2 / 9
2 不審な男
しおりを挟む
その日は朝から屋敷が騒がしかった。
地下にいるのに聞こえてくる誰かの叫び声。怒声。
珍しいこともあるものだと、達観しているとけたたましい音を立てて地下室の扉が開いた。
ドタドタと慌ただしくも荒々しい足音を立てながら私の目の前まで来たのは、一人の男。
ハイハイの練習をしていた私を抱き上げる男の顔は、暗くてよく見えなかったけど私に害を与えるつもりがないことは何となくわかった。
いやー、ほんと。びっくり。
驚きすぎて声も出ないとはこの事だと、身をもって実感したよ。
ちなみに、私ことディージェ・ワーズナーはつい先日一歳になったばかり。
誕生日?ナニソレオイシイノ?と言いたいくらいには、屋敷の人達から祝われませんでしたよ。
まぁ、当たり前だよね。逆に盛大に祝われたら怖いわ。
そして、父が不在なのも二年になります。
戦争、大変なんですかね?
幸いなことに、父が亡くなったという報告は届いていません。元気という報告も届かないけど。
それよりも、今の私のこの状況。どういった状況なのかな?
私を抱き上げた男は、その場から全く動いていない。私の体の小ささと軽さに驚いている、という雰囲気。表情は分からないけどね。
でもさ、それ以外に戸惑うことないの?
普通の一歳児だったら泣くよ?
色々と考えていくうちに驚きは消え、この男の様子に困惑してくる。
私も男も微動だにしないでいると、地下室の入口に誰かが立った気配がした。
光はその人物の後ろから射しているから顔はわからないけど、体格から見ておそらく男の人だとは思うけど……どうだろう?
女性よりは身長も体格もいいけど、男性にしたら細身に見える。
黙って見つめていたら、その人物は静かに階段を降りてきた。
「グウェン、その子は…」
私を見つめながら、私を抱き上げている男―グウェン―に声をかけてきた。
それに対してグウェンさんはボソボソと言葉を返す。
「……おそらくは、公爵夫人の浮気相手の子かと」
せいかーい。
こんな状況でなければ、このモミジのような手で拍手を送っているところだ。
「ふむ、やはりか。つい先程も若い男を寝室に連れ込んでいたようで、不義を働いた証拠も現在進行形で見つかり、とうとう離縁できるそうだ」
それ、赤ちゃんの目の前でする会話?
……と言うより、離縁できる?されるじゃなくて?離縁を望んでいたけど、何らかの問題があって出来なかったってことかな?
まぁ、いくら不倫の証拠だからって、生まれてすぐの赤ちゃんを地下室に閉じ込めるくらいだからまともな人間じゃないよね。
あれ?でも、そうなると私ってどうなるんだろう?
不倫相手の子、公爵とは血の繋がりはない、そのことが示すのは……ジ・エンド?
私の人生詰んだ?
どうしよう。今からでも泣き叫ぶべき?赤ちゃんというか幼児なら別に変じゃないよね?
不安になった私が今世初めてのギャン泣きを披露してやろうと軽く息を吸ったタイミングで、グウェンさんの私を抱きしめる腕に力が入った。
「きゅぅ……」
自分でもわかる。なんて情けない声なんだ。
いや、それよりも。もしかして、泣こうとしたのバレた?あの、あなたを悪者にしようとして泣こうとしたんじゃないんですよ?……あっ、えっと、でも、ちょっとはそんな気持ちもあったような…なかった……よう………な。でもでも、ほんのちょっとだけだし。
心の中で弁明する自分がだんだんと惨めに思えてきた。
涙で潤む瞳でグウェンさんを見つめると、彼の腕にさらに力が入る。
この人、抵抗しない幼児を殺す気でしょうか。
そろそろ、本気で息がやばいです。
プルプルと震えていると、何を勘違いしたのか後から登場した男性が私にマントを被せてきた。
「この地下は冷える。早く上に戻ろう」
寒さに震えていると思ったんですね?でも、違います。確かに寒いけど、それは命に関わるほどじゃない。こちとら一年も耐えてきたんじゃ。今頃寒さで震えるかってんだい。
……うん、本当に。土下座でもなんでもしてあげるから、この殺しにかかってるとしか思えないグウェンさんの腕の力どうにかしてください。
階段を登っている間、私は切に願うのだった。
地下にいるのに聞こえてくる誰かの叫び声。怒声。
珍しいこともあるものだと、達観しているとけたたましい音を立てて地下室の扉が開いた。
ドタドタと慌ただしくも荒々しい足音を立てながら私の目の前まで来たのは、一人の男。
ハイハイの練習をしていた私を抱き上げる男の顔は、暗くてよく見えなかったけど私に害を与えるつもりがないことは何となくわかった。
いやー、ほんと。びっくり。
驚きすぎて声も出ないとはこの事だと、身をもって実感したよ。
ちなみに、私ことディージェ・ワーズナーはつい先日一歳になったばかり。
誕生日?ナニソレオイシイノ?と言いたいくらいには、屋敷の人達から祝われませんでしたよ。
まぁ、当たり前だよね。逆に盛大に祝われたら怖いわ。
そして、父が不在なのも二年になります。
戦争、大変なんですかね?
幸いなことに、父が亡くなったという報告は届いていません。元気という報告も届かないけど。
それよりも、今の私のこの状況。どういった状況なのかな?
私を抱き上げた男は、その場から全く動いていない。私の体の小ささと軽さに驚いている、という雰囲気。表情は分からないけどね。
でもさ、それ以外に戸惑うことないの?
普通の一歳児だったら泣くよ?
色々と考えていくうちに驚きは消え、この男の様子に困惑してくる。
私も男も微動だにしないでいると、地下室の入口に誰かが立った気配がした。
光はその人物の後ろから射しているから顔はわからないけど、体格から見ておそらく男の人だとは思うけど……どうだろう?
女性よりは身長も体格もいいけど、男性にしたら細身に見える。
黙って見つめていたら、その人物は静かに階段を降りてきた。
「グウェン、その子は…」
私を見つめながら、私を抱き上げている男―グウェン―に声をかけてきた。
それに対してグウェンさんはボソボソと言葉を返す。
「……おそらくは、公爵夫人の浮気相手の子かと」
せいかーい。
こんな状況でなければ、このモミジのような手で拍手を送っているところだ。
「ふむ、やはりか。つい先程も若い男を寝室に連れ込んでいたようで、不義を働いた証拠も現在進行形で見つかり、とうとう離縁できるそうだ」
それ、赤ちゃんの目の前でする会話?
……と言うより、離縁できる?されるじゃなくて?離縁を望んでいたけど、何らかの問題があって出来なかったってことかな?
まぁ、いくら不倫の証拠だからって、生まれてすぐの赤ちゃんを地下室に閉じ込めるくらいだからまともな人間じゃないよね。
あれ?でも、そうなると私ってどうなるんだろう?
不倫相手の子、公爵とは血の繋がりはない、そのことが示すのは……ジ・エンド?
私の人生詰んだ?
どうしよう。今からでも泣き叫ぶべき?赤ちゃんというか幼児なら別に変じゃないよね?
不安になった私が今世初めてのギャン泣きを披露してやろうと軽く息を吸ったタイミングで、グウェンさんの私を抱きしめる腕に力が入った。
「きゅぅ……」
自分でもわかる。なんて情けない声なんだ。
いや、それよりも。もしかして、泣こうとしたのバレた?あの、あなたを悪者にしようとして泣こうとしたんじゃないんですよ?……あっ、えっと、でも、ちょっとはそんな気持ちもあったような…なかった……よう………な。でもでも、ほんのちょっとだけだし。
心の中で弁明する自分がだんだんと惨めに思えてきた。
涙で潤む瞳でグウェンさんを見つめると、彼の腕にさらに力が入る。
この人、抵抗しない幼児を殺す気でしょうか。
そろそろ、本気で息がやばいです。
プルプルと震えていると、何を勘違いしたのか後から登場した男性が私にマントを被せてきた。
「この地下は冷える。早く上に戻ろう」
寒さに震えていると思ったんですね?でも、違います。確かに寒いけど、それは命に関わるほどじゃない。こちとら一年も耐えてきたんじゃ。今頃寒さで震えるかってんだい。
……うん、本当に。土下座でもなんでもしてあげるから、この殺しにかかってるとしか思えないグウェンさんの腕の力どうにかしてください。
階段を登っている間、私は切に願うのだった。
0
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる