雨の日に再会した歳下わんこ若頭と恋に落ちるマゾヒズム

豆ぱんダ

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第一章

おつかい

「そんなに俺のことが嫌なのか?」

 文句を垂れながらも粥を掬う匙は止まらない。
 言い方に語弊がありまくりだが、強引に部屋に連れ込まれ、この男の食事風景を眺める羽目になった。

「嫌に決まってる。俺はさっさと平穏な日々に戻りたい」
「平穏って、ここじゃ何もやることないだろう。俺だったら一時間も耐えられないね」
「でしたら、どうぞどうぞ今すぐにでもお帰り下さい」
「・・・・・・はあぁ、冗談だよ」

 ものの一分で空にした器をトレーに置き、本堂は唇を親指で拭った。その指をどうするのか見ていると、案の定、舌で舐め取ってしまう。
 どきんと胸が跳ねたのを隠し、汚いぞと布巾を投げてやれば、本堂がニヤッと笑った。
 やましい心持ちを見透かされたのかと思ったけれど違ったようだ。

「ここ、静かでいいな。鳥のさえずりの声なんて聞いたのは数年ぶりだ」

 本堂の視線は窓の外を向いた。

「へぇ、良さがわかるようになったのか」

 本堂は今度こそ伊津に対してニヤリとする。

 ———しまった。

「そうだよ。俺は大人になったんだよ。だからさ、俺があんたを」
「待て待て、何度も言ってるが俺にその気はない」

 話は終わりだと示すために、伊津は立ち上がる。

「どこに行くんだ?」

 やめろやめろ。こんな時だけ犬みたいな目で見るな。

「買い物だよ! 今日は週に一度の買い出しの日なんだよっ!」
「買い出しか。それならひとつ頼んでいいか?」
「何だよ・・・」

 嫌な予感がした。
 一時間後、伊津は最寄駅発のバスに乗っていた。横の座席にぱんぱんのビニール袋が二つ。堂々と座席に荷物を置いていても咎めるような乗客はゼロ。本日もローカルバスは平常運行だ。

「パンツだろ? 歯ブラシだろ? 部屋着用のティーシャツ・・・・・・ズボン・・・・・・あとは・・・・・・シャンプーだ・・・・・・忘れた」

 伊津はぶつぶつと呟いて頭を抱え、髪をかき回す。しかしすぐに「いやいや、おかしい」と頭を振った。
 何が有名サロンのシャンプーだ。こだわっている場合じゃないだろう。
 そもそもあいつの生活用品を、なぜ自分が買ってきてあげなきゃいけないのか。
 ついでに夕飯のメニューまでリクエストしてくる始末。それなのに、律儀にスーパーで食材を買い込んできた自分に腹が立って仕方なかった。
 かかった費用は後ほど倍にして返すからと、平然と頼んできた本堂の顔が目の裏に浮かぶ。

 ———ふざけんなよ、お金の問題じゃねぇんだ。

 すっかり振り回されていることが悔しい。そして、危うい。伊津にとっては喜ばしくない展開だった。

「お客さーん、ボタン押さなくていいんですかい?」
「ああっ、ありがとう」

 馴染みの運転手が見計らって声をかけてくれ、乗り過ごしそうになっていたと気づく。慌ててボタンを押し、停車したバス停でヒーヒー言いながら荷物を抱えて降りた。
 自宅に戻ると、八畳間から話し声がした。電話でもしているのかと覗けば、そこにいたのは谷渕だった。

「なんでいる」

 伊津は憮然として大量の袋を床に落とした。

「やぁやぁ、おつかれ。俺に電話してくれたら車出してあげたのに」
「その手があったか・・・、で、なんでいる?」

 再三の問かけに、見かねたように本堂が口を出す。

「スマホ、と傷の往診」
「傷のほうが本命。スマホがおまけでしょ。足がつかない新品を手配できないかって頼まれてとこだったの」

 なるほどと頷きかけて、「いや待て」と唸った。

「主人の留守中に勝手に入るな」
「本堂くんがいたじゃない。インターホン鳴らして声をかけたら彼が出てくれたから、上がらせてもらったんだが」

 伊津は絶句して、目をひん剥いた。

「お前、出たのか? 不用心すぎるぞ!」
「何度も鳴らされるから」

 本堂があっけらかんと答える。

「ごめんごめーん、せっかく来たからお話したくって。昔の顔馴染みだし?」

 そう言う谷渕は悪く思って無さそうだ。
 確かにかつて伊津が組長に軟禁されていた頃には、谷渕は手当てのために頻繁に呼ばれていた。けれど特に親しくもない少年を覚えていたというのは、にわかには信じがたい。

「嘘つけ、ほとんど初対面だろ!」
「嘘じゃないよ。本堂くんの手当てをしたのも俺だよ?」
「まあまあ、そうだ、夜ご飯食べて行きませんか?」

 本堂が仲裁に入った。
 だが、だから待て。———作るのは俺だ。ここは本堂の家じゃないぞ。
 伊津は「冗談じゃない」と目で訴えたが、勝手に三人で夕食を取るという話の方向に進められる。

「嬉しいなぁ。向葵ちゃんの手料理はひさびさだ。本堂くんは何をリクエストしたんだ?」
「肉じゃがと生姜焼き」
「うわぁ、ど定番。でもわかるわ。美味いよね」

 伊津はすっかり蚊帳の外だった。二人に聞こえるようにため息を吐いても、示し合わせたみたいに無視されるので、諦めて食材を台所に運ぶしかなかった。
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