簡易版、徳川家康

雨川 海(旧 つくね)

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三河節

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 ここからは、作者の語りになります。

 さて、無事に岡崎城に着いた元康、災難はまだまだ続きます。と言うより、これからが本番です。まずは、伯父さんの水野信元が立ちはだかります。この方、世渡り上手で素敵なダンディさんです。最初は今川の味方で松平家とも仲良しでした。妹の於大を松平家に嫁がせる程の仲良しさんで、この於大さん、虎虎虎虎の元康を出産します。ガオー。そんな仲良し信元でしたが、尾張の織田が強いとなれば、領地も近い事もあって、織田方に寝返ります。

「え~い、お前の妹とは離婚じゃ」などと元康のパパが言い出せば、待ってましたとばかりに里帰りさせます。もう、次の嫁ぎ先が決まっていたのです。水野信元は抜け目がないので、松平家の次は松永家とお親戚になり、これは松繋がりでおめでたい。
 於大は二歳の竹千代、つまり元康と泣く泣く別れる事になったのです。母を慕いて泣く竹千代を見て、於大の目にも涙が溢れ、川になって流れて行きます。

 そんな過去があって、元康は信元が嫌いです。しかも、信元の上司は織田信長です。信長は、元康が尾張で人質になっている時、相撲で可愛がってくれた相手です。いや、相撲と言うより格闘技です。しかも、パンチあり、蹴りあり、投げあり、関節ありのMMAです。今日の相撲と違い、当時の相撲はルール無用の組み打ちから発展したのです。組み打ちとは、首の取り合いです。
 元康は、毎日が地獄の特訓になります。
 信長は、「虎だ、虎になるのだ」などと言いつつ、「俺の可愛い兎ちゃん」とも言います。ツンデレなのです。
 ですが、元康にはツンの記憶しかありません。忘れたい過去でした。

 つまり、元康は織田信長も水野信元も大っ嫌いでした。ノブノブの悪夢です。もう、夜中に藁人形と五寸釘を使って呪いたい程でした。だから、今川方が好きだったのです。
 そんな時、幼い頃から兄弟同然で育った今川家の現当主、新たな太守候補、駿河と遠江の支配者にして、三河の守護者、氏直から書状が届きます。
 内容は、「元康、頼りにしているよ、よっ、兄弟、家族、親友」などの嬉しい言葉。元康は、感激します。伯父である水野信元の城、刈谷城に攻撃命令を出します。

「かっちゃん、行ける?」
 三河製最強マシン、本多忠勝が起動します。忠勝は、水野勢を薙ぎ倒します。半径一キロ以内の敵を殲滅して、身の安全を確保すると、疲れて寝落ちします。

 さて、松平軍が刈谷城攻略に夢中になっていると、背後から織田軍が迫ります。前に水野勢、後ろに織田勢。撤退すれば、前に織田勢、後ろに水野勢。再び進軍すれば、前に水野勢、後ろに織田勢。いやいや、絶対絶命です。

 松平軍は、多数の犠牲者を出し、敗退します。最大戦力、本多忠勝も戦死かと思われましたが、ひょっこり帰って来ました。戦場で停止中に、再起動ボタンを押されたようです。

 意気消沈する松平軍、元康もガッカリです。ところが、助っ人が駆けつけ、気分は上げ揚げになります。三河内で今川に組みする吉良義昭が岡崎城に合流しました。

 尾張は終わりだ。新たに勢いづき、松平と吉良の連合軍は刈谷城に迫ります。しかし、織田の後ろ盾を持つ水野勢に再び撃破され、敗退。
 今度こそ、底無しに落ち込みます。
 更に、水野信元から書状が届きます。内容は、今川を裏切って織田に付け、織田信長様は、お前に三河を任せる気でいなさるぞ。などと甘い言葉でした。
 詐欺っぽい申し出ですが、既に打つ手を失っていた元康には、選択肢がありませんでした。しかし、今川には妻子が居ます。元康は、妻の瀬名を愛していました。子も可愛い盛りです。駿府に戻り、一家団欒で暮らしたいのです。
 現状を打破したくて、今川へ書状を送ります。ですが、今川氏直は大変でした。駿府と同盟関係にある北条が上杉に攻められ、そちらに援軍を送らなければなりません。とても三河を助ける余力がありません。ただ、氏直は、度重なる三河からの救援要請に、疑念を抱きます。それは、元康の裏切りでした。そこで、保険を掛けたくなります。

「松平元康へ、人質の追加を要求します。三河の武将全員の妻子とペット、愛用の玩具、思い出の品、全て纏めて駿府へ送れ。以上」
 今川の要求に、三河の家臣団はブチ切れます。
「殿、我らは疑われておりますぞ。何たる屈辱。もう、敵は織田ではござらん。今川です」
 石川数正はカンカンです。元康は、古くから仕える数正の意見に迷います。
「だが、駿府にはワシの妻、愛しい瀬名が居る。子も居る。他にも人質が居る。見捨てるのか?」
 数正は、迷いなく進言します。
「瀬名様は大丈夫でしょう。今川氏直のいとこですし、重臣の娘でもあります。今は国内の対立を避けたいでしょう。御子は、元康様に何かあれば、次の三河の国守です。生かして置いた方が得でしょう。家臣の妻子は、諦めて貰いましょう」
 元康は、黙ってしまいます。乱世で生き残るには、犠牲を選ぶ時もある事を痛感したのです。

 松平軍は、水野、織田軍と協力して、吉良義昭の城を落とします。この時点で元康は、今川から織田に寝返ったのでした。
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