常世の彼方

ひろせこ

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金の章

04.ハナの思い

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生き残りの野盗を縛り上げていたマリーは、戻って来たトウコとリョウに残処理はやっておくので2人は魔道車に戻って、待機しているデニスの仲間2人と交代するよう言った。
マリーの言葉通りにトウコとリョウが魔道車に戻り、残っていた2人と交代する。
ヨシから手渡されたタオルで体の汚れを拭いたトウコとリョウが、荷台部分にもたれ掛かってマリーたちを見ながら煙草を吸っていると、未だに少し青い顔をしているヨシザキが荷台を這うようにして近寄ってきて外を見た。
縛り上げた野盗の生き残りの側にマリーが立ち、デニスたち3人はそれぞれ散らばって野盗の魔導車や地面から何かを集めているのを見たヨシザキが不思議そうに言った。
「デニスさんたちは何をしているのですか?」
リョウが煙草の煙を吐き出して答えた。
「あいつらの持ってたもん…装備品とか金な。それをかき集めてんだよ。どうせロクなもんねーけどな。」
「それならどうして集めるのですか?」
やはり不思議そうに問うたヨシザキに今度はトウコが答えた。
「組合員の規則として、野盗を討伐した時はそいつらの所持品は全部集めて都市に納めることになってるのさ。そのまま放置したら別の野盗の手に渡るかもしれないからね。少し金がもらえるよ。」
「へえ。じゃあ、皆さんも帰還したら納めるのですか?」
「うんにゃ。面倒だからしねえ。」
リョウの言葉にヨシザキが少し面食らった顔をする。
それを見たトウコが笑いながら補足した。
「まあデニスたちと相談次第だが、多分デニス達もいらないっていうだろうな。都市から貰える金なんてはした金さ。さっきリョウが使った魔力石の足しにもならないよ。」
更に、次に立ち寄る休憩用の集落の住人に集めた物品は渡すこと、住人にとっては役に立つかもしれず、もし不要であっても住人が都市に納めて金に換えるだろう。
本来ならば、野盗の魔道車も都市に納めるか、もしくは焼くなりして別の野盗の手に渡るのを防ぐ必要があるが、おそらく集落の住人が欲しがるのでそのままにしていくことを説明した。 

トウコの説明に「なるほど。」とヨシザキが頷いた時、荷台の奥から固い声でハナが問いかけて来た。
「…生き残ったあの人たちはどうするのですか?」
トウコが振り返ってハナを見ると、肩をすくめて言った。
「これも組合員の規則で決まってるな。野盗と遭遇したら可能な限り捕縛。そして都市に引き渡す。」
「それでは引き渡すのですね。…5名しか生き残っていないです。」
少し非難の響きを含んだ声で言ったハナに、リョウがへらへら笑いながらトウコを見て言った。
「5人も殺し損ねたなあ、トウコ。」
トウコが苦笑しながら煙草をコンバットブーツのつま先で踏み消すと、「そうだな。…お前いちいち煽るなよ。」と言い、リョウの胸を小突いた。
リョウの言葉とトウコの様子を見たハナが、怒りで顔を紅潮させる。
「馬鹿にしないでください!どうしてあなたたちはそう簡単に人を殺めることができるのですか?…ヨシザキ部長が言っていました。あなたたちはとても強いと。前回の調査も、あなたたち2人がいなかったら死んでいたとおっしゃっていました。」
トウコとリョウが少し愉快そうにヨシザキを見ると、ヨシザキはにっこり笑ってハナを見た。
「ええ。トウコさんとリョウさんは命の恩人です。お2人がいなければ私はあの神殿で死んでいました。破壊屋の皆さんの指名料はとっても高いですが、それでも私はトウコさんとリョウさんを、もちろんマリーさんも信頼しているので今回も護衛を依頼したのですよ。」
ハナが口を開きかけた時、マリーたちが戻って来た。

