95 / 100
金の章
26.餌
しおりを挟む
リョウが放った魔力石の爆炎の中に飛び込んだカインは、障壁を張ってなお肌を焦がすような熱に、自分が掛けた補助魔法で底上げされているとは言え、リョウの魔力と技術の高さに内心舌を巻いた。
しかしそれでもなお、自分にはもちろん金の巫女にもまだ及ばないと思ったとき、炎を切り裂きながら黒い澱の刃が向かってきた。
だがそれは自分にではなく、同じように爆炎の中に飛び込んだトウコへ向かって真っ直ぐ向かっていく。
カインはトウコの前へ出ると、剣を抜きざまにそれを切り裂いた。
まるでカインがそうすることが当然だと言わんばかりに、もしくはそうすることが分かっていたかのように、トウコは一切動じることなくカインの横をすり抜けて、金の巫女へと飛びかかっていった。
トウコとリョウが、金の巫女を挟むように左右から飛び込んで攻撃しようとしたが、金の巫女の足元から黒い澱が壁のようにせり出し、2人の攻撃を阻む。
トウコが黒い壁を蹴って後ろへ下がり、リョウもまたトウコ同様下がったが、下がりながら魔力石を投げた。
金の巫女の周りで爆発が起こり、破壊された黒い壁の破片が飛び散る。
2人が再び攻撃を仕掛けてくると踏んだ金の巫女が両手を左右に上げた時、黒い澱の破片が舞う中、風の刃が金の巫女の真正面から襲い掛かった。
風の刃は金の巫女に当たったが、何事もなかったかのように全て霧散する。
「あなたの攻撃は効かないのよ!カイン!」
金の巫女が嘲笑うように言った時、障壁が砕け散り、金の巫女の左腕から鮮血が舞った。
カインが嗤う。
「攻撃が効かなくても、お前の目くらましにはなる。」
障壁を蹴り砕いたトウコが後ろに飛び退り、左腕を切り裂いたリョウもまた追撃はせずに後ろへ飛んだ。
怒りに体を震わせ、柳眉を逆立てた金の巫女が2人に向かって腕を伸ばす。
金の巫女の手の先に巨大な氷柱が生まれ、トウコとリョウに殺到する。
カインが即座に地面に手をつくと、リョウの目の前に土の壁が生まれた。
「後は自分でなんとかしてくれ。」
着地したばかりのトウコに氷柱が殺到する。
不敵な笑みを浮かべ、氷柱を避ける素振りも見せずにそれを見据えるトウコの目の前で複数の爆発が起こり、氷柱が破壊される。
同時に、トウコの目の前に出たカインが、破壊し損ねた氷柱を切り裂いた。
一方で、リョウの前の土壁に複数の氷柱突き刺さり、破壊された土壁を越えて残った氷柱がリョウに襲い掛かる。
リョウは着地と同時に再度後ろへ飛び、魔力石を投げた。
魔力石の爆発で残った氷柱を破壊したリョウは、再び金の巫女へと駆け出した。
「トウコ。君、僕が助けにくるのが当たり前だと思ってるだろう?」
「カインがいるから気にせず動ける。楽だ。」
当然のように言ったトウコもまた駆け出した。
美しい顔を怒りに歪ませた金の巫女の周りで、爆炎が立ち上る。
「ちょろちょろとさっきから不愉快なのよ!あなたたちの戦い方は全て分かっているのよ!」
炎を突き破って何者かが飛び込んでくる気配を感じた金の巫女が、四方に向かって黒い澱の槍を足元から無数に生み出した。
飛び込んできた勢いそのままに、黒い槍に突っ込む影を炎の中に見た金の巫女が唇を笑みの形に歪める。
しかし、キンという澄んだ音とともに黒い槍が一刀された。
「カイン…!」
憎悪に満ちた金の巫女の青い瞳を見据えたままカインが地面に着地した瞬間。
カインの視界が真っ白に染まり、同時に爆発が起こった。
砕け散った黒い槍の残骸と共に、カインが爆風に吹き飛ばされる。
黒い槍の残骸に肌を切り裂かれたカインが、障壁を破られたことを知り慌てて張り直した。
自分が巻き込まれても無事だと思っているのか、それとも自分のことなどどうでもいいのか、はたまたその両方か。
肌をちりちりと焦がす熱を感じながら、リョウの遠慮のなさに小さく苦笑を浮かべたカインの視界に、金の巫女も爆風に吹き飛ばされているのが入った。
