生まれ変わったので、自由を謳歌することにしました。

猫野 狗狼

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2 不審な男

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  その日は朝から屋敷が騒がしかった。
  地下にいるのに聞こえてくる誰かの叫び声。怒声。

  珍しいこともあるものだと、達観しているとけたたましい音を立てて地下室の扉が開いた。

  ドタドタと慌ただしくも荒々しい足音を立てながら私の目の前まで来たのは、一人の男。
  ハイハイの練習をしていた私を抱き上げる男の顔は、暗くてよく見えなかったけど私に害を与えるつもりがないことは何となくわかった。

  いやー、ほんと。びっくり。

  驚きすぎて声も出ないとはこの事だと、身をもって実感したよ。

  ちなみに、私ことディージェ・ワーズナーはつい先日一歳になったばかり。
  誕生日?ナニソレオイシイノ?と言いたいくらいには、屋敷の人達から祝われませんでしたよ。

  まぁ、当たり前だよね。逆に盛大に祝われたら怖いわ。

  そして、父が不在なのも二年になります。

  戦争、大変なんですかね?

  幸いなことに、父が亡くなったという報告は届いていません。元気という報告も届かないけど。
 
  それよりも、今の私のこの状況。どういった状況なのかな?
  私を抱き上げた男は、その場から全く動いていない。私の体の小ささと軽さに驚いている、という雰囲気。表情は分からないけどね。

  でもさ、それ以外に戸惑うことないの?
  普通の一歳児だったら泣くよ?

  色々と考えていくうちに驚きは消え、この男の様子に困惑してくる。

  私も男も微動だにしないでいると、地下室の入口に誰かが立った気配がした。
  光はその人物の後ろから射しているから顔はわからないけど、体格から見ておそらく男の人だとは思うけど……どうだろう?
  女性よりは身長も体格もいいけど、男性にしたら細身に見える。

  黙って見つめていたら、その人物は静かに階段を降りてきた。

「グウェン、その子は…」

  私を見つめながら、私を抱き上げている男―グウェン―に声をかけてきた。

  それに対してグウェンさんはボソボソと言葉を返す。

「……おそらくは、公爵夫人の浮気相手の子かと」

  せいかーい。

  こんな状況でなければ、このモミジのような手で拍手を送っているところだ。

「ふむ、やはりか。つい先程も若い男を寝室に連れ込んでいたようで、不義を働いた証拠も現在進行形で見つかり、とうとう離縁できるそうだ」

  それ、赤ちゃんの目の前でする会話?
  ……と言うより、離縁じゃなくて?離縁を望んでいたけど、何らかの問題があって出来なかったってことかな?

  まぁ、いくら不倫の証拠だからって、生まれてすぐの赤ちゃんを地下室に閉じ込めるくらいだからまともな人間じゃないよね。
 
  あれ?でも、そうなると私ってどうなるんだろう?

  不倫相手の子、公爵とは血の繋がりはない、そのことが示すのは……ジ・エンド?
  私の人生詰んだ?

  どうしよう。今からでも泣き叫ぶべき?赤ちゃんというか幼児なら別に変じゃないよね?

  不安になった私が今世初めてのギャン泣きを披露してやろうと軽く息を吸ったタイミングで、グウェンさんの私を抱きしめる腕に力が入った。

「きゅぅ……」

  自分でもわかる。なんて情けない声なんだ。
  いや、それよりも。もしかして、泣こうとしたのバレた?あの、あなたを悪者にしようとして泣こうとしたんじゃないんですよ?……あっ、えっと、でも、ちょっとはそんな気持ちもあったような…なかった……よう………な。でもでも、ほんのちょっとだけだし。

  心の中で弁明する自分がだんだんと惨めに思えてきた。
  涙で潤む瞳でグウェンさんを見つめると、彼の腕にさらに力が入る。

  この人、抵抗しない幼児を殺す気でしょうか。

  そろそろ、本気で息がやばいです。

  プルプルと震えていると、何を勘違いしたのか後から登場した男性が私にマントを被せてきた。

「この地下は冷える。早く上に戻ろう」

  寒さに震えていると思ったんですね?でも、違います。確かに寒いけど、それは命に関わるほどじゃない。こちとら一年も耐えてきたんじゃ。今頃寒さで震えるかってんだい。

  ……うん、本当に。土下座でもなんでもしてあげるから、この殺しにかかってるとしか思えないグウェンさんの腕の力どうにかしてください。

  階段を登っている間、私は切に願うのだった。
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