悲偽

弾風京作

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思郷

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何もかも諦めたかおりは、
住み込みでの居酒屋で仕事に没頭した。
やがて事情を知る女将さんの勧めで、
店に常連のお客さんと結婚する事になる。
「その時は、他の男性との結婚なんて
とても思いも寄らなかった。
でも、わたしの過去も受け入れて、
親身になって優しい人だった。
修さん達から距離を置くためにも
その流れに従ってしまったの。」
結婚と共に店を辞めて
普通の主婦としての生活を過ごした。
その二年の年月の間に、
保育士の資格を取ったかおりは
夫の転勤でいわきに居住する事になる。
そして、多くの子供達の面倒を見るべく
保育園の保母として汗を流す事となったのだ。
それは修一に出来ずにいた
母としての責任を感じての事だったのだろう。

「子供を忘れる事なんか出来ないもの。
遠く離れても頭から離れる事はなかった。」
そう顧みるかおりは修一を見た。
「そんな私が・・
そう、修一さん、あなたに再会出来たのは
既に中学生ぐらいの時だったわ。」
修一はふと思い出した。
耕太を連れて来たのはこの人だった。
それも、短い期間だったが
一緒に住んでたような記憶がある。
かおりはさっき、
『修の結婚話で身を引くことになった』
そんな話をしたばかりだが、
俺が物心付いた時には母など居なかった。
その父の相手女性はどうしたんだろう。
「修さん、結局結婚しなかったのよ。
わたしが苦しむ姿を解放してやろうと
一芝居ぶったのね。サエさんも知ってた。
みんな、わたしを思っての事だった。」
修一は小さかった耕太を思い出していた。
でも、耕太との出会いしか覚えていない。
『圭太も一緒だったはずではないか?
でも、記憶になかったのは何故だろう』
「でね・・」
かおりの続きの話を遮ったのは
「ママ・・・」
りえ達の登場だった。
「あら、まぁ。貴方達どうしたの?」
りえに圭太、それに耕太まで顔を揃えていた。

修一も、こうも運命を左右する話の時に
みんなが勢ぞろいしたのに驚いた。
『かおりが言うように、
オヤジが機会を作っている?』

「わたしがお見合いをした話をしてから
ママの様子がおかしかったし、
郡山に行くなんて言うもんだから、
行動をチェックしてたのよ。
修一さんを知ってるようだったし、
アニキにそっくりな耕太さんをもね。」
かおりに歩み寄ったりえはそう応えた。
「そっか」
そのそっけない返事と表情に、
『かおりはりえに興味を持たせ、
こういう展開を想定してたのではないだろうか。』
修一はそう思った。
「修一さん、ご無沙汰しております。
あの時はいろいろとお世話になりました。
皆で押しかけて来ちゃいました。
お邪魔でしたらごめんなさい。
母がご迷惑かけてないかしら。」
りえはそう挨拶した。
「あ、いえ・・・
こちらこそご無沙汰しております。
皆んなが突然こうしていらして
驚いていますが・・」
『りえも自分の妹なのかもしれない。』
その思いが、見合いの時と違う接近に
ぎこちない挨拶で緊張が汗となった。
圭太も傍らで視線を向けて目で挨拶をした。
「ところで、ここだとよくご存知でしたね。」
「店に行ったら、玄関の所にサエさんが居て
ここだって教えてくれて」
りえに代わって応えた耕太の声に
かおりの視線がその方向に向けられた。

「耕太さん・・ですね。」
圭太と交互に見比べるかおりの顔が
少し崩れたように見えた。
「まぁ、大きくなって。
ホント、圭太と瓜二つね。
立派になられて・・ 」
しみじみと漏らす言葉は
深いため息を誘った。
時間の流れを重く受け止めたのだろう。

「修一さん、あなたが耕太さんの面倒を・・。
ですわよね。
ありがとうございました。」
修一に頭を下げ、再び耕太に向き合った。
「耕太さん、わたくしりえと圭太の母で
かおりと申します。」
他人行儀な挨拶だと感じたりえは、
「ママ、耕太さんはアニキと兄弟じゃないの?」
答えを急いてストレートに質問した。
「うん、まぁ・・ でも」
「だったら、ママは耕太さんにとっても母親で、
わたしにとってはアニキなわけじゃない?」
言葉を濁すかおりに詰め寄った。
「はいはい、ちゃんと説明しますから。」
矢継ぎ早に質問を重ねるりえに
かおりはどこからどう説明すれば良いか
迷っているようだった。

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