悲偽

弾風京作

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思郷

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遠くから響くサイレンが近くに止まった。
それに気付いたりえは、
「あら、コ〇ナも収まったのに
この辺に救急車だなんて珍しいわ。
熱中症かなんかでやられちゃったのかしら。」
一緒にくつろいでいた恋人の正則は
『明朝ゴルフの接待で早いから』と
帰る準備をしていた。
「とか言って、興味津々って顔してるぞ。」
そうからかった。
「まぁね。」
バレたかと舌をお茶目に出したりえは
すっと窓に近付き、そっとカーテンを開けて
赤い回転灯を追った。
「あ、私もそこまで送るわ。」
野次馬根性に火が付いた。
玄関を出た正則の後を追った。

アパートを出て来たりえは
救急車が、耕太が住むアパートの前に
止まっているのに驚いた。
「あら、そんな・・」
正則はその言葉にどういう意味か尋ねた。
「ほら、今日お見合いした方の弟さんが
ここに住んで・・」
説明途中で驚きが倍になった。
救急隊員と共に出て来たのは耕太だった。
あとから修一と気弱そうな男が続いた。
修一は風呂上りのはずだが
衣類や髪の毛が乱れていた。
耕太は元気そうに見えたが、
腕を抑えているようだった。
救急車の中に入った耕太。
後で修一も乗り込んだ。

「やだ、何があったのかしら。」
この状況を把握しかねてるりえは少し狼狽えた。
「病気の感じじゃないな。兄弟喧嘩か?」
正則はそう言ったが、そんなはずはなかった。
つい先程まで仲良く一緒だったし、
耕太は兄の為にと買い物までしていた。
「あ、マー君はもう帰って、明日早いんでしょ。」
正則に気を遣い、いつものようにそう呼んで
帰りを急かした。
「あ、あぁ、りえは大丈夫か?」
「うん、とりあえず様子を見てみるわ」

時は経たず、耕太も修一も降りて来た。
救急隊員に頭を下げて礼を述べているようだった。
そして救急車は何事も無かったように
走り出して行ってしまった。
近所の野次馬達も、安堵とは言い難いため息と
少しのざわめきと共に、アッという間に解散の途となった。
二人を待っていた気弱そうな男も
何やら会話を交わして、その場を立ち去っって行った。

りえは二人に近付いて
「大丈夫?何があったの?」
そう尋ねた。驚いた耕太は
「やぁ、いやね、ちょっとふざけていたら
弾みで腕に怪我しちゃって、大した事なかったのに
友人がびっくりして119番しちゃった。」
強がりで言っているようで
その応えにりえは直感でウソだと感じた。
てっきり二人で過ごしてたのかと思ってたら
知り合いのような男まで居たのだ。
そして今の二人の様子から、
ここはあまり突っ込まない方が良い
そう判断した。
「なんだ、そうなの。
でも良かったわ、何ともなくて。
救急車なんて珍しいから驚いちゃった。
それにほら、修一さんはなんだか元気なさそうだし。」
「うん、あぁ、俺?騒ぎになっちゃったのと、
あれから耕太の友人が来て気を遣って、
ちょっと疲れちゃったからかな。」
鼻血を流したような痕と
何かぎこちない応えが確信に変わった。
「そ。それならいいけど。お大事にね。」
そう言って離れた。
「あ、力になれる事があったら連絡して。
遠慮しないで。」
言葉を添えた。

りえの背中姿を見送った後に、
オレは、修ちゃんの階段を上がる後姿を
重い気持ちで追いかけて行った。
無言のその姿に掛ける言葉は無かった。
再び二人きりになるあの部屋では
どんな展開が待っているのだろう。
『なんとなく想像が出来るその予感が
どうか間違いでありますように。』
そう願いながらドアを続いた。
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