73 / 100
金の章
04.ハナの思い
しおりを挟む
生き残りの野盗を縛り上げていたマリーは、戻って来たトウコとリョウに残処理はやっておくので2人は魔道車に戻って、待機しているデニスの仲間2人と交代するよう言った。
マリーの言葉通りにトウコとリョウが魔道車に戻り、残っていた2人と交代する。
ヨシから手渡されたタオルで体の汚れを拭いたトウコとリョウが、荷台部分にもたれ掛かってマリーたちを見ながら煙草を吸っていると、未だに少し青い顔をしているヨシザキが荷台を這うようにして近寄ってきて外を見た。
縛り上げた野盗の生き残りの側にマリーが立ち、デニスたち3人はそれぞれ散らばって野盗の魔導車や地面から何かを集めているのを見たヨシザキが不思議そうに言った。
「デニスさんたちは何をしているのですか?」
リョウが煙草の煙を吐き出して答えた。
「あいつらの持ってたもん…装備品とか金な。それをかき集めてんだよ。どうせロクなもんねーけどな。」
「それならどうして集めるのですか?」
やはり不思議そうに問うたヨシザキに今度はトウコが答えた。
「組合員の規則として、野盗を討伐した時はそいつらの所持品は全部集めて都市に納めることになってるのさ。そのまま放置したら別の野盗の手に渡るかもしれないからね。少し金がもらえるよ。」
「へえ。じゃあ、皆さんも帰還したら納めるのですか?」
「うんにゃ。面倒だからしねえ。」
リョウの言葉にヨシザキが少し面食らった顔をする。
それを見たトウコが笑いながら補足した。
「まあデニスたちと相談次第だが、多分デニス達もいらないっていうだろうな。都市から貰える金なんてはした金さ。さっきリョウが使った魔力石の足しにもならないよ。」
更に、次に立ち寄る休憩用の集落の住人に集めた物品は渡すこと、住人にとっては役に立つかもしれず、もし不要であっても住人が都市に納めて金に換えるだろう。
本来ならば、野盗の魔道車も都市に納めるか、もしくは焼くなりして別の野盗の手に渡るのを防ぐ必要があるが、おそらく集落の住人が欲しがるのでそのままにしていくことを説明した。
トウコの説明に「なるほど。」とヨシザキが頷いた時、荷台の奥から固い声でハナが問いかけて来た。
「…生き残ったあの人たちはどうするのですか?」
トウコが振り返ってハナを見ると、肩をすくめて言った。
「これも組合員の規則で決まってるな。野盗と遭遇したら可能な限り捕縛。そして都市に引き渡す。」
「それでは引き渡すのですね。…5名しか生き残っていないです。」
少し非難の響きを含んだ声で言ったハナに、リョウがへらへら笑いながらトウコを見て言った。
「5人も殺し損ねたなあ、トウコ。」
トウコが苦笑しながら煙草をコンバットブーツのつま先で踏み消すと、「そうだな。…お前いちいち煽るなよ。」と言い、リョウの胸を小突いた。
リョウの言葉とトウコの様子を見たハナが、怒りで顔を紅潮させる。
「馬鹿にしないでください!どうしてあなたたちはそう簡単に人を殺めることができるのですか?…ヨシザキ部長が言っていました。あなたたちはとても強いと。前回の調査も、あなたたち2人がいなかったら死んでいたとおっしゃっていました。」
トウコとリョウが少し愉快そうにヨシザキを見ると、ヨシザキはにっこり笑ってハナを見た。
「ええ。トウコさんとリョウさんは命の恩人です。お2人がいなければ私はあの神殿で死んでいました。破壊屋の皆さんの指名料はとっても高いですが、それでも私はトウコさんとリョウさんを、もちろんマリーさんも信頼しているので今回も護衛を依頼したのですよ。」
ハナが口を開きかけた時、マリーたちが戻って来た。
「ちょっと、リョウ。何で最後にアンタまで出たのよ。魔力石で片が付いたでしょう?」
「いいじゃねーかよ。魔力石だって安くねーんだし。経費削減ってやつだ。」
リョウが制圧した魔導車で野盗の物品を回収していたデニスが顔を顰めて言った。
「お前、何だよあれ…。荷台は血の海だし、どれもこれも血みどろだったぞ。もちっと綺麗に殺せよ。」
デニスの言葉を聞いて、リョウを非難するように睨んだハナに向かって、リョウが冷たく言い放った。
「黙れ。」
「わ、私はまだ何も言っていません!」
ハナの様子に初めて気づいたマリーが少し顔を顰める。
「何かあったの?ハナちゃん、リョウに何か苛められた?」
「マリーふざけんな。マジでぶっ殺すぞ。」
苛立つリョウをトウコが苦笑しながら止め、マリーに説明した。
「野盗は可能な限り捕縛して都市に引き渡すって組合の規則を守らずに殺した私たちに対して、ハナさんは怒っているのさ。」
「ああ、そうそう。生き残りのあいつらも都市には引き渡さない。このまま放置だ。」
トウコの言葉にかぶせるように冷たくリョウが言い放ち、トウコが「リョウ、お前少し黙ってろ。」と言った時、ハナが激高したように叫んだ。
「そんな…!それではみんな死んでしまうではないですか!」
鼻で笑ったリョウの腕をトウコが掴み、ハナの視界から出るように魔道車の陰へとリョウを引きずりながら、マリーへ目配せする。
マリーが腰に手を当て溜息を吐くと口を開いた。
「リョウの言う通り、野盗の生き残りはここに置いていくわよ。」
「…どうしてですか?規則で決まっているのでしょう?」
ハナの困惑した問いにマリーが説明した。
捕縛して都市に引き渡すという規則を律儀に守っている組合員はほとんどいないこと。なぜならば、野盗と遭遇するのは、今回のような護衛依頼の最中であったり、遺跡探索や魔物討伐に向かっている途中もしくは帰りであったりすることが多いためだ。
遺跡探索や魔物討伐に向かう途中だった場合、野盗の処遇はチームによって異なるが、都市に引き渡すことはやはり少ない。
それは、都市に引き渡しても得られる金は微々たるもので、遺跡探索もしくは魔物討伐の方が儲けられるからである。遺跡探索の帰りで、儲けが少なかった場合に限り引き渡すことがある程度だ。
商隊等の護衛中だった場合、野盗が引き渡されることはまずない。
目的地の都市が近かった場合には引き渡すこともごくごく稀にあるが、そうでない場合は出発した都市に引き返す必要があり、護衛対象が引き返すことを許可することまずはない。
また、目的地の都市が近い場合でも、捕縛されているとはいえ野盗と行動を共にすることを嫌がる護衛対象がほとんどである。そのため、野盗の生き残りは放置するのではなく全員殺すことがほとんどであるとマリーが静かに話した。
「では、私たちが都市に引き返すと言ったら?」
ハナの言葉にマリーがヨシザキを見る。
「ハナ、残念ですが引き返しません。ここで引き返すと、今日中に死の森に辿り着けなくなります。そうなるとマリーさんやデニスさんたちの護衛依頼を1日延長してもらう必要があります。完全に予算オーバーです。」
「それでは今回も…殺すのですか?」
悲しげに聞いたハナの言葉にマリーが首を振る。
「いいえ。今回は殺さないわ。もうすぐ休憩用の集落に立ち寄るのは聞いたかしら?」
ハナが小さく頷く。
「そこの集落の住人に、ここに野盗を放置したことを伝えるの。集落の人たちが都市に連れて行ってお金に換えるわ。」
「そうですか…。」
「納得してもらえたかしら?」
マリーの言葉に、ハナは少し俯いて考え込んだまま何も言わなかった。
ヨシザキが困ったように眉を下げてマリーを見た。
「マリーさん、皆さんすみません。そろそろ出発しましょう。」
その言葉に皆が一様に肩をすくめて魔道車に乗り込む。
マリーがトウコとリョウに出発すると声を掛け、最後に2人が乗り込むとハナが硬い表情で2人見たが、そのまま目を逸らして何も言わなかった。
トウコとリョウが再び開口部に座ろうとしたのを見たマリーが、「見張り交代するわよ。」と声を掛けたが、トウコは手を振ってそれを制した。
「いい。見張りは私たちがするから気にしないでくれ。」
そう言ったトウコはリョウの隣に座ろうとしたが、不機嫌そうな顔のリョウを見ると、リョウに少し後ろに下がるように言った。
言われた通りにリョウが少し後ろに下がると、トウコはリョウにもたれ掛かるようにして足の間に座った。
トウコを後ろから抱きしめたリョウが、トウコの首元に顔を埋めて小さく呟いた。
「めんどくせえ。もうこのまま帰ってヤりてえ。」
「帰ったら相手してやるから今は我慢しろ。」
2人の様子を見ていたマリーが、「トウコ、頼んだわよ。」と言うと、トウコは何も言わずに右手を上げた。
1時間後、休憩用の集落にたどり着いた一行は、かき集めた野盗の装備品や金を集落の住人に渡した。
また、野盗が使っていた魔導車と生き残りを放置している場所を伝え、好きにしていいと言うと、住人たちは嬉しそうな顔で礼を言い、男たち数名がその場所へ向かった。
一行もまた簡単に休憩を取ると早々に集落を後にした。
