【完結】現世の魔法があるところ 〜京都市北区のカフェと魔女。私の世界が解ける音〜

tanakan

文字の大きさ
9 / 53
第二章 カフェ・ノードの魔女

-4-

しおりを挟む
 おずおずと右手をあげてミーナさんにそうたずねると、そうねえと口元に人差し指を当てながらミーナさんは首をかしげる。

「何から話そうかな?ねぇ琴音ちゃんは魔法ってどういうことだと思う?」

「魔法ですか?えぇと・・・こう不思議な呪文を唱えてこうバァって!炎が立ち昇ったり空気中に巨大なドラゴンが召喚されたり・・・」

「あはは。ええなぁ私もそんな魔法を普段から使いたい。そうしたら課長の頭に残る髪の毛をすべて燃やし尽くせるのに」

 柚さんは笑い、私は肩をすくめる。やっぱり私の想像する魔法や魔女は少し違うらしい。

「うん。きっと世間一般に言われる魔法はそうだよね。後はホウキに乗って空を飛んだりするとかかな?じゃぁ。たとえば水道から水をジャーって出すことや、コンロで火をつけること。これは魔法かな?」

「それは魔法じゃなくて・・・科学だと思います」

「そうね。それは琴音ちゃんが実際に使ったことがあって仕組みをなんとなく理解しているからで、もし琴音ちゃんが知らずに蛇口から水が出るのを見たら魔法に思うんじゃないかな?」

 素直にそうだと私は思う。タネも仕掛けもないマジックを最初見た時は本当に魔法ではないかと思ってしまうのだから。

「そうですね。多分そう思います。それが魔法なのですか?」

「それもちょっと違う。もともと科学と魔法は同じようなものなの。当時の言い方でいうならば錬金術と魔術かな?まだ明らかにされていない自然や人間自身の本質に迫るための手段が目的とも言えるね。・・・といってもこれは私の持論だから間違ってたらごめんね。錬金術はどこにでもある金属を金へと変えるための学問で、目的に至るまでにさまざまな技術が産まれ、言語化と体系化されたの。そして今では科学と呼ばれるようになったわ。誰でも使えるようになったからね」

「魔法が科学になったのですか?」

「私にはなんとも言えないなー。少なとも昔は今よりも神や精神、精霊といった目に見えない存在が身近にあって、それらに触れるため近づくための手段として魔法があったと思うの。でも人は目には見えない事柄ことがらを信じることはできないから、多くの人が信じられない魔術と呼ばれた。結構同じ所はあるのにね。ひどいこともあった」

 魔女狩り・・・という言葉が脳裏に浮かんで首を振って追い出した。同時に私が教室の隅で糾弾きゅうだんされる光景も浮かんで唇が震える。ミーナさんは目尻を和らげ、大丈夫と言った。そして話を続ける。

「人によっては不気味に思うそれは悪魔や悪霊あくりょうと交信しているとさえされたけど、一三世紀には自然のことわりのっとる魔術、すなわち技術や知識として自然魔術という名前で知られるようになったの。多くの人が納得できる魔法が良い魔法、自然魔術や科学とも呼ばれた。人に都合が悪くてよくわからない不可思議な事象が黒魔術なんて呼ばれるようになったと私は思うの」

 目に見えないものに近づく技術。その言葉と一緒に人によっては目に見えない事柄を信じることができない。その言葉が深く私の心へと沈み込んでいくのを感じた。

「そうそう。そしてそれを扱う男が魔法使い、女が魔法使いとされたのね」

 柚さんが赤らめた頬でグラスをかたむけそう話し始める。

「当時の不安定な社会状況や宗教といったいろんな事柄が複雑に絡み合って、魔女は悪魔と結びつく悪い魔法を使う人として弾圧だんあつもされた。大人は不安な時に安心するためには異質な人や事柄を排除はいじょしようとする。とても排他的になっちゃうの。だから愚かしいことが長い期間続いた。まぁ今では魔女さんなんてものは素敵な女子に成り代わってるからまぁ。歴史ってよくわかんないよね」

 私は教卓に立つ先生を思い出す。私がどんなに孤独であろうとも、机が傷付けられて教科書も失ったとしても大人である彼は見ることがなかった。心の中から締め出してなかったことにしようとしていた。

 だんだんと胸が苦しくなってきて私はゆっくり呼吸をする。

 すると隣のタールーが器用につめ先でクラッカーとその上に乗るサーモンのマリネを私に差し出した。

「おひとつどうだいお嬢さん?ここのマリネは美味しいのだ。もちろん玉ねぎは抜いてある。いつかは克服こくふくしなければならんと思うのだが、あれだけは体が受け付けん。我の鍛え方が足りんのだな」

 まじめに猫の額へ眉を寄せてタールーは悔しそうに口元を歪める。

 それは体質だから仕方がないのでは?私はそんな言葉を飲み込んでそのマリネの乗ったクラッカーを受け取り口に運ぶ。酸味の効いた香りの後にサーモンとクラッカー、感触の違うふたつが口の中で異なる甘みを広げていって美味しく、

 心が落ち着いた。私を見て嬉しそうに頬を綻ばせて眺めていたミーナさんは再び口を開く。

「魔女は魔法を使える女性ってことになるけど昔はいわゆる理系女子!って感じだったかもね。でもそれは現代の科学が発展するに従って薄れていって、人の文明が発展するに従ってタールーのような生き物たちの姿も見えなくなってしまったの。目に見える事柄ばかりにとらわれると、大切なことほど感じなくなってしまう。それはとっても悲しいことよね」

 そうそう。と柚さんは同意し、それでも・・・と言葉を続ける。

「ウチらが教わったんは、この世を支配するのは神と悪魔と四大元素よんだいげんそ。火と水と風と土。神と悪魔は見えないし頼ることはあっても日常生活にそれほど影響する訳ではないねん。四大元素は日常生活に深くかかわるけれど元素を意識する訳でもない」

 頬を朱色に染めた柚さんは、縦長のコリンズグラスの中で潰れたライムを起用に回した。

「たとえば火の魔法を使うことができて、建物より大きな火球を不思議呪文で生み出せても・・・じゃぁ誰に向かって向けるのって話。愚かな戦争で用いる?だったらそんな火球より重火器の方が威力はあるわな。もちろんそれは必要になる時もあるけど、普通に生きてたら使わへん」

 さすがに課長が丸焦げになるのはなぁ。と言って柚さんはクスクスと笑っていた。

 でも・・・それなら現代の魔法は科学に代わり、存在しないということではないだろうか?火の魔法はコンロに、水の魔法は水道やダムに、そして風はエアコンだって扇風機だってあるし、土は重機で形を変える。

 それにどれほど強大な元素を操れても現代には強大な魔法を向ける相手がいないのだ。やっぱり魔法はなかったんだと思えば思うほど私の心はまたしても暗く沈んでいく。

 幼い頃に信じていた魔法なんてないとそう思っていたのに、思っていた魔法がないことに今ではこんなにもがっかりとしている。

 魔法で今の自分が変えられる。そんなことを勝手に考えていたのかもしれない。

「ふふーん。そんなにがっかりしない。現世で、琴音ちゃんが知るべき魔法は強大な力ではないの。現世にあるべき魔法はそうではない。科学は目に見える事柄を明らかにするけど、この世には目に見えないものをまた存在するわ。見ててね」

 ミーナさんはそういうと大きなコンロに火を付ける。ぼぅと先端に青白い光をまとって炎が灯った。

「魔法は自分の目的に近づく手段なの。相手のことを知って形を象り、そして語りかける手段ということでもあるかな?元素はどんなものでも小さな素粒子そりゅうしに近い形で存在する。まずは信じて語りかける。想いを言葉にして・・・こうやって形を作るの」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神のミスで転生したけど、幼女化しちゃった! 神具【調薬釜】で、異世界ライフを楽しもう!

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
旧題:神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜  ※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!  電子書籍は、2026/3/9に発売です!  書籍は2026/3/11に発売(予約受付中)です!メロンブックス様より、特典の描き下ろしSSペーパーがあります。詳しくは、メロンブックス様へお願い致します。  イラストは、にとろん様です。よろしくお願い致します!  ファンタジー小説大賞に投票して頂いた皆様には、大変感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...