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紫の章
18.離れた手
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暗い坑道を、トウコたち3人はカンテラを手に歩いていた。
あの後、顔役は首謀者とみられる女とテロの一味の残党は、南0都市の鉱山にいると語った。スラムの住人は長い年月をかけて密かにスラムの地下と鉱山を繋ぐ坑道を掘っており、鉱山を管理している都市の目を盗んで鉱石を掠め採っていると言う。
その坑道を使って女と残党は鉱山に移動したとのことだった。
トウコたち3人も、その坑道を使って鉱山へ向かっていた。
「トウコったら、勝手に受けちゃってもう。」
マリーが少し咎めるように言うと、トウコは苦笑しながら反論した。
「リョウが迂闊なことを言ったのに気づかなかったのはマリーだろう?」
「それはそうだけど…!」
リョウが眉を顰めながらマリーの言葉を引き継ぐ。
「俺が迂闊なことを言ったのは否定しねーが、マリーの言う通り引き受ける義理はなかったんじゃねーのか?」
「約束は約束だ。ここで約束を反故にして、後々面倒なことになるのも嫌じゃないか。第16都市のスラムと私たちはいい関係を築けているのに、これが元でぎくしゃくするのも困るだろう?」
トウコの言葉にマリーが眉を少し下げて応じる。
「まぁそうだけど。ここのスラムと第16のスラムが繋がっていたらの話よ、それは。」
「確かめる術がないんだから受けるしかないだろう?」
肩を竦めて言ったトウコに、リョウが胡乱な目をして反論する。
「…お前、偉そうなこと言ってるけどよ。本当のところはキレてるだろ。その首謀者らしき女に。」
「バレたか。」
悪戯っぽく笑いながら言ったトウコに、マリーとリョウがため息を吐く。
「2人だけで暴れたんだ。私にも暴れさせてくれよ。」
「んもう、トウコったら仕方がないわねえ。」
「お前もっと可愛いおねだりしろよ。しゃーねーなあ。最後にもうひと暴れして帰るか。」
トウコは嬉しそうに笑いながら、リョウとマリーの腕にじゃれつくように腕を絡めた。
3人が坑道を進んで1時間以上が経った頃、人1人が腹ばいになってやっと通れるほどの穴が現れた。リョウが警戒しながらその穴を抜け、危険がないことを確認した後にトウコが、最後にマリーが穴に体を擦りながら抜けた。
穴を抜けた先はこれまで通って来た坑道とは異なり、等間隔に明かりが設置されていて、明らかにきちんと管理されている様子が見て取れた。
顔役によると、スラムの隠し坑道と鉱山は小さな穴で繋がっており、穴を抜けると左右に道が分かれているという。
そして、右が未だに掘られている坑道に続き、左が掘りつくされて捨てられた坑道に続いており、首謀者とみられる女と残党はおそらく左の道を進んだ先に潜伏しているだろうと言った。
顔役の言葉通り穴の先は左右に道が分かれていた。
「鉱山に入ったな。」
カンテラを消しながら言ったリョウにマリーが頷く。
「顔役の言った通りね。」
「行こう。」
左の道の先を睨みながら言ったトウコにリョウとマリーが頷き、3人は慎重に先へ進んだ
3人がそのまましばらく進むと、坑道の先にぽっかりと開けた空間が現れた。
その空間から少し離れた場所で足を止めた3人は、ウンザリした様子で中を窺っていた。
「なんだか見覚えがあるわ…この感じ。」
マリーが疲れた様子で呟くと、リョウもまた「奇遇だなマリー。俺も見覚えがあると思っていたところだ。」と言った。
2人の言葉にトウコもまた疲れたように言った。
「…悪い。私のせいで。」
3人がうんざりした様子で中を窺っている空間は、ごつごつとした岩肌がむき出しになった洞窟のような空間で、坑道と違い明かりはないのに上から光が差し込んでいるように明るかった。
それはまるで、以前3人が戦った迷宮の主がいた場所と酷似していた。
そして、洞窟内にはここで働かされているのであろう多数の薄汚れた男―犯罪奴隷たちが3人をうつろな目で見ており、その中心に男を四つん這いにさせ、その背に頭からすっぽり外套を被って足を組んで座っている人物がいた。
外套を被っているので外見は分からないが、体型から女と推測できた。
更に女の周りには幾人かの男が侍っており、恐らくあれがテロに関わった残党だと思われたが、こちらもまたうつろな目をしていた。
「もうこのまま帰っちゃう?」
「知らないふりして帰るか…?どうせ数日後には帰還する日だ。」
マリーとトウコがそう言うと、リョウが「帰りてーとこだが…今度こそ宝物庫になるかもしんねーぞ?」と言った。
即座にトウコが言い返す。
「リョウ、思ってもいないこと言うな。」
「じゃあ、どうすんだよ。帰るか?」
その言葉にトウコが一つため息を吐く。
「帰りたいところだが。」
言葉を切ったトウコが、腰のポーチからフィンガーレスグローブを取り出し、それを装着しながら不敵に笑う。
「私たちをコケにした奴を前におめおめ逃げ帰るのは面白くない。破壊屋の名が廃る。」
「その名は廃っていいわよ…。でもトウコの言う通りね。やってやるわよ。」
マリーが背中のバトルハンマーに手を伸ばして言うと、リョウも冷たい笑みを浮かべて言った。
「俺のトウコを散々痛めつけた原因作った奴だ。借りはきっちり返してやる。」
好戦的な笑みを浮かべたトウコが、リョウとマリーに拳を突き付ける。
「入った瞬間に男どもが襲い掛かってくるかもしれない。マリー、あいつらは任せる。そのハンマーで叩き潰してやれ。リョウと私はあの女だ。」
リョウとマリーもまた、好戦的な笑みを浮かべてトウコの拳に己の拳を合わせて頷いた。
「ようこそ。」
3人が洞窟内に足を踏み入れると、四つん這いにさせた男の背に座っていた人物がすぐに声をかけて来た。
落ち着いた女の声だった。
座っている男の背中を指でなぞりながら言葉を続けた。
「きっと来てくれると思っていたわ。はじめまして、私はリリア。」
女―リリアはゆっくりと足を組み替え、少し小首を傾げる。
「スラムに残った子たちをみんな殺しちゃったのはあなたたちでしょう?私の可愛いお人形だったのに。悲しいわ。」
言葉とは裏腹に全く悲しみを感じさせない声色で言ったリリアは、今度は少し艶気を含んだ声で続けた。
「でも、ここでまた可愛いお人形がたくさん手に入ったからいいわ。」
背中に座っている男の頭を撫でるリリアを見ながら、リョウが薄笑いを浮かべて問うた。
「お前がテロの首謀者か?」
「そうなるのかしら?私は別にテロを起こしたかったわけじゃないのだけれどね。あの子たちは自分たちを虐げる人間を恨んでいたみたいだから、その恨みがああいう行動を起こさせたのじゃないかしら。」
そこで言葉を切ったリリアは、少し愉快そうに言葉を続けた。
「トウコちゃんを首謀者に仕立て上げたらいいじゃない、って言ったのは私だけれど。」
「そうか、それだけ聞ければ十分だ。死ね。」
リョウが短剣を構え飛び出そうとした時、リリアが静かに座っていた男の背中から降りた。
「せっかちな男は嫌われるわよ?もう少しお話ししましょう。」
そう言いながら、リリアが外套のボタンを外し、被っていたフードをゆっくりと降ろした。外套がぱさりと地面に落ちる。
現れたのはこれと言った特徴のない、茶が強い金髪に緑がかった青の瞳をした、中肉中背の凡庸な顔立ちの女だった。
リリアの姿を見たトウコとマリーが顔役の言った通りの女だと思った時、リョウが少し息を飲んで呟いた。
「トウコ…?」
トウコが隣に立つリョウを不審げに見上げる。
「…リョウ?お前何を言っている?」
リョウは、不審げに己を見上げるトウコと、何も言わなかったがやはり訝しげに自分を見ているマリーを見て、声を上げた。
「は?いや、あの女トウコにそっくりだろ!?」
「あんた自分の女のことどう見えてんのよ。似ても似つかないじゃない。」
マリーの馬鹿にするような言葉にリョウが明らかに狼狽える。
それを見たリリアが可笑しそうにマリーとトウコを見つめながら問いかけた。
「あら、あなたたちの目には私のことはどう映っているのかしら?」
その言葉にマリーが即座に「どこにでもいそうな凡庸な女の顔ね。」と応じる。
トウコもまた肩を竦めながら答える。
「マリーの言う通りだな。身長も体格も、おまけに髪も瞳の色も私とは違う。」
最後は横目でリョウを見ながら言ったトウコに、リョウが目を剥く。
「黒髪に目は紫だろう!?」
「よく見かける茶色が強い金髪に緑がかった青の瞳だぞ。…幻覚か。面倒だな。」
トウコの言葉にリョウがリリアを凝視し、リリアは口に手を当てて楽しそうに笑った。
「あらあら。2人には私の幻覚が効かなかったみたいね。…自分が心の奥底で思っている理想の姿、もしくは理想の人物に見える幻覚なの。だから…」
リリアが周りに侍る色無しの男を見ながら言葉を続ける。
「この子たちは私のことが見事な金髪に青目の女に見えているし、奴隷の子たちは好みの娼婦や女に見えているのよ。」
リョウが顔を隠すように両手で顔を覆い、「マジかよ…。なんだよこの羞恥プレイ。」と呻くように言った。
それを楽しそうに見ながらリリアがさらに続ける。
「残念ながら女の子には少し効き難いのだけれど、特に強い憎しみを持つ人間に効くのよ。あなたたち2人は憎しみを持っていないのかしら?」
マリーが少しニヤニヤしながらリョウを横目で伺いつつ、答えた。
「私は心は女だもの。おまけに憎いものはないわよ。この世界には諦めしかないの。」
トウコはリョウを一瞥した後、冷笑を浮かべてリリアを見た。
「私が今一番憎いと思っているのはリリア、お前だな。」
リリアは2人言葉を聞いて、「あらそう。トウコちゃんは無理かなって思っていたけれど、そっちの大きいお兄さんが手に入らないのは残念だわ。でも…強そうで私好みのお人形が手に入ったからいいわ。」と弾んだ声で言った。
「何を…?…リョウ!」
トウコがはっとしたようにリョウを見上げて叫び、マリーもまた焦ったようにリョウを振り返る。
それには構わずリリアが楽しそうに告げた。
「いらっしゃい。」
艶気のある声で告げたリリアがリョウに向かって手をひらりと振る。
その声にリョウが顔を押さえていた両手をだらりと降ろした。
咄嗟にトウコがその腕を掴む。
リョウがトウコを見下ろし、その目が憎しみに染まる。
自分の腕を掴むトウコの手を忌々しそうに見たリョウが、その手を乱暴に払い除けると、そのままリリアの方へ歩いて行く。
マリーが悲鳴を上げるように叫んだ。
「リョウ!」
リョウはリリアの元へと歩み寄ると、いつもトウコにしているようにリリアの腰を大事そうに抱いて引き寄せた。
トウコは振り払われた手を呆然と見下ろしていたが、視線を上げてリリアに寄り添うリョウを見た。
「リョウ…?」
トウコの呟きが洞窟内に響いて消えた。
あの後、顔役は首謀者とみられる女とテロの一味の残党は、南0都市の鉱山にいると語った。スラムの住人は長い年月をかけて密かにスラムの地下と鉱山を繋ぐ坑道を掘っており、鉱山を管理している都市の目を盗んで鉱石を掠め採っていると言う。
その坑道を使って女と残党は鉱山に移動したとのことだった。
トウコたち3人も、その坑道を使って鉱山へ向かっていた。
「トウコったら、勝手に受けちゃってもう。」
マリーが少し咎めるように言うと、トウコは苦笑しながら反論した。
「リョウが迂闊なことを言ったのに気づかなかったのはマリーだろう?」
「それはそうだけど…!」
リョウが眉を顰めながらマリーの言葉を引き継ぐ。
「俺が迂闊なことを言ったのは否定しねーが、マリーの言う通り引き受ける義理はなかったんじゃねーのか?」
「約束は約束だ。ここで約束を反故にして、後々面倒なことになるのも嫌じゃないか。第16都市のスラムと私たちはいい関係を築けているのに、これが元でぎくしゃくするのも困るだろう?」
トウコの言葉にマリーが眉を少し下げて応じる。
「まぁそうだけど。ここのスラムと第16のスラムが繋がっていたらの話よ、それは。」
「確かめる術がないんだから受けるしかないだろう?」
肩を竦めて言ったトウコに、リョウが胡乱な目をして反論する。
「…お前、偉そうなこと言ってるけどよ。本当のところはキレてるだろ。その首謀者らしき女に。」
「バレたか。」
悪戯っぽく笑いながら言ったトウコに、マリーとリョウがため息を吐く。
「2人だけで暴れたんだ。私にも暴れさせてくれよ。」
「んもう、トウコったら仕方がないわねえ。」
「お前もっと可愛いおねだりしろよ。しゃーねーなあ。最後にもうひと暴れして帰るか。」
トウコは嬉しそうに笑いながら、リョウとマリーの腕にじゃれつくように腕を絡めた。
3人が坑道を進んで1時間以上が経った頃、人1人が腹ばいになってやっと通れるほどの穴が現れた。リョウが警戒しながらその穴を抜け、危険がないことを確認した後にトウコが、最後にマリーが穴に体を擦りながら抜けた。
穴を抜けた先はこれまで通って来た坑道とは異なり、等間隔に明かりが設置されていて、明らかにきちんと管理されている様子が見て取れた。
顔役によると、スラムの隠し坑道と鉱山は小さな穴で繋がっており、穴を抜けると左右に道が分かれているという。
そして、右が未だに掘られている坑道に続き、左が掘りつくされて捨てられた坑道に続いており、首謀者とみられる女と残党はおそらく左の道を進んだ先に潜伏しているだろうと言った。
顔役の言葉通り穴の先は左右に道が分かれていた。
「鉱山に入ったな。」
カンテラを消しながら言ったリョウにマリーが頷く。
「顔役の言った通りね。」
「行こう。」
左の道の先を睨みながら言ったトウコにリョウとマリーが頷き、3人は慎重に先へ進んだ
3人がそのまましばらく進むと、坑道の先にぽっかりと開けた空間が現れた。
その空間から少し離れた場所で足を止めた3人は、ウンザリした様子で中を窺っていた。
「なんだか見覚えがあるわ…この感じ。」
マリーが疲れた様子で呟くと、リョウもまた「奇遇だなマリー。俺も見覚えがあると思っていたところだ。」と言った。
2人の言葉にトウコもまた疲れたように言った。
「…悪い。私のせいで。」
3人がうんざりした様子で中を窺っている空間は、ごつごつとした岩肌がむき出しになった洞窟のような空間で、坑道と違い明かりはないのに上から光が差し込んでいるように明るかった。
それはまるで、以前3人が戦った迷宮の主がいた場所と酷似していた。
そして、洞窟内にはここで働かされているのであろう多数の薄汚れた男―犯罪奴隷たちが3人をうつろな目で見ており、その中心に男を四つん這いにさせ、その背に頭からすっぽり外套を被って足を組んで座っている人物がいた。
外套を被っているので外見は分からないが、体型から女と推測できた。
更に女の周りには幾人かの男が侍っており、恐らくあれがテロに関わった残党だと思われたが、こちらもまたうつろな目をしていた。
「もうこのまま帰っちゃう?」
「知らないふりして帰るか…?どうせ数日後には帰還する日だ。」
マリーとトウコがそう言うと、リョウが「帰りてーとこだが…今度こそ宝物庫になるかもしんねーぞ?」と言った。
即座にトウコが言い返す。
「リョウ、思ってもいないこと言うな。」
「じゃあ、どうすんだよ。帰るか?」
その言葉にトウコが一つため息を吐く。
「帰りたいところだが。」
言葉を切ったトウコが、腰のポーチからフィンガーレスグローブを取り出し、それを装着しながら不敵に笑う。
「私たちをコケにした奴を前におめおめ逃げ帰るのは面白くない。破壊屋の名が廃る。」
「その名は廃っていいわよ…。でもトウコの言う通りね。やってやるわよ。」
マリーが背中のバトルハンマーに手を伸ばして言うと、リョウも冷たい笑みを浮かべて言った。
「俺のトウコを散々痛めつけた原因作った奴だ。借りはきっちり返してやる。」
好戦的な笑みを浮かべたトウコが、リョウとマリーに拳を突き付ける。
「入った瞬間に男どもが襲い掛かってくるかもしれない。マリー、あいつらは任せる。そのハンマーで叩き潰してやれ。リョウと私はあの女だ。」
リョウとマリーもまた、好戦的な笑みを浮かべてトウコの拳に己の拳を合わせて頷いた。
「ようこそ。」
3人が洞窟内に足を踏み入れると、四つん這いにさせた男の背に座っていた人物がすぐに声をかけて来た。
落ち着いた女の声だった。
座っている男の背中を指でなぞりながら言葉を続けた。
「きっと来てくれると思っていたわ。はじめまして、私はリリア。」
女―リリアはゆっくりと足を組み替え、少し小首を傾げる。
「スラムに残った子たちをみんな殺しちゃったのはあなたたちでしょう?私の可愛いお人形だったのに。悲しいわ。」
言葉とは裏腹に全く悲しみを感じさせない声色で言ったリリアは、今度は少し艶気を含んだ声で続けた。
「でも、ここでまた可愛いお人形がたくさん手に入ったからいいわ。」
背中に座っている男の頭を撫でるリリアを見ながら、リョウが薄笑いを浮かべて問うた。
「お前がテロの首謀者か?」
