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紫の章
17.約束
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リョウとマリーが暴れ、トウコが解放されたその日の昼過ぎ。
3人が起きると、レックスから組合本部に来るよう呼び出しがあった旨を宿の店員が伝えに来たが、3人はそれを無視した。
すると、その日の夕方、渋面を浮かべたレックスが直接宿にやってきた。
「ホント、君たちいい度胸してるよね!」
しぶしぶ3人が宿の応接室に入るや否や開口一番そう言ったレックスは、自分がどれだけ苦労して軍に抗議したかを滔々と語った後、軍が一連の爆破テロの首謀者およびスラムに潜伏していた一味を拿捕し、速やかに全員処刑した旨を発表したことを説明した。
また、組合と南0都市に駐留中の第16軍は、5度目の爆破で犯行声明を出した女―トウコは全くの無関係であったことも併せて発表するよう裏で抗議していると語った。
話し終えたレックスは、3人を見ると目を剥いて叫んだ。
「ねえ!ちゃんと聞いてる!?」
トウコは足を組んで煙草を燻らせ、トウコの腰を抱いて座っているリョウもまた天井に向かって煙草の煙を吐き出しており、マリーは3本目の煙草に火をつけた。
「大体、軍は一味を拿捕したって言ってるけど、それ嘘じゃん!僕知ってるからね!スラムで大量殺人があったこと!あれ、君たちでしょ!」
黙り続ける3人に構うことなくレックスは話し続ける。
「暴れるなって言ったのに!トウコちゃんの名前で出された犯行声明はなかったことにしろって抗議しても、組合員がやったことをバラされたくなかったら黙っとけって逆に脅される始末だよ!うちの組合員じゃないのに!!」
少し息を切らしながらレックスが冷めきったコーヒーに手を伸ばした時、マリーが口を開いた。
「トウコが戻ってきたんだから、軍の発表なんかどうでもいいわ。はい、この件はおしまい。」
マリーがそう言いながら立ち上がると、トウコとリョウもまた立ち上がりドアへと向かった。
ドアから出て行こうとする3人の背中を見ながらレックスが言った。
「兄貴もよくこんなイカれた奴らを囲ってるもんだよ。スラムの家の惨状、あれなに?血の海どころじゃなかったよ。首謀者に仕立て上げられた女は気が触れちゃってわけわかんないことしか言わないっていうし。」
トウコが振り返り不敵な笑みを浮かべてレックスを一瞥すると、そのまま部屋を出て行った。リョウもまた出て行こうとしたが、何かに気付いたかのようにレックスを振り返ると言った。
「おい。俺が渡した手紙返せ。」
レックスが苦々しい顔で懐から手紙を取り出し、リョウに投げつけた。
「兄貴のとこの組合員じゃなかったらとっくに消してるよ。」
冷たい声で言ったレックスに、リョウは笑みを浮かべて返した。
「初めて気があったな。俺もアイツの弟じゃなきゃ殺ってるよ。」
応接室から出た3人はそのまま1階の食堂で夕食を取ることにした。
軍からテロの終息宣言が出たとは言え、出てからまだ時間が経っていないこと、また軍の発表を信じない者もそれなりの数がいるため歓楽街は未だに賑わいを見せており、この日の宿の食堂も同様に賑わっていた。
しかし、3人は長く滞在していることもあって娼婦も男娼も買わないと認識されており、またトウコが軍に連行されたことを知っている者も多くいたため、3人は遠巻きにされ―3人にとっては平和に食事を取ることができた。
すっかり海鮮の食事に慣れたトウコが、イカの揚げ物を摘まみながら少し疲れた様子で呟いた。
「あとはもう第16都市に帰るだけだな。早く家に帰りたい…。」
「仕事で来たとは言え、ほとんどお遊びに近いはずだったのに疲れたわねぇ。」
マリーが同様に疲れた様子で頷いた時、リョウがアルコールの入ったジョッキを傾けていた腕を止めて、何かを思い出した様子で「あ。」と言った。