「ちょっと、リョウ。何で最後にアンタまで出たのよ。魔力石で片が付いたでしょう?」
「いいじゃねーかよ。魔力石だって安くねーんだし。経費削減ってやつだ。」
リョウが制圧した魔導車で野盗の物品を回収していたデニスが顔を顰めて言った。
「お前、何だよあれ…。荷台は血の海だし、どれもこれも血みどろだったぞ。もちっと綺麗に殺せよ。」
デニスの言葉を聞いて、リョウを非難するように睨んだハナに向かって、リョウが冷たく言い放った。
「黙れ。」
「わ、私はまだ何も言っていません!」
ハナの様子に初めて気づいたマリーが少し顔を顰める。
「何かあったの?ハナちゃん、リョウに何か苛められた?」
「マリーふざけんな。マジでぶっ殺すぞ。」
苛立つリョウをトウコが苦笑しながら止め、マリーに説明した。
「野盗は可能な限り捕縛して都市に引き渡すって組合の規則を守らずに殺した私たちに対して、ハナさんは怒っているのさ。」
「ああ、そうそう。生き残りのあいつらも都市には引き渡さない。このまま放置だ。」
トウコの言葉にかぶせるように冷たくリョウが言い放ち、トウコが「リョウ、お前少し黙ってろ。」と言った時、ハナが激高したように叫んだ。
「そんな…!それではみんな死んでしまうではないですか!」
鼻で笑ったリョウの腕をトウコが掴み、ハナの視界から出るように魔道車の陰へとリョウを引きずりながら、マリーへ目配せする。
マリーが腰に手を当て溜息を吐くと口を開いた。
「リョウの言う通り、野盗の生き残りはここに置いていくわよ。」
「…どうしてですか?規則で決まっているのでしょう?」
ハナの困惑した問いにマリーが説明した。
捕縛して都市に引き渡すという規則を律儀に守っている組合員はほとんどいないこと。なぜならば、野盗と遭遇するのは、今回のような護衛依頼の最中であったり、遺跡探索や魔物討伐に向かっている途中もしくは帰りであったりすることが多いためだ。
遺跡探索や魔物討伐に向かう途中だった場合、野盗の処遇はチームによって異なるが、都市に引き渡すことはやはり少ない。
それは、都市に引き渡しても得られる金は微々たるもので、遺跡探索もしくは魔物討伐の方が儲けられるからである。遺跡探索の帰りで、儲けが少なかった場合に限り引き渡すことがある程度だ。
商隊等の護衛中だった場合、野盗が引き渡されることはまずない。
目的地の都市が近かった場合には引き渡すこともごくごく稀にあるが、そうでない場合は出発した都市に引き返す必要があり、護衛対象が引き返すことを許可することまずはない。
また、目的地の都市が近い場合でも、捕縛されているとはいえ野盗と行動を共にすることを嫌がる護衛対象がほとんどである。そのため、野盗の生き残りは放置するのではなく全員殺すことがほとんどであるとマリーが静かに話した。

「では、私たちが都市に引き返すと言ったら?」
ハナの言葉にマリーがヨシザキを見る。
「ハナ、残念ですが引き返しません。ここで引き返すと、今日中に死の森に辿り着けなくなります。そうなるとマリーさんやデニスさんたちの護衛依頼を1日延長してもらう必要があります。完全に予算オーバーです。」
「それでは今回も…殺すのですか?」
悲しげに聞いたハナの言葉にマリーが首を振る。
「いいえ。今回は殺さないわ。もうすぐ休憩用の集落に立ち寄るのは聞いたかしら?」
ハナが小さく頷く。
「そこの集落の住人に、ここに野盗を放置したことを伝えるの。集落の人たちが都市に連れて行ってお金に換えるわ。」
「そうですか…。」
「納得してもらえたかしら?」
マリーの言葉に、ハナは少し俯いて考え込んだまま何も言わなかった。
ヨシザキが困ったように眉を下げてマリーを見た。
「マリーさん、皆さんすみません。そろそろ出発しましょう。」
その言葉に皆が一様に肩をすくめて魔道車に乗り込む。
マリーがトウコとリョウに出発すると声を掛け、最後に2人が乗り込むとハナが硬い表情で2人見たが、そのまま目を逸らして何も言わなかった。

トウコとリョウが再び開口部に座ろうとしたのを見たマリーが、「見張り交代するわよ。」と声を掛けたが、トウコは手を振ってそれを制した。
「いい。見張りは私たちがするから気にしないでくれ。」
そう言ったトウコはリョウの隣に座ろうとしたが、不機嫌そうな顔のリョウを見ると、リョウに少し後ろに下がるように言った。
言われた通りにリョウが少し後ろに下がると、トウコはリョウにもたれ掛かるようにして足の間に座った。
トウコを後ろから抱きしめたリョウが、トウコの首元に顔を埋めて小さく呟いた。
「めんどくせえ。もうこのまま帰ってヤりてえ。」
「帰ったら相手してやるから今は我慢しろ。」
2人の様子を見ていたマリーが、「トウコ、頼んだわよ。」と言うと、トウコは何も言わずに右手を上げた。

1時間後、休憩用の集落にたどり着いた一行は、かき集めた野盗の装備品や金を集落の住人に渡した。
また、野盗が使っていた魔導車と生き残りを放置している場所を伝え、好きにしていいと言うと、住人たちは嬉しそうな顔で礼を言い、男たち数名がその場所へ向かった。
一行もまた簡単に休憩を取ると早々に集落を後にした。

それからしばらく経った後、相変わらずリョウの足の間に座っていたトウコがおもむろに立ち上がると、リョウの隣へと移動した。
リョウが石の入ったずた袋を自分とトウコの間に引き寄せながら、マリーに声を掛けた。
「マリー。ヒュージパンサーの群れだ。」
「今回は野盗に魔物と多いわね。何匹いるの?」
「15匹かな。」
トウコが答えると、マリーがリカにヒュージパンサーの群れが現れたがそのままっすぐ走るように指示を出す。
リカが弾んだ声で、「あ!また石が見られるー!ヨシザキさん、前に言っていた石でバーンですよー!」と言うと、ヨシザキが外を見ようと少し体を前に倒した。
「見るのはいいけど大人しく座っていてちょうだいね。」とマリーが苦笑を浮かべて言いながら、ヨシザキの隣に座り直した。
デニスの仲間の魔導士が、リョウとトウコの元へ行き「手伝おう。」と言うと、トウコが「助かる。適当に数を減らしてくれ。」と言った。
「おい、リョウはともかくトウコは遠距離攻撃できないだろ?どうすんだ?」
デニスが少し困惑した顔でマリーに聞くと、マリーは「見てりゃ分かるわよ。」とぞんざいに返した。

ヒュージパンサーの群れが近づき、リョウがずた袋から取り出した石を次々と投げつける。爆発が起き、打ち漏らした個体にトウコが石を投げつける。
それを見た魔導士の男が爆笑し、「なるほど。」と言いながら、次々と炎の塊を打ち出した。
トウコはリョウと男が殺し損ねた個体を狙って石を投げ続け、3人はあっさりとヒュージパンサーの群れを撃退した。

魔導士の男がリョウに、「俺も多少は付与魔法が使えるんだが、どうやってただの石に付与してるんだ?」と楽しそうに聞き、リョウが面倒くさそうにしながらも教えてやっているのを見ながら、デニスが呆れたように口を開いた。
「石って魔力石じゃないのかよ。」
「ヨシザキさんちゃんと見ましたー!?すごいでしょー!」
リカが興奮した様子でヨシザキに話しかけると、ヨシザキも少し弾んだ声で応じた。
「石ってそういうことだったのですね。でも、石に魔法を付与するのって難しいものなのですか?」
「普通は出来ないわよ。」
マリーがリョウたちの方を指さしながら答える。
ヨシザキが指さされた方を見ると、魔導士の男の手のひらの上で次々と石が砕け、それをリョウが馬鹿にしているところだった。
「魔力石じゃないただの石に付与しようとしたら、普通はああやって砕けるのよ。リョウはコツを掴めば簡単とか言ってたけど無理よ。魔力制御が半端なくうまいのよアイツ。変態よ変態。」
「そういうものなのですね。トウコさんは?」
「あれは単純に身体強化して投げつけてるだけ。」
デニスが呆れたように呟く。
「あいつら本当に規格外だな。」
「どちらかと言うとリョウの方が規格外ね。」

魔導士の男が困惑しながら石を砕き続け、それを馬鹿にするリョウを見ながら、トウコが楽しそうに煙草を吸っている。

その様子を、ハナは膝の上に置いた手を固く握りしめたまま見つめていた。
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