それからしばらく経った後、相変わらずリョウの足の間に座っていたトウコがおもむろに立ち上がると、リョウの隣へと移動した。
リョウが石の入ったずた袋を自分とトウコの間に引き寄せながら、マリーに声を掛けた。
「マリー。ヒュージパンサーの群れだ。」
「今回は野盗に魔物と多いわね。何匹いるの?」
「15匹かな。」
トウコが答えると、マリーがリカにヒュージパンサーの群れが現れたがそのままっすぐ走るように指示を出す。
リカが弾んだ声で、「あ!また石が見られるー!ヨシザキさん、前に言っていた石でバーンですよー!」と言うと、ヨシザキが外を見ようと少し体を前に倒した。
「見るのはいいけど大人しく座っていてちょうだいね。」とマリーが苦笑を浮かべて言いながら、ヨシザキの隣に座り直した。
デニスの仲間の魔導士が、リョウとトウコの元へ行き「手伝おう。」と言うと、トウコが「助かる。適当に数を減らしてくれ。」と言った。
「おい、リョウはともかくトウコは遠距離攻撃できないだろ?どうすんだ?」
デニスが少し困惑した顔でマリーに聞くと、マリーは「見てりゃ分かるわよ。」とぞんざいに返した。
ヒュージパンサーの群れが近づき、リョウがずた袋から取り出した石を次々と投げつける。爆発が起き、打ち漏らした個体にトウコが石を投げつける。
それを見た魔導士の男が爆笑し、「なるほど。」と言いながら、次々と炎の塊を打ち出した。
トウコはリョウと男が殺し損ねた個体を狙って石を投げ続け、3人はあっさりとヒュージパンサーの群れを撃退した。
魔導士の男がリョウに、「俺も多少は付与魔法が使えるんだが、どうやってただの石に付与してるんだ?」と楽しそうに聞き、リョウが面倒くさそうにしながらも教えてやっているのを見ながら、デニスが呆れたように口を開いた。
「石って魔力石じゃないのかよ。」
「ヨシザキさんちゃんと見ましたー!?すごいでしょー!」
リカが興奮した様子でヨシザキに話しかけると、ヨシザキも少し弾んだ声で応じた。
「石ってそういうことだったのですね。でも、石に魔法を付与するのって難しいものなのですか?」
「普通は出来ないわよ。」
マリーがリョウたちの方を指さしながら答える。
ヨシザキが指さされた方を見ると、魔導士の男の手のひらの上で次々と石が砕け、それをリョウが馬鹿にしているところだった。
「魔力石じゃないただの石に付与しようとしたら、普通はああやって砕けるのよ。リョウはコツを掴めば簡単とか言ってたけど無理よ。魔力制御が半端なくうまいのよアイツ。変態よ変態。」
「そういうものなのですね。トウコさんは?」
「あれは単純に身体強化して投げつけてるだけ。」
デニスが呆れたように呟く。
「あいつら本当に規格外だな。」
「どちらかと言うとリョウの方が規格外ね。」
魔導士の男が困惑しながら石を砕き続け、それを馬鹿にするリョウを見ながら、トウコが楽しそうに煙草を吸っている。
その様子を、ハナは膝の上に置いた手を固く握りしめたまま見つめていた。
マリーの言葉通りにトウコとリョウが魔道車に戻り、残っていた2人と交代する。
ヨシから手渡されたタオルで体の汚れを拭いたトウコとリョウが、荷台部分にもたれ掛かってマリーたちを見ながら煙草を吸っていると、未だに少し青い顔をしているヨシザキが荷台を這うようにして近寄ってきて外を見た。
縛り上げた野盗の生き残りの側にマリーが立ち、デニスたち3人はそれぞれ散らばって野盗の魔導車や地面から何かを集めているのを見たヨシザキが不思議そうに言った。
「デニスさんたちは何をしているのですか?」
リョウが煙草の煙を吐き出して答えた。
「あいつらの持ってたもん…装備品とか金な。それをかき集めてんだよ。どうせロクなもんねーけどな。」
「それならどうして集めるのですか?」
やはり不思議そうに問うたヨシザキに今度はトウコが答えた。
「組合員の規則として、野盗を討伐した時はそいつらの所持品は全部集めて都市に納めることになってるのさ。そのまま放置したら別の野盗の手に渡るかもしれないからね。少し金がもらえるよ。」
「へえ。じゃあ、皆さんも帰還したら納めるのですか?」
「うんにゃ。面倒だからしねえ。」
リョウの言葉にヨシザキが少し面食らった顔をする。
それを見たトウコが笑いながら補足した。
「まあデニスたちと相談次第だが、多分デニス達もいらないっていうだろうな。都市から貰える金なんてはした金さ。さっきリョウが使った魔力石の足しにもならないよ。」
