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思郷
しおりを挟む仕込みを終えた修一と耕太は
今晩の酒のアテもこしらえ、
それぞれにシャワーを浴びて食卓に着いた。
お互いにビールを継ぎ合って喉を潤した。
「何かビックリだったな。」
怒涛の時間が流れ過ぎたのを、
修一は今も信じられない様子だった。
架空の出来事だったと言っても
不思議ではなかったかもしれない。
ようやく、近くに居てくれる耕太の顔が
疲れを安らぎへと誘ってくれるのを、
修一は酔いと共に堪能していた。
「修ちゃん、突然女性が現れて、
母親だって名乗られるって、どんな感じ?」
ほろ酔いかげんになった耕太が聞いた。
ちょっと考えて修一は耕太を見た。
「今更母親だと言われても・・・な。
あの人は応えを求めて来たんじゃない。
俺達に真実を伝えたかっただけなんだ。
ただ俺は、両親が周りの反対にあっても、
愛情によって産まれて来たと知ったし、
必死に子供を守ろうとした過程を聞いて
ありがたく嬉しく思うよ。
ま、実の妹の存在は変な感覚だけどな。」
「修ちゃんとオレは、
結局『他人』だったんだね・・」
「やめろ、そういう言い方するのは。
昔から俺と耕太はここで育った『兄弟』だ。
俺達は間違いなく『兄弟』だ。だろ?」
「あ、いや、他人というのを
ネガティブに考えてるわけじゃないんだよ。
圭太という本当の兄弟が居た。
そして何年も兄弟として育って来た兄とは、
今更血の繋がりが無いと言われたから、
血の繋がりがいまさらオレ達に
何の関係があるんだろうって。
ま、いろいろあったけど、
修ちゃんは昔からオレのアニキ。
アニキの修ちゃんだもの。」
修一の『やめろ』の強さが予想外だったので、
言い訳がましくなった。
「だろ?それでいいんだよ。俺達は今までも、
そしてこれからもずっと兄弟なんだよ。」
「兄弟・・」
耕太は、それでもそれを越える
自分の気持ちを伝えたかった。
「でもね、血の繋がりが無いのを知って、
オレ、だったら修ちゃんをひとりの男として
兄以上の気持ちで関係を築いちゃダメかな。
前にも言ったけど、修ちゃんの事好きなんだ。
それではダメかな。
いや、修ちゃんは今のままでいいんだ。
お互いに恋愛の対象が男だからって、
オレをそう見てくれなくても・・」
「あの時・・」
修一は忘れていなかった。
あれはりえと見合いをした日。
耕太の部屋に世話になった時。
自分の気持ちが耕太にあったのに
ちゃんと伝えなかった。
長く後悔してた事を、今、
素直になればいいことだ。
耕太もこう真正面から自分の気持ちを
素直に打ち明けてくれている。
「耕太・・・
嬉しいよ、耕太の気持ち。
俺は、俺はそれ以上に
昔からお前の事が好きだった。
愛おしく思ってたんだ。」
そう言うと、おもむろに耕太に近寄り
その身体を抱きしめた。
「俺はかおりさんに感謝してるよ。
俺が誰の子かって問題より、
耕太をこれ以上に、今まで以上に、
愛してもいいんだって知らされたんだ。
弟としても男としても愛したい。」
耕太はその修一の行動と言葉に、
応えるべく腕に力を入れた。
「いつかはこうなっていたのかな。
無駄に遠回りして来たんじゃないのかなぁ。」
「仕方ないさ。兄弟として生きて来たんだ。
かおりさんの告白がきっかけになったけど、
多くの人間と接触して、世間というものを知って、
そこには喜びも悲しみも寂しさも苦しみも・・
それを体験出来たから、経験して来たから
お互いを受け入れられた。そうだろ?
違うかい?」
「オレなんか、まだまだ世間を知らない。」
「それ、それだよ。これからは俺と一緒に
またいろいろと学んでいこう。育んでいくんだよ。」
「オレなんか、修ちゃんのためになるのかなぁ。」
「居てくれるだけでイイさ。」
「近くに居なくても?」
「あぁ、想ってくれる愛しいヤツが居る。
そう自信をもって生きられれば
東京に居ようが、世界のどこに居ようが
頑張って生きていける。」
「オレはそんなに強くないからなぁ。」
「いつでも耕太を受け入れられるから、
何かあったらいつでも戻って来い。」
「修ちゃんは強いなぁ。」
「いや、そんな事ない。
俺はひとりで生きて行くと決めて生活して来たから、
それを続ければいいはずだった。
誰かを好きにならなくても平気だったんだ。
けど、愛せるヤツがこうして存在すると、
愛おしい気持ちに寂しさを生むのを知った。」
「修ちゃん・・」
「耕太が傍に居ないのは寂しいもんだ。
でも、今はそれ以上に愛せてる自信が勝ってる。
俺の事は心配するな。」
そんな言葉に、耕太はここに戻って来よう。
戻って修一を手伝って生活しよう。
その時既にそう決心していた。
二人が一つに燃えて迎えた朝の、
修一と耕太だった。
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