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最終話 呪詛と祝福。破壊と創世。
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影が鮮やかに緑や青で染められたフィドヘルの景色を包んでいく。
平和を祈り種族を超えた願いで創られたガラスと大理石の白銀城はすでにない。
中央広場の噴水も影の中に沈んでいる。僕がギフトという力を知った場所は黒に染められた。
行かなければならない。幕を降ろさなければならない。
この世界で出会ったすべての存在と僕が最期に出会うために。
影で仕立て上げられたローブを纏い、空に広がる夜よりもずっと深い黒を収束させて自らの肉体を包む。
僕は黒く平坦に染まった大地に降り立ち足を進める。転生者たちで賑わった往来もない。獣たちを始めとする人ならざる存在を、敵とした創られた偽りの平和もない。
歩む先にはきっとリリィがいる。濃い赤色と黒で彩られた小柄な彼女を魔女たらしめるローブと、三角帽子を揺らして、杖の切っ先を僕へと向けるのだろう。
種族を超えた絆で僕を打ち倒しにくるのだ。
空が広く見えた。街を包む巨大な岩壁も砕いてしまったから、闇を解いて自身の力としたからか、青空は遠くまで広がっている。気持ちのよい青空だった。
これではいけない。闇が必要だ。打ち払うための勇気を僕以外の存在へと与えるために。
僕は黒く影で包まれた右手を頭上へ上げる。足元からほとばしる黒が空を包んだ。
中央で一度留まり円形に広く逬《ほとばし》る。
再び黒が世界を夜へと染めていく。
僕は足を進める。ゆっくりと。みんなで過ごした山城に向かって。体の中から頭へと、黒の女神の引きつった笑い声が響く。
「白の女神はもういない。ゆえに妾の力に際限はない。世界を黒くどこまでも染めることができる。お主と一緒ならなぁ。望むがままだ」
そうだな。と答えると黒の女神はさらに笑い声を高く響かせる。影は僕の石と共に伸びている。影を通して地響きが伝わってきた。
意識は鋭くこの世の果てまで視界が広がっていく。影の先端はもう山城へと近付いていく。数々の集落を飲み込み、集落にはもちろん誰もいない。
全員、うまくやってくれたみたいな。気のいい人虎や人馬、そして精霊たち。
僕を少しの間でも信じてくれた。きっと今では憎んでいるだろう。
呪っているだろう。女神の盤上でしかない世界を、僕を呪っている。
それでいい。世界の変革を願う祝福が呪詛を打ち払い真の平和をもたらすのだ。
リリィの理想郷もまたもたらされる。
山城の方向から地響きが伝わってくる。声も、想いも伝わってくる。
リリィの言葉も、転生者たちへ語られた願いもすべて聞こえた。
強くなった。ずっと強かったのだろう。たったひとりで死に続け、生き、リリィによって紡がれた世界がひとつの色で染められつつある。
多くの色彩が混ざり合い、互いの色を引き立て合う美しい色で闇を払っていた。
僕の物語に名を冠するならば・・・。と考えて首を振る。
僕には物語を紡ぐ資格はない。生きとし生ける存在に許された、それぞれの物語の最終幕に訪れる闇と呪い。
それが僕だ。僕である。女神の呪詛を受け受肉した僕であるのだ。悪寒はすでに体の一部である。黒の女神が耳元で囁き続けている。
「英雄になれただろう。平定をもたらした勇者として。祝福とギフトで人ならざる存在、魔族を苦しめる白の女神を打ち倒す。多くの転生者たちを支配する騎士長と付き従う魔法使いをも打ち倒した。それでは満足しなかったか? 自己を承認するには足りないか? 傲慢だなぁ」
「平定なんて訪れるわけがないだろう。白の女神の支配から、黒の女神に移るだけだ。神々に創られた世界であるのならば、女神を打ち倒さなければならない。何度も話しただろう? 納得はできないか?」
「・・・お主はやはり妾の呪詛に足りる存在だ。世界の平和を己を犠牲にしてまで望む呪われた騎士。自己犠牲の精神で尊く・・・嘘だな。お主は初めから妾を打ち倒す。いや打ち倒させるつもりだったのだろう? リリィを守りたかった。妾の呪詛が同じく注がれ、受肉の機会を虎視眈々と狙う妾から。世界の敵になったとしても、守りたかった。詭弁で約束を違えて恨まれても、守りたかった。黒魔女の世界を壊し、創成し、神を恐れぬ所業で、願われた理想郷を世界に創り出そうとしておるのだろう? リリィだけのために」
悪寒と共に耳元で囁かれる黒の女神の言葉に、僕は返せない。呪詛は僕だけに注がれているわけではない。リリィにも緩やかに注がれている。
今までは戦いを望まなかった。無力感に苛まれても逃げるだけで、相手を打ち倒そうとする力を望まなかった。自らの力で世界を変えようともしなかった。
白の女神を打ち倒すために、世界を変えるために呪詛はリリィにも注がれているはずなのだ。
決戦の最中にも、見えなかったはずの事象の改変が、目に見えるほどに力を増しているのを感じた。悪い予感ほど当たる。それが僕の人生であるから。
「黒の女神の受肉は白の女神とは違う、人に歩み寄り呪い、飲み込まれた先で更なる力を望んだ時に受肉する」
「話しただろう? 妾は人が嫌いだ。争いを望み、平和を望みながら剣や杖を突き立て合う。妾の子とも言える人ならざる黒の存在や、リリィを傷つける。原初の転生者たちすら、自らの死をもっても傷付けた。それゆえ歩み寄る必要がある。歩み寄り、呪詛を吐き、心から妾を望んだ時に受肉する。一方的に与えられる祝福とは違うのだ。そのものが違う」
地響きが音を増す。精霊たちの祝福に包まれた獣の雄叫びと、人の叫びが合わさりこだまする。大気が揺れて見えるほどの音で影が震えた。
「あぁ。白の女神の祝福は自分や世界を愛するものに与えられる。一方的に神々の気まぐれで。才能と言い換えてもいいだろう。しかし黒の女神の呪詛は自分を呪い、世界を恨み・・・そして世界と自分からも恨まれることで完成するのだろう? 世界を黒で染め上げ、真の呪われた存在になるはずだ。祝福の白を呪詛の黒で染めいる存在となる。今の僕は完全か?」
「いやまだ不完全だ。まだお前を信じている者がいる。白の女神から祝福を受け、手を取り合う者たちはお主を信じている。妾の体のほとんどがお主と溶け合い、混ざっているがまだ一雫足りない。まだ足りない。お主と妾が望む世界にはまだ足りないのだ」
そうか。と僕はエルフの白銀とドワーフによって鍛え上げられた白銀の剣を、闇のローブから引き抜き黒へ染める。力を蓄え続ける。
リリィが人の敵となることを望んだ時も同じような気持ちだったのだろうか。
呪詛よりもずっと強い願いだっただろう。平和を望む希望に溢れた呪い。
現世をどれほど呪っても、フィドヘルの世界は愛していたのだ。だから元素も彼女に力を貸した。
そして祝福を受けた転生者たちもリリィに力を貸している。白と黒をも紡いでしまいひとつの色に染め上げている。
一雫だけ足りないのだ。まだ僕を信じているのだろうから。信じる心が僕への呪いへと変わった時に、やっと幕が降りる。リリィの世界の幕が開く。
「リリィにもまだ黒の女神が与えた力はあるのだろう?」
「もちろんだ。注がれた呪詛は消えない。妾がいる限りは消えない」
そうか。と僕は空へと跳ね、剣とローブを広げて眼下を見据える。
これでさようならだ。せめて僕を呪い続けてくれと願いを込めて、剣に力を込めた。地響きが音を増し、僕を打ち倒さんとする使者たちの足音はすぐそこにある。
視界に浮かぶのは人馬たちで組織された騎馬隊であった。両方の前足を地面に付け、甲冑に身を包んだまま四列となっている。
背中に大斧を携えたドワーフたちが乗っていた。先頭を走るのはマルスと背に乗るシュミットであった。
真面目で優しく、僕を信じてくれたマルス、そして僕のことを信じて剣を作り上げてくれたドワーフのシュミット。肩を並べて戦ってくれた。
かつて夢見た理想郷で。
マルスが身を屈めて速度を増し、影の先端に到達すると方向を変え影に沿うように走る。
後方から続く人馬とドワーフたちも、左右に別れて影に沿って走った。シュミットは腕が盛り上がるほどの力を込めて、大斧を振るう。他のドワーフたちも呼吸を合わせ、駆ける人馬の勢いを乗せ、大斧は地面から振り上げられた。
地表が地響きを立ててめくれ上がり、岩の津波となった地面が影を剥ぐ。岩の津波は歩み進める僕の眼前へと捲れ上がった。
空よりリューゲルたち有翼の種族たちが山城より速度を増して飛来する。
僕の放つ薔薇の先端を旋回しつつ避けながらはるか上空へと舞い上がった。
飛び降りたふたりの白騎士が岩の津波へ飛び乗る。そして僕の眼前で落ちた岩の津波は地面で砕けた。弾ける岩の隙間を縫って、跳ね上げられた岩を足場に白騎士が駆ける。
「よぉよぉ! タカハシ! 人の体はどこに忘れちまったのかなぁ?」
男は肩に構えた半月刀を振り上げる。魔剣を持つコーレス。魔法すらも切り裂く歪な形の刀を振り上げ、僕を両断しようと振り下ろす。
僕は下ろした右手を振り上げ、液体を滴らせる黒剣が影から生まれ出た。振り下ろされる身の丈ほどに膨れ上がった魔剣を黒剣で受け止め、跳ね飛ばされたコーレスが反転し、地に足を着け力を込めたまま僕に向かって再び跳ぶ。
コーレスが僕に届くタイミングに合わせて、もうひとりの白騎士が眼前に現れた。
細く光る金髪と、わずかに濡れた青い瞳が影の中でよく映える。
ロゼと最初に出会ってよかった。転生者たちの収める白い街で、都市とも呼べる広大な場所で、僕にフィドヘルという世界と魔女について教えてくれた。
僕はフィドヘルの、女神の盤上たる世界の愚かなルールを知った。
それでも悲しく後悔する素直なロゼに出会えたから、世界を変えることができると願えたのだ。
白騎士たちに打ち勝てると思ったのだ。左手から影が溢れさせる。右手に持つ白銀だった剣を模した黒剣を左手へ生み出した。
正面から胴体を薙ごうとする魔剣を受け止め、飛来し同時に切りつけるロゼの剣を右手の黒剣で払う。逆手に持つ左の黒剣では振り抜く魔剣の勢いは殺せない。
剣の勢いに乗せて刃先を視点に反転する。返す刀で魔剣を振り上げるコーレスへロゼを払った右の黒剣を勢いに任せて振った。
すかさずにロゼが影の湖面を駆けてくる。逆手に持った左の黒剣を持ち直しロゼの剣を受け止めた。
「どうしたのタカハシ! ちゃんと話してよ! 私たちは一緒に白の女神を倒したの。狩猟祭を終わらせて黒い魔女を解き放った。これらから一緒にみんなで生きていけるの! やっとみんなで生きていけるの!」
詭弁だ。そんなことでは終わらない。憎しみも悲しみも。人や獣の都合のよい願いへ合わせてはくれない。
両方の黒剣を跳ね上げるとふたりは体勢を崩す。しかしふたりはすぐに立ち直り剣を振るう。
僕は円を描きながら回り、ロゼの剣とコーレスの魔剣を受け止める。交互に黒剣を持ち替えて時には躱し、幾度も鈍い金属同士の弾ける音が耳元で鳴り続ける。
コーレスは後ろに跳んで、ロゼが剣を正面から振るう。振り下ろされる剣を払い、返す刀で切り上げる剣を避ける。逆手に持ち直した片方の黒剣を振り上げるとロゼは右足を上げた。脚甲の底で剣を受け、身を翻して後ろへ飛ぶ。
正面に向き直ると、魔剣を腰に構えたコーレスがいた。身を屈めて魔剣を地面に突き立て刀身が消える。いや、消えてはいない、地面を切り進み、僕の股下から伸びた魔剣の切っ先が見えた。両手の剣を十字に構えて受けるも、勢いに押されて宙へ跳ね飛ばされる。
跳び上がり追撃を加えようとするロゼを打ち落とし、僕は空を蹴りコーレスの眼前へと降り立つ。
刀身を肥大化させ振り抜いたコーレスの上体は崩れている。左足を軸とし回転しながらコーレスの脚を払い、右足へと軸を移して蹴り上げる。コーレスは魔剣と共に空へと消えた。リューゲルだろうか。コーレスを受け取り山城の方角へ消えていく。
「本当に・・・黒の女神になっちゃったんだね」
歩み寄るロゼの剣は激しく逆巻き燃えていた。ロゼの先に見える景色が揺らぐほど、影を焼きながらロゼは歩む。
「あんなに優しかったのに。一緒に人虎の村に行った時も私をかばってくれた。傷付きながら黒魔女ちゃんも助けてくれた。なのに・・・それもあなたの作戦だったの!?」
ロゼはもう僕の名前を呼ばない。きっとそれが正しいのだろう。失われるべきなのだ。打ち倒されて死した時に盤上の世界から名は失われる。
幾許かの思い出を残して。僕はきっと思い出すら残らないだろう。
忌むべき歴史としてやがて消える。
それでいい。リリィが幸せであるならば。僕が女神の傀儡であったとしても。
ロゼは諦めたように首を一度横に振る。炎は舞い上がりロゼの体を包み、視界を覆う赤黒い壁となる。炎に巻き上げられた金色の髪が舞った。
「なら私が終わらせてあげる」
ロゼの剣に炎が纏う。剣から巻き起こる爆炎はロゼを焼きつつ昂り続け、炎に触れた影が散る。
怒りが炎に形を変えて大気を焦がす。
ロゼに残されたわずかばかりの葛藤を燃え尽くしてしまうほどの熱量と心で。
「其に刻まれた惨禍の残穢。久遠の系譜を汝に刻め! 我が炎帝なる大剣の頌歌を以って! 大皇剣!! スカーレット・メイデン!」
ロゼは緩やかに燃え盛る剣を真横に振るう。あたりを包んでいたはずの炎が消えた。黒く染められている足元が赤い。頭上を見ると太陽のように燃え盛る円球がゆっくりと高度を下げていく。
僕は両方の黒剣を合わせ、ひとつの大剣とする。影を焼くほどの炎。影を消し世界を祝福で包むほどの太陽の光。
これは白銀城では使えないな。自分の体も焼いてしまうから。ロゼも焼かれ続けているから。
でも僕の体を焼くには足りない。まだ足りない。
両手で握る黒の大剣で空を覆う火球へ振り上げる。剣先へ地表から影が吸い寄せられて、影は火球をすっぽり覆う。覆われた太陽は黒で染められ影へ呑み込まれた。
唇だけが乾いている。
ロザは剣を置いて膝を着いた。再び振り上げられた黒の大剣に向けて、両手を広げている。僕を剣ごと受け止めようとするかのように。
口を一文字に結び、目はまっすぐと僕を見ていた。
それでも・・・まだ足りない。
「諦めんじゃねぇって!」
「俺さまたちがいるだろう!?」
ドレークたちの声がした。この世界でも忌むべき存在とされるゴブリンたち。でも気のよい彼、いや彼らがいたから街の人に怪我ひとつなかった。僕を勇気付けてくれた。
ドレークたちは人虎の長、フェルトの背に乗り、片方のドレークがロゼを抱え、もう片方のドレークが銀色の鉄球を僕へ投げる。鉄球は眼前で弾け鉄片が頬に当たって落ちた。
あぁ。リリィだ。リリィの魔法が中にある。弾けた鉄球の中には、篝火がまだ留まり続け、やがて縮まり消えた。魔法を解いてしまったのだ。悲しい。
シュバルツは元気だろか。怪我をしていたが、頑強な人虎の体なら大丈夫だろう。娘とも再会できただろうか。
横並びになった人虎の群れが見え、次々と鉄の水球を投げ込んだ。弾け、地面を裂き、影が崩れる。僕の力は影の広さに比例しているらしい。影が傷付くたびに痛みを感じた。鋭く身を裂かれ、流れ落ちるのは血ではなく影だ。
人虎たちの前にある地面がせり上がり、天へと届く土人形がゆっくりと姿を現す。
なだらかな曲線で人の体を模し、鈍い鉄色をした甲冑と巨大な片刃の剣が形成されていく。離れているのに影を通じて声が聞こえる。
がらんどうの体内で、響き続けた。
「おっさん! 気張りや! ウチも頑張ってんやから」
「だから、おっさんに無茶させんなって・・・」
かつてセオと共にリリィの小屋を焼いたセルティとガラードが並び、地面へ手を当てている。
後ろには街の人たちがいた。ふたりに手を当て、力を貸しているようだ。
山城では人や獣、妖たちの子供が、エルフたちに守られるように互いに手を握っていた。
魔族と呼ばれる者たちの居場所で、かつて夢見た理想郷が紡がれていく。
グリスワークとエリスが両手をかかげている。後ろには多くの精霊たちが同じ仕草で空へと力を注ぐ。生命の光によく似た、光の泡沫が世界を包み込んでいった。
癒しの力だ。これで癒やされるだろう。みんなの傷付いた体が。
そして力を増して僕を倒そうと、立ち上がる。転生者らしく。勇者そのものの出立で。
あぁ。なんと世界は平和だろうか。
七つの強大な土塊で作られた巨人は切っ先を天高く伸ばす。中央にはひときわ巨大な巨人がいて、頭上でスタンリーがマントを翻した。
僕は影を引き連れて空を駆ける。スタンリーが右手を伸ばし、薄緑色のディスプレイが眼前を包むほどに展開した。
「さぁ救済の巨人たちよ。多くの転生者の力で作られた土塊の王よ! 我が付与のギフトにて指令を与える。多くの祝福と命で重なり合う聖なる光で悪を・・・闇を消し去れ!」
土塊の巨人に蔦が巻き付き鮮やかなツツジにも似た花が咲き乱れる。大地が命を育み、生命の力が剣先に集まっていく。聖なる命が紡ぐ力。光は肥大し放たれる。円柱状に伸びる命の光だ。
暖かいなぁ。温度を失った僕でも身を焦がす温もりだけは感じた。
黒の大剣は腰に構えて、右足を一歩前に踏み出す。ただ、まだ足りないのだ。
横薙ぎに振るった大剣は大気を、時間さえ切り裂く。時間すらも超える速度で放たれて黒い剣線は、七色の衝撃波を纏う。横薙ぎに放たれた黒が世界の果てまで届くほどに広がり、巨人を裂いた。
まばたきほどの間を置いて黒色の剣閃が消えると共に、七つの巨人は胴から別れて崩れていく。
僕の胸元は弾かれた光弾によって裂かれ、おびただしい量の影が地表へ流れ出た。
命を、もうちょっとで受肉した肉体を失うには足りる。世界から呪われるほどに足りた。
ようやく足りた。手足の力が抜け悪寒で染められていく。
これで僕は世界からも呪われた。後は打ち倒されるだけだ。
満たされた闇を収束し、大剣で振るう。翻る黒いローブか闇が迸る。生きとし生ける者たちの力で創られ、僕へと向けられ何度も産まれ出てくる巨人を砕く。
女神の受肉で盤面の終焉がようやく訪れる。
四肢から温度が抜けていく。おびただしく流れいくは地なのか、僕の中にある闇なのかはもうわからない。
もうすぐリリィが、僕のもとへと訪れる。最終幕の帳を降ろすために。
訪れ、受肉した僕を打ち倒して、ようやく呪われたリリィの世界が壊せるのだ。
影が鮮やかに緑や青で染められたフィドヘルの景色を包んでいく。
平和を祈り種族を超えた願いで創られたガラスと大理石の白銀城はすでにない。
中央広場の噴水も影の中に沈んでいる。僕がギフトという力を知った場所は黒に染められた。
行かなければならない。幕を降ろさなければならない。
この世界で出会ったすべての存在と僕が最期に出会うために。
影で仕立て上げられたローブを纏い、空に広がる夜よりもずっと深い黒を収束させて自らの肉体を包む。
僕は黒く平坦に染まった大地に降り立ち足を進める。転生者たちで賑わった往来もない。獣たちを始めとする人ならざる存在を、敵とした創られた偽りの平和もない。
歩む先にはきっとリリィがいる。濃い赤色と黒で彩られた小柄な彼女を魔女たらしめるローブと、三角帽子を揺らして、杖の切っ先を僕へと向けるのだろう。
種族を超えた絆で僕を打ち倒しにくるのだ。
空が広く見えた。街を包む巨大な岩壁も砕いてしまったから、闇を解いて自身の力としたからか、青空は遠くまで広がっている。気持ちのよい青空だった。
これではいけない。闇が必要だ。打ち払うための勇気を僕以外の存在へと与えるために。
僕は黒く影で包まれた右手を頭上へ上げる。足元からほとばしる黒が空を包んだ。
中央で一度留まり円形に広く逬《ほとばし》る。
再び黒が世界を夜へと染めていく。
僕は足を進める。ゆっくりと。みんなで過ごした山城に向かって。体の中から頭へと、黒の女神の引きつった笑い声が響く。
「白の女神はもういない。ゆえに妾の力に際限はない。世界を黒くどこまでも染めることができる。お主と一緒ならなぁ。望むがままだ」
そうだな。と答えると黒の女神はさらに笑い声を高く響かせる。影は僕の石と共に伸びている。影を通して地響きが伝わってきた。
意識は鋭くこの世の果てまで視界が広がっていく。影の先端はもう山城へと近付いていく。数々の集落を飲み込み、集落にはもちろん誰もいない。
全員、うまくやってくれたみたいな。気のいい人虎や人馬、そして精霊たち。
僕を少しの間でも信じてくれた。きっと今では憎んでいるだろう。
呪っているだろう。女神の盤上でしかない世界を、僕を呪っている。
それでいい。世界の変革を願う祝福が呪詛を打ち払い真の平和をもたらすのだ。
リリィの理想郷もまたもたらされる。
山城の方向から地響きが伝わってくる。声も、想いも伝わってくる。
リリィの言葉も、転生者たちへ語られた願いもすべて聞こえた。
強くなった。ずっと強かったのだろう。たったひとりで死に続け、生き、リリィによって紡がれた世界がひとつの色で染められつつある。
多くの色彩が混ざり合い、互いの色を引き立て合う美しい色で闇を払っていた。
僕の物語に名を冠するならば・・・。と考えて首を振る。
僕には物語を紡ぐ資格はない。生きとし生ける存在に許された、それぞれの物語の最終幕に訪れる闇と呪い。
それが僕だ。僕である。女神の呪詛を受け受肉した僕であるのだ。悪寒はすでに体の一部である。黒の女神が耳元で囁き続けている。
「英雄になれただろう。平定をもたらした勇者として。祝福とギフトで人ならざる存在、魔族を苦しめる白の女神を打ち倒す。多くの転生者たちを支配する騎士長と付き従う魔法使いをも打ち倒した。それでは満足しなかったか? 自己を承認するには足りないか? 傲慢だなぁ」
「平定なんて訪れるわけがないだろう。白の女神の支配から、黒の女神に移るだけだ。神々に創られた世界であるのならば、女神を打ち倒さなければならない。何度も話しただろう? 納得はできないか?」
「・・・お主はやはり妾の呪詛に足りる存在だ。世界の平和を己を犠牲にしてまで望む呪われた騎士。自己犠牲の精神で尊く・・・嘘だな。お主は初めから妾を打ち倒す。いや打ち倒させるつもりだったのだろう? リリィを守りたかった。妾の呪詛が同じく注がれ、受肉の機会を虎視眈々と狙う妾から。世界の敵になったとしても、守りたかった。詭弁で約束を違えて恨まれても、守りたかった。黒魔女の世界を壊し、創成し、神を恐れぬ所業で、願われた理想郷を世界に創り出そうとしておるのだろう? リリィだけのために」
悪寒と共に耳元で囁かれる黒の女神の言葉に、僕は返せない。呪詛は僕だけに注がれているわけではない。リリィにも緩やかに注がれている。
今までは戦いを望まなかった。無力感に苛まれても逃げるだけで、相手を打ち倒そうとする力を望まなかった。自らの力で世界を変えようともしなかった。
白の女神を打ち倒すために、世界を変えるために呪詛はリリィにも注がれているはずなのだ。
決戦の最中にも、見えなかったはずの事象の改変が、目に見えるほどに力を増しているのを感じた。悪い予感ほど当たる。それが僕の人生であるから。
「黒の女神の受肉は白の女神とは違う、人に歩み寄り呪い、飲み込まれた先で更なる力を望んだ時に受肉する」
「話しただろう? 妾は人が嫌いだ。争いを望み、平和を望みながら剣や杖を突き立て合う。妾の子とも言える人ならざる黒の存在や、リリィを傷つける。原初の転生者たちすら、自らの死をもっても傷付けた。それゆえ歩み寄る必要がある。歩み寄り、呪詛を吐き、心から妾を望んだ時に受肉する。一方的に与えられる祝福とは違うのだ。そのものが違う」
地響きが音を増す。精霊たちの祝福に包まれた獣の雄叫びと、人の叫びが合わさりこだまする。大気が揺れて見えるほどの音で影が震えた。
「あぁ。白の女神の祝福は自分や世界を愛するものに与えられる。一方的に神々の気まぐれで。才能と言い換えてもいいだろう。しかし黒の女神の呪詛は自分を呪い、世界を恨み・・・そして世界と自分からも恨まれることで完成するのだろう? 世界を黒で染め上げ、真の呪われた存在になるはずだ。祝福の白を呪詛の黒で染めいる存在となる。今の僕は完全か?」
「いやまだ不完全だ。まだお前を信じている者がいる。白の女神から祝福を受け、手を取り合う者たちはお主を信じている。妾の体のほとんどがお主と溶け合い、混ざっているがまだ一雫足りない。まだ足りない。お主と妾が望む世界にはまだ足りないのだ」
そうか。と僕はエルフの白銀とドワーフによって鍛え上げられた白銀の剣を、闇のローブから引き抜き黒へ染める。力を蓄え続ける。
リリィが人の敵となることを望んだ時も同じような気持ちだったのだろうか。
呪詛よりもずっと強い願いだっただろう。平和を望む希望に溢れた呪い。
現世をどれほど呪っても、フィドヘルの世界は愛していたのだ。だから元素も彼女に力を貸した。
そして祝福を受けた転生者たちもリリィに力を貸している。白と黒をも紡いでしまいひとつの色に染め上げている。
一雫だけ足りないのだ。まだ僕を信じているのだろうから。信じる心が僕への呪いへと変わった時に、やっと幕が降りる。リリィの世界の幕が開く。
「リリィにもまだ黒の女神が与えた力はあるのだろう?」
「もちろんだ。注がれた呪詛は消えない。妾がいる限りは消えない」
そうか。と僕は空へと跳ね、剣とローブを広げて眼下を見据える。
これでさようならだ。せめて僕を呪い続けてくれと願いを込めて、剣に力を込めた。地響きが音を増し、僕を打ち倒さんとする使者たちの足音はすぐそこにある。
視界に浮かぶのは人馬たちで組織された騎馬隊であった。両方の前足を地面に付け、甲冑に身を包んだまま四列となっている。
背中に大斧を携えたドワーフたちが乗っていた。先頭を走るのはマルスと背に乗るシュミットであった。
真面目で優しく、僕を信じてくれたマルス、そして僕のことを信じて剣を作り上げてくれたドワーフのシュミット。肩を並べて戦ってくれた。
かつて夢見た理想郷で。
マルスが身を屈めて速度を増し、影の先端に到達すると方向を変え影に沿うように走る。
後方から続く人馬とドワーフたちも、左右に別れて影に沿って走った。シュミットは腕が盛り上がるほどの力を込めて、大斧を振るう。他のドワーフたちも呼吸を合わせ、駆ける人馬の勢いを乗せ、大斧は地面から振り上げられた。
地表が地響きを立ててめくれ上がり、岩の津波となった地面が影を剥ぐ。岩の津波は歩み進める僕の眼前へと捲れ上がった。
空よりリューゲルたち有翼の種族たちが山城より速度を増して飛来する。
僕の放つ薔薇の先端を旋回しつつ避けながらはるか上空へと舞い上がった。
飛び降りたふたりの白騎士が岩の津波へ飛び乗る。そして僕の眼前で落ちた岩の津波は地面で砕けた。弾ける岩の隙間を縫って、跳ね上げられた岩を足場に白騎士が駆ける。
「よぉよぉ! タカハシ! 人の体はどこに忘れちまったのかなぁ?」
男は肩に構えた半月刀を振り上げる。魔剣を持つコーレス。魔法すらも切り裂く歪な形の刀を振り上げ、僕を両断しようと振り下ろす。
僕は下ろした右手を振り上げ、液体を滴らせる黒剣が影から生まれ出た。振り下ろされる身の丈ほどに膨れ上がった魔剣を黒剣で受け止め、跳ね飛ばされたコーレスが反転し、地に足を着け力を込めたまま僕に向かって再び跳ぶ。
コーレスが僕に届くタイミングに合わせて、もうひとりの白騎士が眼前に現れた。
細く光る金髪と、わずかに濡れた青い瞳が影の中でよく映える。
ロゼと最初に出会ってよかった。転生者たちの収める白い街で、都市とも呼べる広大な場所で、僕にフィドヘルという世界と魔女について教えてくれた。
僕はフィドヘルの、女神の盤上たる世界の愚かなルールを知った。
それでも悲しく後悔する素直なロゼに出会えたから、世界を変えることができると願えたのだ。
白騎士たちに打ち勝てると思ったのだ。左手から影が溢れさせる。右手に持つ白銀だった剣を模した黒剣を左手へ生み出した。
正面から胴体を薙ごうとする魔剣を受け止め、飛来し同時に切りつけるロゼの剣を右手の黒剣で払う。逆手に持つ左の黒剣では振り抜く魔剣の勢いは殺せない。
剣の勢いに乗せて刃先を視点に反転する。返す刀で魔剣を振り上げるコーレスへロゼを払った右の黒剣を勢いに任せて振った。
すかさずにロゼが影の湖面を駆けてくる。逆手に持った左の黒剣を持ち直しロゼの剣を受け止めた。
「どうしたのタカハシ! ちゃんと話してよ! 私たちは一緒に白の女神を倒したの。狩猟祭を終わらせて黒い魔女を解き放った。これらから一緒にみんなで生きていけるの! やっとみんなで生きていけるの!」
詭弁だ。そんなことでは終わらない。憎しみも悲しみも。人や獣の都合のよい願いへ合わせてはくれない。
両方の黒剣を跳ね上げるとふたりは体勢を崩す。しかしふたりはすぐに立ち直り剣を振るう。
僕は円を描きながら回り、ロゼの剣とコーレスの魔剣を受け止める。交互に黒剣を持ち替えて時には躱し、幾度も鈍い金属同士の弾ける音が耳元で鳴り続ける。
コーレスは後ろに跳んで、ロゼが剣を正面から振るう。振り下ろされる剣を払い、返す刀で切り上げる剣を避ける。逆手に持ち直した片方の黒剣を振り上げるとロゼは右足を上げた。脚甲の底で剣を受け、身を翻して後ろへ飛ぶ。
正面に向き直ると、魔剣を腰に構えたコーレスがいた。身を屈めて魔剣を地面に突き立て刀身が消える。いや、消えてはいない、地面を切り進み、僕の股下から伸びた魔剣の切っ先が見えた。両手の剣を十字に構えて受けるも、勢いに押されて宙へ跳ね飛ばされる。
跳び上がり追撃を加えようとするロゼを打ち落とし、僕は空を蹴りコーレスの眼前へと降り立つ。
刀身を肥大化させ振り抜いたコーレスの上体は崩れている。左足を軸とし回転しながらコーレスの脚を払い、右足へと軸を移して蹴り上げる。コーレスは魔剣と共に空へと消えた。リューゲルだろうか。コーレスを受け取り山城の方角へ消えていく。
「本当に・・・黒の女神になっちゃったんだね」
歩み寄るロゼの剣は激しく逆巻き燃えていた。ロゼの先に見える景色が揺らぐほど、影を焼きながらロゼは歩む。
「あんなに優しかったのに。一緒に人虎の村に行った時も私をかばってくれた。傷付きながら黒魔女ちゃんも助けてくれた。なのに・・・それもあなたの作戦だったの!?」
ロゼはもう僕の名前を呼ばない。きっとそれが正しいのだろう。失われるべきなのだ。打ち倒されて死した時に盤上の世界から名は失われる。
幾許かの思い出を残して。僕はきっと思い出すら残らないだろう。
忌むべき歴史としてやがて消える。
それでいい。リリィが幸せであるならば。僕が女神の傀儡であったとしても。
ロゼは諦めたように首を一度横に振る。炎は舞い上がりロゼの体を包み、視界を覆う赤黒い壁となる。炎に巻き上げられた金色の髪が舞った。
「なら私が終わらせてあげる」
ロゼの剣に炎が纏う。剣から巻き起こる爆炎はロゼを焼きつつ昂り続け、炎に触れた影が散る。
怒りが炎に形を変えて大気を焦がす。
ロゼに残されたわずかばかりの葛藤を燃え尽くしてしまうほどの熱量と心で。
「其に刻まれた惨禍の残穢。久遠の系譜を汝に刻め! 我が炎帝なる大剣の頌歌を以って! 大皇剣!! スカーレット・メイデン!」
ロゼは緩やかに燃え盛る剣を真横に振るう。あたりを包んでいたはずの炎が消えた。黒く染められている足元が赤い。頭上を見ると太陽のように燃え盛る円球がゆっくりと高度を下げていく。
僕は両方の黒剣を合わせ、ひとつの大剣とする。影を焼くほどの炎。影を消し世界を祝福で包むほどの太陽の光。
これは白銀城では使えないな。自分の体も焼いてしまうから。ロゼも焼かれ続けているから。
でも僕の体を焼くには足りない。まだ足りない。
両手で握る黒の大剣で空を覆う火球へ振り上げる。剣先へ地表から影が吸い寄せられて、影は火球をすっぽり覆う。覆われた太陽は黒で染められ影へ呑み込まれた。
唇だけが乾いている。
ロザは剣を置いて膝を着いた。再び振り上げられた黒の大剣に向けて、両手を広げている。僕を剣ごと受け止めようとするかのように。
口を一文字に結び、目はまっすぐと僕を見ていた。
それでも・・・まだ足りない。
「諦めんじゃねぇって!」
「俺さまたちがいるだろう!?」
ドレークたちの声がした。この世界でも忌むべき存在とされるゴブリンたち。でも気のよい彼、いや彼らがいたから街の人に怪我ひとつなかった。僕を勇気付けてくれた。
ドレークたちは人虎の長、フェルトの背に乗り、片方のドレークがロゼを抱え、もう片方のドレークが銀色の鉄球を僕へ投げる。鉄球は眼前で弾け鉄片が頬に当たって落ちた。
あぁ。リリィだ。リリィの魔法が中にある。弾けた鉄球の中には、篝火がまだ留まり続け、やがて縮まり消えた。魔法を解いてしまったのだ。悲しい。
シュバルツは元気だろか。怪我をしていたが、頑強な人虎の体なら大丈夫だろう。娘とも再会できただろうか。
横並びになった人虎の群れが見え、次々と鉄の水球を投げ込んだ。弾け、地面を裂き、影が崩れる。僕の力は影の広さに比例しているらしい。影が傷付くたびに痛みを感じた。鋭く身を裂かれ、流れ落ちるのは血ではなく影だ。
人虎たちの前にある地面がせり上がり、天へと届く土人形がゆっくりと姿を現す。
なだらかな曲線で人の体を模し、鈍い鉄色をした甲冑と巨大な片刃の剣が形成されていく。離れているのに影を通じて声が聞こえる。
がらんどうの体内で、響き続けた。
「おっさん! 気張りや! ウチも頑張ってんやから」
「だから、おっさんに無茶させんなって・・・」
かつてセオと共にリリィの小屋を焼いたセルティとガラードが並び、地面へ手を当てている。
後ろには街の人たちがいた。ふたりに手を当て、力を貸しているようだ。
山城では人や獣、妖たちの子供が、エルフたちに守られるように互いに手を握っていた。
魔族と呼ばれる者たちの居場所で、かつて夢見た理想郷が紡がれていく。
グリスワークとエリスが両手をかかげている。後ろには多くの精霊たちが同じ仕草で空へと力を注ぐ。生命の光によく似た、光の泡沫が世界を包み込んでいった。
癒しの力だ。これで癒やされるだろう。みんなの傷付いた体が。
そして力を増して僕を倒そうと、立ち上がる。転生者らしく。勇者そのものの出立で。
あぁ。なんと世界は平和だろうか。
七つの強大な土塊で作られた巨人は切っ先を天高く伸ばす。中央にはひときわ巨大な巨人がいて、頭上でスタンリーがマントを翻した。
僕は影を引き連れて空を駆ける。スタンリーが右手を伸ばし、薄緑色のディスプレイが眼前を包むほどに展開した。
「さぁ救済の巨人たちよ。多くの転生者の力で作られた土塊の王よ! 我が付与のギフトにて指令を与える。多くの祝福と命で重なり合う聖なる光で悪を・・・闇を消し去れ!」
土塊の巨人に蔦が巻き付き鮮やかなツツジにも似た花が咲き乱れる。大地が命を育み、生命の力が剣先に集まっていく。聖なる命が紡ぐ力。光は肥大し放たれる。円柱状に伸びる命の光だ。
暖かいなぁ。温度を失った僕でも身を焦がす温もりだけは感じた。
黒の大剣は腰に構えて、右足を一歩前に踏み出す。ただ、まだ足りないのだ。
横薙ぎに振るった大剣は大気を、時間さえ切り裂く。時間すらも超える速度で放たれて黒い剣線は、七色の衝撃波を纏う。横薙ぎに放たれた黒が世界の果てまで届くほどに広がり、巨人を裂いた。
まばたきほどの間を置いて黒色の剣閃が消えると共に、七つの巨人は胴から別れて崩れていく。
僕の胸元は弾かれた光弾によって裂かれ、おびただしい量の影が地表へ流れ出た。
命を、もうちょっとで受肉した肉体を失うには足りる。世界から呪われるほどに足りた。
ようやく足りた。手足の力が抜け悪寒で染められていく。
これで僕は世界からも呪われた。後は打ち倒されるだけだ。
満たされた闇を収束し、大剣で振るう。翻る黒いローブか闇が迸る。生きとし生ける者たちの力で創られ、僕へと向けられ何度も産まれ出てくる巨人を砕く。
女神の受肉で盤面の終焉がようやく訪れる。
四肢から温度が抜けていく。おびただしく流れいくは地なのか、僕の中にある闇なのかはもうわからない。
もうすぐリリィが、僕のもとへと訪れる。最終幕の帳を降ろすために。
訪れ、受肉した僕を打ち倒して、ようやく呪われたリリィの世界が壊せるのだ。
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