常世の彼方

ひろせこ

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金の章

03.野盗

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 あと1時間ほどで休憩地点の集落に到着するという辺りで、ぼんやりと外を見ていたトウコとリョウの2人がわずかに体を前に倒し、外を鋭く睨む。
その様子に気付いたマリーが2人に声をかけた。
「トウコ、リョウ何かあった?」
マリーの言葉にぼそぼそと雑談していた他のメンバーも口を閉じて2人を見たが、トウコとリョウは何も返さずそのままじっと外を見つめている。
焦れたデニスが立ち上がって開口部に座る2人の後ろまで来た時、一行の後方に薄く砂煙が立った。
それを見たトウコが静かに口を開いた。
「マリー、石を。」
言われたマリーが石の入ったずた袋を引きずって来ると、トウコとリョウの間に置き、そのまま外を見た。
砂煙は徐々に大きくなり、黒い影が一行を追って来ているのが分かった。
「あれは…魔導車かしら。」
マリーの言葉通り、一行が乗っているピックアップ式トラックと同じような魔導車が数台姿を現した。
「遺跡探索に向かう組合員の一団か、それとも…。」
トウコがそう言い、そのままじっと鋭い目で外を見続ける。
リョウ、マリー、デニスも無言で外を睨み付けることしばし、追って来ていた一団の姿が鮮明になった。
廃車同然のピックアップ式トラックに薄汚れた男たちが各々武器を手に乗っている。
リョウがニヤリと口の端を歪めて言った。
「野盗だ。」
「3、4…5台。30人はいるか?」
「銃を持ってる奴もいるわね。」
「どうせ模造品のジャンクを組み立てたようなやつだ。俺らの障壁は抜けないだろ。それより魔術士がいなけりゃいいけどな。」
「2人でいける?」
マリーの問いにトウコとリョウは少し考え込み、リョウが口を開いた。
「おいデニス。お前んとこの魔導士、あいつに俺たちのフォローさせろ。マリーも念のためにフォロー頼む。」
「分かったわ。」
「お、おう。それは問題ねえが、30人以上いるぞ?大丈夫なのかよ。」
トウコが不敵に笑いながら答えた。
「破壊屋を舐めるなよ。」

「デニスとあなたはヨシザキさんとハナちゃんに付いて。魔導士のあなたはリョウとトウコのフォローよ。2人の指示に従って。ヨシザキさんとハナちゃんはじっとしててね!」
マリーの言葉通り、デニスとその仲間の1人がヨシザキとハナを守るために配置に付き、もう1人の魔導士がトウコとリョウの隣へ付いた。
ヨシザキとハナは青い顔をしてこくこくと頷いている。
トウコとリョウの後ろにマリーが立つと、マリーが運転席のリカへと叫んだ。
「リカちゃん!向こうに魔導士がいるかもしれないわ!ジグザグに蛇行して進んで!」
「分かりましたー!」
リカが元気よく応答し、すぐに車が蛇行し始める。
青い顔をしたヨシザキとハナの体が倒れそうになり、それをデニスともう1人が支える。

その頃には野盗の下卑た顔が判別できる距離まで来ていた。
先頭を進む1台の荷台で、魔導式小銃を持った男がトウコを指差して周りの男たちに何かを叫び、男たちが歓声を上げる。
その様子を見たリョウが冷笑を浮かべながら、「トウコ、お前相変わらずモテるな。妬ける。」と言うと、トウコも冷たく笑いながら「いい加減慣れろ。」と言い返した。
野盗の乗った魔導車5台もまたそれぞれ蛇行しながら、一行を取り囲むように展開していく。
「お前は左だ。当たらなくていい、けん制しろ。もし魔法が飛んで来たら真っ先に相殺しろ。」
リョウが魔導士に言い、魔導士が頷く。
「俺は魔力石をばら撒く。右に多めに行くぞ。トウコ、お前は中央だ。」
トウコが獰猛に笑ったのを見て、リョウもまた冷酷な笑みを浮かべると言った。
「行くぞ。」

野盗の一団を率いている男は久しぶりの獲物に高揚していた。
元々、遥か東の都市で組合員として活動していたが、チームメンバーのつまらないミスで依頼を失敗するという事態が続いた結果、チーム内での諍いが増え、最終的に男がメンバーの1人を殺したことで、男はチームから弾き出された。
そのままいくつかの都市を転々としながら組合員としてやってきたが、どこでもうまくいかず、そのような男たちがいつの間にか集まり、最終的に野盗になった。
軍から目を付けられる度に西へ西へと移動し続け、つい最近辺境である第16都市周辺までやってきた。
第16都市は死の森が近いため、魔物が強くまた組合員も精強が多いと聞いていたが、男はそれを話半分に聞いていた。
隣の第14都市周辺もそれなりに強い組合員が多いという話だったが、商隊や小集落から奪略を繰り返し、それなりに成功してきた。そのため第16都市も大したことはないだろうと思い、第14都市周辺で軍に目を付けられた一団は、東に戻るのではなく西へ進むことを決めた。
しかし、こちらに移動してからというもの略奪は思うようにいかなかった。
商隊を襲っても護衛する組合員に撃退されることが続き、それならば小集落を襲おうと思っても、そもそも小集落がほとんど存在しなかった。
略奪が上手くいかず、皆の苛立ちが高まり諍いが増えて来た頃、第16都市と死の森の間に組合員の休憩目当ての小さな集落があることを知った。
最後にそこを襲撃し、食料に金、そして女を強奪したら東へ戻ろうと決め、そこへ向かっている途中だった。
もうすぐ目当ての集落だろうという頃に、一台のピックアップ式魔導車が前を走っているに気付いた。
第16都市の組合員には辟易としていたが、向こうは1台でこちらは5台。また、魔導車の大きさから見ても、向こうは多くても7~8人。これまでは複数台に分乗した組合員たちにやられていたこともあり、数では十分勝っている自分たちが勝てると思い近づいた。
そうすると、荷台からこちらを鋭く見ている色無しの女が目に入った。
恐らく性奴隷であろう色無しの女を連れている組合員などたかが知れていると思い、男は俄然高揚した。
右手に持った小銃を掲げ叫んだ。
「おい!色無しの女がいるぞ!1番多く殺した奴に、あの女を最初に抱かせてやる!」
仲間たちの歓声を聞きながら男が色無しの女を見ると、女は冷笑を浮かべてこちらを見ていた。
気の強そうな色無しの女が、数刻後には自分の下で泣き叫んでいるのを舌なめずりしながら想像した男は、仲間たちに指示を出した。

「魔導士がいるかもしれん!蛇行して走れ!」
固まって走っていた仲間たちの魔導車が蛇行しつつ、前を走る魔導車を囲むように展開していく。
荷台の端に乗っている組合員の男が掌を仲間の1台に向け、金髪の男がタクティカルベストから何かを取り出すと、こちらに向かってばら撒くようにそれを投げた。
「やっぱり魔導士がいるぞ!避けろ!」
男が叫んだのと同時に周囲で爆発と炎の塊が弾け、土煙と共に炎が上がる。
男の左を走っていた1台が爆発に巻き込まれて炎上したが、残りは無事だった。
「くそ!銃を持ってる奴は魔導士を重点的に狙え!魔導士のお前は、タイヤを狙うんだ!」
男がそう叫んだ時、土煙を突き破って何かが飛び込んできた。
咄嗟にそれに向かって引き金を引いたが、青い光の壁に阻まれた。
その何かは男の隣にいた魔導士の男の胸に圧し掛かるように着地すると、仰向けに倒れ込んだ男の首を両手でつかんで捩じ折った。
それは、妖艶とも思える微笑みをたたえた色無しの女だった。

リョウと魔導士が野盗の群れに攻撃を加え、トウコが荷台を蹴って前に大きく跳躍した後、2人が様子を伺っていると、魔導士が狙った左方から土煙を突き破って無傷の魔導車が2台現れた。魔導士が更に炎を放つ。
左から遅れること数舜後、右からフロントガラスが粉々になった魔導車が爆炎の向こうから1台現れた。
助手席に座った男は、割れたガラスの破片を全身に浴びて絶命していたが、運転手の男は血まみれになりながらも必死の形相でハンドルを握っていた。
「もう1台はやったな。」
リョウが冷酷な笑みを浮かべて呟いた時、トウコが向かった中央から魔導車が姿を現した。
頭からフロントガラスに突っ込んだ血まみれの男をそのままに、顔を恐怖で歪めた男が必死に魔導車を運転している。
助手席の男は窓から体を乗り出して荷台へ移ろうとしていた。
荷台の上では、首があらぬ方向に向いた男の体を掴んだトウコが、無造作に荷台の外に放り投げているところだった。
「ひでえ女。」
左方の2台に魔力石を投げつつ、リョウがゲラゲラ笑いながらそれを見ていると、トウコは運転席の屋根へと飛び移った。
助手席から移動しようとしていた男の襟首を掴んで引きずり出すと片手で持ち上げ、そのまま右足で男の体を思い切り蹴った。
蹴られた男の体が後方へと吹き飛び、地面に激突した。
次いでボンネットの上に飛び乗ったトウコは、恐怖で顔を歪めた運転手の男の顔に靴底を叩きつけると、車の外へと放り投げた。

リョウが左に投げた魔力石が爆発し、それに巻き込まれた1台が横転する。
荷台に乗っていた男たちが地面に放り出された。
それを見たトウコが、残った左の一台に向かって跳躍した。

右から来ていた1台が、逃げ出そうとUターンし始め、リョウが楽しそうな笑みを浮かべて呟く。
「誰が逃がすかバーカ。」
言いながら、魔力石ではなくずた袋から石を数個取り出した。それを逃げ出そうとしていた魔導車のタイヤに向かって投げると同時に、リョウが短剣を抜きながらその1台に向かって跳躍した。

「まったく。魔力石でケリがついたのに、アイツったら。」
マリーが呆れたように呟いた後にトウコの方を見ると、トウコは2台目の運転手を車外に引きずり出しているところだった。
「私が出る幕はなかったわね…。リカちゃん、止めていいわよ!」
マリーの言葉にリカが元気よく返事をし、魔導車が減速を始めると、マリーは魔導士の男の肩を叩きながら「おつかれ。」と言った。
魔導士の男は苦笑しながら、「なんの役にも立てなかった。」と言ったが、マリーは「あんなの脳筋のバカ2人に任せときゃいいのよ。」と笑いながら言った。

魔導車が止まると、マリーはデニスだけを呼び、残りはそのまま留まるよう指示を出して荷台から降りた。
マリーとデニスが横転した1台へと近づき、野盗の生き残りを確認する。
運転手の男は絶命していたが、助手席の男は頭から血を流していたものの息があった。荷台から放り出された男たちの中にも息がある者が数名いた。
マリーとデニスがそれらの男たちを一塊に集めて縛り上げていると、トウコとリョウがやってきた。
「終わった。全員殺した。」
「俺も全員殺ったから、生き残りはいねえ。」
結局、1台はリョウが最初に投げた魔力石の爆発に巻き込まれて炎上。生き残りはいなかった。
2台はトウコが制圧し、1台はリョウが。
最終的に、横転した魔導車に乗っていた5名のみが生き残っていた。
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