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紫の章
07.テロ
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「やー!やー!やー!やっと来たね!もう待ちくたびれちゃったよ!」
3人が宿の店員に連れられて宿の応接室に入った途端、どこか軽薄な雰囲気を感じさせる声が飛んできた。
声の方を見ると、声と同様にどこかチャラチャラとした浮ついた見た目の40代前半の男がソファに座り、大袈裟に両手を広げてこちらを見ていた。
長く伸ばしたプラチナブロンドの髪を首元で1つに結び、マリンブルーの瞳をした男は大袈裟に両手を広げて言葉を続ける。
「組合長の僕を待たせるなんて、君たち言い度胸じゃないか。」
マリーが少し眉を顰め、リョウが盛大に顔を顰めて舌打ちするとソファに座り、トウコは冷ややかな目をして男を見ながらリョウの隣に座った。
「会う約束をしていないんだから当然でしょう?突然押しかけてきておいてその言葉はいただけないわ。」
マリーが冷たく言い放つと、男は大袈裟に手を振りながら話す。
「わざわざ気を使って会いに来てあげたんだからもう少し優しくしてくれてもいいと思うな。あ、僕は南0都市の組合長をやってるレックス。よろしくね。因みに、君たちの第16都市の組合長は僕の兄。」
リョウが煙草に火をつけると、吐き捨てるように言った。
「どおりでムカつく面してると思ったぜ。あいつに似てるからか。」
「私も初対面の人間に対してどうしてこんなに拒否反応が出るのだろうと思ったが…納得だ。」
「アンタたち言い過ぎよ。でも同意だわ。」
トウコとマリーも煙草の煙を吐き出すと、、組合長―レックスを冷ややかに見ながら言った。3人の反応を見たレックスは、嬉しそうに手を叩いて笑った。
「本当に兄貴に聞いていた通りだ。目上の人間を全く敬わないその態度!失礼もそこまで突き抜けられると気持ちがいいね!ねえ、君たちどういう教育を受けたらそうなるの?」
「私たちがどんな教育を受けて来たのかを知りたくて、わざわざ長い間ここで待っていたのかしら?」
「冷たいなあ。ま、僕も忙しい身だからね。本題に入るよ。忙しいのにわざわざ来てあげたことを感謝してよね。」
「とっとと言え。」
苛立ったリョウを一瞥したレックスは口を開いた。
「3週間前からこの街は爆破テロが続いているんだ。」
そこで言葉を切ったレックスは、トウコを見据えると言葉を続けた。
「爆破テロは色無したちの犯行さ。」
レックスの説明によると、3週間前に最初の爆破があった。狙われたのは3区にある集会所で、その日は何か集まりがあったらしく多数の人が集まっていた。幸いにも死傷者は出なかったものの、集会所は半壊し、けが人が多数出た。目撃者によると、男女複数の色無しが何かを投げた後に爆発が起こったという事だった。爆発の騒ぎに紛れてその人物らは逃げてしまったため、未だ捕まっていないという。
それから5日後に2度目の爆破が起こった。
次は4区にある小さな教会が狙われた。
教会もまた半壊し、今度は3名の死者が出てしまった。同様に複数の色無しが目撃されており、そのうち1名の色無しの女を取り押さえようとしたが、逃げ切れないと思った女はその場で自害してしまったという。スラムで娼婦をやっている女だった。
その後、3度目の爆破がまた3区で起こり、この時も実行犯が1人自害した。今度は歓楽街の色無しの男娼だった。
そして、4度目の爆破が10日前に起こった。
4度目は2区にほど近い3区の中でも高級店が立ち並ぶエリアのレストランで発生したという。
道路側から何かがレストランに投げ入れられ爆発が起こり、道路側に面した席にいた男女5名が死んだ。そのうちの2名が2区に住む人間だった。これまでの被害者は3区以降の人間だったため、都市側もまだ傍観する姿勢を見せていたが、2区の住民に被害者が出てしまったため騒ぎが大きくなった。
また、この爆発現場では色無しは目撃されていない。2区に近い高級エリアということもあり、3区ではあるが色無しは近寄りにくい場所のため、普段から色無しを見ることはほぼない。