吹き飛ばされたカインと金の巫女がほぼ同時に地面に着地する。
着地と同時に金の巫女が怒りの形相を浮かべながら、トウコとリョウに両手を向ける。
爆発に巻き込まれた影響か、金の巫女の左腕は焼け爛れていた。
煉獄の炎の球体が金の巫女の手の平から生まれ、左右から駆け寄ってきていたトウコとリョウに向かって放たれた。
しかし、2人は攻撃が来るのが分かっていたかのようにそれを難なく避ける。
その時。
「私もいるのよ?」
金の巫女の後ろに回り込んでいたマリーがバトルハンマーを金の巫女の体に叩きこんだ。
1撃目は障壁に阻まれたが、すかさす体を捻ったマリーが反対側からバトルハンマーを叩き付ける。
障壁が砕け、マリーのバトルハンマーが金の巫女の体に当たった。
僅かに体をよろけさせた金の巫女が、怒りに顔を歪めてマリーに手を伸ばしたが、その時には既にマリーは後ろに退いていた。
「私からも一発。」
マリーに気を取られていた金の巫女がその声にはっと振り返った時、トウコが右の拳を金の巫女の左頬に叩きこんだ。
「俺からもだ。」
それと同時に、リョウが焼け爛れた腕を切断した。
「なんなのあの女。本気でいったのにちょっとよろけるだけとか!」
「両腕行けたと思ったんだけどなあ。かてえ。」
「そもそもあの爆発が直撃したのに、左腕以外無事っていうのがやばいだろ。」
後ろに下がって金の巫女と距離を取ったトウコとリョウはマリーと合流し、場違いなほどのんびりとした声で言葉を交わした。
攻撃を受けたことが信じられなかったのか、足元に落ちた左腕に視線を落として呆然としている金の巫女を見ながら、3人は会話を続けた。
「それ言ったら、カインの野郎もやばいな。むかつくぐらいピンピンしてんじゃねーか。」
「僕もちょっと火傷したし、破片で血が出たよ?もう治ったけど。」
3人に歩み寄りながら言ったカインに、リョウが面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「あいつももう怪我は治ってきているよ。」
カインの言葉通り、リョウが切り落とした左腕からしゅるしゅると澱が生まれ、傷一つないほっそりとした象牙色の腕へと変化した。
「うぜえ…。お前も腕切り落としたぐらいじゃ、すぐ生えるのか?」
「そうだね。頭とか心臓なんかをやられるとちょっと時間がかかるけど、四肢欠損ぐらいなら。」
「気持ちわりい…。」
心底気持ち悪いと思っていることが、ありありと分かるリョウの言葉に苦笑しながら、カインは3人の実力が予想以上だったことに内心驚いていた。
呪いさえなければ、カインは金の巫女を殺せると思っていた。
しかし、楽に倒せるとも思っていなかった。
そして、トウコたち3人はマリーはもちろんのこと、トウコとリョウも自分には及ばない。
そのため、補助魔法で底上げし、更に自分がフォローに入ることで何とか互角に持っていける程度だとカインは思っていたのだ。
だが、実際には互角どころか、今のところ3人は傷1つ負っていなかった。
その要因は、金の巫女の戦闘経験が圧倒的に不足していることだとカインは思った。
確かに金の巫女は強いが、戦闘経験がほぼない。
主を通して3人の戦い方を知っているというアドバンテージはあるかもしれないが、知っているのと実際に経験するのとでは大きな隔たりがある。
そこに、異分子であるカインが入ったことで、更に金の巫女の想定外の動きになり、金の巫女を翻弄する結果になった。
そこまでカインが考えた時、金の巫女の呪詛を吐くような声が響いた。
「…さない。」
真っ白だったワンピースは黒く汚れていたが、3人が負わせたはずの傷はすっかり消え、輝く金髪をなびかせ、サファイア色の瞳を憎悪で染めた金の巫女がこちらを睨みつけていた。
「許さない…!」
金の巫女の体から魔力がほとばしり、大気がびりびりと震える。
「完全にキレたな。」
「おっかねえ。女のヒステリーほど怖いもんはねえな。」
