悲偽

弾風京作

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思郷

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「オイ、突然何だよ。待てよ。
男って・・ 兄が来てるんだよ。」
侵入した肩を引き留めた。
「ふん、兄だ?下手な言い訳を。
連れ込んだ男にさっそく風呂を提供して
何をするもんだか。」
手を払ったタクミの目は
アルコールで赤く据わっていた。
「だからアニキだって。」
そんな言い争いの中、修ちゃんが
バスタオルを腰に巻いて風呂から出て来た。
「あれ?友達かい?
すまないね、こんな格好で。
これ、下着ありがとな。」
空になった下着の袋をごみ箱に入れた。
それから自分の格好を気にして、
荷物を置いた部屋に姿を消した。

今のこの状況とタクミやパンプを
修ちゃんにどう説明すればいいのか迷った。
しかし、パンプから意外な言葉が発せられた。
「しゅうちゃん・・」
耳を疑った。
『修ちゃんを知ってる?』
「おいパンプ、お前あの男知ってるのか?」
タクミも驚いてパンプを振り返った。
「ん、チラッとしか見なかったけど・・」
『しゅうちゃん』
確かに、間違えなくそう言った。
言ってしまったパンプは、
その一言がこれからの展開に重大なのを
この時はまだ気付いていなかった。

修ちゃんは着替えて再び現れた。
「しゅうちゃん。やっぱりしゅうちゃんよ。
ホラ、夕べも会ったじゃない、ねぇ。」
疑問が確信に変わったパンプは
親し気に修ちゃんに声をかけた。
思い掛けなく名前を呼ばれた修ちゃんは
明らかに否定出来ない表情で
パンプと我々を見返していた。
タクミはこの発言に興味を持った。
「パンプの知り合いか?何でだ。どこでだ。」
「あ、いや・・」
修ちゃんとオレが兄弟であった事。
そしてどうやらお互いがゲイである事を
知らないでいる。
この、緊張した状況を把握したパンプは
とっさに応えを濁した。
「ちゃんと言えよ。どこでだ。」
オレの顔を見たパンプは何も言えないで居た。

「昔、ある店で会って、それからだよ。」
その言葉は意外にも修ちゃんからだった。
「ほれ見ろ。パンプと知り合いだって事は
間違いなくこっちの世界の人間じゃねぇかよ。
それが勿体付け上がって、アニキだなんてよ。」
タクミは勝ち誇ったようにまくし立てた。
「いや・・」
オレは返事に困った。
でも、そんなオレに代わって
「確かに俺は耕太の兄だ。
そしてパンプとは知り合い」
修ちゃんはハッキリと応えた。

タクミに応えた言葉のはずだったが、
オレに言われたようで
どう受け取ったらよいか苦しかった。
一番驚いたのはオレだった。

『昔ある店でパンプと会った。
それはどんな店だったの?
昨夜もパンプと会った。って・・』
聞きたかった。知りたかった。
でも、オレの口からは聞けなかった。
タクミが言う
『こっちの世界の人間』の意味が
大きく立ちはだかった。

修ちゃんもゲイ・・
いや、いやいや、否定したかった。
『あ、でも・・
オレがパンプと知り合いと知った今
何か大きな戸惑いとを感じているかもしれない。』
修ちゃんの顔を見ると、
真っ直ぐにオレの顔を見て
表情から何かを探ろうとしていた。
「なんだよ、だったら『兄弟丼ぶり』かよ。
オレにとっちゃそんな事どうでもいい事なんだよ。
テメェの存在で俺はここから追い出されたんだ。
この落とし前はどうつけてくれるんだよ。」
タクミはチンカンプンな理由で怒りをぶつけた。
「タクちゃん、止めなよ。」
パンプがたしなめたが
「お前にもう用はねぇよ。邪魔すんな」
そう言って突き飛ばした。
丸いガタイのパンプは支えになるものが無く
のけぞるように転がった。
オレと修ちゃんは同時に
「おい、やめろよ」
その行動に制止を掛けた。
それが気に食わなかったのか、
もはや手が付けられないほどのタクミは
包丁を手にして、跳びかかろうと殺気立った。
「なんだテメェら二人して!」

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