トウコとマリーがリョウを見ると、リョウは少し気まずそうな声でスラムの顔役がリョウとマリーがスラム街で暴れたことに目を瞑る代わりに、トウコに会わせるよう言ってきたことを説明した。
「…そういえばそんなこと言ってたわね。すっかり忘れてたわ。」
マリーもまた気まずそうに呟くと、トウコが少しうんざりした様子で言った。
「…面倒だな。」
「まあ、お前が承諾したら連れてくるって言っといたけどな。」
少し考え込んだトウコだったが小さくため息を吐くと口を開いた。
「行った方がいいだろうな。お前とマリーがよそのシマで暴れたのは事実だからな。ここのスラムと第16のスラムが繋がっているかどうかは知らないが、無視して面倒なことになるのは困る。」
その言葉にリョウが抗議するようにトウコの頭を乱暴に撫でながら言った。
「お前な。自分は関係ないみたいな言い方すんなよ。誰のために暴れたと思ってたんだ。」
「だからちゃんと顔を見せるって言ってるじゃないか。」
面白くなさそうにトウコの頭から手を離したリョウが言う。
「…面倒なことはとっとと終わらせとくか。食ったらスラム街に行こうぜ。」
リョウの言葉に、トウコとマリーは頷いた。
夕食後、3人は言葉通りスラム街を訪れた。
人の体臭と生ごみや汚物の臭いが入り混じった空気の中、水はけが悪くぬかるんだ道を3人が進む。
トウコの腰を抱いたリョウが、面倒くさそうな顔をしてすれ違いざまにトウコの尻や胸に伸びてくる腕を払っている。トウコもまた、道に座り込んでいる男たちから足に触ろうと伸ばされる手を蹴りはらいながら歩いていた。
「おい、マリー。もうその背中のバトルハンマー振り回しながら歩けよ。」
「何の為にわざわざここに来たと思ってんのよ。我慢しなさい。」
マリーもまた隙あらば財布を掏ろうとしてくる腕を鬱陶しそうに払っていた。
「久しぶりだな、この感じ。第16都市のスラムでは手を出してくる人間はいないもんな。」
少し感慨深げに言ったトウコに、マリーが投げやりに返す。
「そりゃあれだけ暴れたら手を出したらダメな奴って覚えられるでしょうよ。」
「顔を売るために頑張った結果だと言って欲しいな。」
けらけら笑いながら言ったトウコをマリーが呆れた目で見た時、1人の孤児と思われる襤褸を纏った少年が、トウコの足にぶつかってきた。
少年は少しよろけた後、トウコを一瞥するとそのまま何も言わずに路地の中に駆け込んでいった。
それを見た3人もまた少年が駆け込んでいった路地に足を向けた。
3人が路地に入ってしばらく進むと、別の孤児が目の前を横切ってまた違う路地に入って行く。
無計画に住民がバラック小屋を建てた結果、迷路のように入り組んだスラム街の道を次々と現れる孤児達に導かれるようにして3人が進むと、枯れ木のように痩せた体を襤褸で包んだ老人が1人、道の先に座り込んでいた。
老人は3人が近づくと歯のない口を嬉しそうに笑みの形に変えた。
トウコが腰のポーチから封を開けていない煙草を取り出して老人の前に放り投げると、老人は嬉しそうにそれを拾い1本抜き取った。
懐から取り出した赤黒い染みが付いたライターで火を付けうまそうに吸うと、煙を吐き出しながらマリーを見た老人が、ライターを握った手をかざす。
マリーが首を振ると老人はまた嬉しそうにそのライターを懐に仕舞った。
トウコたち3人も煙草に火を付け、しばらく無言で吸っていたが、おもむろにトウコが口を開いた。
「それで?私に会いたかったらしいが、顔は見せた。これでこの件は終わりと思っていいな?」
トウコの言葉に老人―顔役は少し楽しそうに言葉を返す。
「まぁそう冷たいことを言わんでくれ。少しは儂の相手をしてくれんかの?」
眉を上げたトウコの顔を見て顔役が言葉を続ける。
「そこの2人を暴れさせた女がどんな女か見てみたかったのさ。…怖い女だのう。お前さん、この娘っこの尻に敷かれてるんじゃないのか?」
最後は揶揄うような目でリョウを見ながら言った顔役に、リョウが薄笑いを浮かべて応じる。
「俺はトウコを組み敷くのも好きだが、トウコを上に乗せるのも好きなんだ。」
その言葉を聞いた顔役は歯のない口を開け、声を出さずに笑った。
「それでの。約束通りお前さんたちのお姫様の顔は拝ませてもらったからにゃ、これでこの件はおしまい、そう言いたいところなんだがの。」
そこで言葉を切った顔役を、トウコたち3人が少し不審そうに見やる。
「まだ約束は果たしてもらっておらん。」
「…どういうことかしら?」
マリーが少し冷たい声で問うと、顔役はリョウを見ながら答えた。
「お前さん、あの時こういったじゃろ。”テロに関わった奴らは全員殺してやる“とな。」
リョウとマリーが盛大に顔を顰める。
「スラムから出て行った女に俺たちは興味ないって言っただろ。」
低い声で言ったリョウを意に介することなく顔役は続ける。
「確かに言ったな。じゃが、お前さんたちが殺した奴ら以外に、その女に付いてスラムを出て行った奴らがおる。その中にはテロの実行犯も含まれておる。お前さんたちはまだそいつらを殺してないでな。」
リョウとマリーが顔役を睨み付けるが、顔役は飄々とした態度でトウコを見た。
トウコは盛大にため息をついて、リョウとマリーを見た。
「2人して迂闊なことを…と言いたいところだが。あの時は頭に血が上ってただろうから仕方がないか…。そうさせたのは私だしな。だが。」
言葉を切ったトウコが顔役を冷たく見下ろす。
「スラムによそ者が入り込み、それを放置した結果の始末をこの2人にお前がやらせたのも事実だ。お前がやるべきことをやらなかったから私が巻き込まれたとも言えるんだぞ。それを、冷静さを欠いていた2人の揚げ足を取って更に後始末を押し付けようとは…面白くないな。」
殺気を隠そうともしないトウコに、顔役が少し顔を強張らせる。
「全く…。見た目は美しくてもその内面は腐臭がするなんて履いて捨てるほどあるが、この街は特に酷いな。外面が綺麗な分、醜い人間が多くて反吐が出る。」
煙草を靴でもみ消し、吐き捨てるように言ったトウコは顔役を見据えたまま言った。
「約束は約束だ。やってやる。そいつらの居所を言え。」
3人が起きると、レックスから組合本部に来るよう呼び出しがあった旨を宿の店員が伝えに来たが、3人はそれを無視した。
すると、その日の夕方、渋面を浮かべたレックスが直接宿にやってきた。
「ホント、君たちいい度胸してるよね!」
しぶしぶ3人が宿の応接室に入るや否や開口一番そう言ったレックスは、自分がどれだけ苦労して軍に抗議したかを滔々と語った後、軍が一連の爆破テロの首謀者およびスラムに潜伏していた一味を拿捕し、速やかに全員処刑した旨を発表したことを説明した。
また、組合と南0都市に駐留中の第16軍は、5度目の爆破で犯行声明を出した女―トウコは全くの無関係であったことも併せて発表するよう裏で抗議していると語った。
話し終えたレックスは、3人を見ると目を剥いて叫んだ。
「ねえ!ちゃんと聞いてる!?」
トウコは足を組んで煙草を燻らせ、トウコの腰を抱いて座っているリョウもまた天井に向かって煙草の煙を吐き出しており、マリーは3本目の煙草に火をつけた。
「大体、軍は一味を拿捕したって言ってるけど、それ嘘じゃん!僕知ってるからね!スラムで大量殺人があったこと!あれ、君たちでしょ!」
黙り続ける3人に構うことなくレックスは話し続ける。
「暴れるなって言ったのに!トウコちゃんの名前で出された犯行声明はなかったことにしろって抗議しても、組合員がやったことをバラされたくなかったら黙っとけって逆に脅される始末だよ!うちの組合員じゃないのに!!」
少し息を切らしながらレックスが冷めきったコーヒーに手を伸ばした時、マリーが口を開いた。
「トウコが戻ってきたんだから、軍の発表なんかどうでもいいわ。はい、この件はおしまい。」
マリーがそう言いながら立ち上がると、トウコとリョウもまた立ち上がりドアへと向かった。
ドアから出て行こうとする3人の背中を見ながらレックスが言った。
「兄貴もよくこんなイカれた奴らを囲ってるもんだよ。スラムの家の惨状、あれなに?血の海どころじゃなかったよ。首謀者に仕立て上げられた女は気が触れちゃってわけわかんないことしか言わないっていうし。」
トウコが振り返り不敵な笑みを浮かべてレックスを一瞥すると、そのまま部屋を出て行った。リョウもまた出て行こうとしたが、何かに気付いたかのようにレックスを振り返ると言った。
「おい。俺が渡した手紙返せ。」
レックスが苦々しい顔で懐から手紙を取り出し、リョウに投げつけた。
「兄貴のとこの組合員じゃなかったらとっくに消してるよ。」
冷たい声で言ったレックスに、リョウは笑みを浮かべて返した。
「初めて気があったな。俺もアイツの弟じゃなきゃ殺ってるよ。」
応接室から出た3人はそのまま1階の食堂で夕食を取ることにした。
軍からテロの終息宣言が出たとは言え、出てからまだ時間が経っていないこと、また軍の発表を信じない者もそれなりの数がいるため歓楽街は未だに賑わいを見せており、この日の宿の食堂も同様に賑わっていた。
しかし、3人は長く滞在していることもあって娼婦も男娼も買わないと認識されており、またトウコが軍に連行されたことを知っている者も多くいたため、3人は遠巻きにされ―3人にとっては平和に食事を取ることができた。
すっかり海鮮の食事に慣れたトウコが、イカの揚げ物を摘まみながら少し疲れた様子で呟いた。
「あとはもう第16都市に帰るだけだな。早く家に帰りたい…。」
「仕事で来たとは言え、ほとんどお遊びに近いはずだったのに疲れたわねぇ。」
マリーが同様に疲れた様子で頷いた時、リョウがアルコールの入ったジョッキを傾けていた腕を止めて、何かを思い出した様子で「あ。」と言った。
トウコとマリーがリョウを見ると、リョウは少し気まずそうな声でスラムの顔役がリョウとマリーがスラム街で暴れたことに目を瞑る代わりに、トウコに会わせるよう言ってきたことを説明した。
「…そういえばそんなこと言ってたわね。すっかり忘れてたわ。」
マリーもまた気まずそうに呟くと、トウコが少しうんざりした様子で言った。
「…面倒だな。」
「まあ、お前が承諾したら連れてくるって言っといたけどな。」
少し考え込んだトウコだったが小さくため息を吐くと口を開いた。
「行った方がいいだろうな。お前とマリーがよそのシマで暴れたのは事実だからな。ここのスラムと第16のスラムが繋がっているかどうかは知らないが、無視して面倒なことになるのは困る。」
その言葉にリョウが抗議するようにトウコの頭を乱暴に撫でながら言った。
「お前な。自分は関係ないみたいな言い方すんなよ。誰のために暴れたと思ってたんだ。」
「だからちゃんと顔を見せるって言ってるじゃないか。」
面白くなさそうにトウコの頭から手を離したリョウが言う。
「…面倒なことはとっとと終わらせとくか。食ったらスラム街に行こうぜ。」
リョウの言葉に、トウコとマリーは頷いた。
夕食後、3人は言葉通りスラム街を訪れた。
人の体臭と生ごみや汚物の臭いが入り混じった空気の中、水はけが悪くぬかるんだ道を3人が進む。
トウコの腰を抱いたリョウが、面倒くさそうな顔をしてすれ違いざまにトウコの尻や胸に伸びてくる腕を払っている。トウコもまた、道に座り込んでいる男たちから足に触ろうと伸ばされる手を蹴りはらいながら歩いていた。
「おい、マリー。もうその背中のバトルハンマー振り回しながら歩けよ。」
「何の為にわざわざここに来たと思ってんのよ。我慢しなさい。」
マリーもまた隙あらば財布を掏ろうとしてくる腕を鬱陶しそうに払っていた。
「久しぶりだな、この感じ。第16都市のスラムでは手を出してくる人間はいないもんな。」
少し感慨深げに言ったトウコに、マリーが投げやりに返す。
「そりゃあれだけ暴れたら手を出したらダメな奴って覚えられるでしょうよ。」
「顔を売るために頑張った結果だと言って欲しいな。」
けらけら笑いながら言ったトウコをマリーが呆れた目で見た時、1人の孤児と思われる襤褸を纏った少年が、トウコの足にぶつかってきた。
少年は少しよろけた後、トウコを一瞥するとそのまま何も言わずに路地の中に駆け込んでいった。
それを見た3人もまた少年が駆け込んでいった路地に足を向けた。
3人が路地に入ってしばらく進むと、別の孤児が目の前を横切ってまた違う路地に入って行く。
無計画に住民がバラック小屋を建てた結果、迷路のように入り組んだスラム街の道を次々と現れる孤児達に導かれるようにして3人が進むと、枯れ木のように痩せた体を襤褸で包んだ老人が1人、道の先に座り込んでいた。
老人は3人が近づくと歯のない口を嬉しそうに笑みの形に変えた。
トウコが腰のポーチから封を開けていない煙草を取り出して老人の前に放り投げると、老人は嬉しそうにそれを拾い1本抜き取った。
懐から取り出した赤黒い染みが付いたライターで火を付けうまそうに吸うと、煙を吐き出しながらマリーを見た老人が、ライターを握った手をかざす。
マリーが首を振ると老人はまた嬉しそうにそのライターを懐に仕舞った。
トウコたち3人も煙草に火を付け、しばらく無言で吸っていたが、おもむろにトウコが口を開いた。
「それで?私に会いたかったらしいが、顔は見せた。これでこの件は終わりと思っていいな?」
トウコの言葉に老人―顔役は少し楽しそうに言葉を返す。
「まぁそう冷たいことを言わんでくれ。少しは儂の相手をしてくれんかの?」
眉を上げたトウコの顔を見て顔役が言葉を続ける。
「そこの2人を暴れさせた女がどんな女か見てみたかったのさ。…怖い女だのう。お前さん、この娘っこの尻に敷かれてるんじゃないのか?」
最後は揶揄うような目でリョウを見ながら言った顔役に、リョウが薄笑いを浮かべて応じる。
「俺はトウコを組み敷くのも好きだが、トウコを上に乗せるのも好きなんだ。」
その言葉を聞いた顔役は歯のない口を開け、声を出さずに笑った。
「それでの。約束通りお前さんたちのお姫様の顔は拝ませてもらったからにゃ、これでこの件はおしまい、そう言いたいところなんだがの。」
そこで言葉を切った顔役を、トウコたち3人が少し不審そうに見やる。
「まだ約束は果たしてもらっておらん。」
「…どういうことかしら?」
マリーが少し冷たい声で問うと、顔役はリョウを見ながら答えた。
「お前さん、あの時こういったじゃろ。”テロに関わった奴らは全員殺してやる“とな。」
リョウとマリーが盛大に顔を顰める。
「スラムから出て行った女に俺たちは興味ないって言っただろ。」
低い声で言ったリョウを意に介することなく顔役は続ける。
「確かに言ったな。じゃが、お前さんたちが殺した奴ら以外に、その女に付いてスラムを出て行った奴らがおる。その中にはテロの実行犯も含まれておる。お前さんたちはまだそいつらを殺してないでな。」
リョウとマリーが顔役を睨み付けるが、顔役は飄々とした態度でトウコを見た。
トウコは盛大にため息をついて、リョウとマリーを見た。
「2人して迂闊なことを…と言いたいところだが。あの時は頭に血が上ってただろうから仕方がないか…。そうさせたのは私だしな。だが。」
言葉を切ったトウコが顔役を冷たく見下ろす。
「スラムによそ者が入り込み、それを放置した結果の始末をこの2人にお前がやらせたのも事実だ。お前がやるべきことをやらなかったから私が巻き込まれたとも言えるんだぞ。それを、冷静さを欠いていた2人の揚げ足を取って更に後始末を押し付けようとは…面白くないな。」
殺気を隠そうともしないトウコに、顔役が少し顔を強張らせる。
「全く…。見た目は美しくてもその内面は腐臭がするなんて履いて捨てるほどあるが、この街は特に酷いな。外面が綺麗な分、醜い人間が多くて反吐が出る。」
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