トウコとリョウが相変わらずのんびりとした口調で言い合いながら少し前へ出ると、マリーは「じゃ、よろしく。」と言いながら後ろへ下がった。
そんな3人の様子を見ながら、しかし、とカインは思う。
それでもなお、この3人では金の巫女は倒せない。
今はまだ3人が金の巫女を翻弄できているが所詮それだけだ。倒すための決定打がこの3人にはない。
今は良くてもすぐに金の巫女に押し切られるのが目に見えていた。
「やっぱダメそうなら作戦B決行しようぜ。」
「…あれか?カインを餌に置いていくやつか?」
「おう、それだ。」
「君たち本当に酷いね。」
苦笑しながらカインがトウコとリョウの隣に立つ。
勝てないだろうと思いつつ、カインの心は高揚していた。
長年一緒に戦い続け、培った3人の戦闘スタイル。基本的にリョウをきっかけに戦闘が始まるが、そのタイミングは呼吸するように3人には分かるのだろう。
先ほどはマリーが金の巫女の後ろに回り込んでいたが、それにカインは気づいていなかった。
気付いていなかったというよりも、マリーのことが意識になかった。
マリーの魔力の高さでは恐らく戦闘にはついて来られないだろうと思っていたし、事実、最初のリョウの魔力石の爆炎の中にマリーは飛び込んでこなかった。
なので、マリーは本来のヒーラーという役割で、後ろに下がっているとカインは思い込んでいたし、金の巫女もきっとそう思っていたに違いない。
しかし、マリーは前に出てきていた。
そしてトウコとリョウはそれが分かっており、マリーの攻撃を起点とした。
マリーは先ほど、2人によろしくと声を掛けて下がって行ったが、ああ言いつつもタイミングを見て前に出てくるのかもしれないし、もう本当に前には出てこないのかもしれない。
カインには分からないが、きっとトウコとリョウには分かっているのだろう。
トウコたち3人より強いと自負しているが、それだけでは入れない3人の関係に、カインは羨ましさを覚えた。
だが。
「餌にでもなんでも、君たちの好きにしたらいいよ。」
トウコとリョウが不敵な笑みを浮かべ、そう言ったカインを一瞥すると走り出した。
黒の巫女の近衛兵と呼ばれてはいたものの、その実、自分より強く守らせてくれなかった女が、あの時少しでも自分を頼っていてくれたらと、今でもカインは思わずにはいられない。
しかし、今、トウコは自分に全幅の信頼を置いて戦っている。
そして、リョウとマリーもカインが必ずトウコを守ると信じて戦っているはずだ。
カインの心は高揚していた。
トウコとリョウの後に続いて、カインもまた走り出した。
金の巫女の周りに無数の黒い檻の刃が浮かび上がり、一斉にトウコたちに向かって放たれた。
同時にカインもまた丸く輝く光の玉を生み出すと、黒の檻の刃に放った。
「残りはなんとかしてくれ。」
リョウは魔力石を投げて相殺し、相殺しきれなかったものを避けたが、トウコはさっさとカインの後ろへと移動した。
小さく声を上げて笑ったカインが、「トウコ、君徹底してるね。」と刃を切り裂きながら言うと、「死にたくないからな。ここが1番確実だ。」としれっとした顔で言い返した。
次いで、「リョウがデカい魔力石を投げる。遅れるなよ。」と言った瞬間、トウコの言葉通りリョウが魔力石を投げた。
金の巫女の周りで吹雪が巻き起こる。
カインは躊躇うことなく、吹雪に飛び込んだ。
飛び込んだカインに向かって、無数の黒い檻の槍が伸びてくる。
後から飛び込んでくるであろうトウコとリョウの為に、それら破壊したカインが金の巫女の目の前に着地する。
その時。
カインの周りで青い光の破片が舞った。
何が起こったのか分からずカインの動きが一瞬止まる。
自分の防壁が破壊されたのだと理解した時、少し白みがかった金色がカインの視界に入った。
そして。
カインの左腕が宙を舞った。
明るい青の瞳を細め、冷笑を浮かべたリョウが囁く。
「悪いな。」
しかしそれでもなお、自分にはもちろん金の巫女にもまだ及ばないと思ったとき、炎を切り裂きながら黒い澱の刃が向かってきた。
だがそれは自分にではなく、同じように爆炎の中に飛び込んだトウコへ向かって真っ直ぐ向かっていく。
カインはトウコの前へ出ると、剣を抜きざまにそれを切り裂いた。
まるでカインがそうすることが当然だと言わんばかりに、もしくはそうすることが分かっていたかのように、トウコは一切動じることなくカインの横をすり抜けて、金の巫女へと飛びかかっていった。
トウコとリョウが、金の巫女を挟むように左右から飛び込んで攻撃しようとしたが、金の巫女の足元から黒い澱が壁のようにせり出し、2人の攻撃を阻む。
トウコが黒い壁を蹴って後ろへ下がり、リョウもまたトウコ同様下がったが、下がりながら魔力石を投げた。
金の巫女の周りで爆発が起こり、破壊された黒い壁の破片が飛び散る。
2人が再び攻撃を仕掛けてくると踏んだ金の巫女が両手を左右に上げた時、黒い澱の破片が舞う中、風の刃が金の巫女の真正面から襲い掛かった。
風の刃は金の巫女に当たったが、何事もなかったかのように全て霧散する。
「あなたの攻撃は効かないのよ!カイン!」
金の巫女が嘲笑うように言った時、障壁が砕け散り、金の巫女の左腕から鮮血が舞った。
カインが嗤う。
「攻撃が効かなくても、お前の目くらましにはなる。」
障壁を蹴り砕いたトウコが後ろに飛び退り、左腕を切り裂いたリョウもまた追撃はせずに後ろへ飛んだ。
怒りに体を震わせ、柳眉を逆立てた金の巫女が2人に向かって腕を伸ばす。
金の巫女の手の先に巨大な氷柱が生まれ、トウコとリョウに殺到する。
カインが即座に地面に手をつくと、リョウの目の前に土の壁が生まれた。
「後は自分でなんとかしてくれ。」
着地したばかりのトウコに氷柱が殺到する。
不敵な笑みを浮かべ、氷柱を避ける素振りも見せずにそれを見据えるトウコの目の前で複数の爆発が起こり、氷柱が破壊される。
同時に、トウコの目の前に出たカインが、破壊し損ねた氷柱を切り裂いた。
一方で、リョウの前の土壁に複数の氷柱突き刺さり、破壊された土壁を越えて残った氷柱がリョウに襲い掛かる。
リョウは着地と同時に再度後ろへ飛び、魔力石を投げた。
魔力石の爆発で残った氷柱を破壊したリョウは、再び金の巫女へと駆け出した。
「トウコ。君、僕が助けにくるのが当たり前だと思ってるだろう?」
「カインがいるから気にせず動ける。楽だ。」
当然のように言ったトウコもまた駆け出した。
美しい顔を怒りに歪ませた金の巫女の周りで、爆炎が立ち上る。
「ちょろちょろとさっきから不愉快なのよ!あなたたちの戦い方は全て分かっているのよ!」
炎を突き破って何者かが飛び込んでくる気配を感じた金の巫女が、四方に向かって黒い澱の槍を足元から無数に生み出した。
飛び込んできた勢いそのままに、黒い槍に突っ込む影を炎の中に見た金の巫女が唇を笑みの形に歪める。
しかし、キンという澄んだ音とともに黒い槍が一刀された。
「カイン…!」
憎悪に満ちた金の巫女の青い瞳を見据えたままカインが地面に着地した瞬間。
カインの視界が真っ白に染まり、同時に爆発が起こった。
砕け散った黒い槍の残骸と共に、カインが爆風に吹き飛ばされる。
黒い槍の残骸に肌を切り裂かれたカインが、障壁を破られたことを知り慌てて張り直した。
自分が巻き込まれても無事だと思っているのか、それとも自分のことなどどうでもいいのか、はたまたその両方か。
肌をちりちりと焦がす熱を感じながら、リョウの遠慮のなさに小さく苦笑を浮かべたカインの視界に、金の巫女も爆風に吹き飛ばされているのが入った。
吹き飛ばされたカインと金の巫女がほぼ同時に地面に着地する。
着地と同時に金の巫女が怒りの形相を浮かべながら、トウコとリョウに両手を向ける。
爆発に巻き込まれた影響か、金の巫女の左腕は焼け爛れていた。
煉獄の炎の球体が金の巫女の手の平から生まれ、左右から駆け寄ってきていたトウコとリョウに向かって放たれた。
