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一章 傾きだす天秤〝主島リストルジア、判決編〟
#14 俺は変態ではないぞ……断じて違う。絶対にだッ!
しおりを挟む国会議員の街頭演説は、日本にいる時に何度か見たことがある。だが、政治のことを全く理解していない俺には『マニュフェスト』とか言われてもパッとこないし、『おっさん、頑張ってるな』くらいにしか思わなかった。政治家なんて汚職のオンパレードだし、いいイメージもない。テレビで公開されている国会中継では寝ている議員もいるし、誰かの発言に対して飛ばす『ヤジ』だって、全く好感を持てない。『ヤジを飛ばす=白熱した討論』と勘違いしているのなら、学校の『クラス討論』のほうがよっぽど統制が取れているように思える。
結局は『参加しています』というアピールをしているだけで、ヤジなんかに意味なんてないんじゃないかとさえ思うほどだ。そんな、俺とは無縁にも思えた『政治』に、この世界で向き合うことになるとは夢にも思っていなかったわけだが……。
シュガーと別れてから、俺は過激派の街頭演説を聞くために中央広場まで走っていた。
今でも思う。俺なんかが聞いたよころで理解できないのではないか──と。それでも、この世界……いや、ゲームにおいて【情報】というのは時として【レアアイテム以上の価値】があったりする。そう考えると、案外、政治とゲームは密接な関係にあるのではないかと、俺は走りながら思うのであった。
中央広場にはやぐらが設置されていて、今、まさに演説が始まりそうな雰囲気を醸し出している。集客は上々のようで、やぐらを囲むように人々が集まっていた。年齢層はバラバラで、俺と同い年くらいのやつもいれば、高齢者の姿も見られる。それだけ関心があるということだろう。それも当然で、投票結果次第では、魔族との全面戦争が勃発する。自分達の命が掛かっているだけあって、聞く側も真剣だ。誰ひとりとして無駄口を叩く者はいない。
そんな人溜まりの中に、見慣れたメイド服を着た女性がいた。しかし、ラッテではない。きっと命令で、この街頭演説を聞きにきたのだろう。俺が宿泊している宿『招き猫』で調理を務めているマーマンさんの姿もあった。
マーマンさんは以前、『魔族との対話なんて不可能だ』と言っていた。でも、あのひとは無闇矢鱈に命を捨てるような公約には、首を縦に振らないだろう。
(……ん? あの鎧姿は……)
群衆の中、ひとり浮いている格好をしている者がいる。あれは、俺が魔界に行く前に少しだけ剣を交えた相手、【レイナード】だ。どうやら無事だったみたいだな……探す手間も省けた。俺は、レイナードの後ろから肩を叩きた。
「ん……? あ、テメェ……生きてやがったか」
「それは俺の台詞だ。久しぶり、レイナード」
「おめぇには聞きてぇことが山程あんだが……それはあとだ」
「ああ……俺もあんたに話すことが山程ある。公演が終わったら時間もらえるか?」
「わかった……なんかお前、雰囲気変わったな」
「……?」
レイナードの隣で腕を組み、俺は演説が始まるのを待った──しばらくして、やぐらに男がひとり、ゆっくりと上る。いかにも上流階級であると思わせるスーツのような服を身にまとったこの男が、どうやら過激派のリーダー、【デュラン=ヒューゴル】のようだ。立派な髭を生やした中年男性。恰幅がいい体型で、上着のボタンが今にも弾け飛びそうだ。
「この度はお集まり頂き、感謝する」
この世界に拡声器なんて便利な道具はないので、大声で挨拶をしている。
「我輩は貴族、過激派代表のデュランである。これまで何度か演説を行なってきたが、それも今日で終わりだ。明日、この国の方針が決まる議会があるのでな……して、皆の者よ。先ずは先に発生した【レイティア姫誘拐事件】だが、我ら過激派は無実である!!」
集まった人々が騒つく──が、それも想定内だったようだ。
「〝過激派〟という名前から、そういった危険思考の集まりと勘違いしている者もおおいだろう。だが、それらは全て〝保守派〟が流したデマである。鵜呑みにするのは愚の骨頂だ。我輩が掲げるのは〝戦争〟ではない……平和を築く過程に〝武力抗争〟があるだけで、目指すべき目標は〝平和〟である。皆もこの街に暮らしていて、モンスター共がいつ攻めてくるのか不安であろう……しかし、それに対して国は沈黙している。……このままでいいはずがない……今こそ、反撃の狼煙を上げる時なのだ!! このまま指を咥えて、魔族の進行を待つのか? ──否ッ!! 我らは切り開くべきだ、例え血が流れようとも、その先に明るい未来があるのなら!! もう沈黙している場合ではない……立ち上がるのだ!! 前を見ろッ!! 今こそ腑抜けた者共の目覚まさせるのだッ!!」
黙って見ていた民衆達も、いつの間にかデュラン公の言葉に賛同するかのように歓声を上げている。──確かに、デュラン公の言葉には胸を熱くするような印象があったが、具体的になにをするのか、明確には話していない。もしかすると、俺が魔界に行っている間にその類の話は終わってしまったのかもしれない。だからと言って、この内容を良しと言っていいのだろうか? 政治家の街頭演説すらまともに聞いていなかった俺がこんなことを思うんだ、このひと集りの中で、俺のように思う者も少なくないんじゃないか? ……しかし、それはどうやら違うらしい。ちらほらとデュラン公を褒め讃える声が耳に届く。
「なあ、レイナード」
「あ? なんだ」
「今の演説、どう思った?」
率直な質問をレイナードにぶつけてみた。
「煽り文句って言えば大したもんだろうよ。だが、具体的なことは名言してねぇし、どっちかっていや避けたってのが正しいかもな。あの事件の経緯を知ってる俺からすりゃ、酔っ払いのおっさんが、自分の正当性を豪語してるようにしか思えねぇ」
「だよな。もっとまともな話が聞けるかと思って期待してたんだけど、これならここに集まっているひと達から話を聞いたほうが、まだ有意義な時間を過ごせたんじゃないか?」
「馬鹿言え。周りをよくみて見ろ……半数は仕込みだ」
「仕込み……?」
俺は目を凝らして集まっている人々を観察してみる。
平民を装っているが、指に高価な指輪をしている者や、そういった装飾を施している者が多い。このご時世で、そんな高価な装飾品を買える平民はそうそういないだろう。──つまり、ここに集まっている多くの者は、平民になりすましている貴族。俺の住んでいた世界で言うなら『サクラ』ということだ。しかし、人間はひと集りを見つけると、それに倣って集まる習性がある。集団心理という言葉もある通り、この場に民衆を集めさえすれば、あとは民衆の不満を煽り、弁舌に精神誘導すればいい。やりかたは姑息に思えるが、これも一種の作戦だろう。デュラン公に政治を任せれば、その後、国がどうなるのかを考えなければならないこの場所で、それをさせないように仕込みを利用する……思っていたより、デュラン公は曲者のようだ。デュラン公が演説を終えて櫓から下りると、それが合図とでもいうように、サクラと思わしき者達が散開すると、それに倣うように、次々とこの場を去っていく。
対立候補であるアデントン公はどうするのだろうか……このままでは、民衆はデュラン公を支持してしまうかもしれない。そうなってしまえばルネの計画も水の泡だ……それだけは避けなきゃならないが、この場で俺ができることは特にない。
「さて……演説も終わったことだし、色々と聞かせてもらうぞ」
「ああ……でもその前に、あんたに会わせないといけないやつがいるから、着いてきてくれ」
「どこに向かう気だ?」
「どこって言われてもな……
魔法帝との待ち合わせ場所だよ」
── ── ──
