ダークイースター

仲神舜一の場合

☆19

　亮太氏は話を続けた。

「悪魔崇拝の預言では、闇の王子が死者を操り、世界を破滅に導くらしい。
ただし、表の主人公であるイエスキリストは、一度は亡くなって三日後に復活している。裏である闇の王子も、一度は死ぬ必要があった。
また、死者を操り世界を破滅に導くのも、イエスキリストの大宣教令から来ているのかも知れない。
『あなたがたは、行って、あらゆる国の人々を弟子にしなさい。そして、父と子と聖霊の御名において、バブテスマを授け、また、わたしがあなたがたに命じておいた全てのことを守るように、彼らを教えなさい』
つまり、イエスは世界中の人を生かし、闇の王子は世界中の人を死者にする」　

　僕は、亮太氏の説明を聞いて、悪魔崇拝の理念を理解した。
　澤地豊雄は、闇の王子に仕立てられ、自殺するしか道が残されていなかったのだろう。

「つまり、悪魔崇拝者によって、澤地豊雄は闇の王子になり、あの事件を起こした。
事件後に死者が動いたとの話も、悪魔崇拝者による捏造ねつぞうで、奴らは、五十年後の今も、パズル＆ダンジョンのアプリを使って陰謀を続けているんですね」

　僕はスッキリした気分だったが、亮太氏は、まるで物覚えの悪い生徒を見る教師のような渋い顔をしている。

「舜一くん、俺は実際にハルマゲドンは起こると踏んでいる」

　僕は、格好良い大人がそんな発言をするとは思わなかった。
　気が付くと、京子さんや綾香が頷いている。
　僕は、この場に関しては少数派らしい。その時、以前に勇治とバイオハザードを観た時の会話を思い出していた。

「勇治、ゾンビってさ、食欲しかないのに、何で共食いしないんだろうね？」

　僕の素朴な疑問に、勇治は有名な映画の台詞を引用して答える。

「馬鹿だな、こう言う映画は考えるな。感じるんだよ」

　違和感しかない。

　さて、夏場の湿度は異常だが、七十とか八十って何？ 百パーセントだと水中なの？

　僕は、頭がかなり混乱して、有り得ない事に有り得ない事をぶつけて相殺する。
　幾らか冷静さを取り戻すと、亮太氏に質問した。

「天現寺の住職は、豊雄の事件の生き証人なのですが、死体が動き出した話は嘘だと証言していますよ？」

　僕の不死者アンデット否定説を、亮太氏が否定する。

「天現寺では、澤地豊雄が自害している。つまり、闇の王子が倒れれば、死者も動かないと推測できる。それが、ハルマゲドンを止める手立てだと思っている」

　僕は、亮太氏の説を否定も肯定もできなかった。事実、パズダンやバットマンの謎は解らないままで残っている。
　偶然なのか？ 必然なのか？ 超常現象なのか？
　答えが出ない。