しかし、2人は攻撃が来るのが分かっていたかのようにそれを難なく避ける。
その時。
「私もいるのよ?」
金の巫女の後ろに回り込んでいたマリーがバトルハンマーを金の巫女の体に叩きこんだ。
1撃目は障壁に阻まれたが、すかさす体を捻ったマリーが反対側からバトルハンマーを叩き付ける。
障壁が砕け、マリーのバトルハンマーが金の巫女の体に当たった。
僅かに体をよろけさせた金の巫女が、怒りに顔を歪めてマリーに手を伸ばしたが、その時には既にマリーは後ろに退いていた。
「私からも一発。」
マリーに気を取られていた金の巫女がその声にはっと振り返った時、トウコが右の拳を金の巫女の左頬に叩きこんだ。
「俺からもだ。」
それと同時に、リョウが焼け爛れた腕を切断した。
「なんなのあの女。本気でいったのにちょっとよろけるだけとか!」
「両腕行けたと思ったんだけどなあ。かてえ。」
「そもそもあの爆発が直撃したのに、左腕以外無事っていうのがやばいだろ。」
後ろに下がって金の巫女と距離を取ったトウコとリョウはマリーと合流し、場違いなほどのんびりとした声で言葉を交わした。
攻撃を受けたことが信じられなかったのか、足元に落ちた左腕に視線を落として呆然としている金の巫女を見ながら、3人は会話を続けた。
「それ言ったら、カインの野郎もやばいな。むかつくぐらいピンピンしてんじゃねーか。」
「僕もちょっと火傷したし、破片で血が出たよ?もう治ったけど。」
3人に歩み寄りながら言ったカインに、リョウが面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「あいつももう怪我は治ってきているよ。」
カインの言葉通り、リョウが切り落とした左腕からしゅるしゅると澱が生まれ、傷一つないほっそりとした象牙色の腕へと変化した。
「うぜえ…。お前も腕切り落としたぐらいじゃ、すぐ生えるのか?」
「そうだね。頭とか心臓なんかをやられるとちょっと時間がかかるけど、四肢欠損ぐらいなら。」
「気持ちわりい…。」
心底気持ち悪いと思っていることが、ありありと分かるリョウの言葉に苦笑しながら、カインは3人の実力が予想以上だったことに内心驚いていた。
呪いさえなければ、カインは金の巫女を殺せると思っていた。
しかし、楽に倒せるとも思っていなかった。
そして、トウコたち3人はマリーはもちろんのこと、トウコとリョウも自分には及ばない。
そのため、補助魔法で底上げし、更に自分がフォローに入ることで何とか互角に持っていける程度だとカインは思っていたのだ。
だが、実際には互角どころか、今のところ3人は傷1つ負っていなかった。
その要因は、金の巫女の戦闘経験が圧倒的に不足していることだとカインは思った。
確かに金の巫女は強いが、戦闘経験がほぼない。
主を通して3人の戦い方を知っているというアドバンテージはあるかもしれないが、知っているのと実際に経験するのとでは大きな隔たりがある。
そこに、異分子であるカインが入ったことで、更に金の巫女の想定外の動きになり、金の巫女を翻弄する結果になった。
そこまでカインが考えた時、金の巫女の呪詛を吐くような声が響いた。
「…さない。」
真っ白だったワンピースは黒く汚れていたが、3人が負わせたはずの傷はすっかり消え、輝く金髪をなびかせ、サファイア色の瞳を憎悪で染めた金の巫女がこちらを睨みつけていた。
「許さない…!」
金の巫女の体から魔力がほとばしり、大気がびりびりと震える。
「完全にキレたな。」
「おっかねえ。女のヒステリーほど怖いもんはねえな。」
トウコとリョウが相変わらずのんびりとした口調で言い合いながら少し前へ出ると、マリーは「じゃ、よろしく。」と言いながら後ろへ下がった。
そんな3人の様子を見ながら、しかし、とカインは思う。
それでもなお、この3人では金の巫女は倒せない。
