上 下
26 / 28
仲神舜一の場合

☆26

しおりを挟む
 ちなみに、僕が使ったバットマンは三十人目になる。都市伝説が本当なら、闇の王子、澤地豊雄が復活してしまう。僕がこの話を信じていれば使えなかっただろう。

 僕の思案を知ってか知らずか? 和尚が村井に意見した。

「武人、だから変な悪戯をするなと忠告したんだ。お前のせいだぞ」

「いやぁ、メンゴメンゴ、まさか、あいつが本当に死ぬなんて思わないからさ。でも、事件を追って来たヤツを皆殺しにできるじゃん。
あっ、綾香ちゃんは任せて」

 村井は、受付で見せた誠実な仮面を脱ぎ捨て、下卑た笑いを浮かべる。この男の本性はこっちなのだろう。全く、人は見かけで判断できない。そして、同類の和尚が可笑しそうに応える。

「母親と同じように挿してから刺すのか? 変態め」

 僕は、軽い口調で会話する二人に吐き気を覚えた。それと同時に隣の綾香が心配になった。最悪の状況下だが、彼女だけは助けたかった。その使命感だけで不思議と冷静になれた。極度の緊張を越えたのか? 心拍数は上がっていたが、パニックにはならなかった。これが、アドレナリンの効果だろうか? 
 さて、救うべき姫の様子を見ると、あらぬ方向を見続けていた。僕も釣られて視線を移す。

 僕たちの視線の先には、黒いローブに身を包んだ生物がいた。
 フードの奥に在る顔には、本来は目がある位置に傷がある。目は、額に一つだけ存在した。

 僕らは、よほど異様な顔をしていたのだろう。唯一人を除いて、全員の視線が未知の物に集まる。
 あらゆる感情や思考が止まる息苦しさに、村井武人も異変に気が付いた。彼の真後ろに、それは居た。

 振り向いた村井は、どんな恐怖の表情を浮かべていたのだろう? 僕の位置からは見えないが、叫び声は届いた。

 あああああああああああ!

 知らぬ間に現れた化け物は、赤黒い何かを振り上げ、目にも留まらぬ早業で降り下ろす。
 村井の頭骨が不快なメロディを奏でる。卵が潰れるシーンが再現された。
 化け物は、村井の処理が済むと幻のように消えた。

 さて、愕然とする僕の目の前に、村井のスマホが飛んで来た。
 拾い上げ、画面を確認する。

(from澤地豊雄 ついに達成! 生け贄三十人。半年以内にバットマンが張り切って殴りに行きます。いや、待ちきれません。すぐに向かいます。
お待ちかね、闇復活祭ダークイースターの開催です)
しおりを挟む

処理中です...