴女は僕と違って孤独ではないからね。」
「そうだ。」
「僕は、貴女が孤独でなくなって本当に嬉しい。貴女が独りでなくなって本当に嬉しいよ。…僕は貴女には幸せになってほしいんだ。」
孤独に染まった微笑みを見て、トウコはカインに問うた。
「私たちと一緒に来るか?」
その問いにカインは少し目を瞠り、そして少し泣きそうな顔になった。
「…ありがとう。本当に嬉しい。だけど一緒にはいけない。僕はもう少し1人で頑張ってみるよ。」
「そうか。」
「トウコ、今日はもう休むといいよ。魔物は来ないだろうけど、一応僕が見張りをしているから。」
そういうとカインはトウコの髪を優しくなでた。
途端、トウコの頭が揺れる。
「お前…。」
「眠りの魔法を掛けただけだよ。…夢も見ずにゆっくりお休み、トウコ。」
トウコが目を覚ました時、カインの姿はなかった。
濃紺の外套がトウコの体に掛けられていた以外、カインの存在を示すものは何もなかった。
トウコは外套を綺麗に畳んで木の根元に置くと、大森林の出口に向かって駆け出した。
**********
トウコが2本目の煙草に火をつけた時、後ろから誰かがやってくる気配を感じた。そのままゆっくり煙を吐き出していると、トウコの手から煙草が奪われた。
「トウコ。ここにいたのか。」
そう言いながらトウコを後ろから抱き締めるような形でリョウが座った。
トウコが再び煙草に火をつけ、煙を吐き出す。
「ここにいたらリョウが来るかなと思って。」
「来なかったらどーすんだよ。」
「来たじゃないか。」
闇の中、2人の煙草の先がぼんやりと赤く輝く。
「俺、お前に過去を清算しろって言われたけどできなかったな。」
「何言ってんのさ。ちゃんと出来たじゃないか。」
「色んなもん抱えて、全然捨てられてねぇ。」
その言葉にトウコが苦笑する。
「私は捨てろなんて言ってないぞ。清算しろって言ったんだ。…私もお前の過去のことを全く知らなくて勝手なことを言ってしまって悪かったけどな。私は捨てたい過去だらけだ。でもお前は違った。シュウも、あの砦の司令官だってお前のことを大切に思ってくれてたじゃないか。あの人たちを過去として捨てちゃダメだ。だからお前が彼らを過去として切り捨てなくてよかったと私は思ってる。過去と向き合って、お互い囚われていた過去から一歩踏み出せたんじゃないか。少なくともシュウはそうだろうさ。」
「そうか…。」
「マイさんのことも切り捨てていい過去じゃない。」
リョウがトウコの腰を抱く腕に少し力を入れた。その腕にトウコはそっと撫でた。
「マイさんは私を嫉妬させることができる、貴重な人だからな。」
その言葉にリョウが少し笑う。
「バーカ。マイの方が数百倍お前より可愛いからな!嫉妬するなんて百年はえーんだよ。」
「じゃあ百年後に嫉妬する。」
「…おう。そうしろ。」
リョウがトウコの首筋に顔を埋めて小さく吸うと、少し掠れた声で囁いた。
「ヨシザキの野郎は、人を憎むな、世界を憎めなんて偉そうなこと言ってやがったけど、俺には出来そうもない。」
「うん。」
「この世界が憎い、人も色無しもこの髪も瞳も憎い。」
「贅沢な奴だな。綺麗な髪と瞳の色してるくせに。」
「お前だって綺麗な黒と紫してるじゃねーか。」
「…私も世界が憎いし、人も憎い。まだまだお子様だ。」
2人の間に静かな時間が流れる。
リョウが2本目の煙草に火をつけ、トウコがそれを奪い一口吸うとまたリョウの口に戻した。
「リョウ。」
「ん?」
「ごめんなさい。」
リョウが小さく笑い、トウコの頭に顎を乗せる。
「あの日、神殿で…外套の男に置いて行かれるのが無性に怖くなったんだ。」
「そうか。」
「あいつ、瞳の色が紫だった。」
「そうか。」
「…驚かないのか?」
「なんとなくそんな気がしてた。どうせ髪の色も黒だろ?」
「うん…。」
