27 / 28
仲神舜一の場合
☆27
しおりを挟む
僕は、自分の軽率さに嫌気が差した。
バットマンが実在する以上、五十嵐さんが言った世界終了も起こりうる可能性がある。
そんな時、僕は急に悪寒を感じた。周りを見ると、誰もが言い様のない不安な表情をしていて、これから恐ろしい事が起きるのは避けられない事実と感じていた。
予兆としては、空が暗くなり、風が吹いた。寺の上空に黒い雲が居座っていた。突然、雨の気配もないのに稲光が走る。
そして、中庭に人影が有った。僕は、稲妻が運んで来たのかと錯覚した。
忽然と現れた人物は、悪夢を具現化した存在で、人であって人でなかった。
彼は、色白で青ざめた顔、つり上がった目、神経質そうな表情、眉間に寄った皺、息が上がっているかのような、半開きになった真っ赤な唇など、完全に正気を失った顔付きで、服装は黒い詰襟の上に帯を巻き、複数の刃物と銃で武装している。
「澤地豊雄!」
和尚の叫びは、人間としての最後の言葉になった。
豊雄が持つショットガンが火を吹き、和尚の胸を直撃する。
豊雄は、素早く座敷へ上がると、戦意を喪失している目出し帽を捕まえ、短刀を突き刺した。
刃物を抜き差しする度に生命力が奪われ、犠牲者は豚のように悲鳴を上げる。
豊雄の凶行は止まらない。
十数人居た目出し帽集団は、次々と襲われ、残酷な方法で罪滅ぼしさせられた。
そう、豊雄は孫の仇を取っている事になる。なんて、思っている場合じゃない。
僕は、綾香の手を取って逃亡を促す。
豊雄自身も危険だが、他にも気になる事があった。最初に殺害された和尚が動いている。
鮮魚がピチピチ跳ねるのは、活きが良い証拠で喜ばしいが、死体がピチピチ跳ねると不気味だし、有り得ない。
だが、和尚は急激な変化と痙攣を繰り返し、僕らを脅かしていた。
充血した目が見開かれ、開かれた口から貧弱な歯が抜け落ち、代わりに牙が生えて来た。もう、人間ではない物に変化していた。
ぐぉぉぉ
和尚の咆哮に脅されるように、僕たちは走り出した。この場に居れば、確実に殺される。
長い廊下を走り、出口を目指す。靴下で板の上を走るのは、滑って難しい。それでも、必死で足を動かした。進むペースがもどかしい。
僕は、遅れ気味になる綾香を励まし、玄関へ辿り着く。靴を履くのももどかしく、外へ飛び出した。
そして、フィアットの隣に止まるスーパーカブの所へ来た。
「あぁぁっ! 鍵がなぁいぃぃっ!」
当てが外れて絶叫する。
僕の目撃情報でも、綾香の過去の記憶情報でも、スーパーカブに鍵が付いているのは定説な訳で、今さら覆されても困ってしまう。
僕は、出先で財布を無くした時以来の焦りを感じていた。今の場合、深刻さは桁違いになる。
綾香は、僕とは温度差があるのか? やけに冷静に言う。
「今日は付いてないね。でも、寺務所にあると思うよ?」
僕は、鍵を取りに戻るべきか? それとも走って逃げるべきか? 選択を迫られた。
結局、「一刻でも早く離れる」より、「一刻でも速く離れる」を選択する。つまり、足で走るのはごめんだった。
「姫岡、戻って鍵を取って来よう」
僕の提案に、彼女は素直に頷く。意外と落ち着いていて、肝が据わっている。こんなパートナーなら心強い。
綾香は、色白でお人形みたいな容姿なのに、割りと大胆な行動をする。たまに、僕の方が彼女に従うべきではないかと迷ってしまう。
さて、綾香の資質に付いては兎も角、今はスーパーカブの鍵をゲットするのが任務だった。
バットマンが実在する以上、五十嵐さんが言った世界終了も起こりうる可能性がある。
そんな時、僕は急に悪寒を感じた。周りを見ると、誰もが言い様のない不安な表情をしていて、これから恐ろしい事が起きるのは避けられない事実と感じていた。
予兆としては、空が暗くなり、風が吹いた。寺の上空に黒い雲が居座っていた。突然、雨の気配もないのに稲光が走る。
そして、中庭に人影が有った。僕は、稲妻が運んで来たのかと錯覚した。
忽然と現れた人物は、悪夢を具現化した存在で、人であって人でなかった。
彼は、色白で青ざめた顔、つり上がった目、神経質そうな表情、眉間に寄った皺、息が上がっているかのような、半開きになった真っ赤な唇など、完全に正気を失った顔付きで、服装は黒い詰襟の上に帯を巻き、複数の刃物と銃で武装している。
「澤地豊雄!」
和尚の叫びは、人間としての最後の言葉になった。
豊雄が持つショットガンが火を吹き、和尚の胸を直撃する。
豊雄は、素早く座敷へ上がると、戦意を喪失している目出し帽を捕まえ、短刀を突き刺した。
刃物を抜き差しする度に生命力が奪われ、犠牲者は豚のように悲鳴を上げる。
豊雄の凶行は止まらない。
十数人居た目出し帽集団は、次々と襲われ、残酷な方法で罪滅ぼしさせられた。
そう、豊雄は孫の仇を取っている事になる。なんて、思っている場合じゃない。
僕は、綾香の手を取って逃亡を促す。
豊雄自身も危険だが、他にも気になる事があった。最初に殺害された和尚が動いている。
鮮魚がピチピチ跳ねるのは、活きが良い証拠で喜ばしいが、死体がピチピチ跳ねると不気味だし、有り得ない。
だが、和尚は急激な変化と痙攣を繰り返し、僕らを脅かしていた。
充血した目が見開かれ、開かれた口から貧弱な歯が抜け落ち、代わりに牙が生えて来た。もう、人間ではない物に変化していた。
ぐぉぉぉ
和尚の咆哮に脅されるように、僕たちは走り出した。この場に居れば、確実に殺される。
長い廊下を走り、出口を目指す。靴下で板の上を走るのは、滑って難しい。それでも、必死で足を動かした。進むペースがもどかしい。
僕は、遅れ気味になる綾香を励まし、玄関へ辿り着く。靴を履くのももどかしく、外へ飛び出した。
そして、フィアットの隣に止まるスーパーカブの所へ来た。
「あぁぁっ! 鍵がなぁいぃぃっ!」
当てが外れて絶叫する。
僕の目撃情報でも、綾香の過去の記憶情報でも、スーパーカブに鍵が付いているのは定説な訳で、今さら覆されても困ってしまう。
僕は、出先で財布を無くした時以来の焦りを感じていた。今の場合、深刻さは桁違いになる。
綾香は、僕とは温度差があるのか? やけに冷静に言う。
「今日は付いてないね。でも、寺務所にあると思うよ?」
僕は、鍵を取りに戻るべきか? それとも走って逃げるべきか? 選択を迫られた。
結局、「一刻でも早く離れる」より、「一刻でも速く離れる」を選択する。つまり、足で走るのはごめんだった。
「姫岡、戻って鍵を取って来よう」
僕の提案に、彼女は素直に頷く。意外と落ち着いていて、肝が据わっている。こんなパートナーなら心強い。
綾香は、色白でお人形みたいな容姿なのに、割りと大胆な行動をする。たまに、僕の方が彼女に従うべきではないかと迷ってしまう。
さて、綾香の資質に付いては兎も角、今はスーパーカブの鍵をゲットするのが任務だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
七竈 ~ふたたび、春~
菱沼あゆ
ホラー
変遷していく呪いに終わりのときは来るのだろうか――?
突然、英嗣の母親に、蔵を整理するから来いと呼び出されたり、相変わらず騒がしい毎日を送っていた七月だが。
ある日、若き市長の要請で、呪いの七竃が切り倒されることになる。
七竃が消えれば、呪いは消えるのか?
何故、急に七竃が切られることになったのか。
市長の意図を探ろうとする七月たちだが――。
学園ホラー&ミステリー
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる