悲偽

弾風京作

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思郷

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パフォーマンスを終えたサトシが
他の仲間達と舞台を降りて来た。
俺に気付くだろうか。
大勢の客が一団を褒め称えている。
その隙間からサトシが談笑してるのが見えた。
と、突然その客の一人にハグを求められ、
ごく自然にキスをされていた。
思いもよらない光景に何かが弾けた。
サトシは迷惑そうな顔もしていなかった。
相手は『相方』のレベルではなく
ただ単にあいさつ程度のものだったのかもしれない。
でも、それらの行為にも手が届かなかった自分は
軽い嫉妬とやるせなさで情けなかった。

『あの人はもう私の事を忘れたかしら・・
とても寂しい・・』
何故か昔の歌謡曲の一節が頭を過った。
もう声も掛けずにここを出よう。
そうつま先が出口を選んだ。
群れをかき分けて歩き出そうとしたその時
『修一さん!』
背後からそう呼び止められた。
サトシがにこやかな笑顔で袖を引っ張っていた。
「来てくれたんですね。嬉しいです!」
『この顔に俺はやられていたんだ。」
改めてそう思う。しかし、
「良かったよ。」
それが精一杯だった。
そして俺達二人の間ににまた多くの邪魔が入る。
「人気者だね」
皮肉では無かった。
「そんなことないですよぉ。みんな友達で・・」
『ふーん、友達とキス出来るんだ』
意地悪な言葉が頭に浮かぶ。
『いけない。』
こんな俺だから、まともに恋愛も出来ないんじゃないか。
サトシに引きずられる前に
早くここを立ち去りたかった。

タイミング良く誰かから声を掛けられ、
サトシがその方を向く。
俺も同じ方を向いた。
すると、声を掛けて来た男の後方に驚きがあった。
そこに耕太の横顔らしきシルエットを見たのだ。
会場は再び音楽と共にライトが点滅した。
俺はそのシルエットを確認することなく、
サトシと握手をして飛び出していた。

果たしてあれは耕太だったのか。
他人の空似は良くある事だし、
良く見てみると案外似てなかったりもするものだ。
しかし、よく似ていた。

そう思いながらホテルに急ごうとした俺に
「シユウちゃん!・・」
すれ違いざまに声を掛けられた。
反射的にその方を向くと、
以前知り合いだったパンプが驚きの顔を見せていた。
既にこの街を離れた自分が
こういったイベント会場に出入りするのを
知られたくなかったが、
隠し事が出来ないのは世の常のようだ。

「よぉ、久し振り。」
こっちも驚きの笑顔で対応した。
「随分前に田舎に帰ったって聞いてたけど、
なになに?昔の彼に会いに来たとか?」
「いや、あぁ、ま、そんなトコかな。」
上手くごまかせない。
「ほら、前にシユウちゃんに夢中になってた裕ちゃん、
覚えてる?新橋に店出したんだよ。
『観覧車』って言うんだけど。」
パンプは早口で説明した。
「へぇ、知らなかったなぁ。」
「機会があったら行ってみて。
今は『ルリ子』なんて名乗ってるから。
ごめん急いでるから。またねぇ」
そんな挨拶程度でさっさと切り上げてくれた。
イベントについて話題にならなかったのに
胸をなでおろろし安心した。

だが、昔の思い出話が気分を重くさせた。
勝手に好いてくれた男が居たが、
彼に興味を抱かなかった俺は
友達止まりで進展はしなかった。
その後彼はひどく傷ついてたらしい。

オレがかつて東京生活をしてた中
この世界でも不器用に存在してた姿を
きれいに卒業したつもりで帰省したが、
少なからず爪痕として残っているようだった。

ホテルに急いで戻った修一は
シャワーで大量の汗を流した。

これでようやくこの街や
俺の気持ちにくすぶっていた想いを全て洗い流せる。
もう未練もない。


ある日、耕太が家にちょこんと存在してたのを思い出す。
「お前の弟だよ」
そう父に説明されて、当時の俺は戸惑ったものの、
耕太のその愛くるしさに、兄としての自覚より
母性のような感覚が芽生えていった。
父の忙しさに俺は耕太の面倒を自ら積極的にした。
あの頃母が居なくなっていたのは何故だろう。

徐々に大きく成長する耕太の一日一日に愛情を注いだ。
それに応えてくれるように、なついてくれる耕太。
次第に歩きや言葉を覚え教えるのが楽しかった。
これはもう自分だけの宝物だ。
そう感じるようになった。
学校に行ってても、どうしているのか心配だった。
サエおばさんが見ててくれるにしても
店との切り盛りにも忙しいはずだった。
飛んで帰って耕太の待っていてくれる笑顔が
活力になっていた。

そんな耕太が俺の心に戻って来てくれた。
これからの人生は
耕太ひとりに向けて生きよう。
耕太の人生が幸せになるよう協力もしよう。
それで俺は満足になるんだ。
改めてそう決めた。


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