「トウコ、お前大森林であの男と何があった。吐け。怒らないから吐け。怒らないのは今のうちだぞ。内容によっちゃ怒るけどな!」
そう言いながらリョウがトウコの首筋に優しく噛み付きながら舌を這わせた。トウコはその感触に体を捩りながら、声を上げて笑う。
「やめろ、バカ。くすぐったい。」
「気持ちいいって言えよ、何があったか吐くならやめる。」
「言うから止めろ!」
リョウが口を離し、今度はトウコの肩に顎を乗せる。
「よし言え。」
トウコは少し笑うと、腕を上げてリョウの頬を撫でると口を開いた。
「一緒に行こうって言われたんだ。私があの時、行かないでって言いかけたから。」
「そうか。」
「うん。断った。」
リョウがトウコの頭をゆっくりと撫でると、トウコは気持ちよさそうに目を細めた。
「私はどうせまた独りになるだろうとずっと思ってたんだ。マリーもお前もいつか離れていくと思ってた。独りになっても平気だって思ってた。だから…だから最後のところでは線を引いてたんだと思う。悪かった。」
「ど阿呆。」
「うん。本当にそうだ。…全然平気じゃないくせに。」
トウコは腰に回されているリョウの手に自分の手を重ねた。
「私は独りじゃない。マリーもヨシもリカもいる。ヨシザキさんも。アレックスもマスターもシュウもそうだ。」
トウコは自分の肩に乗せられている男の、夏の空のような綺麗な瞳を見つめる。
「何より私にはちょっと頭はイカれてるが、最高の男が隣にいてくれるからな。置いていかれるなんて不安になったのは、人生最大の汚点だ。」
「そうか。」
「うん。」
「俺も悪かった。」
リョウの言葉にトウコが少し目を瞠ると、リョウはその視線を避けるようにトウコの首筋に顔を埋めた。
「神殿で、お前があいつに叫んだ時。お前は絶対にいつかあいつの元へ行くと思った。俺から離れて行くと思った。俺は…トウコが幸せならそれでもいいかと思ったんだ。お前が孤独を感じていたのは分かってたからな。俺がその孤独を埋めてやれないなら、この髪と瞳の色がお前を孤独にさせるなら、同じ色を持つ者同士で幸せになれるなら、お前が幸せになれるなら…それでいいかと思っちまった。でも手放せなくて。」
そこで言葉を切ったリョウが目線だけ上げてトウコを見上げると、珍しく弱気な声で聞く。
「なぁ…お前、歯形消えたか?」
トウコは小さく声を上げて笑った。
「まだ少し残ってる。あちこち遠慮なく噛み付きやがって。結構痛いんだぞ、あれ。」
「悪かった。」
「いいさ。私が悪かったんだ。…ごめんなさい。」
リョウは何も言わずにまたトウコの首元に顔を埋める。少しリョウの肩が震えている。
「リョウ?」
「…トウコがごめんなさいだって。いつも悪い、すまない、しか言わないトウコがごめんなさい…」
笑い声で言うリョウにトウコが憮然とする。
「もう言わない。」
「言えよ。」
「嫌だ。」
「言えって。可愛くてヤりたくなった。…このままここでヤるか。」
「見張りの兵士がさっきからこっちを窺ってるだろ。」
「見せつけてやりゃいいじゃねーか。」
「明日まで我慢しろこのバカ。」
リョウが笑いながらトウコの頭をまたゆっくりと撫でる。
少しの間、心地の良い沈黙が2人の間を流れる。
「トウコ。」
「うん。」
「夢で見た星空ってこれより綺麗だったか?」
見上げると、数日前に見上げた時は飲み込まれそうなほど深い闇が広がっていた夜空に、満点の星が輝いていた。
「…ここも綺麗だけど、ここには紫の小花が咲いていない。」
「じゃあ、やっぱりいつか2人で探しに行くか。」
「うん。」
「トウコ、結婚しよう。」
「しないぞ。」
「お前、今の流れは受け入れてうれし泣きするとこだろ。」
2人は星空を見上げながら小さく声を上げて笑った。
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