ダークイースター

雨川 海(旧 つくね)

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仲神舜一の場合

☆27

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 僕は、自分の軽率さに嫌気が差した。
 バットマンが実在する以上、五十嵐さんが言った世界終了ハルマゲドンも起こりうる可能性がある。

 そんな時、僕は急に悪寒を感じた。周りを見ると、誰もが言い様のない不安な表情をしていて、これから恐ろしい事が起きるのは避けられない事実と感じていた。
 予兆としては、空が暗くなり、風が吹いた。寺の上空に黒い雲が居座っていた。突然、雨の気配もないのに稲光が走る。
 そして、中庭に人影が有った。僕は、稲妻が運んで来たのかと錯覚した。

 忽然と現れた人物は、悪夢を具現化した存在で、人であって人でなかった。
 彼は、色白で青ざめた顔、つり上がった目、神経質そうな表情、眉間に寄った皺、息が上がっているかのような、半開きになった真っ赤な唇など、完全に正気を失った顔付きで、服装は黒い詰襟の上に帯を巻き、複数の刃物と銃で武装している。

「澤地豊雄!」

 和尚の叫びは、人間としての最後の言葉になった。
 豊雄が持つショットガンが火を吹き、和尚の胸を直撃する。

 豊雄は、素早く座敷へ上がると、戦意を喪失している目出し帽を捕まえ、短刀を突き刺した。
 刃物を抜き差しする度に生命力が奪われ、犠牲者は豚のように悲鳴を上げる。
 豊雄の凶行は止まらない。
 十数人居た目出し帽集団は、次々と襲われ、残酷な方法で罪滅ぼしさせられた。
 
 そう、豊雄は孫の仇を取っている事になる。なんて、思っている場合じゃない。
 僕は、綾香の手を取って逃亡を促す。
 豊雄自身も危険だが、他にも気になる事があった。最初に殺害された和尚が動いている。

 鮮魚がピチピチ跳ねるのは、活きが良い証拠で喜ばしいが、死体がピチピチ跳ねると不気味だし、有り得ない。
 だが、和尚は急激な変化と痙攣を繰り返し、僕らを脅かしていた。
 充血した目が見開かれ、開かれた口から貧弱な歯が抜け落ち、代わりに牙が生えて来た。もう、人間ではない物に変化していた。


 ぐぉぉぉ

 和尚の咆哮に脅されるように、僕たちは走り出した。この場に居れば、確実に殺される。

 長い廊下を走り、出口を目指す。靴下で板の上を走るのは、滑って難しい。それでも、必死で足を動かした。進むペースがもどかしい。

 僕は、遅れ気味になる綾香を励まし、玄関へ辿り着く。靴を履くのももどかしく、外へ飛び出した。
 そして、フィアットの隣に止まるスーパーカブの所へ来た。

「あぁぁっ! 鍵がなぁいぃぃっ!」

 当てが外れて絶叫する。
 僕の目撃情報でも、綾香の過去の記憶情報でも、スーパーカブに鍵が付いているのは定説な訳で、今さらくつがえされても困ってしまう。
 僕は、出先で財布を無くした時以来の焦りを感じていた。今の場合、深刻さは桁違いになる。
 綾香は、僕とは温度差があるのか? やけに冷静に言う。

「今日は付いてないね。でも、寺務所にあると思うよ?」

 僕は、鍵を取りに戻るべきか? それとも走って逃げるべきか? 選択を迫られた。
 結局、「一刻でも早く離れる」より、「一刻でも速く離れる」を選択する。つまり、足で走るのはごめんだった。
 
「姫岡、戻って鍵を取って来よう」

 僕の提案に、彼女は素直に頷く。意外と落ち着いていて、きもわっている。こんなパートナーなら心強い。

 綾香は、色白でお人形みたいな容姿なのに、割りと大胆な行動をする。たまに、僕の方が彼女に従うべきではないかと迷ってしまう。
 さて、綾香の資質に付いてはも角、今はスーパーカブの鍵をゲットするのが任務だった。
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