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思郷
しおりを挟む「昨夜はどこかに行ってたのかい」
修ちゃんは会うなり変な質問をして来た。
「ん?残業だったから遅くはなったけど
どこにも行ってないよ。
どうして?電話してくれたっけ?」
携帯を探った。
「いや、電話はしてないよ。
金曜だったし、どこかで飲んでたりしたら
連チャンは気の毒かなと思って。」
「何言ってるの。修ちゃんと久し振りに飲めると、
楽しみでここ一週間ぐらい酒抜いてたくらいだよ。」
「そうか」
修ちゃんは何故か安心したような
そして嬉しそうな顔になった。
本当は、二丁目のイベントに誘われていた。
付き合いで行く予定にはしていたが、考え直した。
忙しい仕事が続いてて、ちょっとキツかった。
この状態で会場のあの賑わいは遠慮したかった。
そして、上京する修ちゃんと飲むのを
なによりの楽しみにしていたのだった。
「こんな店にしちゃったけどいいかなぁ?
新鮮な魚料理とか焼き鳥とかがすごっく旨いんだよ。」
「あぁ、田舎モンの俺には落ち着いていいよ。
あ、そう言ったら店に悪いか。ははは。
耕太のお勧めの料理、じゃんじゃん頼んでくれ。」
修ちゃんが泊まるホテルの駅近辺を検索して、
以前来たことがあるこの居酒屋に腰を落ち着かせた。
「わざわざホテルを取らなくても、
オレのアパートに泊まってもよかったのに。」
上京するにあたって、以前もそう誘ったが
「気を遣わせたくないから」
そう遠慮してた。
「見合いの相手はどんな人?」
その目的で来たのだろうから、
何気に話題を切り出した。
「あぁ・・ まぁ可愛い感じかな。」
そう言ってから、次の言葉を言い出し辛そうに
「実は・・」
オレの顔を真っ直ぐに見て、切り出した。
「昔一緒に仕事した先輩が持って来た話なんだよ。
オヤジの葬儀にわざわざ来てくれてな。
それから『独身は良くない』って
しつこく勧められて・・・」
「え、突然なに?」
修ちゃんは今回の見合いは
先輩の顔を立てて、仕方なくだと言うのか。
にわかには信じられなかった。
大事な客が多く居るのに
店を休んでまで上京してるじゃないか。
それも『見合い』という話だから、
きっとその客達も喜んで送り出したに違いない。
見合いを断る口実なんて何かあったはずである。
「え、それだけの為にわざわざ東京まで?」
「うん。ただこういう事もないと
上京する事はないだろう?
なによりこうして耕太に会いたいと思ってさ。」
『オレに会いたい?』
思い掛けない言葉が
修ちゃんに会えて浮ついてた気持ちを
さらにフワッと弾ませた。
恋人がまた戻って来たような気分で嬉しかった。
そうしてる間に生ビールが来て乾杯した。
こうして二人で飲むのは法事以来であるが、
美味そうに喉を通すオレ達の姿は
その時とは違って湿っぽくはなかった。
修ちゃんは料理も満足してくれたようで、
にこやかな口元へと運ばれて行った。
「旨いなぁ。耕太もいっぱい食えよ。」
修ちゃんとこうしてる時間は楽しかった。
安心感からか酒もつまみも喉から腹へと
気持ち良く流れ込んだ。
見合いの話をされてからの落ち込みと
気持ちを整理するのに費やした時間。
あれは何だったのだろう。
オレの気持ちを知る由もないであろう。
しかし、地元での日常の何気ない出来事を
この好きな表情で聞かせてくれている。
独占してる喜びと幸せが
現実なのが不思議でならなかった。
「耕太、なんなら同席してくれんかなぁ。」
ある程度酒が進んで、こう言葉がこぼれた。
「え?見合いに?オレが?何で?
オレが行ったらおかしいでしょう。
相手の女性にも失礼だろうし」
「でも、ずーっと若いんだぜ。
確か耕太よりも若かった。
どんな話をすればいいんだ?」
「オレよりも若い?」
普段でも女性と話すのは苦手だろう修ちゃんには
ハードルが高いのは予想が付いた。
でも兄弟が見合いに添うのはやはり場違いである。
「だめだよ。頑張らないと。
案外うまく話しが進むかもしれないし。
結婚に向けてまっしぐらかもしれないよ。」
天の邪鬼な気持ちが口を突いて出た。
「俺と歳が離れ過ぎてるってトコから
付き合うのはあり得ない。
ましてや結婚なんて無理だな。
なぁ、耕太なら歳も近いし、
耕太に現在彼女が居るかどうか知らないけど、
居ないんならこの機会にどうかな。」
「は?何?その展開。」
こともあろうか、見合い話をオレに振って来た。
先輩からとか、ホントは言い訳なんじゃないか。
酔った頭で修ちゃんの表情を読み取る。
「えーもしかして、本当はオレの為に上京して、
自分が見合いをする振りをして、
実は何気にオレに紹介する。
なんて事を企んでいたりして?」
修ちゃんは惚けた顔をしたが、否定はしなかった。
呆れると同時に可笑しくなった。
そんな風に俺を心配してたなんて。
「あはは、ありがとう、オレを心配してくれて。
確かに彼女は居ないけど、間に合ってるよ。
オレも結婚なんて気は全然ないし。」
「そうか、いいと思ったんだけどなぁ。
年取ったら困るぞ。」
「だから、その言葉そのまま返すよ。
修ちゃんの方が先でしょ。
今までオヤジの事でいろいろ大変だったんだから
幸せになって欲しいよ。」
「うん。耕太の気持ちは嬉しい。
でも独りでも平気なんだよ。
いや、強がりなんかでなくて、
誰かと過ごすのは気を遣ってダメだ。
耕太って弟が居てくれるだけで幸せさ。」
「でも、将来どうなるか・・」
「その時はその時さ。
将来の為に結婚しようとは思わないよ。
相手に失礼だもんな。」
「結局断るなら、失礼になるんじゃない?
見合いも無駄なんじゃ・・・」
だが、見合いをしたという既成事実だけは
作っておきたいようだ。
「それにしても、その先輩の強引な話を断れなくて、
オレに振って来るとはねぇ。」
「いや悪い。ま、早めに切り上げるよう頑張るよ。
どうせ相手側から断って来るだろうがな。
そうかぁ、耕太に幸せになって欲しいのにな。」
珍しく雄弁だった修ちゃんは、
気まずさからかハイボールをグイと飲み干した。
「しかし、そろって結婚に興味が無いとはダメ兄弟だな。」
最後は大笑いになった。
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