更に、次に立ち寄る休憩用の集落の住人に集めた物品は渡すこと、住人にとっては役に立つかもしれず、もし不要であっても住人が都市に納めて金に換えるだろう。
本来ならば、野盗の魔道車も都市に納めるか、もしくは焼くなりして別の野盗の手に渡るのを防ぐ必要があるが、おそらく集落の住人が欲しがるのでそのままにしていくことを説明した。
トウコの説明に「なるほど。」とヨシザキが頷いた時、荷台の奥から固い声でハナが問いかけて来た。
「…生き残ったあの人たちはどうするのですか?」
トウコが振り返ってハナを見ると、肩をすくめて言った。
「これも組合員の規則で決まってるな。野盗と遭遇したら可能な限り捕縛。そして都市に引き渡す。」
「それでは引き渡すのですね。…5名しか生き残っていないです。」
少し非難の響きを含んだ声で言ったハナに、リョウがへらへら笑いながらトウコを見て言った。
「5人も殺し損ねたなあ、トウコ。」
トウコが苦笑しながら煙草をコンバットブーツのつま先で踏み消すと、「そうだな。…お前いちいち煽るなよ。」と言い、リョウの胸を小突いた。
リョウの言葉とトウコの様子を見たハナが、怒りで顔を紅潮させる。
「馬鹿にしないでください!どうしてあなたたちはそう簡単に人を殺めることができるのですか?…ヨシザキ部長が言っていました。あなたたちはとても強いと。前回の調査も、あなたたち2人がいなかったら死んでいたとおっしゃっていました。」
トウコとリョウが少し愉快そうにヨシザキを見ると、ヨシザキはにっこり笑ってハナを見た。
「ええ。トウコさんとリョウさんは命の恩人です。お2人がいなければ私はあの神殿で死んでいました。破壊屋の皆さんの指名料はとっても高いですが、それでも私はトウコさんとリョウさんを、もちろんマリーさんも信頼しているので今回も護衛を依頼したのですよ。」
ハナが口を開きかけた時、マリーたちが戻って来た。
「ちょっと、リョウ。何で最後にアンタまで出たのよ。魔力石で片が付いたでしょう?」
「いいじゃねーかよ。魔力石だって安くねーんだし。経費削減ってやつだ。」
リョウが制圧した魔導車で野盗の物品を回収していたデニスが顔を顰めて言った。
「お前、何だよあれ…。荷台は血の海だし、どれもこれも血みどろだったぞ。もちっと綺麗に殺せよ。」
デニスの言葉を聞いて、リョウを非難するように睨んだハナに向かって、リョウが冷たく言い放った。
「黙れ。」
「わ、私はまだ何も言っていません!」
ハナの様子に初めて気づいたマリーが少し顔を顰める。
「何かあったの?ハナちゃん、リョウに何か苛められた?」
「マリーふざけんな。マジでぶっ殺すぞ。」
苛立つリョウをトウコが苦笑しながら止め、マリーに説明した。
「野盗は可能な限り捕縛して都市に引き渡すって組合の規則を守らずに殺した私たちに対して、ハナさんは怒っているのさ。」
「ああ、そうそう。生き残りのあいつらも都市には引き渡さない。このまま放置だ。」
トウコの言葉にかぶせるように冷たくリョウが言い放ち、トウコが「リョウ、お前少し黙ってろ。」と言った時、ハナが激高したように叫んだ。
「そんな…!それではみんな死んでしまうではないですか!」
鼻で笑ったリョウの腕をトウコが掴み、ハナの視界から出るように魔道車の陰へとリョウを引きずりながら、マリーへ目配せする。
マリーが腰に手を当て溜息を吐くと口を開いた。
「リョウの言う通り、野盗の生き残りはここに置いていくわよ。」
「…どうしてですか?規則で決まっているのでしょう?」
ハナの困惑した問いにマリーが説明した。
捕縛して都市に引き渡すという規則を律儀に守っている組合員はほとんどいないこと。なぜならば、野盗と遭遇するのは、今回のような護衛依頼の最中であったり、遺跡探索や魔物討伐に向かっている途中もしくは帰りであったりすることが多いためだ。
遺跡探索や魔物討伐に向かう途中だった場合、野盗の処遇はチームによって異なるが、都市に引き渡すことはやはり少ない。
それは、都市に引き渡しても得られる金は微々たるもので、遺跡探索もしくは魔物討伐の方が儲けられるからである。遺跡探索の帰りで、儲けが少なかった場合に限り引き渡すことがある程度だ。
商隊等の護衛中だった場合、野盗が引き渡されることはまずない。
目的地の都市が近かった場合には引き渡すこともごくごく稀にあるが、そうでない場合は出発した都市に引き返す必要があり、護衛対象が引き返すことを許可することまずはない。
また、目的地の都市が近い場合でも、捕縛されているとはいえ野盗と行動を共にすることを嫌がる護衛対象がほとんどである。そのため、野盗の生き残りは放置するのではなく全員殺すことがほとんどであるとマリーが静かに話した。
「では、私たちが都市に引き返すと言ったら?」
ハナの言葉にマリーがヨシザキを見る。
「ハナ、残念ですが引き返しません。ここで引き返すと、今日中に死の森に辿り着けなくなります。そうなるとマリーさんやデニスさんたちの護衛依頼を1日延長してもらう必要があります。完全に予算オーバーです。」
「それでは今回も…殺すのですか?」
悲しげに聞いたハナの言葉にマリーが首を振る。
「いいえ。今回は殺さないわ。もうすぐ休憩用の集落に立ち寄るのは聞いたかしら?」
ハナが小さく頷く。
「そこの集落の住人に、ここに野盗を放置したことを伝えるの。集落の人たちが都市に連れて行ってお金に換えるわ。」
「そうですか…。」
「納得してもらえたかしら?」
マリーの言葉に、ハナは少し俯いて考え込んだまま何も言わなかった。
ヨシザキが困ったように眉を下げてマリーを見た。
「マリーさん、皆さんすみません。そろそろ出発しましょう。」
その言葉に皆が一様に肩をすくめて魔道車に乗り込む。
マリーがトウコとリョウに出発すると声を掛け、最後に2人が乗り込むとハナが硬い表情で2人見たが、そのまま目を逸らして何も言わなかった。
トウコとリョウが再び開口部に座ろうとしたのを見たマリーが、「見張り交代するわよ。」と声を掛けたが、トウコは手を振ってそれを制した。
「いい。見張りは私たちがするから気にしないでくれ。」
そう言ったトウコはリョウの隣に座ろうとしたが、不機嫌そうな顔のリョウを見ると、リョウに少し後ろに下がるように言った。
言われた通りにリョウが少し後ろに下がると、トウコはリョウにもたれ掛かるようにして足の間に座った。
トウコを後ろから抱きしめたリョウが、トウコの首元に顔を埋めて小さく呟いた。
「めんどくせえ。もうこのまま帰ってヤりてえ。」
「帰ったら相手してやるから今は我慢しろ。」
2人の様子を見ていたマリーが、「トウコ、頼んだわよ。」と言うと、トウコは何も言わずに右手を上げた。
1時間後、休憩用の集落にたどり着いた一行は、かき集めた野盗の装備品や金を集落の住人に渡した。
また、野盗が使っていた魔導車と生き残りを放置している場所を伝え、好きにしていいと言うと、住人たちは嬉しそうな顔で礼を言い、男たち数名がその場所へ向かった。
一行もまた簡単に休憩を取ると早々に集落を後にした。
それからしばらく経った後、相変わらずリョウの足の間に座っていたトウコがおもむろに立ち上がると、リョウの隣へと移動した。
リョウが石の入ったずた袋を自分とトウコの間に引き寄せながら、マリーに声を掛けた。
「マリー。ヒュージパンサーの群れだ。」
「今回は野盗に魔物と多いわね。何匹いるの?」
「15匹かな。」
トウコが答えると、マリーがリカにヒュージパンサーの群れが現れたがそのままっすぐ走るように指示を出す。
リカが弾んだ声で、「あ!また石が見られるー!ヨシザキさん、前に言っていた石でバーンですよー!」と言うと、ヨシザキが外を見ようと少し体を前に倒した。
「見るのはいいけど大人しく座っていてちょうだいね。」とマリーが苦笑を浮かべて言いながら、ヨシザキの隣に座り直した。
デニスの仲間の魔導士が、リョウとトウコの元へ行き「手伝おう。」と言うと、トウコが「助かる。適当に数を減らしてくれ。」と言った。
「おい、リョウはともかくトウコは遠距離攻撃できないだろ?どうすんだ?」
デニスが少し困惑した顔でマリーに聞くと、マリーは「見てりゃ分かるわよ。」とぞんざいに返した。
ヒュージパンサーの群れが近づき、リョウがずた袋から取り出した石を次々と投げつける。爆発が起き、打ち漏らした個体にトウコが石を投げつける。
それを見た魔導士の男が爆笑し、「なるほど。」と言いながら、次々と炎の塊を打ち出した。
トウコはリョウと男が殺し損ねた個体を狙って石を投げ続け、3人はあっさりとヒュージパンサーの群れを撃退した。
魔導士の男がリョウに、「俺も多少は付与魔法が使えるんだが、どうやってただの石に付与してるんだ?」と楽しそうに聞き、リョウが面倒くさそうにしながらも教えてやっているのを見ながら、デニスが呆れたように口を開いた。
「石って魔力石じゃないのかよ。」
