ダークイースター

雨川 海(旧 つくね)

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仲神舜一の場合

☆6

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 僕たちは、人気のない場所を探し、音楽室へ入った。
 ベートーベンに睨まれながら、話の続きをする。


「とにかく落ち着こう。バットマンが実在するとは限らない。あの事件だって、偶然も有り得る。いや、そう考えた方が自然だろう?」

 僕の意見を、勇治は否定する。

「舜一も綾香も他人事だろ。俺は、いつ襲われるか気が気じゃない。この一秒後に頭を割られるかも知れない。美咲も政さんも頭を割られたんだぞ! 二人に俺の気持ちが解るかよ!」

 勇治は感情的に叫ぶ。精神的にかなり追い詰められているようで、血色が悪く、唇が紫色だった。目を見開き、瞬きの回数が少ない。
 彼は、死に取り憑かれたかのように、異常な状態だった。時計の針が動く度にビクビクしている。


「何か対策を考えないと」

 綾香の建設的な意見を受けて、僕も勇治も知恵を絞る。

「舜一の伯父さんに相談してみるか?」

 僕は、勇治の提案に乗り気になれない。
 伯父は刑事をしているが、バットマンの話を信じるとは思えなかった。
 それに、協力を頼むには罪の告白をしなければならない。成政を死に追いやった顛末てんまつの説明が必要だった。

「ゲームのキャラが人を襲うなんて話、伯父は信じるかな? 現実的な人だから……」

 僕が言葉を濁すと、勇治は図星を突いてくる。

「違うね。本当は、自分が殺人犯だとバレるのが怖いんだろ!」

 勇治にやましい部分を指摘され、声が上擦った。

「な、な、な、何だよ、それ」

「二人とも落ち着いて」

 綾香は、修羅場と化した友情を目にして、止めに入る。だが、とばっちりを受けた。

「もういい、死ぬ前に綾香とセックスがしたい。今すぐに」

 勇治の自暴自棄な要求に、綾香は黙り込む。
 まぁ、「ハイどうぞ」とはいかないだろう。

「解った、伯父さんに連絡する」

 僕は妥協案を出すが、勇治は精神が崩壊してしまったのか? ヒステリックに叫んだ。

「間に合う訳ねぇだろ! もう遅いんだよ! 化け物に襲われる位なら、自分から死んでやる!」

 それは、あっと言う間の出来事だった。
 勇治は窓を開け、飛び降りた。
 僕は、慌てて窓から身を乗り出す。

 友人の体は、自転車置き場の屋根を突き破り、動かなくなった。屋根の梁が彼の体に突き刺さり、手足が有り得ない方向を向き、皮膚を突き破った骨が白く見えていた。
 まるで壊れた玩具のようだったが、流出する血液が、落下したのが人形ではなく人間だと証明していた。

 正視に耐えない事故現場を見て、綾香はサイレンの様な悲鳴を上げ、気絶した。
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