「そうなるのかしら?私は別にテロを起こしたかったわけじゃないのだけれどね。あの子たちは自分たちを虐げる人間を恨んでいたみたいだから、その恨みがああいう行動を起こさせたのじゃないかしら。」
そこで言葉を切ったリリアは、少し愉快そうに言葉を続けた。
「トウコちゃんを首謀者に仕立て上げたらいいじゃない、って言ったのは私だけれど。」
「そうか、それだけ聞ければ十分だ。死ね。」
リョウが短剣を構え飛び出そうとした時、リリアが静かに座っていた男の背中から降りた。
「せっかちな男は嫌われるわよ?もう少しお話ししましょう。」
そう言いながら、リリアが外套のボタンを外し、被っていたフードをゆっくりと降ろした。外套がぱさりと地面に落ちる。
現れたのはこれと言った特徴のない、茶が強い金髪に緑がかった青の瞳をした、中肉中背の凡庸な顔立ちの女だった。
リリアの姿を見たトウコとマリーが顔役の言った通りの女だと思った時、リョウが少し息を飲んで呟いた。
「トウコ…?」
トウコが隣に立つリョウを不審げに見上げる。
「…リョウ?お前何を言っている?」
リョウは、不審げに己を見上げるトウコと、何も言わなかったがやはり訝しげに自分を見ているマリーを見て、声を上げた。
「は?いや、あの女トウコにそっくりだろ!?」
「あんた自分の女のことどう見えてんのよ。似ても似つかないじゃない。」
マリーの馬鹿にするような言葉にリョウが明らかに狼狽える。
それを見たリリアが可笑しそうにマリーとトウコを見つめながら問いかけた。
「あら、あなたたちの目には私のことはどう映っているのかしら?」
その言葉にマリーが即座に「どこにでもいそうな凡庸な女の顔ね。」と応じる。
トウコもまた肩を竦めながら答える。
「マリーの言う通りだな。身長も体格も、おまけに髪も瞳の色も私とは違う。」
最後は横目でリョウを見ながら言ったトウコに、リョウが目を剥く。
「黒髪に目は紫だろう!?」
「よく見かける茶色が強い金髪に緑がかった青の瞳だぞ。…幻覚か。面倒だな。」
トウコの言葉にリョウがリリアを凝視し、リリアは口に手を当てて楽しそうに笑った。
「あらあら。2人には私の幻覚が効かなかったみたいね。…自分が心の奥底で思っている理想の姿、もしくは理想の人物に見える幻覚なの。だから…」
リリアが周りに侍る色無しの男を見ながら言葉を続ける。
「この子たちは私のことが見事な金髪に青目の女に見えているし、奴隷の子たちは好みの娼婦や女に見えているのよ。」
リョウが顔を隠すように両手で顔を覆い、「マジかよ…。なんだよこの羞恥プレイ。」と呻くように言った。
それを楽しそうに見ながらリリアがさらに続ける。
「残念ながら女の子には少し効き難いのだけれど、特に強い憎しみを持つ人間に効くのよ。あなたたち2人は憎しみを持っていないのかしら?」
マリーが少しニヤニヤしながらリョウを横目で伺いつつ、答えた。
「私は心は女だもの。おまけに憎いものはないわよ。この世界には諦めしかないの。」
トウコはリョウを一瞥した後、冷笑を浮かべてリリアを見た。
「私が今一番憎いと思っているのはリリア、お前だな。」
リリアは2人言葉を聞いて、「あらそう。トウコちゃんは無理かなって思っていたけれど、そっちの大きいお兄さんが手に入らないのは残念だわ。でも…強そうで私好みのお人形が手に入ったからいいわ。」と弾んだ声で言った。
「何を…?…リョウ!」
トウコがはっとしたようにリョウを見上げて叫び、マリーもまた焦ったようにリョウを振り返る。
それには構わずリリアが楽しそうに告げた。
「いらっしゃい。」
艶気のある声で告げたリリアがリョウに向かって手をひらりと振る。
その声にリョウが顔を押さえていた両手をだらりと降ろした。
咄嗟にトウコがその腕を掴む。
リョウがトウコを見下ろし、その目が憎しみに染まる。
自分の腕を掴むトウコの手を忌々しそうに見たリョウが、その手を乱暴に払い除けると、そのままリリアの方へ歩いて行く。
マリーが悲鳴を上げるように叫んだ。
「リョウ!」
リョウはリリアの元へと歩み寄ると、いつもトウコにしているようにリリアの腰を大事そうに抱いて引き寄せた。
トウコは振り払われた手を呆然と見下ろしていたが、視線を上げてリリアに寄り添うリョウを見た。
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