悲偽

弾風京作

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思郷

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『耕太だ。』
店のみんながそう思った。
ビビったタクミは圭太の傍らを避けて
一目散に店を出て行った。
タクミのそんな姿を横目に
「いらっしゃい、耕太。」
てっきりそう信じているママは
疑いもなく歓迎した。
「いえ、耕太・・じゃないです。」
『耕太ではない』
そう伝えた男の顔を見返して
ルリ子ママは驚いた。
「え・・ 」
パンプを始め、カウンターで
タクミの傍若無人な行動を
眺めていた客も
一瞬ざわついた。
「あれ?耕太じゃなきゃダメかな?
招かれざる客・・って?」
おどけるようにその男は微笑んだ。
「あ、ごめんなさい。
そんな事ないわよ。大歓迎です。
あるお客様に似てたもんだから。」
ママは慌てて挨拶した。
「変な思いさせちゃったわね。
こちらの席にどうぞ。」
失礼の無いようにと、
圭太を自分に近い席に招いた。
ママはおしぼりを渡しながら
「はいどうぞ。始めまして。
ようこそ。ママのルリ子です。
お飲み物、何にするかしら」
「ありがとう。はじめまして。
じゃあビールをお願いします。」
「ハーイ」
グラスとビールを準備するママは
「ちょっと、みんなぁ。
まだ豆鉄砲食らったような顔してるわよ。」
自分の動揺は吹っ切れたのか、
そう他の客に渇を入れた。
「ねぇママ、きっとこの子よ。
みんなが耕ちゃんと間違えてるの。」
パンプが得意げに言った。
「パンプ、失礼よ。見ればわかるわよ。
ごめんなさいね、ホント。
あまりにも似てるもんだから。」
それに対して圭太は
「構いません。俺も驚きましたから。」
予想外の返事だった。
「えっ、あら、その口ぶりだと
二人はもう面識があるのかしら。」
ここに来たのは偶然じゃない。
ルリ子は感じた。

そんな会話のやりとりの中、
扉が誰かの入店を知らせ
瞬間的にみんなの視線が集中する。
と、再びざわつきの渦となった。
耕太だった。
耕太は店のいつもと異なる雰囲気に
一瞬戸惑いはしたものの、
「あ、お待たせ」
そう言って圭太の隣に座った。
「ホ~~~」
二人並んだ様子に
客達は低い声で気持ちを表した。
『異なる雰囲気はこれか。』
耕太はみんなの好奇心を
肌で感じた。
「ちょっ、やだ、ホント、
言葉を無くすってこういう事よねぇ。」
ママは見比べてため息をこぼした。


圭太から電話の返信があったのは、
耕太が初めて電話した夜であった。
『さっきは失礼。ちょっと仕事で。』
「あ、こちらこそゴメン。
休みだと思って電話掛けちゃった。」
『うん、いいんだ。大丈夫。
修一さんから番号聞いたんだね。
俺達、せっかく東京に居るんだから
会いたいし、話したくてね。』
「あ、うん。そうだね」
どうやら、プラットホームでの
修ちゃんと圭太の二人姿に
耕太が危惧する事は無いようだった。
二人はお互い都合の良い日を選択して
直接会う約束をした。
圭太は任せると言ってくれたので、
耕太の行きつけである
『観覧車』にしたのであった。

「耕ちゃん、おはよ。」
パンプが横から挨拶した。
「あ、パンプ、先日はどうも。」
「怪我の具合はどう?大丈夫?」
「うん、ありがとう。軽い打撲だから
この通り、全然平気だよ。」
「元気そうで良かったわぁ。
ボクもここは久し振りでね、
あの時の事、ママに報告したとこよ。
それに、さっきタクミ来てたのよ。
それも失礼しちゃうの。
お金貸してくれなんて頼むのよ。
絶対貸さないって言ってやったわ。
当たり前でしょう?
でね、隣のこの方が入って来たら
耕ちゃんだと思って
慌てて帰って行ったのよ。」
叩きこむように話をした。
「パンプ、お邪魔よ。」
ママに制止されたが
「わかってるわよ。ごめんなさいね。」
圭太に向かって返したが、
「ねぇ、ホントはこの方と双子なんじゃない?」
パンプは構わず誰もが感じた想像を口にした。
「いや・・・」
耕太は否定しかけたが、
「かもねぇー」
圭太は意味深に応えた。
その返事に驚いたのは耕太だった。
「かもねって・・」
「だって俺達こんなに似てんだし、
ルーツを辿れば、真実が見えてくるかも」
「真実って」
修ちゃんの見合いでりえの情報だと、
生年月日は違ってたはずである。
言葉が出ない耕太に
「まぁまぁ、今夜は再会と言う事で。
難しい事は後にして楽しもうよ。」
おしぼりを手にして、待ってたママは
「はい、耕太は何にする?」
耕太は圭太のビールを見て
「オレもまずはビールにしようかな」
「了解。それとそのお連れさん、
お名前を教えていただけるかしら。」
「あ、俺ケイタっていいます」
「ま、本名?それとも源氏名?」
「本名です」
「耕太と龍太ね・・」
ママは二人を見比べて
『パンプが言うように双子かもね』
そう確信した。
そして、パンプが言ってたシュウチャンが
耕太の義理の兄。あのシユウだったなんて。
ルリ子ママは無性にシユウに会いたくなった。

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