そういったこともあり、5度目の爆発は色無しではない―通常の人間が関わっていると考えられていた。
レックスの説明に3人は大きくため息を吐いた。
トウコが天井を仰ぎ、煙を吐き出す。
「なるほど。それで検問所で兵士たちはあんなに私を警戒していたのか。全裸になれというのも納得だ。爆発物を持っていないか警戒していたんだな。」
「納得してんじゃねーよ。こっちは組合からの依頼書もあったし、軍の命令書も出した。色無しとは言え身元ははっきりしてたんだ。警戒以上に色無しへの嫌がらせの方がつえーだろ。」
「え、なになに?トウコちゃん検問所でストリップショーしたの?」
レックスが明らかにうきうきとした表情で口を挟み、リョウがレックスを睨みつける。
「てめえ、ちょっと黙ってろ。馴れ馴れしくトウコの名前呼んでんじゃねーぞ。」
レックスが芝居がかった態度で大げさに肩を竦めて口を閉じ、それを見たリョウが忌々しげに舌打ちをする。
マリーがリョウの様子を横目で窺いながら口を挟む。
「まぁこれでようやく事情が分かったわね。トウコだけじゃなくって私たちまで警戒されてたのは、そういうことね。ねえ、今の歓楽街の様子はどんな感じなの?」
マリーに問われたレックスは、わざとらしく口を両手で抑えてリョウの方を窺う。リョウは冷ややかな目でレックスを見ると、地を這うような低い声で言った。
「…お前、ここに何しにきたんだ?俺たちをおちょくりに来たんなら、今すぐ失せろ。他にも用件があるなら、今すぐそれを全部話して、そして失せろ。」
「いやだなぁ、君が黙れって言ったから黙ったのに。そんなに怒らないでよ。歓楽街の様子かい?歓楽街は今賑わっているよ。なんてったってあそこは色無しが多いからね。爆破テロに色無しが関わっているなら、歓楽街では爆破が起こらないだろうと思われて、通常よりも人が流れ込んでいるのさ。」
レックスの言葉にマリーがトウコとリョウを見ながら話しかける。
「やっぱり私たちも歓楽街に移動した方が良さそうかしらね。」
その言葉にレックスが少し前のめりになって話に入って来た。
「歓楽街に移動するなら僕の知り合いが経営している宿を紹介してあげるよ。悪くない宿だよ。」
リョウが口だけで笑った冷ややかな表情でレックスを見やる。
「お前の用件はそれか?この宿から…この地区から俺たちを追い出したかったんだな。」
「いやだなぁ、追い出したいだなんて人聞きの悪い。君たちのためを思ってのことさ。爆破テロの実行犯だけじゃなく、この一連の騒ぎを起こしている首謀者の捕獲は都市から組合に正式に依頼として発注されているんだ。この都市にいる組合員はみんなその仕事を受注していると思ってくれていいよ。見ない顔の明らかに外から来たと分かる人間が色無しを連れてうろちょろしてたら…ね?」
レックスの言葉にトウコたち3人が冷ややかにレックスを見る。
「そんなに怖い顔で見ないでよ。あくまでも周りからどう見られるかって話だよ。これでも一応僕は君たちを助けてあげようとしているんだよ?都市にも軍にも第16都市の色無しを含む組合員が3人入ったことは連絡してある。数日前に都市に入ったばかりだから無関係だし身元もはっきりしてるから手出し不要ってちゃぁんと言ってあるんだよ。」
そこで言葉を切ったレックスは、芝居がかった仕草で足を組む膝の上で両手を組みにっこり笑った。
「ま。ここで騒ぎを起こされたら面倒だっていうのももちろんあるけどね。」
マリーが大きくため息を吐いた。
「どうせ元から移動しようかと思っていたところだから、歓楽街に移るわ。あなたから宿を紹介されるのはひじょーーーーに癪に障るけど、その方が都合がいいんでしょう?」
「そうだね、宿が分かっていた方がこちらから連絡がつけやすいからね。別の宿でもいいけど、どの宿なのかは組合に報告してほしいな。」
マリーが頷き、レックスから歓楽街の宿の地図が書かれたメモを受け取る。更に、現在この都市に滞在している第16都市の軍にいるトウマに、宿泊先を移ることを伝えて欲しいとマリーがレックスに言い、レックスがそれを了承した時、トウコが静かに口を開いた。
「それにしても、この街の色無しは何を考えているんだか。色無しだけが関与しているわけではなさそうだが…愚かだな。」
トウコの言葉にレックスが愉快そうな顔をする。
「トウコちゃん、意外と冷たいね。」
どういうことだと眉を少し上げてトウコがレックスを見る。
「犯行声明が出ていないから何とも言えないけどさ。普段から虐げられている色無したちの命を懸けた行動ってとこかな?それを愚かだなんてさ、トウコちゃんの同胞じゃない。いわばお仲間なわけでしょ。それなのに冷たいなぁって。」
トウコが珍しく侮蔑の表情を浮かべ、心底バカにした口調でレックスに言った。
「お前は博愛主義者なのか?私とは到底仲良くなれなさそうだ。」
レックスが初めて少し顔を顰めて不愉快そうな顔をするも、トウコは構わず続ける。
「お前と同じ色を持つ男娼が周囲から虐げられていました。ある日、男娼は自分の境遇を嘆いて、自分を虐げた人間に復讐しようとしました。しかし、男娼の努力も空しく男娼は返り討ちにあって殺されてしまいました。お前はこの男娼に同情できるんだろう?可哀そうだと思うんだろう?何ならその男娼が虐げられていることを知ったお前は、男娼を助けようと動くのかもしれないな。」
レックスが何か言おうと口を開いたが、それを制するようにトウコが先に言葉を重ねる。
「私は色無しを同胞だと思ったことはない。たかが似たような色を持った、見ず知らずの人間だ。」
トウコが持っていた煙草を灰皿でもみ消すと、レックスを冷たく見据える。
「いいか覚えておくといい。私の仲間はマリーとリョウだ。そして私が大切に思うのは、私のことを理解してくれる人間のみだ。それ以外の人間のことなど興味もない。ましてや会ったことも見たこともない人間がどうなろうと知ったことではない。分かったな?」
それだけ言うとトウコは席を立ち、マリーとリョウもそれに続く。
トウコが応接室から出て行こうとしたところで、レックスが楽しそうにトウコに話しかけた。
「僕、気が強い女の子って大好きなんだよね。兄貴もそうなんだけどさ。ねえ、トウコちゃん兄貴ともう寝た?なんなら僕とも一度寝てくんない?」
リョウが投げた投げナイフが2本、レックスの張った障壁に当たって床に落ちる。
「死ね。」
トウコがレックスに向かって言い、レックスがその言葉に愉快そうに笑う声を聞きながらトウコは応接室を出た。
3人が宿の店員に連れられて宿の応接室に入った途端、どこか軽薄な雰囲気を感じさせる声が飛んできた。
声の方を見ると、声と同様にどこかチャラチャラとした浮ついた見た目の40代前半の男がソファに座り、大袈裟に両手を広げてこちらを見ていた。
長く伸ばしたプラチナブロンドの髪を首元で1つに結び、マリンブルーの瞳をした男は大袈裟に両手を広げて言葉を続ける。
「組合長の僕を待たせるなんて、君たち言い度胸じゃないか。」
マリーが少し眉を顰め、リョウが盛大に顔を顰めて舌打ちするとソファに座り、トウコは冷ややかな目をして男を見ながらリョウの隣に座った。
「会う約束をしていないんだから当然でしょう?突然押しかけてきておいてその言葉はいただけないわ。」
マリーが冷たく言い放つと、男は大袈裟に手を振りながら話す。
「わざわざ気を使って会いに来てあげたんだからもう少し優しくしてくれてもいいと思うな。あ、僕は南0都市の組合長をやってるレックス。よろしくね。因みに、君たちの第16都市の組合長は僕の兄。」
リョウが煙草に火をつけると、吐き捨てるように言った。
「どおりでムカつく面してると思ったぜ。あいつに似てるからか。」
「私も初対面の人間に対してどうしてこんなに拒否反応が出るのだろうと思ったが…納得だ。」
「アンタたち言い過ぎよ。でも同意だわ。」
トウコとマリーも煙草の煙を吐き出すと、、組合長―レックスを冷ややかに見ながら言った。3人の反応を見たレックスは、嬉しそうに手を叩いて笑った。
「本当に兄貴に聞いていた通りだ。目上の人間を全く敬わないその態度!失礼もそこまで突き抜けられると気持ちがいいね!ねえ、君たちどういう教育を受けたらそうなるの?」
「私たちがどんな教育を受けて来たのかを知りたくて、わざわざ長い間ここで待っていたのかしら?」
「冷たいなあ。ま、僕も忙しい身だからね。本題に入るよ。忙しいのにわざわざ来てあげたことを感謝してよね。」
「とっとと言え。」
苛立ったリョウを一瞥したレックスは口を開いた。
「3週間前からこの街は爆破テロが続いているんだ。」
そこで言葉を切ったレックスは、トウコを見据えると言葉を続けた。
「爆破テロは色無したちの犯行さ。」
レックスの説明によると、3週間前に最初の爆破があった。狙われたのは3区にある集会所で、その日は何か集まりがあったらしく多数の人が集まっていた。幸いにも死傷者は出なかったものの、集会所は半壊し、けが人が多数出た。目撃者によると、男女複数の色無しが何かを投げた後に爆発が起こったという事だった。爆発の騒ぎに紛れてその人物らは逃げてしまったため、未だ捕まっていないという。
それから5日後に2度目の爆破が起こった。
次は4区にある小さな教会が狙われた。
教会もまた半壊し、今度は3名の死者が出てしまった。同様に複数の色無しが目撃されており、そのうち1名の色無しの女を取り押さえようとしたが、逃げ切れないと思った女はその場で自害してしまったという。スラムで娼婦をやっている女だった。
その後、3度目の爆破がまた3区で起こり、この時も実行犯が1人自害した。今度は歓楽街の色無しの男娼だった。
そして、4度目の爆破が10日前に起こった。
4度目は2区にほど近い3区の中でも高級店が立ち並ぶエリアのレストランで発生したという。
道路側から何かがレストランに投げ入れられ爆発が起こり、道路側に面した席にいた男女5名が死んだ。そのうちの2名が2区に住む人間だった。これまでの被害者は3区以降の人間だったため、都市側もまだ傍観する姿勢を見せていたが、2区の住民に被害者が出てしまったため騒ぎが大きくなった。
また、この爆発現場では色無しは目撃されていない。2区に近い高級エリアということもあり、3区ではあるが色無しは近寄りにくい場所のため、普段から色無しを見ることはほぼない。
そういったこともあり、5度目の爆発は色無しではない―通常の人間が関わっていると考えられていた。
レックスの説明に3人は大きくため息を吐いた。
トウコが天井を仰ぎ、煙を吐き出す。
「なるほど。それで検問所で兵士たちはあんなに私を警戒していたのか。全裸になれというのも納得だ。爆発物を持っていないか警戒していたんだな。」
「納得してんじゃねーよ。こっちは組合からの依頼書もあったし、軍の命令書も出した。色無しとは言え身元ははっきりしてたんだ。警戒以上に色無しへの嫌がらせの方がつえーだろ。」
「え、なになに?トウコちゃん検問所でストリップショーしたの?」
レックスが明らかにうきうきとした表情で口を挟み、リョウがレックスを睨みつける。
「てめえ、ちょっと黙ってろ。馴れ馴れしくトウコの名前呼んでんじゃねーぞ。」
レックスが芝居がかった態度で大げさに肩を竦めて口を閉じ、それを見たリョウが忌々しげに舌打ちをする。
マリーがリョウの様子を横目で窺いながら口を挟む。
「まぁこれでようやく事情が分かったわね。トウコだけじゃなくって私たちまで警戒されてたのは、そういうことね。ねえ、今の歓楽街の様子はどんな感じなの?」
マリーに問われたレックスは、わざとらしく口を両手で抑えてリョウの方を窺う。リョウは冷ややかな目でレックスを見ると、地を這うような低い声で言った。
「…お前、ここに何しにきたんだ?俺たちをおちょくりに来たんなら、今すぐ失せろ。他にも用件があるなら、今すぐそれを全部話して、そして失せろ。」
「いやだなぁ、君が黙れって言ったから黙ったのに。そんなに怒らないでよ。歓楽街の様子かい?歓楽街は今賑わっているよ。なんてったってあそこは色無しが多いからね。爆破テロに色無しが関わっているなら、歓楽街では爆破が起こらないだろうと思われて、通常よりも人が流れ込んでいるのさ。」
レックスの言葉にマリーがトウコとリョウを見ながら話しかける。
「やっぱり私たちも歓楽街に移動した方が良さそうかしらね。」
その言葉にレックスが少し前のめりになって話に入って来た。
「歓楽街に移動するなら僕の知り合いが経営している宿を紹介してあげるよ。悪くない宿だよ。」
リョウが口だけで笑った冷ややかな表情でレックスを見やる。
「お前の用件はそれか?この宿から…この地区から俺たちを追い出したかったんだな。」
「いやだなぁ、追い出したいだなんて人聞きの悪い。君たちのためを思ってのことさ。爆破テロの実行犯だけじゃなく、この一連の騒ぎを起こしている首謀者の捕獲は都市から組合に正式に依頼として発注されているんだ。この都市にいる組合員はみんなその仕事を受注していると思ってくれていいよ。見ない顔の明らかに外から来たと分かる人間が色無しを連れてうろちょろしてたら…ね?」
レックスの言葉にトウコたち3人が冷ややかにレックスを見る。
「そんなに怖い顔で見ないでよ。あくまでも周りからどう見られるかって話だよ。これでも一応僕は君たちを助けてあげようとしているんだよ?都市にも軍にも第16都市の色無しを含む組合員が3人入ったことは連絡してある。数日前に都市に入ったばかりだから無関係だし身元もはっきりしてるから手出し不要ってちゃぁんと言ってあるんだよ。」
そこで言葉を切ったレックスは、芝居がかった仕草で足を組む膝の上で両手を組みにっこり笑った。
「ま。ここで騒ぎを起こされたら面倒だっていうのももちろんあるけどね。」
マリーが大きくため息を吐いた。
「どうせ元から移動しようかと思っていたところだから、歓楽街に移るわ。あなたから宿を紹介されるのはひじょーーーーに癪に障るけど、その方が都合がいいんでしょう?」
「そうだね、宿が分かっていた方がこちらから連絡がつけやすいからね。別の宿でもいいけど、どの宿なのかは組合に報告してほしいな。」
マリーが頷き、レックスから歓楽街の宿の地図が書かれたメモを受け取る。更に、現在この都市に滞在している第16都市の軍にいるトウマに、宿泊先を移ることを伝えて欲しいとマリーがレックスに言い、レックスがそれを了承した時、トウコが静かに口を開いた。
「それにしても、この街の色無しは何を考えているんだか。色無しだけが関与しているわけではなさそうだが…愚かだな。」
トウコの言葉にレックスが愉快そうな顔をする。
「トウコちゃん、意外と冷たいね。」
どういうことだと眉を少し上げてトウコがレックスを見る。
「犯行声明が出ていないから何とも言えないけどさ。普段から虐げられている色無したちの命を懸けた行動ってとこかな?それを愚かだなんてさ、トウコちゃんの同胞じゃない。いわばお仲間なわけでしょ。それなのに冷たいなぁって。」
トウコが珍しく侮蔑の表情を浮かべ、心底バカにした口調でレックスに言った。
「お前は博愛主義者なのか?私とは到底仲良くなれなさそうだ。」
レックスが初めて少し顔を顰めて不愉快そうな顔をするも、トウコは構わず続ける。
「お前と同じ色を持つ男娼が周囲から虐げられていました。ある日、男娼は自分の境遇を嘆いて、自分を虐げた人間に復讐しようとしました。しかし、男娼の努力も空しく男娼は返り討ちにあって殺されてしまいました。お前はこの男娼に同情できるんだろう?可哀そうだと思うんだろう?何ならその男娼が虐げられていることを知ったお前は、男娼を助けようと動くのかもしれないな。」
レックスが何か言おうと口を開いたが、それを制するようにトウコが先に言葉を重ねる。
「私は色無しを同胞だと思ったことはない。たかが似たような色を持った、見ず知らずの人間だ。」
トウコが持っていた煙草を灰皿でもみ消すと、レックスを冷たく見据える。
「いいか覚えておくといい。私の仲間はマリーとリョウだ。そして私が大切に思うのは、私のことを理解してくれる人間のみだ。それ以外の人間のことなど興味もない。ましてや会ったことも見たこともない人間がどうなろうと知ったことではない。分かったな?」
それだけ言うとトウコは席を立ち、マリーとリョウもそれに続く。
トウコが応接室から出て行こうとしたところで、レックスが楽しそうにトウコに話しかけた。
「僕、気が強い女の子って大好きなんだよね。兄貴もそうなんだけどさ。ねえ、トウコちゃん兄貴ともう寝た?なんなら僕とも一度寝てくんない?」
リョウが投げた投げナイフが2本、レックスの張った障壁に当たって床に落ちる。
「死ね。」
トウコがレックスに向かって言い、レックスがその言葉に愉快そうに笑う声を聞きながらトウコは応接室を出た。
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