常世の彼方

ひろせこ

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紫の章

16.夜明け

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 少尉と呼ばれた男が激怒して出て行った後、トウコは簡単に治癒されたが魔力封じの手枷が外されることはなく、床に転がされたまま放置された。
誰もいなくなった部屋でリョウとマリーのことを思っていると、静かにドアが開き誰かが入って来た。
トウコが痛む体を少し起こすと、そこには先ほど出て行った少尉の男が立っていた。
男はドアを後ろ手に閉めると、トウコを暗い目で睨み付けた。
「…お前は釈放されることになった。もうすぐ第16の軍が迎えに来る。」
トウコは何も答えず、唇を歪ませて笑みの形を作った。
「…何故だ。何故、色無し風情の女が軍の高官と繋がっているんだ。」
男は低い声で呟きながらトウコの足元までやってくると、感情のない暗い目でトウコを見下ろした。
「お前が解放されるなんておかしい。解放してはいけないんだ。」
「…何を言っている?」
トウコが眉を少し顰めてそう呟くと、男は突然激高したように目を血走らせて叫んだ。
「何故お前を開放しなければならない!その体でアーチボルトも、キサラギもパーソンも誑かしたのか!?」
男はトウコの頬を殴ると圧し掛かり、汗と血で汚れた元は白だったトップスを引きちぎると、そのままトウコのショートパンツを下着と共に乱暴に降ろした。

***************

リョウとマリーが全てを終えて外に出た時、2人が来た時と同様にあばら家の前に薄汚れた男が1人座り込んでおり、男は2人を見ることなく言った。
「宿へ。」
それだけ言うと男は静かに階段を下りて行った。
夜明け前のスラム街をリョウとマリーは無言で歩き、男に言われた通り歓楽街の宿へと向かった。

リョウとマリーが宿に戻ると、ソウマの部下である兵士が3人、宿の前で待っていた。
兵士たちはリョウとマリーの姿を見ると一瞬ぎょっとした顔をしたが、すぐにトウコが釈放されること、ソウマが迎えに行っていること、自分たちは2人を送るために待っていたことを伝えた。
それを聞いたリョウは小さく頷くと言った。
「悪いんだが、下だけでいいから余ってるBDUがあったら貸してくれないか?血塗れで気持ちわりい。」
その言葉に兵士は何度も首を縦に振り、輸送車のバックシートの下に余りのBDUとタオルがあるので好きに使っていいと答えた。

3区の外れにあるという一般市民が入れない軍事エリアへと輸送車に揺られながら向かう途中、黙々とタオルで体を拭くマリーを横目で伺い、自分もまた体を拭きながらリョウが
言った。
「マリー、いい加減少しは機嫌直せ。兵士がびびってるぞ。」
リョウとマリーから離れた場所に座っている兵士の肩がびくりと揺れる。
マリーは黙り込んでいたが、しばらくして口を開いた。
「トウコの無事な姿を見るまでは無理だ。…お前だってまだ殺気立ってるだろ。」
「マリー程じゃない。」
その言葉にマリーは面白くなさそうに鼻を鳴らしてまた黙った。
借りたBDUのパンツに2人が着替えた頃、マリーが静かな声で言った。
「リョウ、お前はトウコが死んだら自分も死ぬだけだと思っているのだろうが、俺は違う。トウコを喪いたくない。…お前のこともそうだ。リョウのことも喪いたくない。」
リョウは小さくため息をついて、マリーの肩を宥めるように叩いた。

リョウとマリーが乗る輸送車が止まって2人が降りると、前方にも同じ輸送車がバックドアをこちらに向けて止まっていた。
朝靄が煙る中、荷室のバックドアから足を出して座っているトウコの姿が2人の目に入った。
「トウコ!」
マリーが叫んで走り出す。
ぶかぶかのBDUの上着だけを着て、靴すら履いていない素足をぶらぶらさせていたトウコは、笑顔を浮かべて手を振った。
「トウコ!無事で良かった!何なの!?どうしたのその顔!ぼろぼろじゃない!」
口調が戻り殺気が霧散したマリーを見て、同乗していた兵士が体の力を抜いてほっとした顔をする。
「マリー、嬉しいのは分かるけど私に抱き付くなよ。体に触るのも禁止だ。抱き付く前に治癒してくれ。あちこち痛くてたまらない。まずは指を治癒してくれると嬉しいかな。折れてるから煙草も持てないんだ。」
「何で治癒してもらってないのよ!」
そう叫びながら、おそらく自分のBDUの上着を貸したであろう、上半身がインナー姿のソウマを睨み付けると、ソウマが慌てて弁解した。
「ち、違いますよ!私は治癒するって言ったんですけど、トウコさんが嫌だと。マリーさんに治癒してもらうからいいって言い張って…!顔だけは無理やり治癒させてもらったんですが、その…私の腕ではこれが精いっぱいで、申し訳ありません…。」
「んもう!バカバカバカ!」
涙ぐみながら治癒をかけ始めたマリーをトウコが苦笑しながら見上げていると、リョウが煙草に火をつけながらやってきた。
「お前、何なんだよその顔…。治癒してもらってそれかよ。」
言いながらリョウが煙草をトウコに咥えさせると、うまそうに煙を吐き出したトウコだったが、口の中の傷が痛んだのか少し顔を顰める。
「顔は小まめに治癒してもらえてたんだけどな。最後に思いっきり殴られた。」
煙草を咥えたままあっけらかんと言ったトウコを呆れたようにリョウが見る。
「お前どうせ散々煽ったんだろ…。大人しくしてろって言っただろーが。」
そこで言葉を切ったリョウがトウコを見下ろしながら少し冷たい声で聞いた。
「…つーか、お前。何でそんなもん着てんだよ。」
「ソウマさんに貸してもらった。リョウとマリーだって似たような恰好じゃないか。上半身は裸で下はBDU」
「んなもん見りゃ分かる。俺が言いたいこと分かってんだろ、お前。そのBDUの下どうなってんだよ。」
リョウの言葉に眉を少し上げたトウコが答える。
「ほぼ全裸に近いな。下着は履いてるぞ。」
「ソウマ、そいつの名前は分かるな?」
即座にリョウが硬い声でソウマに言いマリーが冷えた目をすると、ソウマが慌てて両手を胸の前で振りながら言った。
「だ、駄目です!違いますから!我々がトウコさんを保護するために部屋に入った時、その…トウコさんは…ってトウコさん!笑ってないでちゃんと説明してくださいよ!」
けらけら笑いながら煙草を吸っていたトウコにソウマが抗議すると、トウコは何があったか楽しそうに説明し始めた。

***************

ショートパンツと下着をはぎ取ったトウコの足の間に男が自分の体をねじ込み、男が血走った目でトウコの胸に顔を近づけた時、トウコが男の右耳に噛みついた。
男が叫んでトウコを引き剥がそうとするが、トウコは更に力を入れて食らいつき、顔を振った。
男の耳が千切れ、絶叫と共に男の耳から溢れた鮮血がトウコの顔に降りかかる。
食いちぎった耳を咥えたまま妖艶な笑みを浮かべたトウコは、耳を吐き出すとあざ笑うように言った。
「たかだか少尉風情がそう簡単に私を抱けると思うなよ。もう忘れたのか?食いちぎってやるって言っただろう?かかってこい、次はどこを食いちぎって欲しいんだ?」
「こ…のっ!殺してやる…!」
憎悪に満ちたどす黒い顔で男がトウコの顎を押さえ、逆の手でトウコの顔を思いきり殴りつけるが、トウコはまた顎を押さえつけていた男の手に噛みついた。
その時、扉の外で人の話し声が聞こえたかと思うと、1人の兵士が入って来た。
兵士はトウコと少尉を見ると目を剥いて止めに入った。
「少尉!おやめください!その女は解放されることになったのですよ!?外に第16の軍が迎えに来ています!」
兵士が男を羽交い絞めにして引き離そうとし、トウコが食らいついたままだった男の手から肉が千切れ、男の絶叫が響いた。
部屋の外で待機させられやきもきしていたソウマは、室内から聞こえてくる叫び声に居ても立ってもいられず部屋の中に飛び込んだ。
少尉の男はトウコに掴みかかろうとしばらく暴れていたが、兵士とソウマに取り押さえられ、騒ぎを聞きつけてやってきた兵士に連行され部屋を出て行った。
「私を抱けなくて残念だったな。せめて大佐になってから出直してこい。」
トウコの嘲笑う声が男を追いかけ、ソウマが顔を引き攣らせながらトウコにBDUの上着を掛けた。

***************

話を聞き終えたマリーが頭を押さえ、リョウが呆れたようにトウコを見下ろすが、そんな2人には構わずトウコは楽しそうに言った。
「ソウマさんを部屋の外に待たせて、治癒した状態で私を引き渡すつもりだったんだろうが結果はこれだ。あいつらの慌てた顔、見ものだったぞ。」
「トウコさん、部屋に入った時の私の気持ちがわかりますか…?ほぼ全裸のトウコさんが血まみれでいるんですよ?本当に心臓が止まりました。リョウさんとマリーさんに殺されるって本気で思ったんです…私。」
「もう!どうしてあんたはそんなに気が強いのよ!少しはしおらしくできないの!?」
「お前煽り過ぎだろ。勘弁してくれよ…。」
3人から非難されたトウコは少しむくれて言い返す。
「そんなこと言ったって大人しくしてたら、そのままヤられてたじゃないか。」
「抵抗するなとは言ってないだろ。煽るなって言ってんだよ、このド阿呆!」
リョウが即座に言い返し、トウコの頭を小突いて更に言い立てる。
「お前は強い。身体強化できなくったってその辺の男に負けないのは分かってる。この間の犯罪奴隷どもをやったのがいい例だ。だがな、今回は魔力を封じられてた上に拘束されてたんだぞ。お前だってわかってんだろ?純粋な腕力じゃ腕相撲で兵士1人にすら勝てないんだよ。最悪ヤられてたっていい。そいつは俺が殺してやる。逆上した男にお前が殺される方が俺は嫌だ。」
淡々と冷静に話すリョウをトウコは相変わらず少しむくれたまま見上げて呟いた。
「でも、私はリョウ以外の男に抱かれるのは嫌だ。」
「マリー!どうしよう!トウコが可愛い!」
「アンタ、絆されるんじゃないわよ!この子、確信犯だからね!拘束される前にリョウが大人しくしとけって言ったことに対して、トウコは返事しなかったからね!」
「マリー、余計な事言うな。」
「あ、トウコ、てめえ舌打ちしやがったな!」
トウコが笑いながらリョウとマリーの2人に腕を回す。
「心配かけて悪かった。」
リョウとマリーが毒気を抜かれたようにトウコを見下ろし、ため息を吐く。
「もう…甘えるのが上手になったわね。あんまり心配かけないでよ。」
マリーがそう言いながら、トウコの汗と血で汚れた髪を梳くようにして頭を撫でると、リョウもまたトウコを抱き締めて言った。
「無事でよかった。」
リョウの褐色の腹に頬を付けたトウコが笑いを含んだ声で言う。
「…2人とも臭いぞ。血の臭いがする。」
「血の雨降らせって誰かにおねだりされたからな。…人のこと言えないぞ。お前、俺たちよりくせーからな。」
リョウの言葉に、トウコは楽しそうに声を上げて笑った。


「あー…疲れた。このまま寝そうだ。」
すっかり夜が明けた頃、ソウマたちに送られて宿に戻って来た3人はそれぞれ部屋に戻り、トウコとリョウは風呂に浸かっていた。
トウコを自分の体にもたれ掛らせているリョウが、珍しく気が抜けた顔をして天を仰ぎながら言うと、リョウの肩に頭を乗せているトウコもまた府抜けた顔をして頷いた。
そのまましばらくぼんやりと風呂の天井を眺めていた2人だったが、リョウがトウコの首に掛かった細い鎖を指で弄りながら呟いた。
「正直言うと、絶対ヤられてると思った。」
その言葉にトウコは少し苦笑しながら言った。
「私もそうなるだろうと思ってたけど…そういえば話すの忘れてた。ソウマさんも言ってなかったな。動転していて忘れたんだろうな。」
「なんだよ?」
「砦の…アーチボルト中将だったか?と、シュウとアリアが私に手を出すなって言ってくれたみたいだぞ。」
「ああ…それで間に合ったのか。…アリアも?」
「うん。パーソンってアリアだろ?中将は私を友人だと、シュウとアリアは姉だってさ。…知らないうちに友人と家族が増えてた。」
少し楽しそうに言ったトウコに、リョウが揶揄うように言った。
「何なら本当に姉になってやれよ。」
「シュウにもう兄じゃない、友人だって言ったのは誰だったかな。」
即座に言い返したトウコの頭をリョウが小突いた後、大きくため息をついて言った。
「デカい借りができちまった。捨てたい名前だが今回ばっかりは助かったな。」
「悪かった。私のせいで。」
「ごめんって言え。」
「ごめんなさい。」
くすくす笑いながら言ったトウコを後ろから抱きしめたリョウが少し困ったように言う。
「お前ここでいきなり素直になるなよ。抱きたくなるだろ。」
「今日は無理だぞ。途中で寝る自信がある。」
「やめてくれ…そんなことになったら2度と立ち直れない。でも俺も無理だ。年かな…。」
「当たり前だ…海で散々遊んだ後に暴れたからな。リョウ、もう寝よう…。」

トウコとリョウは風呂から上がると泥のように眠り、ようやく長い1日が終わった。
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