「ヨシザキさんちゃんと見ましたー!?すごいでしょー!」
リカが興奮した様子でヨシザキに話しかけると、ヨシザキも少し弾んだ声で応じた。
「石ってそういうことだったのですね。でも、石に魔法を付与するのって難しいものなのですか?」
「普通は出来ないわよ。」
マリーがリョウたちの方を指さしながら答える。
ヨシザキが指さされた方を見ると、魔導士の男の手のひらの上で次々と石が砕け、それをリョウが馬鹿にしているところだった。
「魔力石じゃないただの石に付与しようとしたら、普通はああやって砕けるのよ。リョウはコツを掴めば簡単とか言ってたけど無理よ。魔力制御が半端なくうまいのよアイツ。変態よ変態。」
「そういうものなのですね。トウコさんは?」
「あれは単純に身体強化して投げつけてるだけ。」
デニスが呆れたように呟く。
「あいつら本当に規格外だな。」
「どちらかと言うとリョウの方が規格外ね。」
魔導士の男が困惑しながら石を砕き続け、それを馬鹿にするリョウを見ながら、トウコが楽しそうに煙草を吸っている。
その様子を、ハナは膝の上に置いた手を固く握りしめたまま見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。
その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。
婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。
孤独な結婚生活を送る中。
ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。
始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。
他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。
そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。
だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。
それから一年ほどたった冬の夜。
カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。
そこには彼の想いが書かれてあった。
月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。
カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。
※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。
※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。
稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。
チョイス伯爵家のお嬢さま
cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。
ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。
今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。
産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。
4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。
そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。
婚約も解消となってしまいます。
元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。
5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。
さて・・・どうなる?
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる