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思郷
しおりを挟む「あの、話が複雑そうですし、
ちゃんと伺いたいので、どうでしょう、
もし宜しかったら場所を変えるのは」
修一はそれぞれの出生の事が
明るみになるであろう今後のかおりの話に、
みんなが真面目に向き合うべきだと考えた。
自分はもうかなりの打撃を受けていて、
身体を支えている感覚すら危うかった。
「そうですわね。こんなに賑やかになってしまって
お墓の修さんもさぞかし驚いているに違いないわ。」
「では、わたしの店ではいかがでしょう。
何のお構いも出来ませんが」
そう提案した修一は頭の中を整理するための、
冷静になれる場所が欲しかった。
自分がかおりと修の子供だと知らされた。
耕太と圭太は?りえは?
その関係性が読めないでいた。
耕太は初めてかおりと対面をして
彼女の挨拶に頭を下げる事しかできなかった。
『この人が圭太とりえの母親。
そして、自分の母親であるかもしれない・・』
その緊張と、まだ真実が明らかになっていない今、
どう挨拶したら良いのか行動に移せなかったのだ。
修ちゃんを見ると冷静そうで安心したが、
かおりとのやりとりがぎこちなく思えた。
オレ達が来る前にはどんなやりとりがあったのだろう。
「あ、ちょっと待って」
耕太は、今みんながここを離れるのを
留まってもらった。
「花も線香も用意してないけど、
せっかくここまで来たから。」
久し振りに墓を訪れたので
父が眠る墓石の前に近付いた。
修一が線香に火を点して渡してくれた。
それを供えて手を合わせた。
「ご先祖様・・か」
りえは、お墓参りには無縁だった。
「りえ、それに圭太、あなたもこっち来て
手を合わせて行きなさい。」
「誰のご先祖様?」
「いいから」
もう一度墓に手を合わせたかおりは
「さ、それじゃここをおいとましましょう。」
先頭を切ってここを後にした。
もう店の場所を熟知してるような母に
りえは寄り添うように並んで歩いた。
その後を圭太が、そして修一と耕太が続いた。
店で一息ついたかおりは、
「ここのラーメン凄く美味しいのよ。」
もう既にここへは客として訪れた事を
さりげなく子供達に伝えた。
修一は厨房で飲み物を用意していた。
りえが『手伝う』との申し入れを
「大丈夫だよ。」と丁寧に断った。
かおりは、修一が自分の出生の事は
二度も聞きたくはないだろう。と
厨房に居る間に、彼に話した内容を
掻い摘んで三人に話した。
「修一さんがママの子供?」
りえの驚きは耕太達も同様であった。
ここででも冷静に振舞っていた圭太さえも
「こりゃ一本取られたなぁ。
昔から破天荒な事しでかしてる」
そう表現して厨房の修一を見た。
耕太もかおりと修一の顔を見比べて
共通して似ている所を無意識に探った。
突然の告白が驚きを隠せなかった。
「耕太さんが兄だとういうのは、
アニキとそっくりだったから
なんとなく受け入れられるけど、
修一さんまでもがママの子供だなんて。」
「だとすると、りえは兄さんと
お見合いしちゃったって訳か」
側で圭太が茶化すような言い方をした。
「やめてよ。そんな事だって知らなかったんだし、
修一さんだって知らずにそうなったんでしょ?」
修一はお茶を配りながら、
りえの質問に微笑み返しただけだった。
「そんな事より、それじゃ、
この四人は全員兄弟って事じゃない。
何で離れ離れで生活しなきゃならなかったのよ」
『全員が兄弟・・』
修ちゃんまでもがかおりさんの子供だった。
それは、オレとは兄弟であるという事に
なんら変化はなかった。
『え、実の兄弟なのか?』
『お母さんにはいろんな事情があってね・・』
オレの母親はサエおばさんから
そう聞いていた。
『それはかおりさんなのか。
いや、オレがこの家に来た時は・・』
来た時・・
『そうだ、オレは始めはここに居たんじゃない。
確か連れて来られたんだ。
誰にどうやって?このかおりという女性にか?
だとしたら、修は父親なのか?』
圭太とオレ、りえとオレ、そして、修ちゃんとオレ。
自分は何者なのか、頭の中の疑問が耕太を悩ませた。
「だから、ちゃんと話すから、説明するから。
それからの事は、まだ修一さんにも話してないの。
修一さん、手が空いたらこちらへお願いします。」
修一も加わったところでかおりは話を続けた。
「えっと。修(おさむ)さんを諦めて、
他の男性と縁があって結婚したわたしは、
その方の転勤先の街に住み始めた。
そこまでは話したわよね。
主人となった方は優しい人だったけど、
その方との間に子宝には恵まれなかったの。」
子供を忘れられないでいたかおりは
保母の資格を活かして保育園で働き始めた。
子供達の面倒を見るのは本当に楽しかった。
が、それ以上に子育ての難しさを知った。
だからこそ、我が子が居るのに
この手で成長を見守れない悔しさに
何度も自分の運命を呪った。
「自分の子供を見守るのが母の特権であるのに・・」
当時を振り返るかおりは話するのは辛そうであった。
「ある日、保育園に子供を預けてくれてる夫婦が
『親戚が海開きで出店するので出掛けて来たい。
手伝いで2時間程面倒をお願いしたい。』
そう頼まれて快く引き受けたの。
休園日で暇を持て余していたし
慣れ親しんでいた子供達だったので、
笑顔をくれるその姿に、わたしは張り切った。
とてもお天気が良かったのを覚えてる。
主人もその日は休みだったので
『それなら人手があった方が良いでしょう。』
そう言って一緒に出掛けて行った。
でも、しばらくして経験のない大きな揺れに、
近所中も大騒ぎで、わたしもパニックに陥った。」
あの東北沿岸大震災が発生した日だった。
修一はその日を覚えていた。
揺れの影響はここまでも及んでいた。
屋根の瓦が落ちたり、サッシにヒビが入ったり、
家の中も大きく様変わりしたものだった。
当時映し出された報道の映像では
津波による猛威と威力に為す術がなかった。
実際にこんな事があるのだろうかと恐怖に感じた。
「わたし達が住んでた家は
海から離れた場所にあったから、
急いで子供達を車に乗せて
どうにか避難が出来たけど、
海岸沿いに居た夫たちは
この事態に対応が出来たのだろうか。
そう心配してた。
案の定、海岸では津波で逃げ場も無く
大災難になってしまった。
わたし達は避難所には二週間近くも
お世話になるはめになった。
子供達のご両親と主人の無事を信じて、
家の往復を何回もした。
でも、結局主人は帰った様子もなく、
音沙汰もなく時間が過ぎてしまった・・
諦めきれないわたしだったけど、
幼い子供二人を抱えた現状を、
どうにか生きなくてはと必死だった。
でも、通常の生活とは違った環境では
わたし一人では無理だった。
そう、その子供達が双子の貴方達、
圭太と耕太さん。」
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