今はまだ3人が金の巫女を翻弄できているが所詮それだけだ。倒すための決定打がこの3人にはない。
今は良くてもすぐに金の巫女に押し切られるのが目に見えていた。
「やっぱダメそうなら作戦B決行しようぜ。」
「…あれか?カインを餌に置いていくやつか?」
「おう、それだ。」
「君たち本当に酷いね。」
苦笑しながらカインがトウコとリョウの隣に立つ。
勝てないだろうと思いつつ、カインの心は高揚していた。
長年一緒に戦い続け、培った3人の戦闘スタイル。基本的にリョウをきっかけに戦闘が始まるが、そのタイミングは呼吸するように3人には分かるのだろう。
先ほどはマリーが金の巫女の後ろに回り込んでいたが、それにカインは気づいていなかった。
気付いていなかったというよりも、マリーのことが意識になかった。
マリーの魔力の高さでは恐らく戦闘にはついて来られないだろうと思っていたし、事実、最初のリョウの魔力石の爆炎の中にマリーは飛び込んでこなかった。
なので、マリーは本来のヒーラーという役割で、後ろに下がっているとカインは思い込んでいたし、金の巫女もきっとそう思っていたに違いない。
しかし、マリーは前に出てきていた。
そしてトウコとリョウはそれが分かっており、マリーの攻撃を起点とした。
マリーは先ほど、2人によろしくと声を掛けて下がって行ったが、ああ言いつつもタイミングを見て前に出てくるのかもしれないし、もう本当に前には出てこないのかもしれない。
カインには分からないが、きっとトウコとリョウには分かっているのだろう。
トウコたち3人より強いと自負しているが、それだけでは入れない3人の関係に、カインは羨ましさを覚えた。
だが。
「餌にでもなんでも、君たちの好きにしたらいいよ。」
トウコとリョウが不敵な笑みを浮かべ、そう言ったカインを一瞥すると走り出した。
黒の巫女の近衛兵と呼ばれてはいたものの、その実、自分より強く守らせてくれなかった女が、あの時少しでも自分を頼っていてくれたらと、今でもカインは思わずにはいられない。
しかし、今、トウコは自分に全幅の信頼を置いて戦っている。
そして、リョウとマリーもカインが必ずトウコを守ると信じて戦っているはずだ。
カインの心は高揚していた。
トウコとリョウの後に続いて、カインもまた走り出した。
金の巫女の周りに無数の黒い檻の刃が浮かび上がり、一斉にトウコたちに向かって放たれた。
同時にカインもまた丸く輝く光の玉を生み出すと、黒の檻の刃に放った。
「残りはなんとかしてくれ。」
リョウは魔力石を投げて相殺し、相殺しきれなかったものを避けたが、トウコはさっさとカインの後ろへと移動した。
小さく声を上げて笑ったカインが、「トウコ、君徹底してるね。」と刃を切り裂きながら言うと、「死にたくないからな。ここが1番確実だ。」としれっとした顔で言い返した。
次いで、「リョウがデカい魔力石を投げる。遅れるなよ。」と言った瞬間、トウコの言葉通りリョウが魔力石を投げた。
金の巫女の周りで吹雪が巻き起こる。
カインは躊躇うことなく、吹雪に飛び込んだ。
飛び込んだカインに向かって、無数の黒い檻の槍が伸びてくる。
後から飛び込んでくるであろうトウコとリョウの為に、それら破壊したカインが金の巫女の目の前に着地する。
その時。
カインの周りで青い光の破片が舞った。
何が起こったのか分からずカインの動きが一瞬止まる。
自分の防壁が破壊されたのだと理解した時、少し白みがかった金色がカインの視界に入った。
そして。
カインの左腕が宙を舞った。
明るい青の瞳を細め、冷笑を浮かべたリョウが囁く。
「悪いな。」
0
あなたにおすすめの小説
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~
水無月礼人
恋愛
私は冒険者ギルド職員ロックウィーナ。25歳の女で担当は回収役。冒険者の落し物、遺品、時には冒険者自体をも背負います!
素敵な恋愛に憧れているのに培われるのは筋肉だけ。
しかし無駄に顔が良い先輩と出動した先で、行き倒れた美形剣士を背負ってから私の人生は一変。初のモテ期が到来です!!
……とか思ってウハウハしていたら何やら不穏な空気。ええ!?
私の選択次第で世界がループして崩壊の危機!? そんな結末は認めない!!!!
※【エブリスタ】でも公開しています。
【エブリスタ小説大賞2023 講談社 女性コミック9誌合同マンガ原作賞】で優秀作品に選ばれました。
簒奪女王と隔絶の果て
紺乃 安
恋愛
穏やかな美青年王子が、即位した途端に冷酷な王に変貌した。そしてそれが、不羈の令嬢ベアトリスの政略結婚相手。
ポストファンタジー宮廷ロマンス小説。
※拙作「山賊王女と楽園の涯」の完結編という位置づけでもありますが、知らなくとも問題ないよう書いてあります。興味があればそちらもお読みください(ただしずいぶんジャンルが違い、とても長いです)。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
異世界の花嫁?お断りします。
momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。
そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、
知らない人と結婚なんてお断りです。
貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって?
甘ったるい愛を囁いてもダメです。
異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!!
恋愛よりも衣食住。これが大事です!
お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑)
・・・えっ?全部ある?
働かなくてもいい?
ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です!
*****
目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃)
未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
『白い結婚のはずでしたが、夫の“愛”が黒い。 限界突破はお手柔らかに!』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
白い結婚のはずだった。
姉の遺した娘――カレンの親権を守るため、
私と侯爵タイロンは“同じ屋根の下で暮らすだけ”の契約を交わした。
夜を共にしない、干渉しない、互いに自由。
それが白い結婚の条件。
……だったはずなのに。
最近、夫の目が黒い。
「お前、俺を誘惑してるつもりか?」
「は? してませんけど? 白い結婚でしょうが」
「……俺は、白い結婚でよかったがな。
お前が俺を限界まで追い詰めるなら……話は別だ」
黒い。
完全に黒い。
理性じゃなくて、野生の方が勝ってる。
ちょっと待って、何その目!?
やめて、白い結婚の契約書どこ行ったの!?
破らないで!
――白い結婚? 知らん。
もう限界。覚悟しろ。
タイロンの目がそう語っていた。
私、白い結婚で穏やかに暮らす予定だったんだけど!?
猫になった悪女 ~元夫が溺愛してくるなんて想定外~
黒猫子猫
恋愛
ディアナは欲深く、夫にも結婚を強いた悪女として知られた女王だ。当然のように人々から嫌われ、夫婦仲は悪く、病に倒れた時も誰も哀しまなかった。ディアナは、それで良かった。余命宣告を受け、自分の幸せを追い求める事などとうに止めた。祖国のためにできる事は全てやった。思うままに生きたから、人生をやり直せると言われても、人間などまっぴらごめんだ。
そして、《猫》になった。日向でのんびりと寝ている姿が羨ましかったからだ。いざ、自堕落な生活をしようと思ったら、元夫に拾われてしまった。しかも、自分が死んで、解放されたはずの彼の様子が妙だ。
あなた、隙あらば撫でようとするの、止めてくれる? 私達は白い結婚だったでしょう。
あなた、再婚する気がないの? 「お前を愛したりしない」って嬉しい事を言ってくれたのは誰よ!
猫になった孤高の女王×妻を失って初めて色々気づいてしまった王配の恋のお話。
※全30話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる