常世の彼方

ひろせこ

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紫の章

09.訪問者

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※すみません、一話飛ばして更新していました。
※「紫と青」の前に「テロ」を追加しました。
※先にそちらを読んでください。申し訳ありません。

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 夜、階下からかすかに聞こえる嬌声に交じって、トウコの押し殺した声と密やかな水音が響く部屋に、辺りを憚るように静かにドアがノックされた。
トウコの足の間に顔を埋めて小さな水音を立てていたリョウはそれには構わず行為を続け、トウコもまたリョウを止めることはなかった。
ドアの向こうの人物がマリーではないことは分かっていたし、たとえマリーであったとしても2人は無視して平気で続けただろう。

幾ばくか後、今度は少し焦れたように、それでもまた静かにドアがノックされる。
トウコが少しドアを気にするように身じろぎすると、リョウが少し苛立ったようにトウコに埋めていた指を動かし、舌で嬲っていたものに歯を立てた。途端、トウコが女性にしては少し低めの普段の落ち着いた声とは異なる、少し鼻にかかったような声を小さくあげて背中を逸らせた。
リョウが体を起こして酷薄な笑みを浮かべながらトウコの両足を抱え、嗜虐的な目でトウコを見下ろした。
「よそ見する余裕がまだあったんだな。覚悟しろよ?…うるせーぞ!失せろ!」
最後はドアの向こうにいる人物に怒鳴ると、ドアの向こうから小さく声が掛けられた。

「トウコさん。」
その男の声に、リョウが緩やかに動きながら揶揄うような口調で言った。
「俺じゃ満足できなくて男娼呼んだのか?傷つくな。」
トウコは艶めかしい息を吐きながらリョウの首に腕を回し、少し苦しげな声で言い返す。
「お前の相手で精いっぱいだって知ってるだろう?」
次いで、またドアの向こうから今度は少し甘ったるい女の声が掛けられる。
「リョウさん。」
動きを止めたリョウを見上げたトウコが面白そうに、「…私じゃ満足できなくて娼婦を呼んだのか?」と聞くと、リョウは「お前のセリフをそっくりそのまま返してやる。」と言い返した。

リョウが少し逡巡した後、諦めたように盛大にため息をつくと体を起こして下着だけ身に着けた。トウコに乱暴に掛布を掛けると、短剣を手に取って苛立った足取りでドアまで歩いて行き、ドアを少しだけ慎重に空けた。
ドアの向こうには娼婦と思われる色無しの女と、少しくすんだ金髪に青の瞳の男がいた。
男が微笑みながら口を開く。
「お邪魔してすみません。」
「ああ、邪魔だ。消えろ。」
「私たちのお話を少し聞いていただけないでしょうか?」
「消えろって言ったんだ。」
「では、あなたがたのご用事が終わるまで待たせていただきます。下の食堂で待っておりますので、ご用事が終わり次第降りて来てください。」
丁寧だがしかし、こちらが選択する余地のない言葉にリョウが更に怒気を露わにする。
「断る。」
「では、ドアの前でこのままお待ちしております。」
リョウが剣呑な表情で男を睨みつけるが、男は平然と微笑んでいる。
「あなたがたが私たちの話を聞いてくださるまで動く気はありません。」
トウコが少し体を起こしてリョウの背中に声を掛ける。
「リョウ、殺すなよ。面倒だ。」
トウコの言葉に舌打ちしたリョウが、向かいの部屋のドアに向かって怒鳴った。
「マリー!」
様子を窺っていたのであろうマリーがすぐに向かいのドアから出てきた。
「アンタたちを部屋に招き入れたことが誰かに見られるのも困るけど、かと言って下の食堂でアンタたちと話すのは最悪だわ。ここにずっと居座られるのも最低。…殺しちゃうのが最善な気がしてきちゃったわ。」

マリーの言葉に娼婦の女が少し身じろぎし、男が少し困ったような顔でマリーを振り向いた。
「僕はこれでも2区に住む人間なので、殺されてしまうと少々困ったことになるかと。」
「そうだと思ったわよ。最悪だわ。」
盛大に顔を顰めたマリーがしぶしぶドアを開いて男と女を部屋に招き入れながら、リョウに向かって指を突き付けた。
「あんたたちも早く来なさいよ!?続きをしたら許さないからね!」

リョウが乱暴にドアを閉めて部屋に戻ると、トウコが服を着てベッドに腰掛けていた。
「お前何で服着てんだよ…。俺、生殺しじゃねーか…。」
リョウの脱力したような言葉に、トウコが苦笑する。
「さすがに無理だろ。マリーが本気で切れかけてたぞ。あの2人が殺される前にお前も早く服着ろ。」
「殺した方が絶対いいだろ、あれ…。」
リョウが疲れたようにのろのろと服を着ると、トウコと2人でマリーの部屋へと向かった。


マリーの部屋に2人が入ると、マリーが明らかに苛立った顔でベッドを背にして床に座り、煙草を吸っていた。
男と女はマリーの向かい、ドアに背を向けて床に座っていたが、トウコとリョウが部屋に入ると女が振り返り、リョウに対して媚びるような笑みを向けて来た。
リョウはそれには目もくれずにマリーの隣に座り、トウコもまたその隣に座ろうとしたが、リョウはトウコの腕を引くと自分の足の間に座らせた。
リョウが煙草に火をつけ、立てた膝の間で自分にもたれ掛からせているトウコの口にその煙草を咥えさせると、さらにもう1本火をつけて咥えた。
それを見た女が少し忌々しそうな顔をしてトウコを見た。

マリーが苛立った顔で煙草の煙を吐き出すと口を開く。
「あんたたちに長居してもらうわけにはいかないの。とっとと話してとっとと消えて頂戴。ちなみに前もって言っておくけど、どんな話をされても答えはノーよ。あんたたちがどんな話をしたって私たちは何も聞いていないわ。」
マリーの言葉に女が何かを言いかけたが、それを制して男が口を開く。
「僕たちが何故ここに来たか分かっていると?」
その問いに、リョウが答える。
「お前ら爆破テロの一味だろ。」
男が微笑んで頷く。

「ええ。そうです。」
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