親方の工房の前まで辿り着いた俺は、なに食わぬ顔で店に入ろうとしたのだが、いまいち状況が掴めていないレイナードに呼び止められた。
「おい、まさか俺様がいるにも関わらず、装備を整えてこの前の続きをやり合おうって考えじゃねぇだろうな?」
「言っただろ、妹が待ってるって」
「どこの妹がこんな危険な場所で待つんだよ!?」
「……会えばわかるって」
俺はレイナードの制止を振り切るようにして、店の扉を開けた。
店内では親方とシュガーが、真剣な顔で一本の杖を挟んで話をしている。
「この構造では放出する魔力が制限されて、術者に負荷がかかると言っておるだろ!?」
「馬鹿言うなっ!! 大体、核となる魔力水晶を常に解放状態にしたら、それこそ危険だろうが!!」
「この髭め……儂はこれでも魔法帝だぞ!! 杖の暴走が怖くて魔法帝など名乗れぬわ!!」
「お前が使う前提で話を進めんじゃねぇ!! この杖は駆け出しが使う杖なんだぞ!?」
……どうやら上手くやっていたようだ。
「親方、ありがとう。今戻った」
「ああんッ!? ……ってレオか。おい、お前の妹なんなだ!? ……ったく、兄貴が兄貴なら妹も妹ってか?」
カウンターの上に置いてあるのは、駆け出しの魔法使いが使う【セーフロッド】と呼ばれる杖だ。
「兄様よ、このわからずやの髭に言ってくれ。こんな武器では下級モンスター一匹すら倒せんと!!」
「……」
ああ……なんかデジャヴなんですけど……。
俺はこの店に来た時、親方の打った【ロングソード】を小馬鹿にした。それと似たようなことが、再び俺の目の前で繰り広げられているのか……。
この光景を見て絶句していたのは俺だけじゃない。かつてシュガーと組んでいたレイナードも、なにがなんだかわからないといった表情を浮かべている。
「おい、レオ……これはどういうことだ? 魔法帝はいつからお前の妹になったんだ……?」
「いちいち話すのも面倒なんだが……」
俺はシュガーが妹になった経緯を、端的に説明した。
「……ってわけだ」
「信じらんねぇ……」
レイナードはシュガーの元へと近づいた。そして、目の前にいる親方に一礼すると、かつての仲間をジッと見た。
「久しいな、レイナード。元気じゃったか?」
「〝元気じゃったか?〟じゃねぇよ……俺様は未だにお前が女だったことが信じらんねぇんだよ……それどころか、あのあとから行方を眩ませて、やっと見つけたら、今度はレオの妹とか……冗談はその口調だけにしてくれや……」
「この口調は仕方ないじゃろ!? 舐められないように必死だったんじゃ!! それに、今、直している途中じゃ!!」
「おい……レオ。お前の連れてくる連中は、まともなやつがいねぇな……」
親方は溜め息混じりにぼやいた。
まあ、そこは俺も同感であり、ぐうの音も出ない……。
「すみません、ローグさん。つい、馴染みがいたもんで……」
レイナードは言葉こそ悪いが、目上の者に対して礼儀を重んじるタイプのようだ。親方に頭を下げて謝っているが、シュガーは謝罪などする素振りすら見せない。
「シュガー、お前も親方に謝れ」
「なぜ儂がッ!?」
「妹は兄の言うことを聞くもんだぞ?」
「ぐぬぅ……すまぬ」
ようやく落ち着きを取り戻した店内は、それまでの喧騒が嘘だったかのように静まり返えって。微妙な空気が流れ出し、一抹の気まずさを感じる。そんな居心地の悪さを感じたのか、親方はカウンターに置いてあったセーフロッドを手に取り、それをシュガーに渡した。
「お前の兄貴も、最初は俺が打ったロングソードを小馬鹿にしたんだ。本当に兄弟ってのは似た者同士なんだな。……とりあえず、しのごの言わずに使ってみろ。文句はそれから聞いてやる」
「わ、わかった……」
レイナードはその事実を聞くと……
「ローグさんの打った剣を小馬鹿に……おい、嘘だろ……」
──と、さらに衝撃を受けている様子だ。
「あはは……いや、俺もあの頃は色々あってだな……?」
「未だにお前らが兄妹になったってのが信じらんねぇが……まあいい。お前には他にも聞きたいことがある。……場所を移すぞ」
「わかった。親方、迷惑かけて悪かったな」
親方はなにも言わず、ただ手を振った。
「ひとまず、俺様が世話になっている宿屋にいくぞ」
「宿屋って……まさか……」
「〝招き猫〟だ」
灯台下暗しって、こういうことを言うんだな……と、俺は心の中で思った──。
── ── ──
招き猫に戻る頃には夕暮れが訪ずれて、空が紅に染まり始めていた。
この世界の夕暮れは高い建造物がないせいか、朱色が濃い気がする。いや、もしかしたらこの世界も、俺が住んでいた世界も変わらないのかもしれない。気の持ちよう──なんて言えばそれまでかもしれないが、ノスタルジーに浸るにはもってこいかもしない。まあ、俺にそこまでノスタルジックになるほどの故郷はないのだが。
レイナードが借りている部屋が、まさか俺の部屋の隣とは思わなかった。こんな近くにいたのに気づきもしないとは……。こいつに話すべきことは、やはりミゲイルさんのことだろう。だが、一度死んでから半魔族になって復活した後、魔王の執事として生きている……とは言えない。しかし、『生きている』と伝えれば、当然、どこにいるのか聞かれるだろう。どうはぐらかせばいいのかと噤んでいると、レイナードは俺の予想通り、ミゲイルさんの行方を聞いてきた。
「俺様はあの件の後、翌日、ミゲイルの亡骸を埋めるために戻ったんだ……だけど、そこに死体はなかった。……お前もあれから消息不明だし、もしかしたらミゲイルはいきてるんじゃねぇかと思うんだが、知らねぇか?」
知っているには知っている。しかし、本当のことを伝えていいのか……?
口止めはされてないし、『元気だと伝えてくれ』と、言伝も頼まれている。
ここはやはり、ぼかしながら伝えるしかない。
「知ってるには知ってる……でも、どこにいるかは言えない。ただ、元気だって伝えてくれと頼まれてた。今は、それ以上のことは言えないんだ」
「居場所を言えないってことは、なにか深い事情でもあるのか?」
「多分、時が来れば話せると思う。だから……」
「……わかった」
「え?」
「〝え?〟じゃねぇよ……とりあえず生きてんだな? 生きてんならそれでいい」
こいつってこんなに物分かりいいやつだったのか? ……いや、きっと我慢してるんだろう。本音は居場所を知りたいに決まってる。それをしないってことは、少なくとも、俺を信用してくれてるってことか。
俺とレイナードの間柄は、一度だけ刃を交えただけの間柄。深く関わりを持ってるわけじゃない。もしかしたら──シュガーを妹として受け入れたから、レイナードは俺を信用してくれたのか? そうだとしたら、俺はレイナードと『友人』という間柄になれるかもしれないが……友人って、どうすればなれるんだっけ? 幼い頃は簡単にできたことなのに、年を重ねる毎に、それが難しくなるってのも皮肉だな。
でも、俺はこの世界にきてから色々と学んだ。まだ数日しか経ってないけど……自分が動かなければなにも始まらない。閉ざした部屋の扉を開くのは、誰でもない、自分が開かなければいけないんだ。それを『勇気』と呼ぶには大袈裟かもしれないけど……。
「レイナード、俺はこの世界のことをあまり知らないんだ。それに、知り合いも少ない。レイナードが嫌じゃなければ……その……」
「おい、それ以上は言うな。気持ち悪ぃだろ。俺様とお前はもう敵じゃねぇ、敵じゃねぇなら、もう友だろ。シュガーだってお前を認めてんだ。俺様がお前を認めるには、それで充分だろ……こういうのは性に合わねぇんだよ。だからこの話はこれで終わりだ。……いいな?」
「わかった。これからよろしく頼む!!」
「うるせぇ……」
俺とレイナードのやり取りをずっと黙って見守っていたシュガーは、クスクスと笑い始める。
「ふたり共、不器用じゃなぁ……友になる契約を交わしているようじゃったぞ?」
「うるせぇぞシュガー!! そもそもなぁ……俺様を騙してたテメェに言われたねぇんだよ!!」
「儂がもし偽ってなければ、犯されていたかもしれんし、あいこじゃな」
「んなわけねぇだろ!?」
俺はこの時、この世界にきて初めて笑ったかもしれない。
友達、か──ずっと憧れていた存在は、案外、簡単に手に入るのかもな……。
俺が頑なになって扉を閉めていただけで、扉を開くことができれば、こんなに温かい世界が待ってたのに、どうして俺はひとりでいることをえらんでしまったんだろうか。もし──あっちの世界でも扉が開けたら、俺は変われるのかもしれない。まだ自信はないけど、その時がきたら、俺は──。
── ── ──
それから暫し三人で談笑して、頃合いを見て別れを切り出し、明日、再び約束を交わし自室に戻ろうと、自室の扉を開いた。
「おかえりなさいませ、レオ」
「……っ!?」
まさか、自分よりも早くこの部屋に誰かがいると思っていなかったので吃驚してしまった。
そこにいたのは、今朝、俺の部屋を訪れたラッテだった。
ラッテはベッドに腰をかけて、なぜかその足元にフェレが移動している。
「久しいな、メイド!!」
「あなたは魔法帝……確か、お名前はシュガー……さんでよろしかったですか? どうしてレオと一緒に?」
はあ……これで何度目の説明だろうか。事情を説明するのも飽きてきたぞ……。
「どうしてと言われても、儂は兄様の妹になったのでな。一緒にいるのは当然じゃろ?」
「おい、バカッ!! ものごとには順序ってもんがあるだろっ!?」
しかし、時既に遅し──。
ラッテの視線が、まるで、汚いゴミを見るような視線に変わった。
「兄様……? 妹……? レオ、どういうことか説明を」
「え、えっとですね……?」
前言撤回──俺は必死にこれまでの経緯をラッテの痛い視線に耐えながら説明した。
「……と、いうことなんですけど。あの……ラッテさん? どうして黙ってるんですかね
ぇ……?」
ラッテの冷ややかな瞳の奥には、静かに燃える憤怒の炎すら感じられる。確かに、俺の判断は常軌を逸しているとは思うが──例えば、生まれたばかりの赤ん坊が自分の家の玄関の前に捨てられていて、『よし、今日からお前は私達の子供だ』──となれば、そこそこ美談になりうるだろう。今回の件もそれと似たようなことで、これほど軽蔑されるのは遺憾だ……けど、やっぱり赤子と成人女性では話が違うことは明確。よって、この冷酷とも呼べる瞳の意味を理解できないわけじゃなかった。
ラッテは小さい溜め息を零して『なにかをぼやいた』のだが、俺の耳にそのぼやきが届くはずもなく、聞き返せる雰囲気でもないので、俺はそれ以上なにも言えなかった。
「言いたいことは五万とありますが……事情が事情ですから、まあ……いいです。今はそんなことにかまけている暇はないので、早速、本題に入ってもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ……本題ってのは、やっぱり派閥争いの件か?」
「お察しの通りです……あの、シュガーさんはどこまでご存知ですか?」
「ん? なんの話じゃ?」
この場合の【どこまで】とは、【俺が召喚された英雄】と知っているのか……という問いだろう。そう言えばシュガーにその件は話していなかった。話そうとは思っていたんだが、これはある意味【トップシークレット】的なアレだと思っていたので話せなかった……というのが理由のひとつ。もうひとつの理由は、単純に【話すタイミングがなかった】のだ。今日は色々と確認することが多くて、この話題に持っていくことができなかった。
「シュガーには、まだ〝俺のこと〟は伝えてない」
「あなたというひとは、妹にした女性に自分のことすら話せないのですか……というのは冗談で……」
それ、本音じゃないんでよね?
さっきから目が本気過ぎて、冗談に聞こえないんですが。
「あなたの状況は、この国でも特に重要なので、軽く言えるものではないのですが……|それだけは慎重に、ことを進めようとしてくれたのですね」
「おいそれと話せることでもないだろ……」
「その通りです」
俺とラッテの会話を聞きながら、シュガーは『なにがなんやら』と小首を傾げている。
「さっきからなんの話をしている? 兄様にはなにか秘密でもあるのか?」
「ええ……この話が外に漏れれば、この国を揺るがす大事件に発展しかねない秘密があります。あなたはレオの妹……妹分になりましたので、口外しないと約束して下さるのならお話しますが……漏らした場合は……」
「儂の命を狙う……というところか。儂はこれでも魔法帝を名乗る者、そう簡単に殺されてやるつもりはないが、そもそも兄様に纏わる話で、それを他言するほど愚かな妹ではないぞ」
一瞬、沈黙が走る──。
互いに腹の中を読み合うような視線の交差。そして、沈黙を破ったのはラッテだった。
「試すような申し出、お許し下さい。それほどに重要なことなので……」
「構わん。……して、兄様よ。どういうことなのか洗いざらい全て話してもらうぞ? ……そこにある【トラップボックス】についてもな?」
『気配は殺してたのに……ごめんなさい……』
「いや、いいんだ、フェレ……やっぱりバレるか」
魔法帝の眼を誤魔化せるほど、魔法帝は軟弱じゃないってことか……ここはもう、俺が魔界にいたことも話さなければならないようだ──魔王のことは省いて、だが。
それにしても、今日はやたらと効率の悪いことをしている気がする。最善に努めていたが、結局、俺がしていたことは誤魔化しに誤魔化しを塗りたくっただけってことか。自分がどう立ち回るべきなのか、もう少し慎重になって考える必要があったかもしれない──と、思いながら、俺はふたりのこれまで起きたことを話した──無論、魔王のことは話せない。俺を救ったのは【魔界の貴族】ということにして、話を進めた。
「なんと言えばいいか……その、あまりに想像を遥かに超えていたので、俄かに信じられないのですが……レオ、あなたは本当に〝魔族〟の言葉を理解できて、しかも、魔族と和平を結ぶ使者のような役を任されたのですか……?」
「うむ……儂も兄様には〝儂と似た気配〟を感じていたが、さすがにそこまで想像を巡らせることはできんかったぞ……そうか、だからレイナードにミゲイルの居場所を言えんかったのか……」
「……そういうことだ。俺はこれから人間と魔族の和平交渉に全力を尽くすつもりだ。レイティアにもそう伝えてくれ。あと、できることならアデントン公とも話がしたい。アデントン公がどういう意図で〝和平〟を望んでいるのかわからない以上は、協力もできないしな……」
俺みたいなガキが、アデントン公の意図を理解できるかわからないけど、話を聞かなければわからないままだ。
「……わかりました。今日はもう遅いので、明日……なにか用事はありますか?」
「レイナードと合う約束をしてるけど……」
「では、レイナードさんもご一緒できるように、門番には伝えておきますので、明日の朝、レイティア様の部屋でお待ちしています。それと……」
「それと……?」
「いくら〝兄妹〟という間柄でも、一緒の部屋というのは許せませんので、別の部屋を用意します。それがシュガーさんとの仲を認める最低条件です。……よろしいですね?」
有無を言わさない……とでも言うように、ラッテは鋭い眼光を俺に向けた。
「はい……」
「ぐぬぬ……致し方ない。兄様、暫しの別れじゃ……」
ラッテはシュガーと共に、部屋を出ていった。
『私は……いいんでしょうか……?』
「いい……みたいだな」
『嬉しいのやら、悲しいのやら……なんだか複雑な気分です……』
「フィレ、みなまで言うな……」
『はい……すみません……』
この日、俺はフェレと互いに傷の舐め合いをしながら、長い夜を明かした……。
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